無課金の修羅

てめえ

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第15話 嘘だっ!

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「ちょっと話は変るっすけど、晒しの件って犯人の目星はついたっすか?」

「いえ……。創聖の勇者内に実行者がいることは確実ですし、どうも引き抜きをしたギルドがそれに関わっているらしいってことしか分かっていません」

「引き抜きって、どこのギルドに引き抜かれたんっすか? ユイさんっすよね、引き抜かれたのは?」

「ええ、ユイさんです。覇記ってギルドなんですが、まったりさんは御存知ですか?」

「覇記って、あの一番強いとこっすか? www、そこがユイさんをっすか? www」

「はい……」

笑うんじゃねーよっ!



 こいつの言っていることが正しいのは認めるよ。

 だけど、まったりのこの口調だけは好きになれない。

 人の神経を逆なでするような草を生やしやがって……。



「自分、最初から晒してる奴に心当たりがあったんっすよ」

「えっ? どういうことです?」

「明らかに複垢で創聖の勇者に入ってた奴がいたっすから、そいつに間違いないと思ってたんっす」

「ああ、以前もそんなことを言ってましたね、まったりさんは」

まあ、複垢なんて反則みたいなものだからな。

 そういうことをする奴は、スパイみたいなことだって平気でするだろうし、晒しても平気な顔をしているだろうよ。



「ところで、ジョーさんは複垢を使ったことがあるっすか?」

「ありませんよっ! 俺はそんなことをしなくてもちゃんと成果を上げられますし」

「www、そっすよねwww。ジョーさんは真面目だからそう言うと思ったっすwww」

「……、……」

「自分もあんま複垢って好きじゃないんっすけど、調査用に作るときもあったりするっす」

「調査用って、スパイをさせるってことですか?」

「www、そうじゃないっすwww。運営が伏せてる仕様なんかを検証するために、単垢じゃ調べられないことを見つけるためっす。隠しクエストみたいなのを設定しているゲームもあるんで、そういうので使ってみるっす。なんで、このゲームにはいないっすよwww」

「はあ……」

結局、おまえもやってるってことか。



 言い訳してるけど、卑怯者ってことだろう?

 俺は絶対にやらない。

 複垢を使うと有利になるけど、そんなのズルだろ。



「ああ、もしかして、複垢を使うとズルいとか思ってたりするっすか? www。でも、それって勘違いっすよ。いくら複垢を使っても、下手な奴は下手なまんまっすし、そんなもんじゃ大勢は変らないっすwww」

「ですが、ギルド戦なんかでも複垢がいると有利なんじゃないですか?」

「そんなことないっすよwww。身体が幾つあっても、頭は一つっすwww。頭がアホなら身体は機能しないっすし、複垢が本垢を超えることはないっすからねwww」

「……、……」

「そんなものに頼ってるとゲーム能力も向上しないっすからwww。ジョーさんみたいに用がないと思うのなら作らないのが一番っすwww」

「……、……」

そんなことは分かってるよ。



 だけど、頭は一つ……、ってのは言い得て妙だな。

 たしかにプレーヤーは一人なのだから、幾つも垢を持てば力は分散する。

 本垢にかける時間や思考が減るだろうし、一つ一つの垢の質が落ちるのは当然のことか。



「……んで、自分が複垢を作ったときに、一番悩んだのがHNなんっすよwww」

「HN? 名前ですか? 複垢なんですから、適当に付ければいいじゃないですか」

「そうなんっすけど、一々、考えるのが面倒なんっすよねwww。いい加減に付けると自分でつけた名前なのに忘れるっすしwww。……で、そういうとき、複垢使いはなにを考えるか分かるっすか?」

