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19話 バケモノの宴
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そいつは突然現れた。
「久しぶりだな。お仲間さん」
ギルドに現れたのはリュウガがいた世界で殺し合いを演じた男だった。リュウガ以外そんな事を知らないがその男が持つ異常な死の気配にルイ、ハンザ、ゴウ、ヒカリは臨戦体勢をするが彼らは分かっている、殺されると、そんなメンバー達の様子を見て、
「久しぶりだな。まぁ、座れよ」
リュウガが自分の前に座るように促した。相手に自分だけを意識させるためだ。しかし、そんな事をする必要はない。何故なら彼にとってこの程度いつでも殺せるのだから居ないに等しい。
「何の用があって来た?」
「最近こっちに来てな。街を散策してたらお前の噂を聞いてここに来た」
「それで? あの時の続きをするか?」
リュウガの問いにニヤっと笑い、
「リュウガ・レンに依頼する。俺と殺し合え! 報酬は俺の命! 場所は東にある盗賊砦の跡地だ! 時刻は深夜0時だ!」
まさかの依頼に今まで成り行きを見守っていたマイが、
「いきなり現れて殺し合うなんてどうかしてるよ! リュウガも断って!」
物凄い剣幕で反対するがそんなものに屈する相手ではない。何より、
「いや、殺るよ」
リュウガは答えた。
その答えに満足して男はギルドを後にした。
「どういうつもり!」
男がいなくなってからマイがリュウガに詰め寄る。他のメンバーも、
「流石にあんな依頼を受ける必要ないでしょう」
「つーか誰ですか? あいつ?」
「怖かった」
皆リュウガに文句やら質問やら感情をぶつけてくる。
「この国に来る前に殺し合ったんだよ。さっきの奴と。そんで邪魔が入ってお互い生き延びたんだよ。もし邪魔がなかったらお互い死んでたな」
説明するが、
「死ぬ可能性があるなら尚更行かないでよ! ギルドをNo. 1にする約束はどうするのさ!」
マイは納得いかない様子だ。
「悪い。けどこればっかりはどうしようもない。この先俺と全力で殺し合える奴に会えるわからない。この機会を逃すつもりはない」
絶対に譲らない様子だ。それもそのはずリュウガもあの男も強さという限界をぶち壊した存在でありその領域に立つ者など他に現れる保証がない。剣聖が可能性としてはあるが流石に貴族と殺し合いは不味いだろう。
「どうしても止めるっていうなら俺はこのギルドを辞める」
その言葉にマイは、
「そんなに殺し合いたいなら出てけ! このバカ!」
泣きながら怒鳴る。
「あばよ」
そう言ってギルドを出ようとするリュウガに、
「行かないで! パパ!」
ヒカリが呼び止めるが、
「ごめんな」
そう言ってギルドを出て行った。
◇
深夜0時を回る10分前にはリュウガは指定された場所に向かった。指定された盗賊砦は2年前に剣聖が潰した盗賊団のアジトであり今は建物だけが残っているだけの山奥の荒野だ。
「来たな。まずは一杯やろうか」
そう言って男が酒を取り出した。これから殺し合うのに酒を飲むのはどうなんだと普通は思うがリュウガはそれに応じる。
「俺達は強過ぎる。それはこっちの世界でも変わらずだ。だからお前もこっちに来た事を知った時は嬉しかった」
「向こうの世界に未練があるとしたらお前と決着をつけなかった事だ。俺も嬉しいよ」
酒が無くなるまでお互いの境遇を話した。男が殺した相手はクスリに溺れていた奴らや強姦犯などのクズだった。世直しという訳ではないがそいつらのせいで周りが不幸になったから自分のような人を増やさないために殺しをしたらしい。
((やっぱり似てるんだよな。俺達は))
お互いが殺しをやった相手は世間的には悪人と呼ばれる類の奴らでそれを2人は殺し尽くした。結果として2人は同じ領域へと辿り着いた。そんな自分達はやはり正義の味方でも英雄でもなく人殺しなのだ。それが分かってるからこそお互いにこの人殺しを殺したいと思うのだ。その結果が相討ちだとしても2人の人殺しが消えるのだからそれはそれで構わない。
((散々殺しておいて自分の死が怖いなんて思わないだろ))
2人の認識は完全に一致していた。酒がなくなる。
「練龍牙」
「バルト・アザンディッシュ」
互いに名乗りを上げ音速で突っ込む。バケモノの宴が始まった。
◇
ガギィン、ガギィン!!
