『隣の県議様』 三十一歳、バツイチ子持ち女の日照争奪戦!

てめえ

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第11話 小百合の予言

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「すいません、朝から……」
「いいわよ。今日は着物の着付けがあって、今、一段落したところだから」
スマホの向こうのさゆりは、日曜の朝九時前だと言うのに、すでに仕事をしていた。

「……で、何? 日照のこと? 長谷川さんは何か言っていた?」
「それが……」
私は昨日の顛末を話した。

 理事会は個人の相談には応じられないこと。
 法律で認められているのなら、理事会ではどうしようもないこと。
 弁護士を頼るように言われたこと。
 ……などを、簡単に説明する。

「ああ、やっぱりそう言ったのね。マンション内でも他に結構トラブルを抱えているから、晴美さんの個人的な件に関わっている余裕はないと言うことね」
「そ、それは若干ニュアンスが違いますけど……」
「あ、良いの。どっちみち力にならないのは分かっていたから。元公務員って皆そうなの。知識や良識は持ち合わせていても、個人的な力にはなってくれない人種なのよ」
「……、……」
そう言うものなのか。
 まあ、社会人としての大先輩である小百合が言うことだし、現実に断られたことからも間違っているとは言えない。

「それで、どうするの?」
「あの……。長谷川さんが仰るように、弁護士に相談してみようかと……」
「そう……。あてはあるの? 私の知り合いの弁護士を紹介する?」
「いえ……。昨日、長谷川さんに言われてから自分で色々調べたんですけど、市役所の市民相談室に相談しようと思っています」
「そう……。まあ、自分で調べてそうしたいと思ったのなら、やってみなさい。何事も勉強よ」
「はい、そう思って、慎重にネットで調べたんです」
「うふふ……。晴美さんにしては珍しく自力でなんとかしようとしているのね。うん、良い傾向だわ」
「……、……」
「私、そうやって自分で頑張る人って好きよ。大丈夫、もし困ったら手を差し伸べてあげるから。思うようにやってみなさい」
「ありがとうございます。正直、昨日長谷川さんに断られてから心細かったんですけど、小百合さんにそう言っていただくと心強いです」
め、珍しく小百合に褒められた。

 そう言えば、今まで小言は言われたことがあるが、ついぞ褒められたことなんかない。

 ただ、まだ私は何もやってはいない。
 それでも褒められたと言うことは、やろうとしていることの方向性が良いと言うことか?
 それか、今までの私が頼りなさ過ぎたので、とりあえず一歩前進しようとしたと言う気持ちを、多少なりとも評価されたようにも感じられる。




「だけど、過度の期待はしちゃダメよ」
「は……、はい?」
「市民相談のことよ」
「どういうことですか?」
せっかく褒めてくれたのに、直後にダメ出しを忘れないところが小百合らしい。

 でも、期待しちゃダメって……。
 弁護士って法律の専門家でしょう?
 相談して何らかの答えを期待してなんでダメなんだろう?

「あのね、弁護士って言っても色々いるのよ」
「はあ?」
「あなた達の離婚のときにやってくれた弁護士がいたでしょう? あの人は離婚や相続なんかが専門なのね」
「……、……」
「だから、日照の件なんて話しても、何も力にはなってもらえないわ」
「そうなんですかっ?」
「そうよ。弁護士は司法試験を受けるときには一通り勉強するけど、実際に仕事として扱う法律の種類には専門があるのよ」
「……、……」
「何でも大丈夫な人もいるけど、そんな人は少数よ。大抵、自分の専門以外のことはあまり引き受けたがらないし、他の専門の弁護士に仕事を投げたりするわ」
「だとすると、相談しても意味がないのでしょうか?」
「意味がないかどうかは分からないわよ。でもね、よほど運が良くなかったら良い弁護士になんた当らないとは言えるわ」
「……、……」
そ、そんな~っ。

 せっかく弁護士に相談しようと思ったのに、これでは意味がないと言われているのと同じではないか。
 私のテンションが一気に下がって行くような気がする。

「でもね、晴美さん……。それでもやってみることに意味があるのよ」
「……、……」
「こういうトラブルって言うのは、一発で全部旨く行くようなことの方が少ないの。だから、色々試して、その上で少しずつ成果を上げていくしかないのよ」
「……、……」
「市民相談で良い結果が得られなくても良いじゃない。あなたが初めて自力で弁護士と話す切っ掛けになるのだから。もし、次の機会に何かあったら、その初めてのときの経験が必ず役に立つのよ」
「は……、はい」
理屈は分かる。
 小百合の言っていることはもっともなことだ。

 ただ、私は今困っているのだ。
 日照がどうのと言う現実の問題に直面して……
 欲張りなのかも知れないが、どうしても何らかの結論には至りたいのだ。




 それから、小百合は他にも色々とアドバイスをくれた。
 しかし、モチベーションの下がった私の耳には、その内容は届いては来なかった。




 裕太ママ晴美の一言メモ
「弁護士って、難しい試験を受けて合格したのに、専門のことしか分からないってどうなの?」
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