40 / 47
アオ
しおりを挟む
そして、最低でも週に一度は必ず滝本璃子は、裏料理研に顔を出す。
「ねえ、アオ、私ここの部員になろうと思うんだけど」
いつの間にかニックネームで呼ばれている。
「言っておくが食べ専はなしだ。ここは料理を研究する部活だ」
「じゃあ、今度わたしお菓子作るよ。てかさあ、私はいったら、副部長だよね?」
「何勝手に決めているんだよ。料理はしないって言ってたじゃないか?」
「だって、それは機会がなかったから、今はお菓子材料も買えるし、お父さんが大学進学のお金出してくれるって言っているし。ちょっとくらい部活を楽しもうかなって思って。そうだ。文化祭で二人で出店しない?」
「なんでだよ」
俺は脱力しそうになった。それでなくても二人でいると奇異な視線を注がれるのに。こいつは俺を親友といってはがからない。
「私が売り子やるから、アオは厨房やってよね」
「おまえ、人の話、まったく聞く気がねえだろ」
「実はね、材料買い込んできた」
俺がそういている間にも成瀬はい小麦粉やらチョコレートやらを袋から出す。
「何作るんだ」
「ブラウニー、初心者にはぴったりのお菓子なんだって。で、その次はプリンに挑戦する予定。で、アオは何作るの?」
「チャーハン」
「おっ! うまそう。じゃあ、200円払うよ」
「部員になるのならいらない」
「え? マジで」
「その代わり部費を納めろ」
「部費って材料費とか?」
「いや、材料は自分でもってくりゃいいだろ。食器を洗うためスポンジとか洗剤とかキッチンペーパーとかラップなどの消耗品を買う金だ。なんだったら、現品そのまま持ってきてもいいよ。それから、食ったもんは自分で洗え」
「わかった! あんかアオってお母さんみたいだね。ねえ、アオの家のお母さんもそんな感じ?」
滝本はボールと篩をとりだした。
「違う。忙しい人だから、あまり家にいない。飯の時間もあんまり合わないし」
「ふーん、そうなんだ」
さして興味もない様子で言う
「で、さあ、そんな親友のアオに聞きたいことがあるんだけど」
「いつ親友になったんだ」
「結構前から。で、あんたなんで前髪で顔かくしてんの?」
「かくしているわけじゃねえ。髪を切るのが面倒なんだ」
「なるほど。でも私には顔を隠しているようにしかみえないんだけど」
いつもは自分の話ばかりする滝本が食い下がる。
「目の色がコンプレックスなんだ」
こいつになら言ってもいい気がした。
「目の色? みせて」
そういって滝本がそっと俺の前髪に触れる。別に不快とも思わないし、よけようと思わなかった。
「うそ、凄く綺麗 それで、蒼っていう名前なんだね」
「『あお』って書いて『そう』って読むんだ。これのおかげで日本に帰って来た時、小学校で一時期いじめにあったんだ。まあ、それだけじゃなく俺の態度にも問題あったがな」
「……そうだんだ。なんかごめん」
珍しく滝本がしゅんとする。
「気にすんな。俺がチキンなだけだ」
「いや、アオがチキンだなんて絶対に思わない。でも、あれ? 日本に帰って来たって、あんた帰国子女なの?」
「ああ、父親はアメリカ人だ」
「ええ!」
「今は離れて暮らしている。父親も母親も両方キャリアがあるからな」
「てか、あんたのお母さん何の仕事しているの?」
「医者だ。アメリカ留学中におれの両親は出会ったんだ」
「アオの家ってもしかしてすんごい金持ちだったりする?」
滝本が恐る恐る聞いてくる。
「すごいかどうかは知らねえけど。まあ裕福なんじゃねえ」
時々植木屋が入る庭に、ガレージに車。三階建ての母屋。
まあ、でかいかもしれない。
「マジか! まだまだアオのこと全然知らないや。親友としてこれから頑張るよ。というか今度家教えて。遊びに行きたい」
「なんでだよ」
俺は露骨に顔をしかめた。
家には俺一人しかいないのに、滝本を家に上げる気にはなれない。
「アオだけ、私の家知ってるの不公平じゃん」
「そいうもんなのか?」
「そうだよ。で、前髪そのうち切るんだよね」
「だな、そのうち切るかな。友達は俺の目の色知っているし、どうせ水泳の授業でばれるし」
どんなに隠してもプールの授業でばれてしまう。異質なものは人目に付きやすい。
「わかった。じゃあ、髪切るときは教えてね。覚悟がいるから」
「何のだよ」
「アオにモテ期が来るかもしれない」
「こねえから」
そんな憎まれ口をたたきつつも俺はいつの間にか璃子を尊敬するようになっていた。
人気があればあるほど、それに伴ってより多くの嫉妬にさらされる。
人と大きく異なる部分があれば、苛めにつながることもある。
逃げ出した俺と違い。璃子なそんななかを上手に泳いで渡っている。
ーー数日後、俺は髪を切った。
「ねえ、アオ、私ここの部員になろうと思うんだけど」
いつの間にかニックネームで呼ばれている。
「言っておくが食べ専はなしだ。ここは料理を研究する部活だ」
「じゃあ、今度わたしお菓子作るよ。てかさあ、私はいったら、副部長だよね?」
「何勝手に決めているんだよ。料理はしないって言ってたじゃないか?」
「だって、それは機会がなかったから、今はお菓子材料も買えるし、お父さんが大学進学のお金出してくれるって言っているし。ちょっとくらい部活を楽しもうかなって思って。そうだ。文化祭で二人で出店しない?」
「なんでだよ」
俺は脱力しそうになった。それでなくても二人でいると奇異な視線を注がれるのに。こいつは俺を親友といってはがからない。
「私が売り子やるから、アオは厨房やってよね」
「おまえ、人の話、まったく聞く気がねえだろ」
「実はね、材料買い込んできた」
俺がそういている間にも成瀬はい小麦粉やらチョコレートやらを袋から出す。
