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第3話 出来る女の考え方
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「何よ、突然……?」
「すいません。でも、一度ちゃんと聞いておきたかったんです」
「……、……」
「裕太のためなことは分かっていますが、それだけとは到底思えなかったもので……」
私は率直に聞いた。
小百合の気持ちが揺らがないのは分かっていたが、これからもこの微妙な関係を続けていくのなら避けては通れないと思ったからだ。
正直、私は小百合にずっと裕太の成長を見守ってもらいたい。
そう思うほど信頼しているし、一人の女性として畏敬しているから……。
「別に、そんな大した理由はないわ」
「……、……」
「でも、敢えて言えば、これは私自身のためなの」
「自身のため?」
「そうよ……。私にとって、裕太はただ一人の孫。出来の悪い直人を除けば、唯一の血縁者よ」
「……、……」
「直人の父親は、ろくでなしでね。直人が生まれてからも次々に浮気を繰り返したわ」
「……、……」
「お陰で、直人には異母兄弟が六人もいる。でも、あの人が死んで、私はその何れとも縁が切れたわ。あの人が遺した物を全部くれてやって」
「……、……」
「それで思ったのよ。私は自分の血縁者を絶対に悲しませたりはしない……、ってね」
「……、……」
「大切な人を、死んだあの人みたいな男に振り回されるような境遇にだけは、絶対にさせない」
「……、……」
「直人が段々あのろくでなしに似てきたのは分かっていたわ。だから、もしものことがあったら、裕太と晴美さんには出来るだけのことはしようと心に決めていたのよ」
「……、……」
そんな理由があったのか……
私はまったく知らなかった。
なるほど、直人の不倫に激怒するわけだ。
父親と同じ過ちをするのを、母親として黙ってはいられなかったのだろう。
「でも、直人さんのお父様と関係を持った方は恨まなかったのですか? 私は、直人さんも許せませんでしたけど、相手の人も……」
「最初は、私もそう思っていたわ。でもね、あの人が何回も浮気を繰り返している内に考えが変わったの。悪いのはあの人……。関係を持った女性は、それはそれでどの人も真剣だったんだって」
「……、……」
「そうじゃなきゃ、子供を産んで育てたりはしないのよ。私にとっては忌々しい存在だけど、女性達に罪はないと思えてきたのよ」
「……、……」
「ましてや、生まれてきた子供には、何の罪もないわ」
「……、……」
「まあ、若いあなたに同じように考えろとは言わない。だから、晴美さんが直人や浮気相手を許す必要はないわ」
「……、……」
「ただ……。恨んでいても、人生、前には進めないわ。どうしようもない男に振り回されないためにも、己を高く持ち、独りで歩んで行けるようにならないとね」
「……、……」
「そうなってから振り返れば良いんじゃない? あなたにはまだ時間が沢山のこされているのだから……」
「……、……」
小百合は、仕事場でもこんなに淡々と話すのだろうか?
私は仕事場の小百合を知らない。
だが、こんな上司ならきっと仕事も充実することだろう。
クールな考え方をし、それでいて親身になってくれる上司なんて、私は出逢ったことがないから……。
「それにしても、裕ちゃんはおりこうさんね。いっぱい遊んだ後には必ずグッスリ寝てくれるのだから」
「そうですね。夜泣きもほとんどしませんし、一度寝るとちょっとやそっとでは起きませんから。そう言う点では助かります」
ベビーベットをのぞき込みながら、小百合は嬉しそうに言う。
こんな子煩悩な母の元に、何故、直人のような子供が育つのか理解に苦しむ。
直人は幼少の頃に、父親の奔放さを疑問に思わなかったのだろうか?
「日なたで遊んでいると、いつの間にか寝てしまうのよね。その寝顔が見たくて私はここに来ているようなものね」
小百合は満足そうに独りうなずくと、裕太のはだけた布団をかけ直す。
日なた……。
そう言えば、昨日、マンションデベロッパーの田所が、日照がどうのと言っていた。
今、小百合が日なたと言わなければ思い出しもしなかっただろうが。
もうすぐ、裕太が日なたで寝てしまう姿も見られなくなるのだろうか?
