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調査業務実践1

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 会社をでる準備をしていると勝田が「頑張ってね」と応援してくれた。事情を知っているのは勝田だけで、他の社員は皆霊感を持たず、この家業については詳しく知らないらしい。これは社長と契約社員の仕事なのだ。
しかし、薄っすらとは気づいているようで、皆が気の毒そうな視線を向ける。亜子が「疲れたときは糖分だよ」と葵の手に飴を握らせてくれた。優しい。

 駅前のコーヒーショップで、熱いコーヒーとホットドッグで軽く夕食を済ませる。かつ丼やラーメンなどの重いものが入りそうにはない心境だった。
 簡単な腹ごしらえがすむと葵は泣く泣く寒空の下、舞香の家に向う。

 下り電車にのり都下で下車した。雪でも降りそうな冷え込みだ。舞香の住むアパートは駅から歩いて10分ほどところにあった。古い物件でオートロックはついていない。
 アパートの外階段をカンカンとのぼり、203号室のチャイムを押すとすぐに舞香が出てきた。心細くて待ち構えていたようだ。だが、心細いのはこちらも一緒で……。

 すぐに「コーヒーでも飲みませんか」と誘われたが、葵はそれを断り、作業をはじめた。早くお札を張り終わりたい。怖くてたまらないのだ。
社長からはなるべく顧客に不安を与えないようにと言われているので、頑張って微笑み「大丈夫ですよ」などと心にもないことを言う。

それに何より舞香を見るのが恐ろしい。先ほどより濃くなった黒い影が彼女の背中にべったりとはりついているのだから。しかし、そんなことを本人告げられるわけもなく。葵はひとりふるりと震えた。
こんな時視えない人がうらやましい。

部屋の間取りは1LDKで、大学進学のための上京してきた時からここで暮らしているという。それほど広くはないので、お札は直ぐに貼れそうだ。

「あの、弊社のこの業務の事はどこで知ったのですか」

これくらい聞いても良いだろう。瀧崎が裏家業を宣伝などしていたら大変だ。本当にこういう依頼は年に数回なのだろうか?

「あのアパートを契約するときに、契約書にあったんです」
「え、契約書にですか?」

 実は葵はそれほど雇用契約書を細かく読んでいない。四枚に渡りびっちりと書いてあったので見出しのような大きな文字だけ読んだ。

「はい、とても小さな字で隅の方に、霊障等お困りでしたらお祓い賜りますって」

なるほど、舞香は契約書を隅から隅まで読むタイプのようだ。それが賢明だ。

彼女は几帳面なたちのようで、部屋はスッキリと片付いていたのでスムーズにお札を貼り終え、盛り塩を用意できた。指示通り四隅と水場にも盛り塩をおく。
瀧崎からは水場は念入りにと言われている。もし汚れているようであれば、掃除するようにと。

何度も見取り図を見直した。どうかお札が剥がれたり燃えたりしませんようにと祈るような気持ちだ。怖くて心臓がばくばく音を立てる。舞香も不安そうな面持ちで葵の仕事を見守っていた。やはり不安というのは伝わってしまうのだろうか。

「そうだ。瀬戸様、お酒、少し飲めますか?」
「はい、たしなむ程度ですが」

滝崎から、神棚から下げたお神酒も持たされていた。

「お清めです」

朱塗り盃に酒を注ぎ、舞香に手渡す。
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