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第107話 第三の可能性

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「ちょ、ちょっと待っておくれよ」

「……、……」

「マリーさんの言い分を聞いていると、まるでおいらの情報に偽りがあるみたいに感じるよ」

「……、……」

情報屋は、マリーに向かってそう言うと、一同を見回した。



「おいら、ちゃんと調べたんだぜ。この近辺まで運んだ業者とまで話してきたんだ。悪いけど、間違いないよ。ダーマー公が材木をくすねたことはさ」

「……、……」

「それに、ヘレンさんの推察も、それは見事なものだと思うんだ。おいら、完璧な推論だと感心しまくってたんだ。だから、その……。申し訳ないけど、マリーさんの言ってることに……」

「そうかもしれませんわ。私は、単なる自分の感じたことをお話ししただけですから」

「……、……」

「私は妻とは言っても、あの人の何を知っているわけでもございません。ただ、幼い頃より人を看る商売をして参りましたので、あの人が本当にそんな緻密な計画を立てたのか、信じられなかっただけでございます」

「つまり、マリーさんも間違ってない自信があるってことかい?」

「申し訳ないのですが、仰るとおりでございます」

マリーは丁寧な言葉遣いではあるが、キッパリと言い切った。



 おいおい……。

 どういうことだよ?

 もしかして、どっちかが間違ったことを言っているってことなのか?



 俺としては、情報屋の言い分が間違ってるとはとても思えない。

 だって、全部話が繋がったじゃないか。

 それに、ヘレンが間違った情報に踊らされるとも思えないし……。



 だけど、マリーの感じたことってのも分からないではないんだよな。

 だってさ、ダーマー公が今回の計画を立てたんだとしたら、戦争ってもっとずっと早く決着がついていそうに思えるからさ。

 あ、どっちが勝つかは分からないよ。

 でも、策を駆使すれば、こんなに長く膠着状態が続くような戦争にはなり辛いんじゃないかな?






「ま、まあ、待てよ。二人とも、そう焦るなよ。あたしには良く分からないけど、情報屋の言ってることをもとにヘレンが推察したことだ。だったら、ヘレンの意見を聞かなかったら、誰が間違っているとか言えないんじゃないか?」

「……、……」

「あたしはマリーの言っていることも間違ってないと思う。だってさ、人ってそんなに簡単に変わらないし、持っている本質ってものがあるよ。側で見ていれば、よほど狡猾な奴以外はそう簡単に見誤らないしな」

「……、……」

「……で、どうなんだよ、ヘレン? どうせおまえのことなんだから、何か考えがあるんじゃないか?」

「そうね……」

アイラの言葉に、ヘレンが応じる。

 だが、ヘレンの表情は険しかった。

 まるで、思い出したくないものを思い出してしまったかのように……。



「私も、情報屋さんもマリーさんも、間違ってはいないと思うわ」

「じゃあ、どっちの言い分も正しいんだな?」

「私の見込みだけだから、必ず正しいとは言えないけれど……」

「……、……」

「ただ、私達は経験してきたはずよ……、アイラ」

「経験?」

「本人の気がつかない内に、他の誰かの意図で操られてしまった一件を……」

「ま、まさか……」

「そうね……。裏切りのオーブは、ロマーリア王国の王宮に封じられているはずだわ。使える者も獄中にいる……」

「……、……」

「闇のオーブは、使える者が極端に少ないらしいし、状況的に彼以外の人間が裏切りのオーブを使えていた可能性は皆無に等しいわ」

「だったら……」

「でも、闇のオーブには、もう一つ未知のオーブがあるわ」

「……、……」

「それに、精霊のオーブにも、もう一つ未知のオーブがあるわね」

「……、……」

「それらの未知のオーブが、密かに暗躍しているとしたら……。その力を発揮しているとしたら……。ダーマー公の身に起っていることにも説明がつくわ」

「そっか……」

「あくまでも可能性よ……。でも、わずかにでも可能性があれば、それを見過ごしには出来ないわ。頭の片隅にでも、常に置いておかないといけないわ」

「……、……」

ま、まさか、そんなことがあり得るのか?



