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第29話 立体駐車場は違法?
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「さて、これで裁判がない理由は分かったね。次は、建築審査会がない理由を説明するよ」
「お願いします。想像以上のことを言われて、まだ混乱していますけど」
「あはは、晴美ちゃんがそんなに悩む必要はないよ。だださ、思ったより色々なことに繋がっているだろう? たかが日照の件なんだけどさ」
「そうですね。政治とか法律とかって報道の中や特別な人だけが関係するものだと思っていましたけど、こんな身近なところから繋がっているなんてビックリしました」
木原が何やら考え込んでいるので、私が代って川田に受け答えをする。
「ほら、木原さん……。そっちはあとで考えなよ。今は、日照のことだろう?」
「あ、ああ……。そうだね、すまん……」
「じゃあ、話を進めるよ」
「……、……」
何か、どちらが県議だか分からないわ。
でも、木原さんの真面目なところが良いかな?
川田さんが県議だったら、悪いことをしそうだし……。
こっそりそんなことを思い、木原と川田を見較べる。
「立駐機に目を付けたのは、さすが木原さんだよ。良い線行ってる。だけど、アプローチが甘いね」
「どういうこと? 覆いくらいしか切り込む部分がないと思うんだけど」
「いや、覆いはダメだよ。あれは建築審査会でも通っちゃう。建築物って言うのは、そもそも家屋のイメージだからね。メッシュの入った覆いでは、家屋と同等にはならないから」
「そうか……。グレーゾーンくらいにはなってるかと思ったんだけど……」
「そうね、審査の対象にはなるかも知れないけど、押し切られて終わりかな」
「……、……」
あんなに木原が頭を振り絞ってくれたのに……。
悪気がないのは分かっていても、あっさり否定する川田がちょっと憎らしい。
「川田さん……。でも、田所さんは建築審査会って聞いた途端、明らかに動揺しました。絶対に何か嫌なんです」
「ふふっ……。ほら、木原さん……。晴美ちゃんだってこのくらいは感じているんだよ。そうね、彼は間違いなく嫌がっていたよ」
「やっぱり……」
「だけど、その理由が重要なんだ。それが分からないと君らの不安は解消されない」
「……、……」
川田はそう言うと、三田さんのメモが入った資料に目をやる。
「理由はね、立駐機が違法だからなんだ」
「違法? そんなバカなっ! 工作物か建築物かが問題じゃないのかい?」
「まあ、聞きなよ」
「……、……」
「別に立駐機自体が違法なわけではないよ。当然のことながら」
「だったら……」
「だけど、立駐機でコスモスイクスピアリが商売をすることが違法なんだよ」
「……、……」
「隣のマンション計画は、分譲だろう? だとしたら、底地の権利は誰のものだい?」
「それは、マンションを購入した人達のものだよ。いくら何でも、それくらいのことは僕でも分かる」
「だったら、その土地の上に建っている立駐機は誰のもの?」
「それは管理するコスモスイクスピアリの物さ。当然ね」
「木原さんは、商売をするときに、登記しなきゃいけないことは知っているよね?」
「ああ……」
「登記するときには必ずその場所の地番が入るんだけど、立駐機の地番を登記出来ると思う? 底地はマンションを買った人の物なのに」
「あっ! そう言うことか。つまり、その土地に権利がない状態では、登記できないから商売することが出来ないのか。それなのに立駐機の賃料を取ると言うことは、違法な商売をしていると言うことになる」
「ご名答……。これ、知らないマンションの管理組合が多くてさ。結構、搾取されっぱなしになっていたりするんだよ」
「だけど、建築審査会に行けばそれがバレてしまう。だから田所さんは動揺したんだな」
「そう言うことだよ。木原さんの事務所に影をかけようとしたのが命取りになったね。建築審査会って普通の人はつてがなきゃ開けないけど、元市議の木原さんなら問題ないからさ」
「……、……」
違法……。
そんなに明白な理由があったのか。
だけど……。
「川田さん。でも、もしそうだったら、何でコスモスイクスピアリは違法で商売をするなんて危険を犯すんです? 発覚して裁判をされたら困るじゃないですか。賃料なんて微々たるものでしょうし……」
「晴美ちゃん……。微々たるものではないよ。計算してみようか?」
「……、……」
「マンションの住人が借りるとして、月一万円くらいかな? ……で、外部の人が借りればその1.5倍くらいで一万五千円。住人が十五台として、十五万。外部の人が九台で十三万五千円。合わせて三十万弱だ」
「……、……」
「月に三十万とすると、年間三百六十万だ。これが毎年欠かさず入って来るんだよ」
「……、……」
「それを十件もやってごらん? たちまち年の売り上げが三千六百万だ。立駐機の設置代金はマンション分譲に上乗せされるから、元手もかからない。こんな濡れ手で粟な商売、ちょっと聞いたことがないよ。そりゃあ、バレないときには知らん顔してやろうとするさ」
「……、……」
「だけど、木原さんが要求を吞まないと建築審査会を開くと言ったから、もうそれも出来ない。だったら、自分のところの利益にはならないので、三階建てにする必要はなくなるのさ」
「……、……」
明快だ……。
……と言うか、分かり易過ぎて、私でも納得出来てしまう。
もう、恐れることは何もない。
マンションの影はかかるけど、立体駐車場に見下ろされるわけではないのだから……。
裕太ママ晴美の一言メモ
「立体駐車場で商売することが違法だったなんて。もうっ、何が法律に則ってよ。嘘八百じゃない!」
「お願いします。想像以上のことを言われて、まだ混乱していますけど」
「あはは、晴美ちゃんがそんなに悩む必要はないよ。だださ、思ったより色々なことに繋がっているだろう? たかが日照の件なんだけどさ」
「そうですね。政治とか法律とかって報道の中や特別な人だけが関係するものだと思っていましたけど、こんな身近なところから繋がっているなんてビックリしました」
木原が何やら考え込んでいるので、私が代って川田に受け答えをする。
「ほら、木原さん……。そっちはあとで考えなよ。今は、日照のことだろう?」
「あ、ああ……。そうだね、すまん……」
「じゃあ、話を進めるよ」
「……、……」
何か、どちらが県議だか分からないわ。
でも、木原さんの真面目なところが良いかな?
