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94話 龍皇覚醒

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 殲滅戦の様子を眺めているゼーリオは、

「龍共が邪魔だな」

 天使によっての国々の殲滅はリュウガのいる国以外は全てを滅ぼしている予定であったが龍が各地にいるせいで5つも国が残っている。

「まぁ、予定は予定でしかない。それにこれからが本番だからな」

 ゼーリオの眼前にはずらりと神々が並んでいた。

「それではお前たちの力を奮って貰おうか」
『はいっ!!』

 返事をして次々と神々が地上へと進行を開始する。しかし、全員が進行する訳ではなく何柱かは残っていた。

「来たな」

 神の気配を感じたのはリュウガ、龍帝、風翔龍がいち早く気づく。その次に名持ちの龍であるウェンたちが、その次にルイとレイといった人間の実力者たちが気づいた。現れた神々は天使とは比べものにならないほどの強さであり各地にいた名持ちではない龍を確実に殺していく。

「そんな守り神様が!!」
「いやだぁぁぁぁ!!」
「死にたくないぃぃぃぃ!!」

 龍を守り神としていたある国の国民たちは数100年もの長きに渡り国を守っていた龍を殺されて絶望する。そんな国民たちは龍に頼り切ってしまっていただけに戦闘力のある人間は誰もいない。そんな国を神は数分で滅ぼしてしまうのであった。このような事が他国でも起こっていた。残りはガルド王国、オズワルド、ミステリルの3国だ。つまりは最もはやく神との戦いに備えた国のみである。しかし、それも時間の問題でありミステリルは、

「もう兵器は使い切ったぞ」
「錬金術師の数が足りないな」
「錬金術師だけじゃねぇ。材料もねぇよ」

 錬金術大国であるミステリルは兵器を錬金していた。そこには魔法大国オズワルドの技術を融合したモノであり神にすら通用するのであったがそれだけの兵器を錬金出来る術師は少ないし材料も少ない。そんなミステリルに来た神の1柱は、

「神を殺すほどの兵器とはな。準備を早くからしていたとはいえ見事なものだな。まさか2柱も殺されるとは思わなかったぞ」

 素直に賞賛してから炎の神・は太陽と見間違うほどの火球を作り出すとそれをミステリルへと落とす。

「これで終わりか」
「まだまだ錬金したかったな~」
「本当にそれな~」
「だが神にも通じる兵器を錬金出来たのは感動だな」
「概ね満足な人生だな」

 最高峰の錬金術師たちは祖国と共に火に包まれるのであった。

「やはり1発で消し飛ばすのは最高にスカッとするな」

 そう言って笑うアグニールは以前ウェンたちに殺された神と同じスペックではあるが殺された記憶はない。世界中にある信仰心や文献が残っている以上何度も復活する事が神は出来るのだ。もちろん年単位のインターバルが必要ではあるのだが。

「さて次は龍を殺すとしようか。龍皇は森を司るようだし瞬殺して戦力を減らしてやろう」

 そう言ってアグニールは龍皇であるスイのもとに向かうのであった。そのアグニールの気配をスイは感じていた。

「リベンジマッチといきますか」

 スイの姿は変わっていた。人間の少女と変わらない姿であった彼女の姿は面影を無くしてスレンダー美女となっていた。年を取ったからという理由だけでは説明がつかないその変化の訳は、

「儂の心臓を喰え」

 翁は1年前に突然そんな事を言い出した。

「な、何を言ってるの」

 動揺するスイ。産まれてから血の繋がった家族のように過ごして来た相手の心臓を喰うなどスイは考えた事などなかった。というよりも考えたくもなかった。

「はっきり言って今回の戦いにおいて儂は足手纏いじゃ。それはお主もわかっておろう?」
「うっ」

 言葉に詰まるスイ。続けて、

「かといって自分の力も神と戦うには足りないのをわかっている。それは正しい。お主の才能はカンムルと比べても。しかし、圧倒的に時間が足りない。5年の鍛錬で前龍皇のアブソリュートの足下まで来たがそれでは足りん。ならばどうするか? 簡単じゃ。儂の心臓を喰らい力を増幅させればいい」
「出来る訳ないよ!! そんな事すれば翁はし、死んじゃうじゃない!!」
「そりゃあ心臓を捧げるんだから当然じゃのう」

 ホッホッホと愉快そうに笑う翁。死ぬ事に対して無頓着な様子の翁をキッ! とした表情で睨むスイ。そんなスイに、

「今回の戦いで死ぬのは確定しているんじゃ。死ぬのなら役に立って死ぬべきじゃろう」

 言ってる事は理解出来る。出来るとはいえ嫌なもの嫌なのだ。そんなスイの心情を理解出来ない翁ではない。

「比較的龍の中で若いお主には残酷な決断を迫るのは酷じゃったな。儂の心臓はカンムルの奴に渡すとするかのう」

 最強の龍であるカンムルに託そうと思い口に出したが、

「それも嫌だ! カン兄に何でもかんでも背負わせるなんて嫌だ!!」

 泣き始めるスイ。そんなスイに困ってしまう翁。

(困ったのう。儂の命一つで最強の龍が増えて勝率が上がるというのに)

