アジノ戦記1

沼津平成

文字の大きさ
上 下
1 / 1
アジノくん入学する

しおりを挟む
 味野悠太あじのゆうたは小学校の頃からあだ名がアジノだった。それにはいくつか理由があった。
 まず第一に、アジノは鯵が魚介類の中で一番好きなのである。それは小学生にとってはマイナーな魚だったから、面白がってアジノをこう読んだのである。
 ほかに、アジノには兄がいて、その兄がなんとアジノと正反対の、魚嫌いだったのである。ある時、アジノの兄の友達が弟を連れてアジノの家にやってきた。そのとき、弟が面白がって、「アジ、ノー!」と叫んだのだ。
 そのアジノは今、列車を降りた。駅名板が一面——特に、下のあたりは——煙草の吸い殻色だった。なんとか読めるくらい汚らしくなった駅名板にはこうあった——

「沼」

 アジノは駅のホームを降りて少し歩いて見えた、東海道本線の駅名板を見て、ここが「沼津」だ、と知った。沼津といえば、鯵の名所である。
「鯵、食べれるかな」アジノは、アジノの隣を歩く母に聞いた。母は、「少しならね」と前を向いたまま答えた。
「そっか……」アジノの声が少し高くなった。と同時に動揺した。こんなぶっきらぼうになった母を見たのは久しぶりだったのだ。
 アジノの目に昼のまぶしい太陽が映った。母が「太陽綺麗やね」といった。話題を変えようと思ったのだろう。
 それから母はアジノの小さい頃の話を始めた。
 アジノは適当に相槌を打って話を合わせた。しかし、ありふれた一節のはずである「今は私と同じ背なんやからねぇ」で、ハッと目がさめるようなショックを感じた。
 アジノは雷雨が降り始める前のあの怪しい雲——もはや「入道雲」の一言で片付けられない雲——を見たときのように震え始めた。嫌な予感がした。
 そしてアジノの嫌な予感は的中した。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

電気あんまから始まる友情

沼津平成
青春
僕らをつないでくれたもの、それは電気あんまだった…… 占い師さんに、「あなたは電気あんまの相がありますね……」といわれた

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

えっと……

沼津平成
大衆娯楽
えっと……変な機械ですね

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

前へ ー青春をかけるラグビー少年たちー

101の水輪
青春
ラグビーは実に奥深い。ただただ痛いだけのスポーツと勘違いされがちだが、選手たちだけでなく応援している者の胸まで熱くさせるほど魅力的だ。ラグビー人口は確実に減少していて、中学生段階では活動自体も少ない。そんな中で大聖は部員集めに奔走し、試合にまでこぎつけた。内容は満足できるものではなかったが、結果以上の何かを得たのは明らかだ。そしてどんな死闘であっても終わればノーサイド。何とすばらしき精神。 101の水輪、第62話。なおこの作品の他に何を読むかは、101の水輪トリセツ(第77話と78話の間に掲載)でお探しください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

処理中です...