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俺の立ち位置
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それ以来、成瀬から、ときどきメッセージが届くようになった。
『今日は料理研やるの?』
『やらねえ』
『嘘ついてないよねえ』
『……』
そんなごく短いやり取りが何度か続いた。
成瀬はその後、週に一回は部室に来るようになった。毎回じゃなくてよかったと胸を撫でおろす。
今日はカツをあげようと昨日スーパーで仕入れたロース肉を部室の冷蔵庫にいれていると成瀬からメッセージが来た。
『今日、料理研やるの?』
特別な嗅覚でもあるんだろうか? がっつり肉が食いたいときほど、あいつは連絡をよこす。俺は昼も夜もカツでオッケーだ。また200円でたかられる。
俺、成瀬の友達でもないし、いったい何なんだよ。
『やる』
しかし、俺はそう送っていた。
このところ成瀬のようすがおかしい。ダイエットをしてるにしても、顔色が悪すぎるし、もう痩せる必要ななさそうなくらい細くなっている。
この間も倒れて保健室にいった。家で何かトラブルでもあるのか。
いや、踏み込みこみすぎだな。
俺は料理に集中した。肉が丸まらないように、筋にきりこみを入れ、軽く塩コショウを両面にふる。
あげあぶらを熱している間、卵をボールに割り入れ卵液をつくり、バットにそれぞれ小麦粉とパン粉を入れておく。
それから、筋を切った肉に小麦粉、卵液、パン粉と衣をつけていく。油に入れるとシュワッといい音がした。
ちょうどその時、ドアがガラリと開いた。
「いい匂い! きょうはカツなんだ! わあ、ご飯の炊ける匂いっていいよね」
俺の心配をよそに元気いっぱいだった。そしてチャリンと机に置かれる200円。
「また、それかよ」
こいつは何を出されても200円しか払わない。値段交渉の余地もないほどもはや習慣化している。俺は頃合いを見て、いい色に揚ったカツのあぶらを切る。
冷蔵庫から、袋に入った千切りキャベツを出しそれを皿に盛る。
「なんだ。シャツインがキャベツ千切りすると見たかったのに」
「やるわけないだろ」
以前やってみたが、撃沈した。
キャベツを薄く均等に切るなどプロか機械のなせる技だ。
揚げたてのカツにほうちょうを通すとサクッといい音がする。それをキャベツの横に盛た。
俺が炊飯器のふたを開けると、
「私、軽くいっぱいね」
ちゃっかり成瀬が注文を付ける。飯ぐらい自分でよそえ。
「俺はお前のお母さんじゃないんだが」
「ああ、青木がお母さんだったらよかったのに」
本当に残念そうに言う。なるほど、俺は成瀬の母親代わりだったのか。
やっと己の立ち位置がわかり、妙にすっきりした。
『今日は料理研やるの?』
『やらねえ』
『嘘ついてないよねえ』
『……』
そんなごく短いやり取りが何度か続いた。
成瀬はその後、週に一回は部室に来るようになった。毎回じゃなくてよかったと胸を撫でおろす。
今日はカツをあげようと昨日スーパーで仕入れたロース肉を部室の冷蔵庫にいれていると成瀬からメッセージが来た。
『今日、料理研やるの?』
特別な嗅覚でもあるんだろうか? がっつり肉が食いたいときほど、あいつは連絡をよこす。俺は昼も夜もカツでオッケーだ。また200円でたかられる。
俺、成瀬の友達でもないし、いったい何なんだよ。
『やる』
しかし、俺はそう送っていた。
このところ成瀬のようすがおかしい。ダイエットをしてるにしても、顔色が悪すぎるし、もう痩せる必要ななさそうなくらい細くなっている。
この間も倒れて保健室にいった。家で何かトラブルでもあるのか。
いや、踏み込みこみすぎだな。
俺は料理に集中した。肉が丸まらないように、筋にきりこみを入れ、軽く塩コショウを両面にふる。
あげあぶらを熱している間、卵をボールに割り入れ卵液をつくり、バットにそれぞれ小麦粉とパン粉を入れておく。
それから、筋を切った肉に小麦粉、卵液、パン粉と衣をつけていく。油に入れるとシュワッといい音がした。
ちょうどその時、ドアがガラリと開いた。
「いい匂い! きょうはカツなんだ! わあ、ご飯の炊ける匂いっていいよね」
俺の心配をよそに元気いっぱいだった。そしてチャリンと机に置かれる200円。
「また、それかよ」
こいつは何を出されても200円しか払わない。値段交渉の余地もないほどもはや習慣化している。俺は頃合いを見て、いい色に揚ったカツのあぶらを切る。
冷蔵庫から、袋に入った千切りキャベツを出しそれを皿に盛る。
「なんだ。シャツインがキャベツ千切りすると見たかったのに」
「やるわけないだろ」
以前やってみたが、撃沈した。
キャベツを薄く均等に切るなどプロか機械のなせる技だ。
揚げたてのカツにほうちょうを通すとサクッといい音がする。それをキャベツの横に盛た。
俺が炊飯器のふたを開けると、
「私、軽くいっぱいね」
ちゃっかり成瀬が注文を付ける。飯ぐらい自分でよそえ。
「俺はお前のお母さんじゃないんだが」
「ああ、青木がお母さんだったらよかったのに」
本当に残念そうに言う。なるほど、俺は成瀬の母親代わりだったのか。
やっと己の立ち位置がわかり、妙にすっきりした。
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