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96話 抵抗する者たち

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 ガルド王国の王たちが住まう城にて護衛を任されたのは騎士団の団長を含む精鋭10名と聖槍の使い手であるルイ・ダグラスであった。彼女たちは神のしもべである天使たちを被害を出す事なく掃討した。

「大した事なくて助かりましたね」

 聖弓を構えた騎士団団長のキュウイはルイに話しかける。

「そうね。でも本番はこれからよ。油断して足を引っ張らないでよね」
「安心してください。神を相手にしてるんです。油断はしませんよ」

 天使は対処出来たとはいえSランクのモンスター相当がゾロゾロといたのだ。これであくまでも小手調べ程度なのだから油断なんて出来る訳がない。それは騎士団員たちも理解していた。そして、第二陣である下級の神とは激闘になった。ルイ、キュウイの2人はそれぞれの武器による性能を最大に引き出す事で何とか喰らいつき襲撃してきた神5柱を討伐するも騎士団員は2人を除き殺されてしまったうえに残った2人は重症でありこの後の戦いの役に立てそうにない。それを理解して、

「せめてお2人の盾になるぞ」
「分かってる。騎士団として最後まで役に立って見せる。死んでいった仲間たちのためにも」

 ルイとキュウイに聞かれないような小声で会話をして覚悟を決める騎士団員。しかし、突然ルイとキュウイの2名が光始める。

「な、何ですか?」
「団長! ルイ様! 大丈夫ですか?」

 光輝く2人を心配する騎士団員。暫くして光が収まる。

「団長? 大丈夫ですか?」

 団員の1人がキュウイを心配して近づく。

「気安く話しかけるなよ。人間」
「へっ?・・・・ばっ!!」

 ドパン!! という音が鳴るような裏拳を喰らい首がぐるりと回って千切れ飛ぶ。

「はっ? へっ? な、何が??」

 突然の事に動揺するもう1人の団員。当然だ。上司が光出してそれを心配した同僚の首が上司によって吹っ飛ばされたのだがら。しかし、今は戦地の真っ只中だ。そんな隙を見せたものに命などない。

「ぶへん!!」

 顔面に掌底を叩き込まれて顔面が吹っ飛んでしまい絶命する。首のなくなった胴体はそのまま自由落下する。

「ふむ。まぁまぁだな。この体の調子は。お前はどうだ? 戦の神、ウェルグランデ」

 キュウイ、いや、今は拳法の神、オズマルドはルイに憑依した神であるウェルグランデに話かけるが返事はない。

「おいおい。無視すんなよ。雑魚とはいえ試運転の相手を殺した事に拗ねてんのか? 別にいいだろ? ここにも戦えるかはさておき人間はいるんだからよ」

 そう言って城の最奥にいる王族、貴族を殺すために歩もうとした所に聖槍が振るわれる。それをギリギリで避けるオズマルド。

「何のつもりだ? まさかとは思うがお前もフルールドリスのように殲滅戦に反対するのか?」

 その問いかけに対して、

「うっさいわね!! アタシはルイ・ダグラス!! 運命の宿木の冒険者よ!!」

 憑依されたかに思われていたルイであったが何とか自我を乗っ取られるずに済んだ。とはいえ内部からガンガンと自分の体が殴られてるような感覚があり頭の中では自分に憑依している神、ウェルグランデの声が響いている。

(一瞬でも気を抜けば確実に持っていかれる) 
 
 冷や汗ダラダラで息も荒くなるルイ。

「はぁ~マジかよ。すげぇな。お前人間の分際でよ。そこらの下級の神連中ならいざ知らず。上級の神を相手に自我を保っていられるなんてよ」

 パチパチと手を叩くオズマルド。

「とはいえしんどいだろう? だからとっと体を明け渡しな!!」

 そう言ってルイに殴りかかる。それを回避する。なんだったらカウンターで槍の一撃を入れる。オズマルドは攻撃を喰らいバックステップでルイから距離をとる。

(ウェルグランデが憑依した事で神の魔力を纏っているな。おまけに身体能力も神と遜色ない)

 はぁ~とため息を吐くオズマルド。そんなオズマルドであるが、

「確かに面倒ではあるがその状態がいつまで続くよ」

 その言葉にギリと歯軋りするルイ。

(あぁうざいうざい!! さっきから頭ん中で声が響く!! 体は生まれ変わったみたいに軽いのに。精神はゴリゴリ削られるのが分かる)

