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透明の剣
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俺は世界で一つの透明な剣、透け剣をもっていた。
俺の今回の戦いの相手は旅に出たばかりの勇者である。ゲームなら雑魚敵を倒して喜んでいるLv.3ほどだ。
それに対してこちらはLv.300。「俺は透明な剣を持っている。こいつの名はイストーンだ。透明だからな、どこから斬ってくるかわからないぞ」と脅すだけでまいりましたといってくるのだから、簡単簡単。
それでも攻めてくる意地の悪い奴がいる。そんな奴は、ㇵッアチョーというだけで土下座だ。
今日もこれで三十ばかり敵を倒して、俺は攻めてくるやつを越えるくらいに意地悪く笑っていた。
そんな時だった。今回の寂しい勇者に出会ったのは。
「はっはっは♪」と俺は笑った。降参するだろうと思っていたが、降参しない。
(ふむ、少しばかり意地の悪い小僧だな)
アチョ―
森の中に俺の声がこだますだけ。勇者は全く動じなかった。
それからしばらく無言があった。
時折風が吹いて、木についている夏の葉っぱが揺れる。
「どうかしましたか」そんな木漏れ日が見える森に、勇者の透き通った声が響く。
「えっと……」俺は急に怖くなった。こうなったら、あの剣を使うしかない。俺はあの剣をはじめて買った時のことを思い出していた。
✽
私は白髪紳士の商人、キコだ。私の仕事は、巷でいう詐欺だ。
簡単な詐欺で、引っかかる人はまずいない。その分、引っかかった人については死ぬまで忘れない自信がある。
たとえば十三年前、よわっちい少年が悪魔を目指していた。その少年に私は空気を売りつけた。
「透明な剣」と称して……。
✽
「うっ、ぐはっ」今や俺は防戦一方だった。不運は重なるものだった。勇者が急に笑ったのだ。
その瞬間、カランと音がした。土の中に剣を落としてしまったらしい。
ああ、どうしようか!
よく今まで落とさなかったな、俺。
透明な剣だから、探すのが大変だ。
コロコロ……勇者が地面に手を伸ばした。
「あーっ、やめろぅ!」
俺の願いむなしく、今や透明な剣は勇者の手元にあった。まあ、見えないが。
そして俺は今年に入って初めて負けた。
【作者より解説】
勇者は透き通った声だとありました。じゃあ、剣をあたかもあるように聞かせるなどお茶の子さいさいでしょう。
俺の今回の戦いの相手は旅に出たばかりの勇者である。ゲームなら雑魚敵を倒して喜んでいるLv.3ほどだ。
それに対してこちらはLv.300。「俺は透明な剣を持っている。こいつの名はイストーンだ。透明だからな、どこから斬ってくるかわからないぞ」と脅すだけでまいりましたといってくるのだから、簡単簡単。
それでも攻めてくる意地の悪い奴がいる。そんな奴は、ㇵッアチョーというだけで土下座だ。
今日もこれで三十ばかり敵を倒して、俺は攻めてくるやつを越えるくらいに意地悪く笑っていた。
そんな時だった。今回の寂しい勇者に出会ったのは。
「はっはっは♪」と俺は笑った。降参するだろうと思っていたが、降参しない。
(ふむ、少しばかり意地の悪い小僧だな)
アチョ―
森の中に俺の声がこだますだけ。勇者は全く動じなかった。
それからしばらく無言があった。
時折風が吹いて、木についている夏の葉っぱが揺れる。
「どうかしましたか」そんな木漏れ日が見える森に、勇者の透き通った声が響く。
「えっと……」俺は急に怖くなった。こうなったら、あの剣を使うしかない。俺はあの剣をはじめて買った時のことを思い出していた。
✽
私は白髪紳士の商人、キコだ。私の仕事は、巷でいう詐欺だ。
簡単な詐欺で、引っかかる人はまずいない。その分、引っかかった人については死ぬまで忘れない自信がある。
たとえば十三年前、よわっちい少年が悪魔を目指していた。その少年に私は空気を売りつけた。
「透明な剣」と称して……。
✽
「うっ、ぐはっ」今や俺は防戦一方だった。不運は重なるものだった。勇者が急に笑ったのだ。
その瞬間、カランと音がした。土の中に剣を落としてしまったらしい。
ああ、どうしようか!
よく今まで落とさなかったな、俺。
透明な剣だから、探すのが大変だ。
コロコロ……勇者が地面に手を伸ばした。
「あーっ、やめろぅ!」
俺の願いむなしく、今や透明な剣は勇者の手元にあった。まあ、見えないが。
そして俺は今年に入って初めて負けた。
【作者より解説】
勇者は透き通った声だとありました。じゃあ、剣をあたかもあるように聞かせるなどお茶の子さいさいでしょう。
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