「いえ……」

「一番分かりやすいのは、区別するために、名前のどこかに数字を付けて番号で整理したりするんっすよwww」

「ああ、なるほど……」

「それと、他に多いのは、アニメやマンガのキャラ名を付けるんっすよね」

「はあ……?」

「キャラ名にすると、その垢の設定が複垢使い自身に分かりやすいので、スパイなんかに使うときにはぼろが出にくいんっすよ」

「そうかもしれませんね。不自然な会話とかがあるとバレるでしょうしね」

「そっすwww。自分、創聖の勇者に入ってすぐのときから、それに該当してて会話が不自然な人がいると思ってたんっすよwww。だから、晒しがあったときにピンッときたっすwww」

「俺は気がつきませんでしたけどね。それで、具体的に誰なんです、それは?」

それでか、俺をここに呼び出したのは。



 たしかにその話をするならギルドチャットじゃしにくいな。

 名指しされた本人が見ていたら、指摘が合ってても間違ってても不都合があるだろうし。

 そうか、ようやくまったりの意図が分かってきたよ。






「ズバリ言うっすね。晒してたのは、ユイさんっすよ」

「……、……」

はっ?

 なにを言っちゃってるんだ、こいつ。

 バカなことを言うのも大概にしろよっ!



「入ってすぐの頃、チャットの過去ログを読んでて思ったんっすよ。こいつは複垢だってwww。しかも、若い女のフリをしてるっすけど、どう考えても中身はオッサンっしょwww」

「まったりさんっ! 言っていいことと悪いことがありますよっ! いい加減な嘘を並べてたてるのも大概にして下さいっ!」

ガツッ、という鈍い音が薄暗い俺の部屋に響く。

 俺が反射的にマウスを叩き付けたからだ。



 こいつ、なにをバカなことを言ってるんだ?

 ゆ、ユイさんが複垢だと?

 しかも、中身がオッサンだなんて……。



「自分は知らなかったっすけど、ユイってのはアニメのキャラらしいっすね」

「そんな……。ユイなんてありふれたHNじゃないですか。アニメのキャラからとったかどうかなんて、なんで分かるんです?」

「それに、あの人、ガチャで引いたものを、ツモった……、ってよく言ってたっしょwww。ツモるって、麻雀用語っすよwww。普通の若い女の子が使う用語じゃないっすwww」

「まったりさんが知らないだけですよ。今はMリーグなんてものが始まって、若い女性でも麻雀をやる人がいるんです。ユイさんがそうじゃないと何故断定できるんですかっ!」

「自分もそれは知ってるっすよ。だけど、そういう麻雀にハマってる女性はそのことを隠そうとなんかしないっすし、むしろ自ら話題を振ったりするほど熱心だったりするんっすよ。だけど、あの人はそんな素振りも見せてなかったっすwww。それなのに、用語だけがポロッと出るって、超笑えるっすよwww」

「そんなのまったりさんの偏見でしょ。ユイさんがオッサンだという証拠にはならないです」

「それだけじゃないっすよ。あの人のデッキを見ても複垢なのは分かるっす。単垢で下手でも一生懸命やってる人は、それでも試行錯誤の跡があるんっす。初心者にありがちな間違いってのは、結構共通してるもんなんっす。だけど、あの人のデッキは、ジョーさんが言わなきゃステのいいのを順番に並べてるだけっすwww。スキルの本質もデッキの組み方も全然分かってないっす。複垢だからおざなりなのも丸分かりっすよwww」

「うっ……」

「自分は、ユイさんの本垢と思しき奴にも見当が付いてるんっすよ。デュエルで当ってピンッときたっす。ゲームが下手なんで、課金に物を言わせてるだけの、知性のかけらもないデッキっすよwww」

「……、……」

嘘だっ!



 デタラメばかり言いやがってっ!

 俺は信じないぞっ!

 おまえがいくら屁理屈を並べたって、絶対に信じないっ!



