『隣の県議様』 三十一歳、バツイチ子持ち女の日照争奪戦!

てめえ

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第23話 中高層調整課

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 私はまた半休をとった。
 度々で職場には申し訳ないかとも思ったが、立体駐車場の件が気になって仕方がなかったから。

 しかし、上司は小言の一つも言わなかった。
 それどころか、
「小さいお子さんがいて大変だねえ……」
と同情的ですらある。

 これは、上司が小百合と知り合いだからだろうか?
 それとも、元々理解がある人なのだろうか?

 何れにしても、私は半休で済むならどうしても中高層調整課に行ってみたかった。
 私が言い出しっぺなのだから、すべてを見届けたいと言う想いがあったから……。

 木原とは、関内駅の市庁舎とは反対の出口で待ち合わせた。
 中高層調整課は市庁舎の中になく、駅前のテナントビルに入っているらしい。

 そう言えば、数年後には新庁舎が出来るらしい。
 そうなると、中高層調整課も庁舎の中に入るのだろうか?
 ……って、どうせ私なんかが何度も来るところでもないのに、変なことが気になっていた。




「あ、木原先生じゃないですか……」
「角田さん、ご無沙汰してます」
「今日はどういう御用ですか? またマンションの陳情でしょうか?」
「そうなんですが、実は、僕の事務所も関係がありまして」
木原から角田と呼ばれた男性は、四十代中頃だろうか。
 ワイシャツに地味なネクタイ姿で、いかにも公務員と言った格好をしている。
 また……、と言うことは、木原は何度もマンションの陳情で来ているのだろう。

 ただ、木原は「先生」と呼ばれたときに一瞬嫌そうな顔をした。
 県会議員なのに、先生と呼ばれるのが嫌なのだろうか?
 先日話したときも、議員風を吹かせているように思われるのは嫌だと言っていたが……。




 角田は、私達の地区の担当を呼んでくれ、自らも席に付いた。

「単刀直入にお尋ねします。立体駐車場に壁があったら認可は下りませんよね?」
「そうですね。容積にも関わってきますので、認可は難しいと思います」
木原は、担当の職員にズバッと尋ねる。
 職員の方は何のことか分からないようで、受け答えはしたものの、
「それがどうかしました?」
と言う感じの表情をしている。

「実はですね……」
木原は要領良く説明しだした。

 立体駐車場の影がマンションの影よりも多くかかること。
 それが一日二時間の日照を妨げること。
 業者は法律上問題ないと言っていること。
 立体駐車場に防音と防塵用の覆いをすることを、業者側がこちらの住民に説明会で約束したこと。

 それらを手短に伝え、
「覆いと言うのは、布などではないと思います。立駐機の場合は大抵アルミや強化プラスチックですよね?」
と、最後に尋ねた。

 担当の職員と角田は、顔を見合わせた。
 寝耳に水と言った表情で……。

「うーん……。あくまでも一般論なのですが、布などで覆いをしているケースは聞いたことがないです。耐久性の問題がありますから」
「ですよね……」
「木原先生が仰る通り、アルミなどが使われることが一般的です」
「……、……」
角田は訝しげにそう答える。

 やった!
 やっぱり立体駐車場に壁が出来るのだ。
 これでは工作物として認められない。
 つまり、今の計画のままでは認可が下りないと言うことだ。




「しかし……」
「何か?」
担当の職員が、角田のあとをうけて口を開く。

「その覆いの件なのですが、私はデベロッパーのフロンティアやオーナーのコスモスイクスピアリからはそう言う話は聞いていません」
「聞いてない?」
「はい、工作物として屋根、壁なしで立体駐車場を設置すると聞いております」
「すると、業者は説明会でいい加減なことを言ったと言うことですか? それか、僕の聞いた情報が間違っているか……」
「どうでしょうか? 何とも言えませんが、説明会でいい加減なことは言わないと思いますよ。住民に計画をしっかり説明しないといけないと言う規定がありますから。虚偽のことを説明したとなると、認可が下りないかまた申請をし直さないといけなくなりますので」
「……、……」
木原は、担当の職員の話を聞き、反射的に私を見る。

「あ、あの……。私、確かに聞いたんです。防音、防塵の覆いをする……、って」
「……、……」
「そのときはそれがどういう意味かは分からなかったですけど、間違いないです」
「……、……」
木原は私が説明するのに、うなずいてくれる。

 そう、これは私だけが聞いたわけじゃないんだから。
 三田さんのメモにだってちゃんと書いてあるはず……。

「そうですか……。だとすると、何らかの方法で壁を造らない覆いをするのでしょうなあ。それか、検討中だからこちらには何も言って来ていないか」
「ああ……、なるほど。検討中は可能性がありますか。その、壁を造らない覆いと言うのはどんなものなんでしょうか?」
「いや、木原さん……。私共ではそう言う立駐機の例は聞いたことがないです。どうやって解決するつもりでしょうね?」
「……、……」
角田は、そう言うと首をかしげた。
 それに倣うように担当の職員も首をかしげる。

 ど、どういうこと?
 一体、業者は何を考えているの?

 誰も何とも言えず、沈黙が流れる。
 その中で、私は言いようのない不安に襲われるのだった。




 裕太ママ晴美の一言メモ
「確認申請の審査をする人も分からないなんて……。でも、業者は絶対に何かを狙っている。私も段々マンション業者の気持ちが分かるようになってきたわ」
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