 自我を保つ事に意識を集中したいがオズマルドはそれを決して許さないだろう。

「お前を気絶させちまえばウェルグランデが完璧に憑依出来るだろうな」

 先程よりも早い拳による一撃であったがルイはしっかりと反応して聖槍で拳を払いのける。

「ちっ!(神の中でも戦闘に特化したウェルグランデが憑依してるから反応速度が半端ないな! 本気でやれば精神的に負担のあるこいつを殺せるが中にいるウェルグランデも死んじまうのが面倒だな)」

 お互いにハンデを背負った状態の戦いではあるが有利なのはオズマルドだ。てっとり早くルイを気絶させてウェルグランデに肉体の主導権を与える方法を取らずともじっくりと時間をかけて戦えばいいからだ。そうすればウェルグランデが完全にルイに憑依出来る。それをルイは理解しているので完成に憑依される前にオズマルドを倒したいのだが攻撃に意識を持っていこうとする度にその隙を狙って自分を乗っ取ろうとウェルグランデが精神を犯してくるのだ。

(覚悟を決めるしかないわね)

 ルイの様子が変わったのを見て警戒度を上げる。

(意識を攻撃に完全に割いてるな。これを凌げばウェルグランデが完全に憑依する。俺は無理する必要はない。攻撃を避けるだけでいい)

 余裕余裕と思うオズマルドであったが、

「聖槍よ!!」

 聖槍の先端に魔力が集中する。

(不味い!! ここら一帯吹っ飛ぶ!!)

 神が憑依した事により魔力が圧倒的に増えたルイによる聖槍の一撃を予想して冷や汗が流れる。

(迎撃するしかない)

 拳に魔力を集める。それを見たルイは、

(どんな攻撃が来ても最強の一撃で吹っ飛ばす!!)

 ルイは覚悟を決めて、

「吹っ飛べ!!!!」

 最強の一撃を放つ。そこに合わせて、

「聖拳突き!!」

 両者が放った攻撃は激突した。

(不味い! 向こうの方が威力が高い!!)

 本気で迎撃するつもりであったが多少のウェルグランデに対する配慮もあり、

「(お、押し負ける!!)うぉおおおお!!!!」

 城の半分を吹き飛ばすほどの威力。これは神が憑依された事によるものが大きい。それでも過去最高の一撃に変わりない。それであっても、

「い、今のは死ぬかと思った。お前が精神にデバフを受けていて助かった」
「ク、、ッソ」
「おまけに今ので相当自我を蝕まれたな。そのまま明け渡せよ。楽になるぜ」
「ふざ、、けん」
「駄目押しだ。起きろ、ウェルグランデ」

 そう言ってルイの顔面にオズマルドが拳を叩きこもうとする瞬間にルイはオズマルドの背後にある存在を見てほくそ笑む。

「さようなら」
「あぁ、さよならだ」
 
 オズマルドの拳が寸前まで迫った瞬間に、

「テメェがな」

 リュウガがオズマルドの首を刎ねる。そんなリュウガに、

「サブマス、、、、今、あ、、たしの中に神がいるから、、、、抑えている内にあたしごと殺して」

 もう限界の様子のルイ。そんなルイに刀を向けるリュウガ。

「分かった。良く休め」

 そう言って刀を振り下ろす。バタリとルイは倒れたが外傷は見当たらない。

「これだけ自我が残ってる状態なら中にいる神だけを殺せるな」

 リュウガの死を与える能力により中にいた神だけを殺す事に成功した。

「少しは自我が残っていたからレオナの方もレイが追いこんでくれたら。助けられるな」

 レオナよりも自我が残っていたルイに対してはこの方法で助ける事が出来た。問題としては憑依された相手が中にいた神が死ぬと同時に気絶してしまう点だ。とりあえず戦闘不能になったルイを城の最奥にて避難しているルイの家族に託して、

「次はレオナの所だ」

 再び駆け出すリュウガであった。その一方で、

「はぁ、はぁ、全く、あれだけ修行したというのに。神というのは次元があまりにも違うのですね」

レオナとの戦闘で半死半生となっているレイがいた。レオナの自我が多少なりとも残っていたおかけで女に対しての攻撃がマイルドになっているので何とか喰らいつけていけたがそれにも限界があった。神が憑依された事によりルイと同様に身体能力が格段に上がっていた。これによりレイとレオナには実力に差ができてしまっていたからだ。