川田さんが県議だったら、悪いことをしそうだし……。
こっそりそんなことを思い、木原と川田を見較べる。
「立駐機に目を付けたのは、さすが木原さんだよ。良い線行ってる。だけど、アプローチが甘いね」
「どういうこと? 覆いくらいしか切り込む部分がないと思うんだけど」
「いや、覆いはダメだよ。あれは建築審査会でも通っちゃう。建築物って言うのは、そもそも家屋のイメージだからね。メッシュの入った覆いでは、家屋と同等にはならないから」
「そうか……。グレーゾーンくらいにはなってるかと思ったんだけど……」
「そうね、審査の対象にはなるかも知れないけど、押し切られて終わりかな」
「……、……」
あんなに木原が頭を振り絞ってくれたのに……。
悪気がないのは分かっていても、あっさり否定する川田がちょっと憎らしい。
「川田さん……。でも、田所さんは建築審査会って聞いた途端、明らかに動揺しました。絶対に何か嫌なんです」
「ふふっ……。ほら、木原さん……。晴美ちゃんだってこのくらいは感じているんだよ。そうね、彼は間違いなく嫌がっていたよ」
「やっぱり……」
「だけど、その理由が重要なんだ。それが分からないと君らの不安は解消されない」
「……、……」
川田はそう言うと、三田さんのメモが入った資料に目をやる。
「理由はね、立駐機が違法だからなんだ」
「違法? そんなバカなっ! 工作物か建築物かが問題じゃないのかい?」
「まあ、聞きなよ」
「……、……」
「別に立駐機自体が違法なわけではないよ。当然のことながら」
「だったら……」
「だけど、立駐機でコスモスイクスピアリが商売をすることが違法なんだよ」
「……、……」
「隣のマンション計画は、分譲だろう? だとしたら、底地の権利は誰のものだい?」
「それは、マンションを購入した人達のものだよ。いくら何でも、それくらいのことは僕でも分かる」
「だったら、その土地の上に建っている立駐機は誰のもの?」
「それは管理するコスモスイクスピアリの物さ。当然ね」
「木原さんは、商売をするときに、登記しなきゃいけないことは知っているよね?」
「ああ……」
「登記するときには必ずその場所の地番が入るんだけど、立駐機の地番を登記出来ると思う? 底地はマンションを買った人の物なのに」
「あっ! そう言うことか。つまり、その土地に権利がない状態では、登記できないから商売することが出来ないのか。それなのに立駐機の賃料を取ると言うことは、違法な商売をしていると言うことになる」
「ご名答……。これ、知らないマンションの管理組合が多くてさ。結構、搾取されっぱなしになっていたりするんだよ」
「だけど、建築審査会に行けばそれがバレてしまう。だから田所さんは動揺したんだな」
「そう言うことだよ。木原さんの事務所に影をかけようとしたのが命取りになったね。建築審査会って普通の人はつてがなきゃ開けないけど、元市議の木原さんなら問題ないからさ」
「……、……」
違法……。
そんなに明白な理由があったのか。
だけど……。
「川田さん。でも、もしそうだったら、何でコスモスイクスピアリは違法で商売をするなんて危険を犯すんです? 発覚して裁判をされたら困るじゃないですか。賃料なんて微々たるものでしょうし……」
「晴美ちゃん……。微々たるものではないよ。計算してみようか?」
「……、……」
「マンションの住人が借りるとして、月一万円くらいかな? ……で、外部の人が借りればその1.5倍くらいで一万五千円。住人が十五台として、十五万。外部の人が九台で十三万五千円。合わせて三十万弱だ」
「……、……」
「月に三十万とすると、年間三百六十万だ。これが毎年欠かさず入って来るんだよ」
「……、……」
「それを十件もやってごらん? たちまち年の売り上げが三千六百万だ。立駐機の設置代金はマンション分譲に上乗せされるから、元手もかからない。こんな濡れ手で粟な商売、ちょっと聞いたことがないよ。そりゃあ、バレないときには知らん顔してやろうとするさ」
「……、……」
「だけど、木原さんが要求を吞まないと建築審査会を開くと言ったから、もうそれも出来ない。だったら、自分のところの利益にはならないので、三階建てにする必要はなくなるのさ」
「……、……」
明快だ……。
……と言うか、分かり易過ぎて、私でも納得出来てしまう。
もう、恐れることは何もない。
マンションの影はかかるけど、立体駐車場に見下ろされるわけではないのだから……。
裕太ママ晴美の一言メモ
「立体駐車場で商売することが違法だったなんて。もうっ、何が法律に則ってよ。嘘八百じゃない!」
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