と鉄のぶつかり合う音が夜の山奥に響く。2人のバケモノが刀とナイフで斬り合っている音だ。2人は常人ならばショック死しかねない程の殺気を放ちながら斬り合う。この世界で最強に位置する剣聖であってもこの2人の前には届かない。それだけこの2人は異常としか言えないレベルの攻防を繰り広げている。
(マジで強ぇ! 技を繰り出す隙がねぇ!)
龍牙は練式剣術の神凪《かんなぎ》を最初に繰り出した以外は技を繰り出せずにいる。練式剣術の弱点を挙げるなら技を繰り出すのに相手と一定の間合いを必要とする点である。神凪なら一度納刀するための間合いといったかんじである。だが今はコンマ数秒が命取りになるため基礎スペックで斬り合いをしているのである。
(楽しい! こんなに楽しい事が他にあるか?)
バルトは楽しんでいた。自分の力に対抗出来る存在が居ないと思っていたがそんな事はない。今自分は対等の殺し合いをしている。それが堪らなく楽しい。
(こいつ! ギア上げてきやがったな)
楽しい気持ちからバルトは更に斬撃速度を上げていく。その速度から斬撃の余波だけで龍牙だけでなく周囲も斬り裂いていく。
(ハハッ! そうだ! そうこなくちゃな!)
バルトに合わせるように龍牙も斬撃速度を上げていく。2人の斬撃は残っていた建物を更地に変えてしまう。
「「たまんねぇな! おい!」」
2人は本当に殺し合いをしているのかと思う程に仲が良さそうに笑う。彼らの斬り合いから飛ばされる殺気は砦があった山のモンスターが全て逃げていく程の物だった。
「はぁ、、はぁ、、」
「フー、、フー、、」
共に息も絶え絶えで体中血だらけである。致命傷には至ってないがこのままいけば出血多量で死ぬ。それでも2人は止まらない。
(まだ、終わらせない。出血多量による死なんかじゃねぇ。俺の手で確実に殺す!)
(この殺し合いに意味なんかない。それでも俺はこいつを殺したい!)
龍牙もバルトも同時に激突した。刀とナイフがぶつかる。もう最初程の速度は出てないがそれでも剣聖並みの速度での戦闘だ。バケモノの宴はまだ終わらない。
◇
バケモノの宴が始まってしまった頃、
「ギルマスいい加減機嫌を直して下さい」
ゴウがマイに話しかける。運命の宿木はリュウガが出て行って雰囲気が最悪の状態となっていた。ギルマスであるマイの機嫌が悪いのだ。だがこれでは、
「サブマスが自分勝手な事をしてへそを曲げるのは分かりますがあなたがシャンとしないとギルドは潰れますよ」
そうなのである。どんなに優秀なメンバーがいてもトップであるギルドマスターがシャンとしなければ意味がない。
「分かってるよ! だけどリュウは勝手過ぎるよ! ギルドをNo. 1にするって約束を破って殺し合いをするから出て行くなんて!」
怒るのも無理はない。しかし、
「いい加減にしなさい!」
ゴウが怒鳴る。普段から礼儀正しいゴウからの怒声にビクッとするマイ。
「確かにサブマスターの行動は褒められたものではない。それでもギルドマスターとしてメンバーの我が儘に付き合うだけの度量がない人がNo. 1のギルドを作れるわけがないでしょう!」
「でも! いくらなんでも殺し合いなんて認める訳には」
反論しようとするも、
「あなたは自分のギルドのサブマスターの力を信じていないのですか?」
言われて、ハッとする。自分が初めてモンスターと戦った時はリュウガの力を信じたからこそ結果を出せた。それなら今回の殺し合いも勝ってくれる事を信じるべきなのではないか。
「ゴウさん、わたしリュウガに会いたい。会ってもっと話したいたい」
目に涙を浮かべながら言うマイに、
「分かりました、行きましょう。ヒカリちゃんもね」
いつの間にかいたヒカリにもゴウは優しく話しかける。リュウガが去って泣き疲れて寝ていたのだがどうやら起きたらしい。
(しかし、間に合うか?)
