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第22話 ニックの知識
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「ふうむ……、そう言うことじゃったか」
ニックは、ヘレンがバロール討伐をかいつまんで話すと、深くうなずいた。
ヘレンは巧みに俺のことを省いて話している。
ニックが信用の於ける人物だと見極めるまでは、俺のことを隠しておくつもりのようだ。
「オーブの魔術が効かないこともあるんじゃ」
「……、……」
「効かないと言っても、普通の人が受けるよりも効果が少ないと言うだけで、もちろんダメージはあるんじゃがな」
「……、……」
「アイラの家系に、オーブが使える者はおらんか?」
「おります……」
「だからじゃ……。きっと、アイラもオーブを使えるんじゃろう?」
「いえ……、それは分かりません」
「何故じゃ?」
「盗まれてしまったからです」
「そ、それは、聖剣のオーブのことか?」
「はい……」
アイラは、ヘレンとニックの話を黙って聞いている。
きっと、アイラ自身で聞きたいところだろうが、ヘレンにすべてを任せ、睨み付けるようにニックを見ている。
「もう七、八年も前のことじゃがな……。盗まれた聖剣のオーブを求めて、わしのところに話を聞きに来た男がいたんじゃ」
「その方は、多分、アイラのお父さんです」
「じゃろうな。恐ろしく腕の立つ剣士でな、ロベルトがとても敵わないからと言って、戦う前から降参しちまったんじゃ」
「……、……」
アイラは、ちょっとがっかりしたようだった。
アイラの父は五年前に一度帰っているから、少なくとも現在の消息にはあまりプラスになりそうな話は聞けそうもない。
「アイラ……。お主はオーブについてどれくらい知っておるんじゃ?」
「あたしは、ほとんど何も知らない。祖父さんが盗まれたことと、ウチの一族が代々聖剣のオーブを所持してきたことくらいさ」
「そうか……。では、オーブ全般について、詳しく説明してやる必要がありそうじゃのう」
「……、……」
ニックは、コホンと空咳を一度すると、席を立ち、棚から紙の束を持ち出した。
そして、その中から数枚の書類を取り出すと、立ったまま静かに語り始めた。
ニックが語ったことは、大体、こんな感じのことだった。
オーブとは、太古の昔から存在し、誰が何の目的で作ったのかは定かではない。
ただ、言い伝えが残っていると言う。
「神々や精霊が、自らの存在と引き替えに、その力を永遠に残すためにオーブに変化した……」
のだそうだ。
しかし、これはあくまでも言い伝えに過ぎず、今では誰も確かめることが出来ない。
オーブは、大きく三種類に分類出来る。
光のオーブ、闇のオーブ、精霊のオーブの三種だ。
光のオーブには、デニス王所有の裁きのオーブ、盗難された聖剣のオーブ、存在自体が確認されていない慈愛のオーブの三種類があり、特定の能力を大幅に上げてくれる。
裁きのオーブは、治世や揉め事を解決する能力について……。
聖剣のオーブは、剣や武闘に関するあらゆる能力について……。
慈愛のオーブは、困っている人を救うあらゆる能力について……。
それぞれ、所有者の能力を数倍にも増幅するのだそうだ。
精霊のオーブは六種類ある。
現在確認されているのは、雷のオーブ、炎のオーブ、水のオーブ、風のオーブ、大地のオーブの五種類で、それぞれ所有者がいる。
残りの一種類は、言い伝えが残っていない。
しかし、オーブのことを書いた古文書には、確かに六種類と書かれており、存在することは間違いないようだ。
精霊のオーブは、オーブの名称に相応しい魔術が使える。
雷のオーブなら雷撃、炎のオーブなら炎撃と言った感じだ。
精霊のオーブついては、ヘレンがかなりの知識を持っているため、ニックは説明したがったが割愛させて、話の先を急いだ。
