星稜高校裏料理研究部~陰キャ料理男子と腹ペコでインフルエンサーな女子

ピヨピヨ

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アオ

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 そして、最低でも週に一度は必ず滝本璃子は、裏料理研に顔を出す。

「ねえ、アオ、私ここの部員になろうと思うんだけど」
 いつの間にかニックネームで呼ばれている。

「言っておくが食べ専はなしだ。ここは料理を研究する部活だ」
「じゃあ、今度わたしお菓子作るよ。てかさあ、私はいったら、副部長だよね?」
「何勝手に決めているんだよ。料理はしないって言ってたじゃないか?」

「だって、それは機会がなかったから、今はお菓子材料も買えるし、お父さんが大学進学のお金出してくれるって言っているし。ちょっとくらい部活を楽しもうかなって思って。そうだ。文化祭で二人で出店しない?」
「なんでだよ」
 俺は脱力しそうになった。それでなくても二人でいると奇異な視線を注がれるのに。こいつは俺を親友といってはがからない。

「私が売り子やるから、アオは厨房やってよね」
「おまえ、人の話、まったく聞く気がねえだろ」
「実はね、材料買い込んできた」
 俺がそういている間にも成瀬はい小麦粉やらチョコレートやらを袋から出す。

「何作るんだ」
「ブラウニー、初心者にはぴったりのお菓子なんだって。で、その次はプリンに挑戦する予定。で、アオは何作るの?」

「チャーハン」
「おっ! うまそう。じゃあ、200円払うよ」
「部員になるのならいらない」
「え? マジで」

「その代わり部費を納めろ」
「部費って材料費とか?」

「いや、材料は自分でもってくりゃいいだろ。食器を洗うためスポンジとか洗剤とかキッチンペーパーとかラップなどの消耗品を買う金だ。なんだったら、現品そのまま持ってきてもいいよ。それから、食ったもんは自分で洗え」
「わかった! あんかアオってお母さんみたいだね。ねえ、アオの家のお母さんもそんな感じ?」
 滝本はボールと篩をとりだした。

「違う。忙しい人だから、あまり家にいない。飯の時間もあんまり合わないし」
「ふーん、そうなんだ」
 さして興味もない様子で言う

「で、さあ、そんな親友のアオに聞きたいことがあるんだけど」
「いつ親友になったんだ」
「結構前から。で、あんたなんで前髪で顔かくしてんの?」

「かくしているわけじゃねえ。髪を切るのが面倒なんだ」
「なるほど。でも私には顔を隠しているようにしかみえないんだけど」
 いつもは自分の話ばかりする滝本が食い下がる。

「目の色がコンプレックスなんだ」
 こいつになら言ってもいい気がした。

「目の色? みせて」
 そういって滝本がそっと俺の前髪に触れる。別に不快とも思わないし、よけようと思わなかった。

「うそ、凄く綺麗 それで、蒼っていう名前なんだね」
「『あお』って書いて『そう』って読むんだ。これのおかげで日本に帰って来た時、小学校で一時期いじめにあったんだ。まあ、それだけじゃなく俺の態度にも問題あったがな」

「……そうだんだ。なんかごめん」
 珍しく滝本がしゅんとする。

「気にすんな。俺がチキンなだけだ」
「いや、アオがチキンだなんて絶対に思わない。でも、あれ? 日本に帰って来たって、あんた帰国子女なの?」
「ああ、父親はアメリカ人だ」
「ええ!」
「今は離れて暮らしている。父親も母親も両方キャリアがあるからな」
「てか、あんたのお母さん何の仕事しているの?」
「医者だ。アメリカ留学中におれの両親は出会ったんだ」
「アオの家ってもしかしてすんごい金持ちだったりする?」
 滝本が恐る恐る聞いてくる。

「すごいかどうかは知らねえけど。まあ裕福なんじゃねえ」
 時々植木屋が入る庭に、ガレージに車。三階建ての母屋。
 まあ、でかいかもしれない。

「マジか! まだまだアオのこと全然知らないや。親友としてこれから頑張るよ。というか今度家教えて。遊びに行きたい」
「なんでだよ」
 俺は露骨に顔をしかめた。
 家には俺一人しかいないのに、滝本を家に上げる気にはなれない。

「アオだけ、私の家知ってるの不公平じゃん」
「そいうもんなのか?」

「そうだよ。で、前髪そのうち切るんだよね」
「だな、そのうち切るかな。友達は俺の目の色知っているし、どうせ水泳の授業でばれるし」
 どんなに隠してもプールの授業でばれてしまう。異質なものは人目に付きやすい。

「わかった。じゃあ、髪切るときは教えてね。覚悟がいるから」
「何のだよ」
「アオにモテ期が来るかもしれない」

「こねえから」
 そんな憎まれ口をたたきつつも俺はいつの間にか璃子を尊敬するようになっていた。

 人気があればあるほど、それに伴ってより多くの嫉妬にさらされる。

 人と大きく異なる部分があれば、苛めにつながることもある。

 逃げ出した俺と違い。璃子なそんななかを上手に泳いで渡っている。



 ーー数日後、俺は髪を切った。



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