そこだけがゴウの心配だった。
◇
人間は長時間全力では運動出来ない。全力を出しているつもりでも疲労から最大限のパフォーマンスを発揮出来なくなる。それでも2人は自分が出せる全力を出し続けていた。既に体はボロボロで骨は折れ、斬撃は内臓にまで達しているものもある。それでも2人は止まらずにいた。
「ヒュー、、ヒュッ、ヒュー、、ヒュッ、、」
「ゼェ、ハッ、ゼェー、、ゲホッ、ゼェ、ゼェ、、」
2人とも呼吸が荒い。無理な長時間戦闘で折れた骨が内臓に刺さっている。喉もゴロゴロと鳴っている。
((死が近い、、
それでも、、
楽しい!!))
朝日が昇る。最後の一撃の為に2人とも間合いを取る。
(俺には技なんてものはない。ただ全力の突進で心臓を吹っ飛ばす!)
バルトは龍牙を見据える。
(完璧に脱力している。死が近いなら普通は体が硬直するんだがな)
だがそれでこそ、
(俺の好敵手だ!)
一気に加速して心臓を狙う。その速度は本当に死にかけているのか疑う速度だ。
(殺った!)
そう確信する。が、
パキィン!
そんな音共にナイフが斬られた。龍牙が刀を振り上げている。
(斬ったのか! ナイフを!)
即座に判断したが、それでも遅い。
(不味い!)
振り上げていた刀を龍牙は無理矢理振り下ろしてきた。
ブチブチッ!!
筋繊維が千切れる音がするも止まらない龍牙にバルトは回避するのは無理と判断し貫手で腹を狙う。
ズバッ!
ドスッ!
リュウガは腹を貫かれたが最後に倒れたのはバルトの方だった。
「クソ、、最後の技ありゃ、、なん、だ? 最初から使えよ、、ふざ、、けんな。」
「練式剣術奥義 ‘虚無《きょむ》’。全身の脱力から間合いに入った攻撃を無に返す。それで使わなかった理由は今まで成功させてない上にお前相手に使うには隙がなかったんだよ」
使わなかった理由は他の技と同様だ。全身の脱力をするための間合いが必要だったからだ。そもそも本来は攻防一体の技で間合いに入った敵の攻撃ごと相手の命を奪う技だが龍牙の虚無は未完成であり更には負傷により相手の攻撃を無効化するのが精々だった。
「俺の、、勝ちだな」
息も絶え絶えになりながら、
「最期に、、何か、、言い残すことは、、あるか?」
最期の言葉を聞く。
「ヒュー、ゲフッ!ゼェ、、、ゼッゼッ、」
息も絶え絶えにバルトは、
「楽しかった、、ありがとう。初めての、、友、、よ、」
そう言って息を引き取った。バケモノの宴はこうして幕を閉じた。
◇
(生きてる)
目を覚ます。そんな感覚があるという事は自分は生き残ったのだとリュウガは確信する。
「いってえ」
痛覚もしっかりある。
「それにしてもあんな別れ方をしたのに良く助けようと思ったな」
椅子に座って寝息をたてているマイとヒカリがいた。どうやらここはギルドのリュウガの部屋らしい。
「起きたようですね」
ガチャと戸が開けられる音と共にゴウが入って来た。
「大変でしたよ。あなたには回復魔法が効きませんでしたから」
ゴウによるとリュウガを見つけたのは良かったが死んでもおかしくない程の重傷だった。しかし魔力を全く持たないリュウガには補助魔法同様回復魔法が効かなかった。
「その場で応急処置を済ませてギルドに運んで医者を呼んで|治療してもらいましたよ」
治療した医者によると内臓はズタズタ、左腕は筋繊維が切れて両足はヒビが入っており、血も流し過ぎており生きているのが不思議な程だそうだ。
「あいつの死体は?」
リュウガはゴウに聞いた。
「砦跡に埋めました。ナイフを墓標にして」
「ありがとう。世話をかけたな」
「全くですよ」
「で? 他に言う事は?」
今回の一件はそれだけで終わらせて良い件ではない。下手をすればギルド解散の危機だったのだから。まぁ、彼はもう辞めた身であり関係ないのだが。
「それはギルドマスターの仕事です。それに 『冒険者は自由でなければならない』 私の師匠の言葉です。サブマスターとしての行動では間違っていても冒険者として戦いを求めたあなたの自由さを間違ってるとは思いませんでしたから」
そう言ってゴウは部屋を出て行った。
「う~ん」
