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第一話・温泉旅行は不可解すぎたよ
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登場人物
明智・ルナ あけちるな インフルエンサー。ユミ探偵事務所に有力情報をもちかえる。
山本 サラリーマン。
小泉 山本の親友。
木村 大学生。
横山 ユミ探偵事務所の一員。
ユミ ユミ探偵事務所事務所長の主宰。
オオナカ 元戦隊ヒーロー? 無実の罪で服役経験あり。貯金も底をつき浮浪していたところをユミに救われる。ユミ探偵事務所の一員。
第一章
俺は、いった。
「でも、なんで小泉は山本をヤッたんだ」
「でも」横山は、頭をかいて、唸っていたが、すぐに反論した。「では、動機について、本人に話を聞きましょうか」
「な、なんだとー」
これはユミ探偵事務所総立ちであった。
1
さかのぼること二週間前。事務所長であり私立探偵、ユミは、
「みんなであたってほしいのよ」
といって、一枚のワープロで印字されたA4の書類を置いた。
皆んな、「久しぶりの仕事だー」といってありついたが、心の中では、(ていうか、ユミ先生自分でやらないの_!?_)という心境だった。
だが、間も無くその理由が分かった。
完全に不可解なのだ。
事件が起こったのは、東京の、とある温泉施設だ。無名な割に、晴れた日は富士山を見ることができる、絶景の老舗温泉施設だった。
東京のその辺りは、隠れた温泉の名所で、その近くの学校の、裏庭の、音楽室から見下ろせる場所に、一人のサラリーマンの遺体が横たわっていた。——山本という会社員だった。
警察は、その時一緒に入浴していた小泉というやつを逮捕した。……小泉は、親友だったから、冤罪だ冤罪だと訴えた。
証拠も曖昧だったし、一旦は釈放したものの、その後上に追い詰められて、ふたたびしかたなく逮捕した……。
【ドクターブルー引退 新幹線】
そのニュースのテロップが踊るテレビ。俺がぼんやり眺めていると、ユミは力なくリモコンの赤ボタンを押して、液晶テレビには何も映らなくなった。
「ブラウン管じゃないのーって、お母さんびっくらするかな」
そう笑う顔には、汗が浮かんでいる。
*
事件は事務所のなかの百幾つの事件のなかでもトップテンには入るんじゃないか、というほどヤバイ事件だったが、それでいて探偵事務所の中は和やか、もっといえばにぎやかである。もうこんなに慣れてしまったからかもしれない。致し方ない。つまり、見方を変えると十件に一件はこんな事件があるのだから。
ゆいいつ、
「えー!」
などと叫んでいるのは、意外にもユミである。「でもひとがしんでるんです。解決しないと!」と被害者のようにいった。
2
「あれー」
身を埋めていた私は、恐々覗き込み、あれ? おかしいぞ、そう思って聞いた。
「ユミさんって、いますかー」
「ユミさん? 彼女はいま、休んでる」名札いわく【横山】さんが答えた。【横山】さんは、【ひらしゃいん】だそうだが、そのわりにはイケメンだ。三十代半ばといったところか。イクメンかな?
「木村っていう大学生? について、動向がつかめましたよ」
と、私はいった。
「おお、聞かせてくれー」
タオルを首に巻いたユミさんが、にこやかな笑顔でいった。
「明智ルナさんだったかな?」
そのとき、男が、顔を上げた。書類の読み過ぎで目が痛くなったと見えて、「お客さんだな……」私の方へ歩いてきた。「こんにちは」歯を見せて笑ったその人は「オオナカ」さんだった。
幕間
【俺、オオナカは、ユミ探偵事務所に勤めて四年目になる。詳しいところは、沼津平成が、「登場人物」の欄に書いてあるから見てくれ。】
3
ユミ探偵事務所に「二階」はない。耐震予防のために平屋なのだ。しかし、渡り廊下があって、その向かいに、車がいつも二台止めてある。それに乗って、オオナカは、栃木県那須塩原市の森林地帯に向かった。別に特別近いわけでも、特別遠いわけでもないが、距離はそこそこある。
ユミ探偵事務所は、埼玉県和光市にある。高速道路の入口がすぐ近くなのだ。幸い、平日の朝とあって、混んではいない。なるほど、連日のニュースは暑さしかやっていないほどだが、最近渋滞はないとあって、「人生史上初じゃないか、こんなに空いてるの……」オオナカはため息を漏らした。
サービスエリアに車を停めた。黒いロールスロイスが、なんだか得体の知れない雰囲気を帯びていて、しかもそれを醸し出していた。
それは、近くの塗装業者に、緑色の横書きで書くようにユミが頼んだ「Yumi」の文字のせいもあった。塗装業者の腕は申し分ないのだが、遠くから見ても近くから見ても、なるほど完全にゾンビでも乗り込んでいそうな「変な」車なのである。
サービスエリアの中はというと、混んでいた。オオナカの乗っている小型車はそんなに止まってなかったのだが、運悪く高速バスが一台、観光バスが三代、しかも全て別々の旅行会社の者が、来ていたためか、サービスエリアはごった返していた。その中には、もしかしたら自分の知っている人の姿もあるかも知れないな、とオオナカは思ったが、先に那須塩原に向かっているユミから、「早く来てよー!」と無線で連絡を受けたため、オオナカは、ばびゅんと車に乗り込み、ばぼんと車を発進させた。
明智・ルナ あけちるな インフルエンサー。ユミ探偵事務所に有力情報をもちかえる。
