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アジノくん入学する
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味野悠太は小学校の頃からあだ名がアジノだった。それにはいくつか理由があった。
まず第一に、アジノは鯵が魚介類の中で一番好きなのである。それは小学生にとってはマイナーな魚だったから、面白がってアジノをこう読んだのである。
ほかに、アジノには兄がいて、その兄がなんとアジノと正反対の、魚嫌いだったのである。ある時、アジノの兄の友達が弟を連れてアジノの家にやってきた。そのとき、弟が面白がって、「アジ、ノー!」と叫んだのだ。
そのアジノは今、列車を降りた。駅名板が一面——特に、下のあたりは——煙草の吸い殻色だった。なんとか読めるくらい汚らしくなった駅名板にはこうあった——
「沼」
アジノは駅のホームを降りて少し歩いて見えた、東海道本線の駅名板を見て、ここが「沼津」だ、と知った。沼津といえば、鯵の名所である。
「鯵、食べれるかな」アジノは、アジノの隣を歩く母に聞いた。母は、「少しならね」と前を向いたまま答えた。
「そっか……」アジノの声が少し高くなった。と同時に動揺した。こんなぶっきらぼうになった母を見たのは久しぶりだったのだ。
アジノの目に昼のまぶしい太陽が映った。母が「太陽綺麗やね」といった。話題を変えようと思ったのだろう。
それから母はアジノの小さい頃の話を始めた。
アジノは適当に相槌を打って話を合わせた。しかし、ありふれた一節のはずである「今は私と同じ背なんやからねぇ」で、ハッと目がさめるようなショックを感じた。
アジノは雷雨が降り始める前のあの怪しい雲——もはや「入道雲」の一言で片付けられない雲——を見たときのように震え始めた。嫌な予感がした。
そしてアジノの嫌な予感は的中した。
まず第一に、アジノは鯵が魚介類の中で一番好きなのである。それは小学生にとってはマイナーな魚だったから、面白がってアジノをこう読んだのである。
ほかに、アジノには兄がいて、その兄がなんとアジノと正反対の、魚嫌いだったのである。ある時、アジノの兄の友達が弟を連れてアジノの家にやってきた。そのとき、弟が面白がって、「アジ、ノー!」と叫んだのだ。
そのアジノは今、列車を降りた。駅名板が一面——特に、下のあたりは——煙草の吸い殻色だった。なんとか読めるくらい汚らしくなった駅名板にはこうあった——
「沼」
アジノは駅のホームを降りて少し歩いて見えた、東海道本線の駅名板を見て、ここが「沼津」だ、と知った。沼津といえば、鯵の名所である。
「鯵、食べれるかな」アジノは、アジノの隣を歩く母に聞いた。母は、「少しならね」と前を向いたまま答えた。
「そっか……」アジノの声が少し高くなった。と同時に動揺した。こんなぶっきらぼうになった母を見たのは久しぶりだったのだ。
アジノの目に昼のまぶしい太陽が映った。母が「太陽綺麗やね」といった。話題を変えようと思ったのだろう。
それから母はアジノの小さい頃の話を始めた。
アジノは適当に相槌を打って話を合わせた。しかし、ありふれた一節のはずである「今は私と同じ背なんやからねぇ」で、ハッと目がさめるようなショックを感じた。
アジノは雷雨が降り始める前のあの怪しい雲——もはや「入道雲」の一言で片付けられない雲——を見たときのように震え始めた。嫌な予感がした。
そしてアジノの嫌な予感は的中した。
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