そんな声とともにマイが起きた。
「おはよう」
「うん、おはよう、、って起きたのリュウ!」
「うるせぇ、ヒカリが起きるだろ」
「あっ、ごめん」
暫く沈黙が続く。その沈黙を破って、
「ごめ、、」
「謝るな。ギルドマスターが簡単に謝ったらそのギルドに威厳が無くなる。お前はギルドマスターとして正しい判断をした」
マイの言葉を遮ってリュウガは言う。その言葉を受けて謝罪の言葉を飲み込んだ。
「治療代は後日払う」
リュウガはそう言って起きあがろうとする。それをマイが慌てて止める。
「まだ完璧に治った訳じゃないし治療代もいらないよ、ギルドのメンバーなんだから」
「俺はギルドを辞めるって言ったろ」
確かにリュウガはあの時ギルドを辞めると言った。しかしマイは、
「ギルドマスターのあたしがそれを許さない。リュウガ・レンあなたは運命の宿木のサブマスターとして、そして最強の冒険者として君臨し、ギルドをNo. 1にしなさい」
迷いのない真っ直ぐな瞳のマイに、
(俺はこの顔に弱いな)
前の世界で愛した女性を思い出して、
「承知した、俺は最強としてこのギルドをNo. 1にしよう」
静かにだが強い意志を感じる返答をした。そんなリュウガの反応を見て、
「それじゃここからはギルドマスターとしてではなくマイ・クルルガの言葉ね」
「はっ?」
「ごめんね。リュウが死んじゃうと思ってリュウの戦いたいって気持ちを無視して」
頭を下げるマイを見て、
「頭上げろ。マイ。殺し合いを良しとしないのは人として当然だ。お前は悪くない」
良いなとばかりにリュウガは目を閉じてまた寝始めた。
◇
「俺のワガママで殺し合いに向かい迷惑をかけた。これからも迷惑をかけるかもしれんが最強の冒険者としてこのギルドをNo. 1にするため命を賭ける。これからもよろしく頼む」
あれから結局また寝続けてようやく起きて受付嬢、料理人を含むメンバー全員に頭を下げ謝罪した。
パチパチ!
と拍手が出て驚いた。どうやらあらかじめマイもしくはゴウがフォローを入れてくれたのだろう。皆サブマスターが無事に帰って来て嬉しいようだ。
「これからも頼むよ! サブマスター!」
マイからの言葉に、
「任せろ。俺は最強だからな」
そう言って笑った。
「久しぶりだな。お仲間さん」
ギルドに現れたのはリュウガがいた世界で殺し合いを演じた男だった。リュウガ以外そんな事を知らないがその男が持つ異常な死の気配にルイ、ハンザ、ゴウ、ヒカリは臨戦体勢をするが彼らは分かっている、殺されると、そんなメンバー達の様子を見て、
「久しぶりだな。まぁ、座れよ」
リュウガが自分の前に座るように促した。相手に自分だけを意識させるためだ。しかし、そんな事をする必要はない。何故なら彼にとってこの程度いつでも殺せるのだから居ないに等しい。
「何の用があって来た?」
「最近こっちに来てな。街を散策してたらお前の噂を聞いてここに来た」
「それで? あの時の続きをするか?」
リュウガの問いにニヤっと笑い、
「リュウガ・レンに依頼する。俺と殺し合え! 報酬は俺の命! 場所は東にある盗賊砦の跡地だ! 時刻は深夜0時だ!」
まさかの依頼に今まで成り行きを見守っていたマイが、
「いきなり現れて殺し合うなんてどうかしてるよ! リュウガも断って!」
物凄い剣幕で反対するがそんなものに屈する相手ではない。何より、
「いや、殺るよ」
リュウガは答えた。
その答えに満足して男はギルドを後にした。
「どういうつもり!」
男がいなくなってからマイがリュウガに詰め寄る。他のメンバーも、
「流石にあんな依頼を受ける必要ないでしょう」
「つーか誰ですか? あいつ?」
「怖かった」
皆リュウガに文句やら質問やら感情をぶつけてくる。
「この国に来る前に殺し合ったんだよ。さっきの奴と。そんで邪魔が入ってお互い生き延びたんだよ。もし邪魔がなかったらお互い死んでたな」
説明するが、
「死ぬ可能性があるなら尚更行かないでよ! ギルドをNo. 1にする約束はどうするのさ!」
マイは納得いかない様子だ。