問題は、闇のオーブだった。
光のオーブと同様に三種類あるとされている。
ただ、どれも言い伝えは残っているものの、実際に所有した者がいないと言う、謎に包まれたオーブなのだそうだ。
つまり、バロールは闇のオーブシリーズで、初めての所有者と言うことになる。
暗黒オーブ以外の二種は、裏切りのオーブと支配のオーブ……。
何れもどんな能力があるのかは分かっていない。
「そもそも、オーブを使える者なんて、そうそういないんじゃ。精霊のオーブはそれでも使える者が良く出てくる方じゃが、それでも千人に一人と言ったところじゃ」
「千人に一人で……」
「そうじゃ。裁きのオーブなどは、ロマーリア王国の王家の血筋にしか扱えん。しかも、王族の中でも、十人に一人くらいしか扱えんのじゃ」
「……、……」
「今のデニス国王も八人兄弟の末弟じゃったがな、裁きのオーブが扱えることで王位を継いだんじゃ」
「……、……」
「聖剣のオーブは、シュレーディンガー家の正統な跡継ぎが所有しておったが、扱える者は十代に一人と言ったところじゃ。アイラの祖父、エリックは扱えたが、父親のジェラルドは扱えんと言うておった」
「……、……」
「それでも探し求めなくてはならんのじゃから、因果なものじゃのう……」
「……、……」
ここまで話すと、少し疲れたのか、ニックは椅子に座った。
テーブルにはエイミアが入れたお茶が出されており(普段はロベルトが雑事をすべて引き受けるらしいので、お茶を出すのもロベルトの役割らしいが……)、ニックは、温くなったそれを一息で飲み干した。
「ニックさん……、質問をしてもよろしいでしょうか?」
「何じゃ?」
ニックが一心地ついたのを見て、頃は良しとヘレンが尋ねた。
「オーブと言うのは、扱えるのは人だけなのでしょうか?」
「当然じゃ。オーブは意志を持っておる。そして、意志を言葉で伝えてくるんじゃ。じゃから、言葉が分からん獣や植物ではオーブの意志が理解できんのじゃ」
「……、……」
「大体、人以外の存在がオーブを扱ったなどと言う文献は残っておらんしのう」
「では、動物が扱うなどと言うことはないのですね?」
「そうじゃ……」
「……、……」
ニックは、絶対間違いないとばかりに断言した。
それを聞いて、ヘレンは複雑な表情で俺を見る。
ヘレンは迷っているのだろう。
ニックに、俺が緊縛呪を発動したことを切り出して、得るものがあるか……。
それとも、秘密が漏れる危険性の方が高いか……。
「そう言えば、お主達は暗黒オーブのことを聞きたいと言っておったな?」
「……、……」
「アイラは聖剣のオーブは扱える可能性があるじゃろうが、暗黒オーブのことなんて聞いてどうするんじゃ? バロールは王宮の地下監獄なんじゃろう?」
「……、……」
「扱えもせんもののために、わざわざこんな辺鄙な山頂まで来たんか?」
「……、……」
ニックの問いには答えず、ヘレンは、エイミアとアイラに向かってうなずいてみせた。
「ニックさん……。これからお話することは、他言無用と言うことでお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「何じゃ? やぶからぼうに」
「私共は、ニックさんが信頼できるお方だと見極めをつけましたので、お話したいと思います」
「オーブに関することは、すべて重要なことじゃ。軽々に他言はせん」
「では、まずはこれをご覧いただけますでしょうか?」
「……、……」
ヘレンはエイミアに向かって、うなずいてみせた。
エイミアはそれを見て、抱きかかえていた俺をテーブルの上に乗せる。
そして、首輪に手をかけると、暗黒オーブに被せておいた布の袋を取り去った。
「な、何じゃ? お、オーブが光っておるっ! 猫の首輪に付いたオーブが……。こ、これが、あの暗黒オーブか」
ニックは、目を見開いて俺を見た。
驚愕のあまりか、手がわなわなと震えている。