「自分は、ゲームが下手でも、課金しててもしてなくても、一生懸命やってる人をバカにしたりはしないっすよ。自分はしないっすけど、課金するのは熱意の顕れだと思うんで、好ましく思うくらいっすし……」

「……、……」

「でも、他人を騙したり、晒したりする奴は絶対に許さないっす。それは一緒にゲームをやってる人に対する冒涜っすから。単なる裏切りっすしね」

「……、……」

「大体、おかしいっしょ。さっき聞いて思わず笑っちゃったっすけど、ユイみたいなハンパなデッキの奴が、一番強いギルドにサラッと入るのって。なんか特別な理由がなきゃ、あり得ないんっすよ」

「そ、それは……。スサノオさんが言っていたけど、ユイさんが創聖の勇者の内情に詳しいからですよ。本当に晒している奴が、そのことを知って引き抜いたって……」

「ユイがジョーさんのお気に入りだからってことっすか? まあ、そういう見方もできないことはないっすけど、ギルド戦が間近のこの時期に、あんな弱いのでギルドメンバーの1枠を使うなんて考えられないっす。創聖の勇者とだけ戦うわけじゃないんっすよ。他のギルドと戦うときに、複垢じゃなかったらお荷物なだけじゃないっすか」

「……、……」

「ユイが移籍したのは、引き抜きじゃねえっす。あれは複垢を回収しただけっすよ」

「……、……」

「これ以上いると自分に正体がバレると思ったから撤収したんっしょ。自分が接すれば接するほど正体を見破るって言い切ったあとから、ほとんどチャットに現れなくなったのがその証拠っす」

「そ、そんな……」

う、嘘だ……。

 まったりの言っていることは全部デタラメだ。

 どんなに筋が通っているように見えても、そんなの全部こじつけに過ぎない。



 大体、おまえの言っていることは全部状況証拠じゃないか。

 しかも、おまえの偏見と一方的な憶測に基づくものばかりだ。



 まったり……。

 おまえが凄くゲームに通じていて旨いのは認めるよ。

 俺にはあんなデッキは作れないし、発想もなかった。

 一生懸命おまえが作るデッキを想定してみたけど、微塵もその可能性を見出せなかったしな。



 だけど、おまえがユイさんのなにを知っている?

 俺はずっとユイさんと時を過ごしてきたんだ。

 おまえが創聖の勇者に入るずっと前からな。

 だから分かるんだよ。



 あの人は、ちょっとわがままだけど、意外と繊細で寂しがり屋なんだよ。

 仕事の関係上、プライベートなことは明かさないけど、ゲームだって一生懸命強くなろうとしていた。

 たしかに旨くはないけど、毎日インして頑張っていたじゃないか。



 そういうのを俺は全部見てきたんだ。

 ユイさんに限って、晒しなんてするはずがない。

 それに、オッサンなんかじゃ断じてないっ!






「ばんわ~っ。遅くなってゴメン」

「www。すまんっすね、組長。わざわざ来てもらって」

チャットのコメント欄に、「モリゾーさんが入られました」の文が並ぶ。



 組長?

 ああ、これがまったりの友人って奴か。



「ジョーさん、紹介するっすね。他のゲームで一緒に遊んでたモリゾーさんっす。自分は組長って呼んでるっすけどねwww」

「まっさん、その呼び方止めてよ。凄く恥ずかしいんだからさ」

「www、すまんっすwww。でも、面倒なんで組長のままでいくっすwww」

「ジョーさんって言うんですか。初めまして、モリゾーです」

俺はぶっきらぼうに、

「どうも……」

と一言だけ返す。



「ちょうどよかったっすよ。今、その話をしてたとこなんっす。来て早々で悪いんっすけど、自分にくれたメールのことを、組長からジョーさんに話してやってくれないっすか?」