ふとそんな想いがよぎる。
「でも、日なたで寝る裕太の姿も、見られなくなるかもしれません」
「見られない? それってどういうこと?」
私はポロッと漏らしてしまった。
ただでさえ小百合には心配をかけさせているのだから、こんなささいなことは言うつもりがなかったのに……。
微妙に後悔するが、それに反応するように、小百合は怪訝な顔で尋ねてきた。
「あ、大した話ではないんです。隣の空き地にマンションが建つとかで、今までのように日光が入らなくなるらしいのです」
「……、……」
「法律に則っているそうですし、業者の方も丁寧な対応をして下さるということらしいので、ご心配なさらないで下さい」
「法律?」
「ええ、そうデベロッパーの方が仰ってましたけど」
「……、……」
法律……、と呟いた小百合の顔が、にわかに曇った。
まるで、嫌なことを思い出してしまったかのように……。
裕太ママ晴美の一言メモ
「不倫した旦那の相手を許すなんて……。今の私には到底無理!」
「すいません。でも、一度ちゃんと聞いておきたかったんです」
「……、……」
「裕太のためなことは分かっていますが、それだけとは到底思えなかったもので……」
私は率直に聞いた。
小百合の気持ちが揺らがないのは分かっていたが、これからもこの微妙な関係を続けていくのなら避けては通れないと思ったからだ。
正直、私は小百合にずっと裕太の成長を見守ってもらいたい。
そう思うほど信頼しているし、一人の女性として畏敬しているから……。
「別に、そんな大した理由はないわ」
「……、……」
「でも、敢えて言えば、これは私自身のためなの」
「自身のため?」
「そうよ……。私にとって、裕太はただ一人の孫。出来の悪い直人を除けば、唯一の血縁者よ」
「……、……」
「直人の父親は、ろくでなしでね。直人が生まれてからも次々に浮気を繰り返したわ」
「……、……」
「お陰で、直人には異母兄弟が六人もいる。でも、あの人が死んで、私はその何れとも縁が切れたわ。あの人が遺した物を全部くれてやって」
「……、……」
「それで思ったのよ。私は自分の血縁者を絶対に悲しませたりはしない……、ってね」
「……、……」
「大切な人を、死んだあの人みたいな男に振り回されるような境遇にだけは、絶対にさせない」
「……、……」
「直人が段々あのろくでなしに似てきたのは分かっていたわ。だから、もしものことがあったら、裕太と晴美さんには出来るだけのことはしようと心に決めていたのよ」
「……、……」
そんな理由があったのか……
私はまったく知らなかった。
なるほど、直人の不倫に激怒するわけだ。
父親と同じ過ちをするのを、母親として黙ってはいられなかったのだろう。
「でも、直人さんのお父様と関係を持った方は恨まなかったのですか? 私は、直人さんも許せませんでしたけど、相手の人も……」
「最初は、私もそう思っていたわ。でもね、あの人が何回も浮気を繰り返している内に考えが変わったの。悪いのはあの人……。関係を持った女性は、それはそれでどの人も真剣だったんだって」
「……、……」
「そうじゃなきゃ、子供を産んで育てたりはしないのよ。私にとっては忌々しい存在だけど、女性達に罪はないと思えてきたのよ」
「……、……」
「ましてや、生まれてきた子供には、何の罪もないわ」
「……、……」
「まあ、若いあなたに同じように考えろとは言わない。だから、晴美さんが直人や浮気相手を許す必要はないわ」
「……、……」
「ただ……。恨んでいても、人生、前には進めないわ。どうしようもない男に振り回されないためにも、己を高く持ち、独りで歩んで行けるようにならないとね」
「……、……」
「そうなってから振り返れば良いんじゃない? あなたにはまだ時間が沢山のこされているのだから……」
「……、……」
小百合は、仕事場でもこんなに淡々と話すのだろうか?
私は仕事場の小百合を知らない。
だが、こんな上司ならきっと仕事も充実することだろう。
クールな考え方をし、それでいて親身になってくれる上司なんて、私は出逢ったことがないから……。
「それにしても、裕ちゃんはおりこうさんね。いっぱい遊んだ後には必ずグッスリ寝てくれるのだから」
「そうですね。夜泣きもほとんどしませんし、一度寝るとちょっとやそっとでは起きませんから。そう言う点では助かります」
ベビーベットをのぞき込みながら、小百合は嬉しそうに言う。
こんな子煩悩な母の元に、何故、直人のような子供が育つのか理解に苦しむ。
直人は幼少の頃に、父親の奔放さを疑問に思わなかったのだろうか?
「日なたで遊んでいると、いつの間にか寝てしまうのよね。その寝顔が見たくて私はここに来ているようなものね」
小百合は満足そうに独りうなずくと、裕太のはだけた布団をかけ直す。
日なた……。
そう言えば、昨日、マンションデベロッパーの田所が、日照がどうのと言っていた。
今、小百合が日なたと言わなければ思い出しもしなかっただろうが。
もうすぐ、裕太が日なたで寝てしまう姿も見られなくなるのだろうか?
ふとそんな想いがよぎる。
「でも、日なたで寝る裕太の姿も、見られなくなるかもしれません」
「見られない? それってどういうこと?」
私はポロッと漏らしてしまった。
ただでさえ小百合には心配をかけさせているのだから、こんなささいなことは言うつもりがなかったのに……。
微妙に後悔するが、それに反応するように、小百合は怪訝な顔で尋ねてきた。
「あ、大した話ではないんです。隣の空き地にマンションが建つとかで、今までのように日光が入らなくなるらしいのです」
「……、……」
「法律に則っているそうですし、業者の方も丁寧な対応をして下さるということらしいので、ご心配なさらないで下さい」
「法律?」
「ええ、そうデベロッパーの方が仰ってましたけど」
「……、……」
法律……、と呟いた小百合の顔が、にわかに曇った。
まるで、嫌なことを思い出してしまったかのように……。
裕太ママ晴美の一言メモ
「不倫した旦那の相手を許すなんて……。今の私には到底無理!」
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