「こりゃあ凄い。わしも光っているオーブは初めてみたわい」
ニックはそこまで言うと、あとは魅入られたように俺を見つめるだけであった。
ニックは、ヘレンがバロール討伐をかいつまんで話すと、深くうなずいた。
ヘレンは巧みに俺のことを省いて話している。
ニックが信用の於ける人物だと見極めるまでは、俺のことを隠しておくつもりのようだ。
「オーブの魔術が効かないこともあるんじゃ」
「……、……」
「効かないと言っても、普通の人が受けるよりも効果が少ないと言うだけで、もちろんダメージはあるんじゃがな」
「……、……」
「アイラの家系に、オーブが使える者はおらんか?」
「おります……」
「だからじゃ……。きっと、アイラもオーブを使えるんじゃろう?」
「いえ……、それは分かりません」
「何故じゃ?」
「盗まれてしまったからです」
「そ、それは、聖剣のオーブのことか?」
「はい……」
アイラは、ヘレンとニックの話を黙って聞いている。
きっと、アイラ自身で聞きたいところだろうが、ヘレンにすべてを任せ、睨み付けるようにニックを見ている。
「もう七、八年も前のことじゃがな……。盗まれた聖剣のオーブを求めて、わしのところに話を聞きに来た男がいたんじゃ」
「その方は、多分、アイラのお父さんです」
「じゃろうな。恐ろしく腕の立つ剣士でな、ロベルトがとても敵わないからと言って、戦う前から降参しちまったんじゃ」
「……、……」
アイラは、ちょっとがっかりしたようだった。
アイラの父は五年前に一度帰っているから、少なくとも現在の消息にはあまりプラスになりそうな話は聞けそうもない。
「アイラ……。お主はオーブについてどれくらい知っておるんじゃ?」
「あたしは、ほとんど何も知らない。祖父さんが盗まれたことと、ウチの一族が代々聖剣のオーブを所持してきたことくらいさ」
「そうか……。では、オーブ全般について、詳しく説明してやる必要がありそうじゃのう」
「……、……」
ニックは、コホンと空咳を一度すると、席を立ち、棚から紙の束を持ち出した。
そして、その中から数枚の書類を取り出すと、立ったまま静かに語り始めた。
ニックが語ったことは、大体、こんな感じのことだった。
オーブとは、太古の昔から存在し、誰が何の目的で作ったのかは定かではない。
ただ、言い伝えが残っていると言う。
「神々や精霊が、自らの存在と引き替えに、その力を永遠に残すためにオーブに変化した……」
のだそうだ。
しかし、これはあくまでも言い伝えに過ぎず、今では誰も確かめることが出来ない。
オーブは、大きく三種類に分類出来る。
光のオーブ、闇のオーブ、精霊のオーブの三種だ。
光のオーブには、デニス王所有の裁きのオーブ、盗難された聖剣のオーブ、存在自体が確認されていない慈愛のオーブの三種類があり、特定の能力を大幅に上げてくれる。
裁きのオーブは、治世や揉め事を解決する能力について……。
聖剣のオーブは、剣や武闘に関するあらゆる能力について……。
慈愛のオーブは、困っている人を救うあらゆる能力について……。
それぞれ、所有者の能力を数倍にも増幅するのだそうだ。
精霊のオーブは六種類ある。
現在確認されているのは、雷のオーブ、炎のオーブ、水のオーブ、風のオーブ、大地のオーブの五種類で、それぞれ所有者がいる。
残りの一種類は、言い伝えが残っていない。
しかし、オーブのことを書いた古文書には、確かに六種類と書かれており、存在することは間違いないようだ。
精霊のオーブは、オーブの名称に相応しい魔術が使える。
雷のオーブなら雷撃、炎のオーブなら炎撃と言った感じだ。
精霊のオーブついては、ヘレンがかなりの知識を持っているため、ニックは説明したがったが割愛させて、話の先を急いだ。
問題は、闇のオーブだった。
光のオーブと同様に三種類あるとされている。
ただ、どれも言い伝えは残っているものの、実際に所有した者がいないと言う、謎に包まれたオーブなのだそうだ。
