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55話 炎と氷

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「おいまじでふざけんなよ。こんな地獄に連れてきやがって。今の俺ならともかくさっきまでの俺なら凍え死ぬぞ」
「そうだな。だから今のお前を連れて来てんだよ」
「そもそも立ち会い人なんているか? 勝手にやってろよ」
「かてぇ事言うなよ」

 そう言って極北の大地に2人は降り立つ。そこはブリザード大陸のように常に吹雪が吹いているのではないが寒さはそれ以上の-20℃を余裕で下回る。そんな極限の環境下でもリュウガは平然としていた。

「明らかにアウェーな環境でやんのか?」

 これだけ寒く氷に覆われた世界で同格の名持ちの龍となると不利なのではと思い聞いてみると、

「ハンデだよ、ハ・ン・デ!」

 舐め腐った感じの龍皇ことアブソリュートに、

「何だ負けた時の言い訳か?」

 現れたのは白髪の細身の男であった。この男が氷魔龍ブリゲイドだ。

(気のせいじゃねぇな。こいつが現れた瞬間に気温が一気に下がったな。ただでさえ常人なら凍え死ぬってのによ)

 なんて思ってるリュウガをよそに、

「それにしても立ち会い人に龍帝じゃなくて龍神の末裔を選ぶとはな」

 氷魔龍はリュウガに視線を向けた。

「龍帝の野郎呼んだら俺らの死合いじゃなくてあいつと俺たちの二対一になっちまうだろうが」
「まぁ、そうなるな」

 お互い納得してから、

「そんじゃあ殺るか

 二体が殺気を放つ。それはそこらの強者では気を失うレベルのものであった。

(龍同士の戦いを見るのはこれで二度目か。つーか今更気づいたがこの戦い・・大陸持つのか? 前はウェンが結界を張ってたから大丈夫だったが。あれ・・・・戦いの余波では死なないだろうが大陸が崩壊したら極寒の海で死ぬ可能性は普通にあるぞ)

 ちょっと不味いんじゃないかと冷や汗をかく。そんなリュウガの不安など露知らずに二体は龍へと姿を変えようとした瞬間に、

「始まる前で良かったです」

 ウェンが現れたと思えば二体同様に龍の姿に変えてリュウガを背中に乗せて上空へと飛び立った。

「来てくれて良かったよ。あいつらが戦ったら大陸消えるだろ?」
「消えますね。そう思ったので急いでいたところでに会えたのは良かったです。おかげで間に合う事が出来たました」
ってのは?」
「ふふっ。ですよ」
「はぁ!? 何で?」
「さぁ? いつもの気まぐれだと思いますよ。それよりも観戦しましょうか」

 そうして一人と一体は龍同士の死合いを観戦するのであった。

「ギャラリーが増えたな」
「丁度良いじゃねぇか! これで文句なくどっちが上かが分かるんだからよ!!」

 二体は激突する。二体の頭突きの衝撃だけで突風が吹く。氷魔龍は前回転して尻尾を叩きつけようとする。しかも、尻尾を氷で覆い威力を上げるが、

「無駄だ!! その程度の氷は俺の前じゃ溶けるだけだ!!」

 じゅっ! という音共に一瞬で氷は溶けるが、

「洒落臭ぇ!」

 そのまま尻尾で龍皇をぶっ叩くも、

「舐めんなよ!」

 大した効いてないようで爪に炎を纏わせての攻撃を仕掛ける。それを氷の壁で防ごうとするもあっさりと斬り裂かれる。それどころか氷魔龍にも大きな傷がついたかに思えたがそれは氷の彫像であり氷魔龍は龍皇の上に移動しており、