「メールのこと? あ、盟主の話?」

「そっす」

「今、自分がやってるゲームが同じ三国志なので、まっさんのやってる三国志CVとなにか関係がありそうだと思ってメールしたんだけど……。もしかして当ってた?」

「www。組長は相変わらず勘が鋭いっすねwww。マジでそのヤマカンパワーはうらやましいっすよwww」

「エヘへ(照)」

ったく、二人で和んでるんじゃねーよ。

 俺は今、すげー気分が悪いんだからな。



「でも、まっさん。モリゾ、そっちの状況が全然分からないから、うまく話せなさそうなんですけど?」

「ああ、それでもいいんっすよ。率直に話してもらった方が、ジョーさんも分かりやすいっすから。聞けばすぐに分かる話っすしね」

「でも、自信がないっす(汗)」

「www、分かったっすwww。じゃあ、自分が組長に質問する形をとるんで、答えてくれればいいっす。それでいいっすか?」

「了解。じゃ、よろしくです」

「ジョーさんはしばらく黙って聞いてて下さいっす。組長はなにもこっちのこと分からないんで、予断をもって話してもらうよりその方がいいと思うっすから」

分かったよ。

 うざいまったりはともかく、このモリゾーって人はそんなに悪い人ではない感じがする。



 まったりの奴はいつも自分勝手なんだろうから、モリゾーさんも散々迷惑をかけられてるんだろうな。

 他人事とは言え、同情しちゃうよ。






「今、組長がやってるのは、自分達と同じ三国志のゲームなんっすよ。三国志CVで言うところのギルドと同じような同盟ってのがあって、ほとんどの人がそれに属してゲームをやるんっす。大きい同盟になると、200人くらいも同盟員がいるんっすよ。自分も前はやってたんっすけど、事情があって辞めたんっすけどねwww」

「まっさんは自分が納得するといつも勝手にやめちゃうもんねw」

「www、そっすねwww。……で、話を戻すっすwww。あっちの三国志は、同盟の人数が多いこともあって大抵同盟で外部のチャットルームを持ってるんっすよ。そこでゲーム上の戦略とかこれからの予定とかを話し合うんっす」

「うんうん……。熱心な人はしょっちゅうチャットで話してるよね」

「今から組長に聞くことは、そのチャットでの話っす。ジョーさんは超ビックリするかもしれないっすけど、我慢して聞いてくれっす」

「そうなの? モリゾ、そんなに大事なことをメールしたかな?」

「www。組長は自分の問いに答えればいいっすwww」

「ラジャーっ!」

ああ、そのゲームなら知ってるよ。

 よく、ブラウザーゲームの売り上げ上位に入っているのだろう。

 だけど、俺は三国志CV命だから、興味ないけどな。



「同盟には、色々役職があるんっすよ。その中で一番偉いのが盟主って言って、三国志CVで言うとギルマスみたいなもんなんっすけど、とにかく盟主の采配次第で同盟の順位が決まるようなところがあるんで重要なポジションなんっす」

「だよね。まっさんが盟主だったときは面白かったもんね」

「www、そっすね。……で、組長。今、組長が所属している同盟の盟主のHNを教えてくれっす」

「盟主は、ユイって言うんですよ」

な、なんだって?



 ま、まさか……。



「そのユイって人は、女性っすか?」

「うーん……。自分は最初、そう思ってたし、口調がそれっぽいので女性だと思ってたんだけど、先日、秘密の話を打ち明けられて、本人が男だって」

「もしかして、自身のことを言うときに、僕、って言ってないっすか?」

「あ、そう言ってるw。男なんだからそれで自然なんだけど、だったら女のフリなんかしなきゃいいのにねw」

「組長は今、同盟の役職をやってるから、信用されてるんっしょね」

「そうかも(照)」

ちょ、ちょっと待てよ……。



 モリゾーさん。

 あんた、まったりと打ち合わせしてきただろう?

 そうじゃなきゃおかしいじゃないか。

 そんなに分かりやすく話が一致するのって……。



 おい、まったり!

 なにが目的なんだ?

 俺をハメてなにが面白い?



 それに、俺は絶対に信じないぞ。

 たしかにユイってHNと、僕って自身を呼ぶところが同じでもな。

 そっちのユイは男でも、ユイさんは絶対に女性だ。



 黙って聞いてれば好き勝手言いやがって。

 俺はおまえを絶対に許さないからなっ!
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