「何作るんだ」
「ブラウニー、初心者にはぴったりのお菓子なんだって。で、その次はプリンに挑戦する予定。で、アオは何作るの?」
「チャーハン」
「おっ! うまそう。じゃあ、200円払うよ」
「部員になるのならいらない」
「え? マジで」
「その代わり部費を納めろ」
「部費って材料費とか?」
「いや、材料は自分でもってくりゃいいだろ。食器を洗うためスポンジとか洗剤とかキッチンペーパーとかラップなどの消耗品を買う金だ。なんだったら、現品そのまま持ってきてもいいよ。それから、食ったもんは自分で洗え」
「わかった! あんかアオってお母さんみたいだね。ねえ、アオの家のお母さんもそんな感じ?」
滝本はボールと篩をとりだした。
「違う。忙しい人だから、あまり家にいない。飯の時間もあんまり合わないし」
「ふーん、そうなんだ」
さして興味もない様子で言う
「で、さあ、そんな親友のアオに聞きたいことがあるんだけど」
「いつ親友になったんだ」
「結構前から。で、あんたなんで前髪で顔かくしてんの?」
「かくしているわけじゃねえ。髪を切るのが面倒なんだ」
「なるほど。でも私には顔を隠しているようにしかみえないんだけど」
いつもは自分の話ばかりする滝本が食い下がる。
「目の色がコンプレックスなんだ」
こいつになら言ってもいい気がした。
「目の色? みせて」
そういって滝本がそっと俺の前髪に触れる。別に不快とも思わないし、よけようと思わなかった。
「うそ、凄く綺麗 それで、蒼っていう名前なんだね」
「『あお』って書いて『そう』って読むんだ。これのおかげで日本に帰って来た時、小学校で一時期いじめにあったんだ。まあ、それだけじゃなく俺の態度にも問題あったがな」
「……そうだんだ。なんかごめん」
珍しく滝本がしゅんとする。
「気にすんな。俺がチキンなだけだ」
「いや、アオがチキンだなんて絶対に思わない。でも、あれ? 日本に帰って来たって、あんた帰国子女なの?」
「ああ、父親はアメリカ人だ」
「ええ!」
「今は離れて暮らしている。父親も母親も両方キャリアがあるからな」
「てか、あんたのお母さん何の仕事しているの?」
「医者だ。アメリカ留学中におれの両親は出会ったんだ」
「アオの家ってもしかしてすんごい金持ちだったりする?」
滝本が恐る恐る聞いてくる。
「すごいかどうかは知らねえけど。まあ裕福なんじゃねえ」
時々植木屋が入る庭に、ガレージに車。三階建ての母屋。
まあ、でかいかもしれない。
「マジか! まだまだアオのこと全然知らないや。親友としてこれから頑張るよ。というか今度家教えて。遊びに行きたい」
「なんでだよ」
俺は露骨に顔をしかめた。
家には俺一人しかいないのに、滝本を家に上げる気にはなれない。
「アオだけ、私の家知ってるの不公平じゃん」
「そいうもんなのか?」
「そうだよ。で、前髪そのうち切るんだよね」
「だな、そのうち切るかな。友達は俺の目の色知っているし、どうせ水泳の授業でばれるし」
どんなに隠してもプールの授業でばれてしまう。異質なものは人目に付きやすい。
「わかった。じゃあ、髪切るときは教えてね。覚悟がいるから」
「何のだよ」
「アオにモテ期が来るかもしれない」
「こねえから」
そんな憎まれ口をたたきつつも俺はいつの間にか璃子を尊敬するようになっていた。
人気があればあるほど、それに伴ってより多くの嫉妬にさらされる。
人と大きく異なる部分があれば、苛めにつながることもある。
逃げ出した俺と違い。璃子なそんななかを上手に泳いで渡っている。
ーー数日後、俺は髪を切った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件
石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」
隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。
紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。
「ねえ、もっと凄いことしようよ」
そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。
表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。

スマホゲーム王
ルンルン太郎
ライト文芸
主人公葉山裕二はスマホゲームで1番になる為には販売員の給料では足りず、課金したくてウェブ小説を書き始めた。彼は果たして目的の課金生活をエンジョイできるのだろうか。無謀な夢は叶うのだろうか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々
饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。
国会議員の重光幸太郎先生の地元である。
そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。
★このお話は、鏡野ゆう様のお話
『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。
★他にコラボしている作品
・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/
・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる