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1日目

ここは、どこ? わたしは、だれ?

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 ここはどこだろう。
 知らない場所に一人で放り出されたのでは寂しいが、宏美がいたことに、タカヒコはまず安堵のため息をついた。
「え、船」
 カタコトの日本語でそういわれた。
 はて? どうやら宏美とふたりでもなさそうだ。
 せっかくのラブ・クルーズをぶち壊しやがって。
 タカヒコは少しがっくりいきながら振り返る。
 自分よりも背の高い青年が自分を見下ろしていた。
「君は、誰だ」タカヒコはきいた。
「まさか」宏美が怯える。
「なんだ」タカヒコがこんどは宏美にきく。
「私って読書が好きでしょ」
「うん。それは認める。けれどもそれと、これと、何の関係がある?」
「記憶がただしければ、君はペニントン」
 ペニントンと呼ばれた外人がうなずいた。え? なんだか取り残されてる。俺の宏美が堂々と浮気しようってか?
 目の前を嫌な考えがよぎるが、一旦それを振り払う。
「けれども小説の中から人が飛び出すなんてそうそう」
「井上ひさしの『ブン』を読んだ?」
「それもまた空想だろうに」
 宏美がばちりと目を開ける。「まあ、あなたさまの読書体験は失礼ながら薄いものだと思っておりましたわ。これは失敬」
「いや、単なる想像だよ」
「ひどい!」宏美がいかった。
「どうして、ひどい」
「ブンは小説というより、あれは映像よ」
「この船にピアノか、せめてないものか」
「とりあえず脱出しましょう」
 日本語の流儀ただしい青年は薄汚れていて、殴られたあとがある。今度はタカヒコにもわかった。歴史の大作だ。
 タカヒコは宏美と顔を合わせた。
「歓迎します。トム・ソーヤ、少し名前変えて冨田といったところでしょうか」
「そう。トムだよ。日本では、富田宗也ってことになってるんだが」
 富田はばちが悪そうに笑った。
 ペニントンが船の構造を調べ始めた。
 なんだか楽しい旅行になりそうだぞ。
 これは、タカヒコの考えであった。
 この予言は的中することになる。
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