「悪い。けどこればっかりはどうしようもない。この先俺と全力で殺し合える奴に会えるわからない。この機会を逃すつもりはない」
絶対に譲らない様子だ。それもそのはずリュウガもあの男も強さという限界をぶち壊した存在でありその領域に立つ者など他に現れる保証がない。剣聖が可能性としてはあるが流石に貴族と殺し合いは不味いだろう。
「どうしても止めるっていうなら俺はこのギルドを辞める」
その言葉にマイは、
「そんなに殺し合いたいなら出てけ! このバカ!」
泣きながら怒鳴る。
「あばよ」
そう言ってギルドを出ようとするリュウガに、
「行かないで! パパ!」
ヒカリが呼び止めるが、
「ごめんな」
そう言ってギルドを出て行った。
◇
深夜0時を回る10分前にはリュウガは指定された場所に向かった。指定された盗賊砦は2年前に剣聖が潰した盗賊団のアジトであり今は建物だけが残っているだけの山奥の荒野だ。
「来たな。まずは一杯やろうか」
そう言って男が酒を取り出した。これから殺し合うのに酒を飲むのはどうなんだと普通は思うがリュウガはそれに応じる。
「俺達は強過ぎる。それはこっちの世界でも変わらずだ。だからお前もこっちに来た事を知った時は嬉しかった」
「向こうの世界に未練があるとしたらお前と決着をつけなかった事だ。俺も嬉しいよ」
酒が無くなるまでお互いの境遇を話した。男が殺した相手はクスリに溺れていた奴らや強姦犯などのクズだった。世直しという訳ではないがそいつらのせいで周りが不幸になったから自分のような人を増やさないために殺しをしたらしい。
((やっぱり似てるんだよな。俺達は))
お互いが殺しをやった相手は世間的には悪人と呼ばれる類の奴らでそれを2人は殺し尽くした。結果として2人は同じ領域へと辿り着いた。そんな自分達はやはり正義の味方でも英雄でもなく人殺しなのだ。それが分かってるからこそお互いにこの人殺しを殺したいと思うのだ。その結果が相討ちだとしても2人の人殺しが消えるのだからそれはそれで構わない。
((散々殺しておいて自分の死が怖いなんて思わないだろ))
2人の認識は完全に一致していた。酒がなくなる。
「練龍牙」
「バルト・アザンディッシュ」
互いに名乗りを上げ音速で突っ込む。バケモノの宴が始まった。
◇
ガギィン、ガギィン!!
と鉄のぶつかり合う音が夜の山奥に響く。2人のバケモノが刀とナイフで斬り合っている音だ。2人は常人ならばショック死しかねない程の殺気を放ちながら斬り合う。この世界で最強に位置する剣聖であってもこの2人の前には届かない。それだけこの2人は異常としか言えないレベルの攻防を繰り広げている。
(マジで強ぇ! 技を繰り出す隙がねぇ!)
龍牙は練式剣術の神凪《かんなぎ》を最初に繰り出した以外は技を繰り出せずにいる。練式剣術の弱点を挙げるなら技を繰り出すのに相手と一定の間合いを必要とする点である。神凪なら一度納刀するための間合いといったかんじである。だが今はコンマ数秒が命取りになるため基礎スペックで斬り合いをしているのである。
(楽しい! こんなに楽しい事が他にあるか?)
バルトは楽しんでいた。自分の力に対抗出来る存在が居ないと思っていたがそんな事はない。今自分は対等の殺し合いをしている。それが堪らなく楽しい。
(こいつ! ギア上げてきやがったな)
楽しい気持ちからバルトは更に斬撃速度を上げていく。その速度から斬撃の余波だけで龍牙だけでなく周囲も斬り裂いていく。
(ハハッ! そうだ! そうこなくちゃな!)
バルトに合わせるように龍牙も斬撃速度を上げていく。2人の斬撃は残っていた建物を更地に変えてしまう。
「「たまんねぇな! おい!」」
2人は本当に殺し合いをしているのかと思う程に仲が良さそうに笑う。彼らの斬り合いから飛ばされる殺気は砦があった山のモンスターが全て逃げていく程の物だった。
「はぁ、、はぁ、、」
「フー、、フー、、」
共に息も絶え絶えで体中血だらけである。致命傷には至ってないがこのままいけば出血多量で死ぬ。それでも2人は止まらない。
(まだ、終わらせない。出血多量による死なんかじゃねぇ。俺の手で確実に殺す!)