つまり、バロールは闇のオーブシリーズで、初めての所有者と言うことになる。
暗黒オーブ以外の二種は、裏切りのオーブと支配のオーブ……。
何れもどんな能力があるのかは分かっていない。
「そもそも、オーブを使える者なんて、そうそういないんじゃ。精霊のオーブはそれでも使える者が良く出てくる方じゃが、それでも千人に一人と言ったところじゃ」
「千人に一人で……」
「そうじゃ。裁きのオーブなどは、ロマーリア王国の王家の血筋にしか扱えん。しかも、王族の中でも、十人に一人くらいしか扱えんのじゃ」
「……、……」
「今のデニス国王も八人兄弟の末弟じゃったがな、裁きのオーブが扱えることで王位を継いだんじゃ」
「……、……」
「聖剣のオーブは、シュレーディンガー家の正統な跡継ぎが所有しておったが、扱える者は十代に一人と言ったところじゃ。アイラの祖父、エリックは扱えたが、父親のジェラルドは扱えんと言うておった」
「……、……」
「それでも探し求めなくてはならんのじゃから、因果なものじゃのう……」
「……、……」
ここまで話すと、少し疲れたのか、ニックは椅子に座った。
テーブルにはエイミアが入れたお茶が出されており(普段はロベルトが雑事をすべて引き受けるらしいので、お茶を出すのもロベルトの役割らしいが……)、ニックは、温くなったそれを一息で飲み干した。
「ニックさん……、質問をしてもよろしいでしょうか?」
「何じゃ?」
ニックが一心地ついたのを見て、頃は良しとヘレンが尋ねた。
「オーブと言うのは、扱えるのは人だけなのでしょうか?」
「当然じゃ。オーブは意志を持っておる。そして、意志を言葉で伝えてくるんじゃ。じゃから、言葉が分からん獣や植物ではオーブの意志が理解できんのじゃ」
「……、……」
「大体、人以外の存在がオーブを扱ったなどと言う文献は残っておらんしのう」
「では、動物が扱うなどと言うことはないのですね?」
「そうじゃ……」
「……、……」
ニックは、絶対間違いないとばかりに断言した。
それを聞いて、ヘレンは複雑な表情で俺を見る。
ヘレンは迷っているのだろう。
ニックに、俺が緊縛呪を発動したことを切り出して、得るものがあるか……。
それとも、秘密が漏れる危険性の方が高いか……。
「そう言えば、お主達は暗黒オーブのことを聞きたいと言っておったな?」
「……、……」
「アイラは聖剣のオーブは扱える可能性があるじゃろうが、暗黒オーブのことなんて聞いてどうするんじゃ? バロールは王宮の地下監獄なんじゃろう?」
「……、……」
「扱えもせんもののために、わざわざこんな辺鄙な山頂まで来たんか?」
「……、……」
ニックの問いには答えず、ヘレンは、エイミアとアイラに向かってうなずいてみせた。
「ニックさん……。これからお話することは、他言無用と言うことでお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「何じゃ? やぶからぼうに」
「私共は、ニックさんが信頼できるお方だと見極めをつけましたので、お話したいと思います」
「オーブに関することは、すべて重要なことじゃ。軽々に他言はせん」
「では、まずはこれをご覧いただけますでしょうか?」
「……、……」
ヘレンはエイミアに向かって、うなずいてみせた。
エイミアはそれを見て、抱きかかえていた俺をテーブルの上に乗せる。
そして、首輪に手をかけると、暗黒オーブに被せておいた布の袋を取り去った。
「な、何じゃ? お、オーブが光っておるっ! 猫の首輪に付いたオーブが……。こ、これが、あの暗黒オーブか」
ニックは、目を見開いて俺を見た。
驚愕のあまりか、手がわなわなと震えている。
「こりゃあ凄い。わしも光っているオーブは初めてみたわい」
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