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64話 最後の修行

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「ちょっと出かける。どんくらいかかるかは分かんねぇから留守は任せる」

 ある日突然リュウガはそう言ってギルドから出て行った。それに対して誰も疑問に思わず送り出すがウェンだけは何かあることを察したが主の邪魔をするのは良くないと思い他の人と同様に送り出すのであった。

「ここらでいいか」

 見晴らしの良い草原にてリュウガは坐禅をして目を閉じると、

「覚悟を決めたってことでいいんだな? 17代目」

 2代目当主の練龍鬼がいた。普段は睡眠時間中に精神世界で修行をするのだが今回は自分の意思で行ったのは、

「龍帝が覇龍を殺して準備万端だってのにこっちは本気じゃない世界魚バハムートを殺しただけだからな。それ相応の準備をしないと失礼だろ」
「分かってるよ。だから俺と最後の試合をするために自分から来たんだろ?」

 そう言って龍鬼は抜刀術の構えを取る。

「構えろ。本気って訳にはいかないが龍帝と同程度の実力で戦ってやる。おまけにここでの戦いの傷は現実に反映されるようにもした。だからここで死んだら本当に死ぬ」

 その言葉に、

「それぐらい本気じゃないと勝てないんだよ。あいつには」

 圧倒的であり芸術的でさえある暴力を持つ龍帝を思い浮かべる。

「だから・・・・ここでと同じ世界に立つ!」

 龍牙も抜刀術の構えを取る。2人以外いない精神世界に殺気が充満する。一般人なら心臓が止まり、SSランクのモンスターでさえ怯んで動けないほどの殺気。そんな殺気を纏った2人が消えたと錯覚するほどの速度で、

       『神凪かんなぎ

 技を繰り出す。速度は互角。

(押し負ける。それなら受け流すまで)

 力に逆らわずに攻撃を受け流す。それでも、

(手が痺れる)

 完璧に受け流したがそれでも手が痺れる。半端な形で受け流そうとすれば受け流せずにそのまま斬られていただろう。しかし、受け流しても龍鬼の攻撃は止まらない。攻撃してそのまま回転斬りに派生した。その攻撃を上へと弾く。そこから、

神喰かみぐらい

 上段斬りをするが龍鬼にはかわされる。しかも、

神射かんざし

 突きを繰り出される。

(はっや!!)

 普通は距離を取り構えを取ってから繰り出す事により貫通力を上げて敵を突き殺す技なのだが龍鬼は接近状態でも充分人を殺すだけの威力を保ちながら技を使ったのだ。

「はぁ、はぁ、ふぅ~(接近した状態だからこんだけの傷で済んだな)」

 脇腹から出血してるがたいした傷ではない。戦闘を続けるにあたって問題はない。それでも、

(2代目相手にこの傷は不味いよな)

 格上相手に少しの傷、多少の出血は命取り。最初から分かっている事ではあるが改めて感じさせられる実力差。そんな事を考える龍牙に、

「俺を前にして考えすぎだ」
 
 目の前にいた龍鬼が突然背後に現れる。それでも龍牙は反応して龍鬼を狙って刀を振るうが、

「はぁ!?」

 それを読まれたのか龍鬼はまた龍牙の背後を取っていた。

(速すぎんだろ)

 龍鬼による回し蹴りをもろに喰らう。

「~~~~!!!!」

 痛みに耐えながらも斬りかかる。完璧に蹴りが入ってる状態なので完璧には避けられる事はなかったがあくまでも完璧にというだけで頬に擦り傷をつけた程度であった。

「おえっ!!」

 血ヘドを吐く。それだけ完璧に入ったのだ。しかし、そんな事で止まっていては駄目なのだ。すぐに立ち上がる。

「うっ、、おお!?」

 今度は適切な距離からの神射が龍牙を襲う。それに対して刀を蹴る事で軌道を逸らすが、

「ぐっうぅ!」

 肩に傷を負う。一旦刀を手放して胸ぐらを掴んで頭突きするが、

「舐めんな」

 龍鬼も頭突きで対抗してきた。くらっと来たが龍鬼に腹に蹴りを入れて距離を取る。その際にしっかりと手放した刀を回収するのを忘れない。

「まだ駄目か」

 今の頭突きもそうだが最後の蹴りも後方に跳ぶ事で威力を最小限にされてしまった。上位勢の実力者であっても今の頭突きと蹴りで大ダメージなのだがやはり龍クラスには大したダメージにはならない。しかも今相手しているのは龍すら殺す男だ。

(不味いな。一旦距離を取ったが悪手だな。向こうにも準備させる余裕を与えちまったな)

 その判断が間違いだと気づいた時には既に遅く、

『神射』

 再度、突きが龍牙を襲う。それに対して、

『神喰』

 で迎撃する。これにより龍鬼の突きは地面に向き穴を開ける。

(成功)

 正直成功するかは賭けであったが見事に成功させる。そこから神射を繰り出したが、

「俺とお前じゃ地力が違うだろ」

 充分な威力も速度もない突きは避けられてしまった。

「クソが」

 悪態をつく龍牙に、

「お前さ、もっと本気になれよ」

 一瞬で背後に回って蹴りを入れてくる龍鬼。そんな龍鬼に、

「俺は本気だよ」
「本気を出せてないんだよ。お前は出してるつもりになってるだけ。前にも言ったが精神と肉体が一致してないんだよ。だから、動きにズレがあって本気を出せてない。それが出来ればお前は龍帝とも渡り合えるだけの実力は身につけてるんだよ」