 どうやって説得しようかと考えていたら、

「もっと厳しくしないといけまけんよ、翁」

 ウェンが現れる。

「スイ、厳しい事を言いますよ。龍皇は貴女が自分を超えると常々言っていました。そこまで言われた才能を持ちながら甘えた事を言うんじゃありません! 貴女はなんですよ!!」
「で、でも」
「でも、ではありません。負けたら何もかも終わりなんですよ。それに貴女は先程言ってますがカンムル、風翔龍それに主様に背負わせるんですか!! 貴女は炎を統べる最強の龍であるアブソリュートの後継者なのですよ!!」

 その言葉を聞いて龍皇の顔を思い浮かべる。どこまでも真面目で真っ向勝負が好きな龍の姿を。涙を拭い決意を固めるスイ。

「お願い、翁」
「頼もしいのう。ウェンよ、スイの事を頼むぞ」
「わかってます」

 ドスッ!! と勢い良く心臓に手を突き刺して心臓を取り出す。それを受け取り喰らうスイ。翁龍は現存する龍の中で最も長く生きた龍である。そんな翁の心臓を喰らう事で知識、経験といったあらゆる力をスイは取り込む事で潜在能力を覚醒させて少女から大人の女性へと姿を変える。

「立派になったのう。その姿を最後まで見れないのが残念じゃのう」

 立派になったスイを見届けて翁は死ぬのであった。

「絶対に翁の死は無駄にはしない」
「その通りですよ。それではとっておきの隠し玉である貴女を一旦封印します。大丈夫。わたくしも一緒にいますからね」
「何で封印を?」
「神にバレたら面倒ですからね。それでは封印の間の守りは御三方に任せますよ」

 そう言ってリュウガ、龍帝、風翔龍に後を任せて2人は封されるのであった。

「あ~あ敵が増えたな。何だよアレ。あっさりと俺たちと同じ領域に立っちまいやがったじゃねぇか」
「元々素質はあったんだよ。それこそオレ様に並ぶほどのな」
「俺たちも負けられないな」
「「お前が1番負けてるんだよ」」
「うるせぇよ」

 3人は鍛錬を続けるのであった。これが1年前の出来事である。そして新年となり封印が解かれて現れたスイは自信に満ちた表情をしていた。そんな事になっているとは知らずにスイのいる所に向かったアグニールは、

(事前情報とは姿が違うな。何もただ遊んでいた訳じゃなさそうだが俺の敵じゃねぇ)

 スイの変わった姿を目にしても敵ではないと判断して速攻で終わらせようとミステリルを滅ぼした時と同様の火球を投げつける。

『防火森』

 スイとウェンを森が守るように現れる。

「そんなチンケなもんで耐えれるかよ!!」

 しかし、火球は森を焼き尽くす事はできなかった。おまけに表面すら焼けていない。

「はぁ!! 何でだよ!!」

 狼狽えるアグニール。

衛星砲サテライトキャノン

 翁龍が使っていた技をスイも使えるようになっていた。使用者の翁の心臓を喰ったのだから当然といえば当然だ。

「うおおおお!!!! 凄え威力だがそんなんで殺せると思うなよ!! 俺は神だぞ!!」

 攻撃を物ともせずに火球をいくつも作り出して放つ。そのどれもが国一つ滅ぼしうる威力を有していた。

『波動砲×5』

 スイの前に砲門が五つ現れるとそこから波動砲が発射されると火球全てを吹き飛ばしそのまま全てがアグニールに直撃した。

「クソ、、がぁぁああああ!!!! 下級の神ならともかく俺レベルを殺すには足りねぇよ!!!!」

 自分の攻撃を防がれて相手の攻撃を喰らってキレるアグニールであるがまだ余裕があった。彼の言う通り下級の神なら膨大な魔力を込めた攻撃なら殺せるがアグニールレベルには神の魔力が含まれない限りはダメージを最小限に抑えられてしまうからだ。しかし、

「修正完了」

 神の魔力は既に龍帝、風翔龍が身につけておりそれを視ていたスイは封印中に習得していた。先程までは攻撃に上手く乗せる事ができなかったが修正は完了した。

『衛星砲×5+波動砲×5+巡航ミサイル×5』

 神の魔力が込められた兵器が物量に物言わせてアグニールを襲う。

「な、なな、なんじゃそりゃああああ!!!!」
「消し飛べ」

 チュドーーーーーーン!!!!!!

 圧倒的な火力によりアグニールは消し飛んでしまうのであった。

「リベンジ成功。さて、ウェン姉。このまま美味しい所全部貰ってしまおうか」
「頼もしいですね」

 成長して圧倒的な実力を示したスイと共にウェンは微笑むのであった。
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