(残っている左腕は砕けて。左足は切断。内臓もいくつか傷ついてますね)

 冷静に自分の状態を把握するレイ。そんなボロボロの状態のレイとは正反対にレオナの方はかすり傷のみであった。そんなレオナはトドメを刺そうとレイに近づく、

「どうしたんですか? 今の私は隙だらけですよ?」

 中々殺そうとしない。やはり女を殺すのには抵抗があるようだ。しかし、それも長くは持ちそうにない。聖鞭が心臓目掛けて襲ってくる寸前で、

神凪かんなぎ

 聖鞭をぶった斬ってリュウガが登場した。

「すいません。あんな大口を叩いておいて何も出来ませんでした」
「死んでないだけ大したもんだよ。後は俺がやる」
「重ね重ねすみません。彼女の自我はまだ生きてます。何とかなりまさんか? 薔薇の花園のメンバーたちに助かると約束したんです」
「やるだけやる。後はあいつが耐えれるかどうかだな」

 そう言ってレオナに向かって駆け出した。2人の高速戦闘はレイの目でも捉えられないものであった。

(私の時はレオナが女好きという側面が出ていたおかげである程度粘れましたが今はその制限がない。それにも関わらず戦えてるサブマスターは流石ですね)

 戦いにはなっているが問題はレオナをどうやって助けるかだ。リュウガの言葉通りなら手がない訳ではない様子だが。

(ガチでヤれば勝てるが本命が来た時のために温存したいが諦めるか)

 多少の自我が残っているが神に憑依されている事に変わりはない。全力を出さないと本命と戦う前に下手な手傷を負ってしまうがそういう訳にはいかない。リュウガは全力を出す事を決める。今のリュウガは龍帝と風翔龍との修行によりリュウガの速度は雷速には及ばないがそれに近い速度での移動が可能になっていた。そうして本気となったリュウガによってレオナの肉体には次々と傷が増えていく。

(死ぬ直前までなます斬りにしてやる)

 常時雷速に近い剣速を持ったリュウガにレオナは対応出来ずにいた。そして、

(利き手貰った!)
 
 利き手の健を斬ることに成功する。それによりレオナの動きが鈍ると踏んだのだが、

(植物の蔓で無理矢理腕を固定してやがるな。これがレオナに憑依した神の力か)

 レオナに憑依した自然の神、フラドールに力はあらゆる植物を操るものだ。それにより健を斬られて使い物にならなくなった利き腕を無理矢理動かしていた。

「油断しましたね。龍神の末裔」

 鞭による攻撃がないと思い踏み込んだリュウガのこめかみを狙った一撃であったが、

「舐めんな」

 急加速して鞭による攻撃を回避した。

「なっ!!(今のは雷神と変わらぬ速度!!)」

 驚くのも当然だ。リュウガの雷速に届いてない。基本速度であってほんの一瞬だけなら雷速を実現していた。

神喰かみぐらい

 上段斬りでレオナが真っ二つになると思われたがリュウガは見事に中の神だけを殺す事に成功したのだ。神が殺された衝撃でルイ同様にレオナは気絶したのでここで戦線離脱となる。

「レオナは何とか助かったが結構神と深くまで繋がってたから寿命がいくらか削れたかもな」

 そう言って雑にレオナとレイを小脇に抱える。

「ちょっ!? サブマス!? な、何を??」
「そんな体じゃもう戦えないだろ。避難所の魔法学院に連れてく。というか生き残ってる人間は全員魔法学院に集めて後は俺1人でやる」
「いくら何でも無茶です!!」

 リュウガの言い分は分かるが明らかに無茶な事をやろうとしているリュウガにレイは声を荒げる。

「それじゃあ死体の山を築き上げるか?」
「そ、それは」

 反論出来ない。実際にリュウガがいなければレオナを助けられないどころか自分が死んでいた事を自覚しているからだ。

「ここに来た神は殲滅した。他にも神はいるだろうがウェンたちにかかり切りだから今の内に避難させちまう」

 そう言ってリュウガは2人を抱えて避難所に向かうのであった。その後もリュウガは城と錬金術学院にいる避難民を動ける冒険者たちと共に魔法学院に避難を完了させている時に、

「やっと楽しめそうな相手が来たな」
「神の風によって切り刻まれよ。風の龍よ」

 風を司りし龍と神が対峙していた。
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