上 下
20 / 44

業務終了後1

しおりを挟む
  結局、舞香を慰めて、会社に戻ると四時を回っていた。
  一晩徹夜したので、すぐに家に帰して欲しかったのだが、滝崎から、「記憶が新しいうちに今回の報告書まとめてくれるかな」
と言われて結局定時の6時まで働いた。鬼かな?
 
  書きなれない報告書を何度も書きなし提出してボロボロになる。 
 
  社長はあの綺麗顔でにっこり微笑んで「明日はゆっくり休んでくださいね」など言っていたが、葵は暗澹たる気持ちになった。この人は鬼だ。鬼や悪魔は古来から美しいものと決まっている。

「私、こんなんじゃあ、いつか悪霊に取りつかれるかも知れない」

 社長室をでると一人小さく呟き、ぶるりと震える。
 たとえ、それを社長が祓ってくれるとしても、だいたい憑りつかれること事態未経験だし、嫌だし、その前にとり殺されたりしたらどうしようかと考えてしまう。
 

  鬱々としてデスクにもどると後ろから出し抜けに声をかけられた

「水原さん、お疲れ! どうしたの、若いのにそんな疲れた顔しちゃって」
と勝田が声をかけてきてくれる。どうしたも何も社長にこき使われたからで。しかし、そんな事言えるわけもなく。

「勝田さん、ここらへんでご利益がありそうな神社とかお寺ってありますか? たとえば、悪霊、じゃなくて厄払い的な」
「あるっちゃあるけど。ちょっと見つかりにくいところにあるからなあ」
 
 そう言って勝田が書いてくれた地図に従って、小久保神社を目指す。小久保というのはここらあたりの地名で、勝田によると氏神様だと言う話だ。なんだか効きそうだ。

 表通りを駅と反対方向に歩き、裏路地に入りすぐのところにあった。新旧混ざった雑居ビルに入口以外の三方向を囲まれ忽然こつぜんと鮮やかな朱色にぬられた鳥居が現れる。
 そう言えばここらあたりは会社のお使いで通ったことはあった。しかし、こんなところに神社があったことに気が付かなった。
 やはり、占い師とか神社とか、弱っているときに見つけやすいのだろう。


 街灯や看板のネオンが灯る中、薄暗い神社の石段がちょっと怖い。一歩足を踏み入れると参道の両脇に並ぶ石燈篭に一斉に明かりが灯り、どきりとした。
 
  夜になりちょうど点灯する時間だったのだろう。
 
 淡く揺れる火影に足元を照らされ、狭い石段上る。両側に笹が群生していていた。入口にあったものよりも少し小さな朱色の鳥居を抜け境内に入る。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

はじまりはいつもラブオール

フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。 高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。 ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。 主人公たちの高校部活動青春ものです。 日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、 卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。 pixivにも投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

青い祈り

速水静香
キャラ文芸
 私は、真っ白な部屋で目覚めた。  自分が誰なのか、なぜここにいるのか、まるで何も思い出せない。  ただ、鏡に映る青い髪の少女――。  それが私だということだけは確かな事実だった。

カフェひなたぼっこ

松田 詩依
キャラ文芸
 関東圏にある小さな町「日和町」  駅を降りると皆、大河川に架かる橋を渡り我が家へと帰ってゆく。そしてそんな彼らが必ず通るのが「ひより商店街」である。   日和町にデパートなくとも、ひより商店街で揃わぬ物はなし。とまで言わしめる程、多種多様な店舗が立ち並び、昼夜問わず人々で賑わっている昔ながらの商店街。  その中に、ひっそりと佇む十坪にも満たない小さな小さなカフェ「ひなたぼっこ」  店内は六つのカウンター席のみ。狭い店内には日中その名を表すように、ぽかぽかとした心地よい陽気が差し込む。  店先に置かれた小さな座布団の近くには「看板猫 虎次郎」と書かれた手作り感溢れる看板が置かれている。だが、その者が仕事を勤めているかはその日の気分次第。  「おまかせランチ」と「おまかせスイーツ」のたった二つのメニューを下げたその店を一人で営むのは--泣く子も黙る、般若のような強面を下げた男、瀬野弘太郎である。 ※2020.4.12 新装開店致しました 不定期更新※

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

狐火郵便局の手紙配達人

烏龍緑茶
キャラ文芸
山間の町外れ、霧深い丘の上に立つ「狐火郵便局」。夜になると青白い狐火が灯り、あやかしの世界と人間の世界を繋ぐ不思議な郵便局が姿を現す。ここで配達人を務めるのは、17歳の少年・湊(みなと)と彼を助ける九尾の狐・あかり。人間とあやかしの橋渡し役として、彼らは今日も手紙を届ける旅に出る。 湊は命を救われた代償として、あやかし宛の手紙を届ける配達人となった。彼が訪れるのは、座敷童や付喪神が住む不思議な異界。手紙に込められた人々の想いや未練、感謝の気持ちを届けるたび、湊は次第に自分自身の生きる意味を見出していく。

遊女の私が水揚げ直前に、お狐様に貰われた話

新条 カイ
キャラ文芸
子供の頃に売られた私は、今晩、遊女として通過儀礼の水揚げをされる。男の人が苦手で、嫌で仕方なかった。子供の頃から神社へお参りしている私は、今日もいつもの様にお参りをした。そして、心の中で逃げたいとも言った。そうしたら…何故かお狐様へ嫁入りしていたようで!?

W-score

フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。 優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…

処理中です...