(この殺し合いに意味なんかない。それでも俺はこいつを殺したい!)
龍牙もバルトも同時に激突した。刀とナイフがぶつかる。もう最初程の速度は出てないがそれでも剣聖並みの速度での戦闘だ。バケモノの宴はまだ終わらない。
◇
バケモノの宴が始まってしまった頃、
「ギルマスいい加減機嫌を直して下さい」
ゴウがマイに話しかける。運命の宿木はリュウガが出て行って雰囲気が最悪の状態となっていた。ギルマスであるマイの機嫌が悪いのだ。だがこれでは、
「サブマスが自分勝手な事をしてへそを曲げるのは分かりますがあなたがシャンとしないとギルドは潰れますよ」
そうなのである。どんなに優秀なメンバーがいてもトップであるギルドマスターがシャンとしなければ意味がない。
「分かってるよ! だけどリュウは勝手過ぎるよ! ギルドをNo. 1にするって約束を破って殺し合いをするから出て行くなんて!」
怒るのも無理はない。しかし、
「いい加減にしなさい!」
ゴウが怒鳴る。普段から礼儀正しいゴウからの怒声にビクッとするマイ。
「確かにサブマスターの行動は褒められたものではない。それでもギルドマスターとしてメンバーの我が儘に付き合うだけの度量がない人がNo. 1のギルドを作れるわけがないでしょう!」
「でも! いくらなんでも殺し合いなんて認める訳には」
反論しようとするも、
「あなたは自分のギルドのサブマスターの力を信じていないのですか?」
言われて、ハッとする。自分が初めてモンスターと戦った時はリュウガの力を信じたからこそ結果を出せた。それなら今回の殺し合いも勝ってくれる事を信じるべきなのではないか。
「ゴウさん、わたしリュウガに会いたい。会ってもっと話したいたい」
目に涙を浮かべながら言うマイに、
「分かりました、行きましょう。ヒカリちゃんもね」
いつの間にかいたヒカリにもゴウは優しく話しかける。リュウガが去って泣き疲れて寝ていたのだがどうやら起きたらしい。
(しかし、間に合うか?)
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「ヒュー、、ヒュッ、ヒュー、、ヒュッ、、」
「ゼェ、ハッ、ゼェー、、ゲホッ、ゼェ、ゼェ、、」
2人とも呼吸が荒い。無理な長時間戦闘で折れた骨が内臓に刺さっている。喉もゴロゴロと鳴っている。
((死が近い、、
それでも、、
楽しい!!))
朝日が昇る。最後の一撃の為に2人とも間合いを取る。
(俺には技なんてものはない。ただ全力の突進で心臓を吹っ飛ばす!)
バルトは龍牙を見据える。
(完璧に脱力している。死が近いなら普通は体が硬直するんだがな)
だがそれでこそ、
(俺の好敵手だ!)
一気に加速して心臓を狙う。その速度は本当に死にかけているのか疑う速度だ。
(殺った!)
そう確信する。が、
パキィン!
そんな音共にナイフが斬られた。龍牙が刀を振り上げている。
(斬ったのか! ナイフを!)
即座に判断したが、それでも遅い。
(不味い!)
振り上げていた刀を龍牙は無理矢理振り下ろしてきた。
ブチブチッ!!
筋繊維が千切れる音がするも止まらない龍牙にバルトは回避するのは無理と判断し貫手で腹を狙う。
ズバッ!
ドスッ!
