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八話

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公園はすっかり、緑に染まっていた。空気は少し重く流れている。

「夢、もう生きれないかもしれないんだ…半年くらいだと思う。早くて4ヶ月半って言われて…。」
「聞いたよ。瀬尾先生から。」

涙が出ていた。ユーリは近づいて、手を取った。

「なんで、夢が泣くの?泣くことなんて無いのに!」
「ごめん、だって私はたくさんの人を置いて治ってるんだもの。いや、時間だけが止まって学生楽しんでるのよ?」
「良い事だよ。」

緑に染まっているはずの景色は、水色みたいな色に変わっていった。ユーリは、手を握りしめて近づけて抱きしめた。

「夢、昔の症例を聞いたことあるかい?先生が言っていた話。」
「ええ、でもそうなのかな?そうだったとしても私は…。」
「そんなに、責めないで!幸せな事なんだ。今を楽しむ事が大事だよ。」
「そうだよね?ユーリは、これからどうなるの?」

ユーリの笑顔が消えた。そして、ポケットからぐしゃぐしゃにしてある紙を取り出して見せた。

「長生きはしたくないって言ったよ。」

それは、死を選択したと言う事なんだろう。だけど、それが正しい事かなんて誰にも分からない。ユーリが幸せなら、それできっと良いんだろう。

「そっか、時間あまり無いのか。ねぇ、私ユーリと会えて幸せだった。だからね、どうか忘れないで!」
「もちろん、会えて嬉しかったよ!夢、愛してた。」

ちゃんと言えた。お互いの顔がようやく終わりを告げそして笑顔になった。すっかり、暗くなり始めていた。あっという間に感じた。二人は、最後にキスを交わし手を繋いで歩いた。この時間がもうすぐ終わる。これで良かったのだろうと思いながら

「着いちゃったね!」
「そうだな。夢、今の時間を大事に過ごしてね!そして、ちゃんと素敵な人を見つけるんだぞ。」
「うん。ユーリこそ…。ユーリ、本当にありがとう。」

夢は、後ろを振り返らず真っ直ぐ歩いた。涙が溢れた。止まらない、振り返らず顔をぐしゃぐしゃにしながら歩き続けた。

「夢、おかえりなさい。」
「ただいま。」

ママは、優しく抱きしめてしばらくそのままに居てくれた。




そして、街へ帰って行った。元の生活に戻り始めている。学校もまた始まった。

「おはよう、久しぶりだな!」

声をかけてくれたのは、伊助だった。

「おはよう。」
「なんか、スッキリした顔してるな!何かあったのか?」
「そう?まぁね、色々あったけどようやく終わったの」
「そっか、良かったな!」
「はーい、席ついて!ゴールデンウィーク楽しかったかな?だけど、ここで学校休んでる奴は居ないな!凄いぞ!」

東堂先生は、笑顔で言った。確かに、この時期になってくると学校をサボり始めたり休んだりする人が続出するらしい。休みがあるのは良いことなのだろうけど、人によるんだろうな。

「さて、今度プチテストがある。試験前の対策テストだ。この学校は優しいな。」
「先生、このテスト受けないで直接テスト受けても大丈夫なんですか?」
「それは、休むって聞こえるけど?!」

そういえば、忘れてた。テストだ。全然、対策も何もしてなかったわ。テスト範囲が黒板の端に書かれた。地味に多いなと思いながら、窓の外を見た。青空に雲が少しかかっている。校庭を見ると、他の学年が体育をしていた。サッカーをしているのを見ていると、こっちを見てニコッと笑って来た人が居た。
ドキッとしてしまった、多分一目惚れだったのだろう。そして昔、病院に来てた男の子に似ていた事を思い出した。

新しい、季節がやってくる。
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