「氷付けにしてやるよ!!!!」

 氷のブレスを放つ。それは周囲の空気を凍らせてしまい息をしようとするだけでも辛いレベルだ。そんなブレスを、

「氷で炎の龍に勝てるかよ!!!!」

 龍皇は炎のブレスで撃退する。

「嫌な事思い出しちまった」

 龍皇との戦いで発火現象により結構な長期間苦しんだ経験があるリュウガは龍皇の炎を見て苦い顔をした。そうしてぶつかる龍同士のブレスにより急激な温度変化により大爆発が起こる。しかし、その程度の爆発では龍は怪我を負う事など決してないが爆発による黒煙は目眩しの役割が出来る・・・・普通ならそうなのだが龍は鼻が良いので大雑把に互いの位置を把握して攻撃を仕掛ける。

「これ決着つくのか? つくにしても龍皇が勝つだろ」
「何故そう思うのですか?」
「氷魔龍の氷を使っての攻撃は龍皇の身体に触れる前に溶ける以上は肉弾戦にシフトするしかないが龍皇は別に肉弾戦に付き合わずにガンガン炎を使っていけば殺せるだろ」
「確かにその通りですがそれで片がつくのなら過去の死合いで決着はついてますよ」

 ウェンの言葉にリュウガは、

(言われてみたらそうだな。てことは氷魔龍には何かあるのか?)

 改めて二体の龍の激突を見る。

「さて、そろそろ決着といこう」

 そう氷魔龍が呟くと、

 パキーーーーン!!!!

 と龍皇の周囲の空間ごと凍りつく。

「さっむ!! なんてもんじゃねぇぞ! お前の結界なかったら俺らも凍ってるだろ」
「えぇ、ですから良く見てください。結界の表面が凍っているでしょう?」
「あ~本当だな。これやばくね?」
「安心してください。張り替えれば済む話ですからね」

 そう言ってウェンは新たに結界を張り直すが、

「張り替えた結界も凍ってるな。しかも表面どころか内側も」
「ですね。結界の構築条件を変更して氷耐性を最大にしますか」

 そうして改めてに結界を張る。それでも、

「表面がどうしても凍るな。まぁ炎の龍の龍皇が凍っちまうんだから相当だもんな」

 そうして視線を龍皇に向けると凍った龍皇が大陸へと落下する。そして、

『銀世界』

 大陸が凍った。元々凍ってる大陸が更に氷で覆われてしまった。しかも大陸全土が天高くまで氷漬けになってしまったのだ。

「攻撃範囲がバクじゃねぇか! 攻撃範囲なら龍帝よりも上じゃねぇか!」
「そうです。彼の氷は炎をも凍らせ攻撃範囲は全ての龍たちの中でも最大範囲を誇ります」

 その説明を聞いてもリュウガは、

(凄くはあるが龍皇があれで死ぬとは思えないんだよな)

 そんなリュウガの思考を読んだようにウェンが、

「氷魔龍の氷はただの氷ではありません。相手の生命力を吸って氷を維持するので生命力が高ければ高いほど脱出が難しいのです」
(なるほどな。だとしても龍皇が負けるのは気にいらねぇな)

 リュウガは戦った身としては龍皇がこのまま負けるのは気にいらないらしい。そんなリュウガの思いが通じたのか、

 じゅーーーー!!!! 

 という音が聞こえたかと思えば、

 バッカーーーーーーン!!!!!!

 と氷から龍皇が飛び出して氷魔龍の首に噛み付く。

 グゥオーーーー!!!!

 氷魔龍の凄まじい鳴き声が響く。龍皇の牙には炎が纏われていた。牙と炎による二重の攻撃は凄まじい威力なのだろう。しかし、

「龍皇もしんどそうだな」
「一分かそこらとはいえ氷魔龍の氷に囚われていたのですから当然です」

 氷魔龍は噛まれながらも爪を龍皇に突き立てる。そこから龍皇の身体を凍らせていく。それに対抗して龍皇は全身から炎を発する。炎と氷の攻防は拮抗しているかに思えた瞬間に、

 ボコオーーーーーーン!!!!!!