リュウガは腹を貫かれたが最後に倒れたのはバルトの方だった。
「クソ、、最後の技ありゃ、、なん、だ? 最初から使えよ、、ふざ、、けんな。」
「練式剣術奥義 ‘虚無《きょむ》’。全身の脱力から間合いに入った攻撃を無に返す。それで使わなかった理由は今まで成功させてない上にお前相手に使うには隙がなかったんだよ」
使わなかった理由は他の技と同様だ。全身の脱力をするための間合いが必要だったからだ。そもそも本来は攻防一体の技で間合いに入った敵の攻撃ごと相手の命を奪う技だが龍牙の虚無は未完成であり更には負傷により相手の攻撃を無効化するのが精々だった。
「俺の、、勝ちだな」
息も絶え絶えになりながら、
「最期に、、何か、、言い残すことは、、あるか?」
最期の言葉を聞く。
「ヒュー、ゲフッ!ゼェ、、、ゼッゼッ、」
息も絶え絶えにバルトは、
「楽しかった、、ありがとう。初めての、、友、、よ、」
そう言って息を引き取った。バケモノの宴はこうして幕を閉じた。
◇
(生きてる)
目を覚ます。そんな感覚があるという事は自分は生き残ったのだとリュウガは確信する。
「いってえ」
痛覚もしっかりある。
「それにしてもあんな別れ方をしたのに良く助けようと思ったな」
椅子に座って寝息をたてているマイとヒカリがいた。どうやらここはギルドのリュウガの部屋らしい。
「起きたようですね」
ガチャと戸が開けられる音と共にゴウが入って来た。
「大変でしたよ。あなたには回復魔法が効きませんでしたから」
ゴウによるとリュウガを見つけたのは良かったが死んでもおかしくない程の重傷だった。しかし魔力を全く持たないリュウガには補助魔法同様回復魔法が効かなかった。
「その場で応急処置を済ませてギルドに運んで医者を呼んで|治療してもらいましたよ」
治療した医者によると内臓はズタズタ、左腕は筋繊維が切れて両足はヒビが入っており、血も流し過ぎており生きているのが不思議な程だそうだ。
「あいつの死体は?」
リュウガはゴウに聞いた。
「砦跡に埋めました。ナイフを墓標にして」
「ありがとう。世話をかけたな」
「全くですよ」
「で? 他に言う事は?」
今回の一件はそれだけで終わらせて良い件ではない。下手をすればギルド解散の危機だったのだから。まぁ、彼はもう辞めた身であり関係ないのだが。
「それはギルドマスターの仕事です。それに 『冒険者は自由でなければならない』 私の師匠の言葉です。サブマスターとしての行動では間違っていても冒険者として戦いを求めたあなたの自由さを間違ってるとは思いませんでしたから」
そう言ってゴウは部屋を出て行った。
「う~ん」
そんな声とともにマイが起きた。
「おはよう」
「うん、おはよう、、って起きたのリュウ!」
「うるせぇ、ヒカリが起きるだろ」
「あっ、ごめん」
暫く沈黙が続く。その沈黙を破って、
「ごめ、、」
「謝るな。ギルドマスターが簡単に謝ったらそのギルドに威厳が無くなる。お前はギルドマスターとして正しい判断をした」
マイの言葉を遮ってリュウガは言う。その言葉を受けて謝罪の言葉を飲み込んだ。
「治療代は後日払う」
リュウガはそう言って起きあがろうとする。それをマイが慌てて止める。
「まだ完璧に治った訳じゃないし治療代もいらないよ、ギルドのメンバーなんだから」
「俺はギルドを辞めるって言ったろ」
確かにリュウガはあの時ギルドを辞めると言った。しかしマイは、
「ギルドマスターのあたしがそれを許さない。リュウガ・レンあなたは運命の宿木のサブマスターとして、そして最強の冒険者として君臨し、ギルドをNo. 1にしなさい」
迷いのない真っ直ぐな瞳のマイに、
(俺はこの顔に弱いな)
前の世界で愛した女性を思い出して、
「承知した、俺は最強としてこのギルドをNo. 1にしよう」
静かにだが強い意志を感じる返答をした。そんなリュウガの反応を見て、
「それじゃここからはギルドマスターとしてではなくマイ・クルルガの言葉ね」
「はっ?」
「ごめんね。リュウが死んじゃうと思ってリュウの戦いたいって気持ちを無視して」
頭を下げるマイを見て、
「頭上げろ。マイ。殺し合いを良しとしないのは人として当然だ。お前は悪くない」
良いなとばかりにリュウガは目を閉じてまた寝始めた。
◇
「俺のワガママで殺し合いに向かい迷惑をかけた。これからも迷惑をかけるかもしれんが最強の冒険者としてこのギルドをNo. 1にするため命を賭ける。これからもよろしく頼む」
あれから結局また寝続けてようやく起きて受付嬢、料理人を含むメンバー全員に頭を下げ謝罪した。
パチパチ!
と拍手が出て驚いた。どうやらあらかじめマイもしくはゴウがフォローを入れてくれたのだろう。皆サブマスターが無事に帰って来て嬉しいようだ。
「これからも頼むよ! サブマスター!」
マイからの言葉に、
「任せろ。俺は最強だからな」
そう言って笑った。
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で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。
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