 そんな事を言われた龍牙は、

「分かってるよ!」

 そう言って神凪を放つがひょいと避けられてしまう。

「分かってるなら改善しろよ。今ここで出来ないならマジで殺すぞ」

 その言葉と共に斬りつけられる。それを紙一重で交わしたかに思ったが胸元を斬られる。

(やべぇ! マジで殺される)

 深傷ではないが出血が止まらない。そんな龍牙に対して、

(親父や10代目には悪いが17代目はここで殺すか)

 自分のいる神界に戻ったら怒られるだろうが中途半端な実力だと結局龍帝に殺されるだろうし最強である自分に殺されるほうが龍牙にとってはいいだろうと判断する。それに対して龍牙は、

「はぁ、はぁ、ふぅ~」

 呼吸を整える。そして、死が近づくことによる恐怖から集中力が最高潮に達する。これにより龍鬼の偽物に負わされた左目に光が見える。これにより龍牙は龍鬼同様に死の気配を見れるようになった。そんな龍牙に龍鬼は斬りかかるが死の気配により余裕を待って回避する。

「どこが危険か分かってる。つまりは見えてるな。死の気配が。出血による死の恐怖で集中力も増してるな」(これなら楽しめそうだが死にかけないと本気になれないのは問題だな)」

 その問題の指摘については全部がおわってからにして攻撃を続けていく。それからは死の気配が視えるようになった龍牙には交わされるか捌かれて無駄に終わる。

(今までで一番調子が良い。この感覚を俺は知ってる)

 以前に龍鬼の偽物と戦った時も格段に調子が良かった。しかも、今回はあの時とは違い死の気配も視えるようになりより強くなったと実感出来ている。それでも、

(これでようやく互角。このままじゃ出血してる俺が不利)

 あくまで互角。勝負を決めるためには最強の一撃が必要なのだ。練家最強の男をも殺せる最強の一撃が。

しかないよな)

 そう思い距離を取る。それに対して龍鬼は間を詰めないのは龍牙の意図を察したからだ。

「死閃だろ? あんなザコ技で俺に勝てると思ってんならで殺す」

 今までの殺気が霞むレベルの殺気が龍牙を襲い、

「がっ!!」

 真っ二つにされた・・・・・・・・・・そう思ってしまうほどだった。あまりにもリアル過ぎて痛みを感じる。息も荒くなり膝が震える。

「ははっ!!(凄え!! 俺でもここまでの殺気は出せない)」

 龍牙の殺気は確かに常人が浴びれば呼吸を困難にさせてしまうが龍鬼のはレベルが違う。龍牙は龍とも渡り合える実力者だ。そんな龍牙が死をリアルに感じてしまうほどの殺気。これには思わず笑ってしまう。しかし、その笑いは決して強がりではなく、

(最高だ! これが最強! その最強が俺だけに殺気を向けてる! それが心地良い)

 単純に嬉しいのだ。前の世界はおろか今の世界、下手をすればありとあらゆる世界線においても間違いなく最強として君臨する男が未熟な自分を全力で殺しにくるのがたまらなく嬉しい。だからこそ、

「勝つ!! クソ技だっていうならそれを本物の最強技に昇華させればいい」

 構える。そんな龍牙同様に龍鬼も構える。両者の殺気がぶつかり合う。唾を飲むのも忘れ自分たちの技が最大の威力と速度を出すためだけに集中する。そして、両者の唾が地面に落ちた瞬間

         『死 閃』

 両者は全く同じ速度で刀を振る。その速度は龍帝同様に雷速だ。両者の刀がぶつかり、

 パキーーーーン!!!!

 という音共に龍鬼の刀が砕ける。それを見て龍鬼は、

(俺の負けか)

 負けを確信すると同時に両断される。そのままドサッ! と地面に倒れふす。威力も速度も全く同じであった。違いは、

「お前が死の気配を視るだけじゃなくてそれをようになっていたとはな」

 そこが勝負の分かれ目であった。龍牙が死の気配を視れるようになったので龍鬼も合わせて死の気配を視て戦ったのだが技を放つあの一瞬で死の気配を壊して相手に死を与える事が可能になったのだろう。今回の対象は龍鬼の刀だ。

「マグレとはいえ世界魚相手にも使ってたんだ。今使えるようになってもおかしくない。その可能性を考えてない俺が悪い」

 そう言って笑う龍鬼。

「賭けだったがな。クソ技クソ技って言うからな。何かが足りないって思ってな。要は死閃で死の気配を壊して死を与える事により相手の技を殺してそのまま相手を殺す技なんだろ」

 龍牙は龍鬼の放つ死閃から視えた死の気配を殺す事で刀を破壊して龍鬼を両断するに至ったのだ。しかし、

けど」
「はぁ!!」

 どうやら違うらしい。自分の考えを否定されて顔を真っ赤にさせる。

「だっせぇ!! アレが本物の技だと思ったのかよ!!」

 ギャハハ!! と笑う龍鬼。そうしてひとしきり笑った後に、

「まぁ全部が違う訳じゃないがまだ足りない」
「勝者に褒美って事で教えろよ」
「嫌だね。自分で考えて実行しろ」

 どうやら意地でも教える気はないらしい。

「後は本番で龍帝に使えるかどうかだな」
「そうだな」

 龍帝は龍牙や龍鬼とは違い常に雷速で動く。死閃でしか雷速を出せない龍牙は圧倒的に不利なのだ。

「まぁ、工夫次第だな。頑張れよ」

 そう言って龍鬼は消えるのであった。それと同時に龍牙の意識は現実に戻る。

「いってぇ!!」

 現実に精神世界の傷が反影されて痛みや疲労が一気に龍牙を襲った。そうした痛みの中であっても、

(お世話になりました)

 2代目当主、練龍鬼への感謝は忘れないリュウガであった。そして4日後に新たな龍神が誕生する。
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