 爆発した。空気が温度差に耐えれずに爆発してしまう。しかし、一回目の爆発とは違い爆発ごと氷魔龍は龍皇と自身を瞬時に凍らせた。

「氷魔龍のが上手か?」
「ギリギリですがね。首への攻撃が相当効いてますよ。でなければまた私の結界が凍ってしまいますから」

 今回は余波による結界の凍結が見られない辺り出力は落ちているらしい。氷から氷魔龍が出てくる。

「はぁ~。俺の氷から脱出するとはな。おかげでいいモノ喰らっちまったぜ」

 そう言いながら首元の傷を凍らせて応急処置を施しつつも視線は氷漬けの龍皇からは外さない。そんな氷漬けの龍皇の瞳がギョロリと氷魔龍を睨む。

「そうだよな! まだ終わらねぇよな!!」

 そう言って氷魔龍は凍結範囲を広げて再び大陸を含む上空をも凍らせる。その中を炎を纏わせて溶かしながら龍皇は氷魔龍目掛けて突っ込む。

「気のせいか? 龍皇の速度落ちたよな?」
「炎を纏っていても氷魔龍の氷が周りにある以上は生命力が奪われますからね」

 淡々と2人は語る。決着が近い事を予感しているのだ。それは当事者の二体も分かっている。

(もっとだ! もっと燃やせ!! 自分ごとなんてちゃちなレベルじゃねぇ!! 世界を燃やせ!!!!)

 この瞬間に気温は全世界でプラス二十度は上がった。そんな世界に影響を与えた龍皇本人は炎そのものとなり突っ込む。生命力を奪う氷の影響を感じてないように見える。そんな龍皇に、

「いいぞ!! そうじゃねぇと楽しくねぇ!!!!」

 氷魔龍も最強の技を放つ。

『氷極』

 先程よりも広範囲を凍らせる。先程は大陸全土とその上空だったが今度は大陸外の海をも凍らせてしまう。その攻撃範囲はリュウガとウェンも巻き込まれる。しかし、

「結界を五重に重ねてなければ私たちも凍ってしまうところでしたね」
「そうは言っても時間の問題だな。内側に向けてどんどん氷結が進んでるな。今の俺なら脱出も簡単だが下手に割るとあいつらの邪魔になるんだよな」

 リュウガとウェンは無事ではあったがそれでも状況はあまり良くはないようだ。

「立ち会い人を巻き込んでの攻撃ですし結界が保ちそうになかったら主様の判断で氷から脱出しましょう」

 ウェンの提案にリュウガは、

「いや邪魔はしたくねぇ。お前には負担かけて申し訳ないが頑張ってくれ」

 無茶を強いる。その言葉に嫌な顔せずに、

「畏まりました」

 更に強力な結界をウェンは張る。

(とは言え、このままだと結界で圧死するか氷漬けになるかの二択なので早くケリをつけてくださいよ。お二方)

 内心焦るウェン。そんなウェンに応えるかのように龍皇は氷を突き破り氷魔龍へと突っ込む。そんな龍皇に対して氷魔龍も氷を全身に纏い突っ込んで激突した。

「クソが」

 纏った氷ごと粉々に氷魔龍ブリゲイドは砕けて死んだ。その瞬間に氷魔龍の氷は全てが溶けた。それにより氷の大陸である極北は消滅して海面は上昇していくつかの島は水没して消滅。いくつかの国の海岸も消滅する結果となった。

「終わったな」
「えぇ、ですが・・・・龍皇の命も」

 龍皇は氷魔龍を殺し後だというのに未だに燃え続けている。自身をも燃やしての命がけの特攻は宿敵を倒すにいたったが自身の命も燃やしてしまったようだ。

「治療は不要ですよね」
「当たり前だ。不粋な真似はすんなよ」

 命が終わろうというがそこに恐怖はないようだ。

「次世代の龍皇はスイ・・・・翠龍を推しておく。伝えろよウェン」
「畏まりました」
「そんで練龍牙。お前は龍帝を倒せ」
「言われなくても死にたくないから倒すよ」
「分かってるないい。あばよ」

 そうして龍皇アブソリュートは燃え尽きて灰になって死ぬのであった。
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