山本 サラリーマン。
小泉 山本の親友。
木村 大学生。
横山 ユミ探偵事務所の一員。
ユミ ユミ探偵事務所事務所長の主宰。
オオナカ 元戦隊ヒーロー? 無実の罪で服役経験あり。貯金も底をつき浮浪していたところをユミに救われる。ユミ探偵事務所の一員。
第一章
俺は、いった。
「でも、なんで小泉は山本をヤッたんだ」
「でも」横山は、頭をかいて、唸っていたが、すぐに反論した。「では、動機について、本人に話を聞きましょうか」
「な、なんだとー」
これはユミ探偵事務所総立ちであった。
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さかのぼること二週間前。事務所長であり私立探偵、ユミは、
「みんなであたってほしいのよ」
といって、一枚のワープロで印字されたA4の書類を置いた。
皆んな、「久しぶりの仕事だー」といってありついたが、心の中では、(ていうか、ユミ先生自分でやらないの_!?_)という心境だった。
だが、間も無くその理由が分かった。
完全に不可解なのだ。
事件が起こったのは、東京の、とある温泉施設だ。無名な割に、晴れた日は富士山を見ることができる、絶景の老舗温泉施設だった。
東京のその辺りは、隠れた温泉の名所で、その近くの学校の、裏庭の、音楽室から見下ろせる場所に、一人のサラリーマンの遺体が横たわっていた。——山本という会社員だった。
警察は、その時一緒に入浴していた小泉というやつを逮捕した。……小泉は、親友だったから、冤罪だ冤罪だと訴えた。
証拠も曖昧だったし、一旦は釈放したものの、その後上に追い詰められて、ふたたびしかたなく逮捕した……。
【ドクターブルー引退 新幹線】
そのニュースのテロップが踊るテレビ。俺がぼんやり眺めていると、ユミは力なくリモコンの赤ボタンを押して、液晶テレビには何も映らなくなった。
「ブラウン管じゃないのーって、お母さんびっくらするかな」
そう笑う顔には、汗が浮かんでいる。
*
事件は事務所のなかの百幾つの事件のなかでもトップテンには入るんじゃないか、というほどヤバイ事件だったが、それでいて探偵事務所の中は和やか、もっといえばにぎやかである。もうこんなに慣れてしまったからかもしれない。致し方ない。つまり、見方を変えると十件に一件はこんな事件があるのだから。
ゆいいつ、
「えー!」
などと叫んでいるのは、意外にもユミである。「でもひとがしんでるんです。解決しないと!」と被害者のようにいった。
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「あれー」
身を埋めていた私は、恐々覗き込み、あれ? おかしいぞ、そう思って聞いた。
「ユミさんって、いますかー」
「ユミさん? 彼女はいま、休んでる」名札いわく【横山】さんが答えた。【横山】さんは、【ひらしゃいん】だそうだが、そのわりにはイケメンだ。三十代半ばといったところか。イクメンかな?
「木村っていう大学生? について、動向がつかめましたよ」
と、私はいった。
「おお、聞かせてくれー」
タオルを首に巻いたユミさんが、にこやかな笑顔でいった。
「明智ルナさんだったかな?」
そのとき、男が、顔を上げた。書類の読み過ぎで目が痛くなったと見えて、「お客さんだな……」私の方へ歩いてきた。「こんにちは」歯を見せて笑ったその人は「オオナカ」さんだった。
幕間
【俺、オオナカは、ユミ探偵事務所に勤めて四年目になる。詳しいところは、沼津平成が、「登場人物」の欄に書いてあるから見てくれ。】
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ユミ探偵事務所に「二階」はない。耐震予防のために平屋なのだ。しかし、渡り廊下があって、その向かいに、車がいつも二台止めてある。それに乗って、オオナカは、栃木県那須塩原市の森林地帯に向かった。別に特別近いわけでも、特別遠いわけでもないが、距離はそこそこある。
ユミ探偵事務所は、埼玉県和光市にある。高速道路の入口がすぐ近くなのだ。幸い、平日の朝とあって、混んではいない。なるほど、連日のニュースは暑さしかやっていないほどだが、最近渋滞はないとあって、「人生史上初じゃないか、こんなに空いてるの……」オオナカはため息を漏らした。
サービスエリアに車を停めた。黒いロールスロイスが、なんだか得体の知れない雰囲気を帯びていて、しかもそれを醸し出していた。
それは、近くの塗装業者に、緑色の横書きで書くようにユミが頼んだ「Yumi」の文字のせいもあった。塗装業者の腕は申し分ないのだが、遠くから見ても近くから見ても、なるほど完全にゾンビでも乗り込んでいそうな「変な」車なのである。
サービスエリアの中はというと、混んでいた。オオナカの乗っている小型車はそんなに止まってなかったのだが、運悪く高速バスが一台、観光バスが三代、しかも全て別々の旅行会社の者が、来ていたためか、サービスエリアはごった返していた。その中には、もしかしたら自分の知っている人の姿もあるかも知れないな、とオオナカは思ったが、先に那須塩原に向かっているユミから、「早く来てよー!」と無線で連絡を受けたため、オオナカは、ばびゅんと車に乗り込み、ばぼんと車を発進させた。
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