 だけど、アリストスは言っていたんだよな。

「私にこの大いなる力を授けてくれた、あの人の下へ……」

と……。



 あの人って、ダーマー公なのかと俺は思っていたよ。

 だって、全部ダーマー公が仕組んだように見えるじゃないか。

 戦争だって、今はダーマー公が直接指揮しているし。



 でも、マリーの言っていることが間違っていないのなら、ダーマー公があの人ではあり得ないよな。

 直情的な人間が、他国に手を回したり、綿密な計画を立てたりはしないからな。



 だったら、あの人って誰だよ。

 もしかして、まだ表に出てきていない奴がいるとでも言うのか?

 それとも、表には出てきているけど、何食わぬ顔して人を操っている卑怯者がいたりするのか?






「大事なことは、可能性を見過ごさず、常に対応していくことだわ」

「……、……」

「それに、今のところダーマー公がどう関わったかより、目の前の計画にどう対処するかが大事だと思うの」

「……、……」

「だから、マリーさんの言葉を貴重な情報として考慮に加えつつ、兵器とそれを使った総攻撃に対する策を練る必要があるわ」

「そうですね……。ヘレンさんの仰る通りだと思います」

ジーンが深くうなずく。

 ヘレンはそこまで言うと、一同にニッコリと笑いかけた。



「不安に思うかも知れませんけど、兵器に対する策については、私の中ですでにイメージが固まっております。今晩の軍議でそれを確実なものにして参りますので、ご心配いただかなくて結構です」

「お、おい……、そんなに簡単に請け負っちゃって大丈夫なのか?」

「うふふ……。アイラ、今の状況は、相手がほとんどの手段を晒してしまっているのに対し、こちらは隠している密かな力が多々ある状況よ」

「……、……」

「それに、忘れているみたいだけど、ジェラルド叔父様だってこの砦に到着するわ」

「あっ!」

「あと、対応策の要は……。コロ、あなたよ」

「……、……」

お、俺……?



「あの兵器は、想定通りだとすれば、重大な欠陥があるわ。いえ、正確に言うと、コロの力があれば欠陥を見事に突けるわ」

「……、……」

「またコロと暗黒オーブに頼ってしまうけれど、そのつもりでいてね」

「ニャっ!」

うん、俺、頑張るよ。



 大丈夫だよ。

 ヘレンがそこまで言うからには、ちゃんと見通しが立っているのさ。



「あ……、あの……」

「何、エイミア?」

ん?

 どうしたんだ、エイミア。

 そんな不安そうな声を出して……。



「へ……、ヘレン。ひ……、一つだけ、い……、言っても良い?」

「ええ……、何でも言って。私は何でも参考にしたいわ」

「え……、疫病のことなんだけど」

「……、……」

「ろ……、ローラの感じからすると、た……、多分、ぎゅ……、ギュール軍の方にもかなりの数の、か……、患者さんがいるわ」

「そうね。やはり、エイミアもそう思っていたの?」

「う……、うん。じゅ……、重症のローラを隔離していたと言うことは、そ……、それなりに疫病に対する、ち……、知識があったのではないかと思うの」

「……、……」

「え……、疫病は伝染するわ。か……、隔離は、ひ……、酷いことをしているようでも、さ……、最低限の対応ではあるわ」

「そう……」

ヘレンはエイミアの言葉を聞き、押し黙った。



 む、難しい顔をしているね、ヘレン。

 また、何か考えているのかい?



 だけど、エイミアもよく気がついたね。

 確かに、伝染病は隔離するしかないよ。

 治療することが出来なければね。

 ギュール軍の中でも拡がってる可能性は高いと俺も思う。



 さて、あとはヘレンがそれをどう突くか……。



 うん、面白くなってきた。

 明らかにこっちペースで話が進んでいるよ。
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