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8 異世界コンパクト〜前編〜
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今日は診察室で矢馬井先生に亀甲占いをしてもらっていた。
「絵路井先生と出会ってから何か変わったことはない?」
真剣な表情をしている矢馬井先生は小さな亀の甲羅を裏返して護摩壇の炎であぶりながら僕に尋ねる。
亀甲占いとは亀の甲羅を火であぶり、熱収縮でできた亀裂を見て吉凶を占うものだ。
「えっと……特には。あのぉ……それよりボヤでも起こしたら大変では?」
「大丈夫さ。ほら、あれ」
矢馬井先生の指さした方向の壁を見ると、謎の護符が貼られている。
「あの護符は火事や泥棒の侵入を防いでくれる、ありがたい護符なんだ。その効力は護符を作った術者の魔力次第なんだけど、ぼくが作ったから超強力間違いなしさ。だから火事の心配は無用だよ」
絵路井先生と違って、こっちの世界でも矢馬井先生は異世界で習得した魔法を躊躇なく使用する。
甲羅の焦げる匂いに鼻をつまみながら、僕は部屋中の窓を開け放った。
「ぼくは異世界では絵路井先生よりも多種多様な魔法の使い手として有名だったんだよ。今よりもう少しだけ、ぼくのことを信用してくれてもいいんじゃないかなぁ~」
矢馬井先生は無料で占いをしてくれるらしく、興味本位で今日も受診したのだが、正直後悔していた。
いくら魔法が使えるといっても今の時代に亀甲占いなんて胡散臭いにも程がある。
「……見えた!」
髪をかき上げた矢馬井先生は片手で印を結んだままでつぶやいた。
――ぱしッッ!
鋭い音とともに亀の甲羅に亀裂が走った。
「やれやれ……ユメトくんに危険が迫っているみたいだなぁ」
亀の甲羅に走った亀裂を読んで矢馬井先生はニヤリと笑った。
「えぇ⁉︎ 危険って何ですか???」
矢馬井先生のペースに乗せられ、僕はすっかり動揺してしまった。
「ふふふ、慌てなくても今に分かるさ」
「そう言わずに教えてくださいよぉ。心配になるじゃないですか」
「そうかい、では君に取って置きのアイテムを授けよう」
矢馬井先生の言に呼応するように突如として陽炎のような揺らめきが診察室の中で湧き起こる。
グニャリと歪んだ空間の中に矢馬井先生は手を入れると、オモチャのようなコンパクトを取り出した。
「昔、異世界を冒険してた頃に手に入れた変身コンパクトだよ。これを使えば誰でも常人以上の身体能力と魔法を使うことができるんだ。あらゆる災厄からユメトくんを守ってくれること間違いなしさ。さあ、胸元に構えてLet’s変身!」
僕は変身コンパクトを受け取ると胸元に構える。
「チェインジ・スタンバイ! プリティ・ゴォ~!!!」
変身コンパクトを構えた瞬間、勝手に口が動いて思ってもいないセリフを腹の底から発してしまう。はっきり言って、小っ恥ずかしいことこの上ない。
次の瞬間、不思議なことが起こった。コンパクトから桃色に移ろう光の帯が放射状に溢れ、突風が起こる。煽られた髪が超ロングになって大きな波を打ち、毛先が揃って跳ねる。
僕は一種のトランス状態となり、爪先立ちで仰向いて目を閉じた。
衣服は間もなく光の粒を残して消滅し、光の帯のうち数本が胸を左右から包み込んだ。
「ひゃん……ッ!」
思わず妙な声をあげたが、帯は容赦なく絡んでいき、上半身を複雑に編み締める。
さらに光は下肢をも包んでいく。背筋の末端から次第に尻溝を辿って、股間を前方に抜け、V字に分かれてデルタをきつく引き締めた。
「……ああッ!」
僕は腰を捩らせ、咽を伸ばして喘いだ。苦痛ではない、危うい快感を覚える。
桃色の帯が手足を付け根の側から螺旋を描いて降りる。さながら亀甲縛りのようだった。
閃光が弾け、次の瞬間には肩の部分が天使の羽根の形をした、白を基調とするワンピース姿になっていた。後ろには白色のリボンが付いており、フリルの付いた白のニーソックスを穿き、白のウェディンググローブを身に付けている。
爪先立つのを支えるように高いヒールが現れ、耳にはハート型のイヤリングが光った。
靡く髪がみるみるピンクに染まり、再び開いた瞳がサファイアのごとき蒼い輝きを放つ。
光は様変わりした僕を残して空に消えた。
「キラキラ輝く天使の光、デリシャスエンジェル! 可愛い笑顔で癒してあげる♡」
またもや思ってもいないセリフが口から勝手に出てしまい、羞恥で顔から火が出そうだ。
「ちょっと今の何ですか⁉︎ 変身バンクみたいなノリで背景がピンクになった途端、ヒラヒラでフリフリなコスチュームに変身したんですけど!!!」
驚愕する僕をよそに矢馬井先生は知らぬ間にビデオカメラで熱心にこちらを撮影していた。
「今のは天界から光の力を体に降ろすための儀式だよ。異世界でも『変身バンク』と呼ばれていたなぁ」
矢馬井先生の話によると、天界で絶大な力を誇った神の一族が光の力を召喚する際、唱えた祝詞「卍句」が由来らしい。変身卍句は時代によって様々な呪文や流行があり、近年は変身の途中で全裸になることはないそうだ。
「懐かしい魔力の波動を感じたけど何かあった⁉︎」
ドアをガラッと勢いよく開ける音がしたと思ったら、絵路井先生が診察室の中へ飛び込んできた。
絵路井先生は大変身を遂げた僕の姿を見やると、心底驚愕したようで棒立ちになっていた。
「……アギト??? アギトなのか⁉︎」
「ふぇ??? 絵路井先生、どうしたんですか⁉︎」
どうやら絵路井先生は人違いをしているらしく、今までに見たことがない面持ちで涙を流しながら僕を強く抱きしめるのだった。
「絵路井先生と出会ってから何か変わったことはない?」
真剣な表情をしている矢馬井先生は小さな亀の甲羅を裏返して護摩壇の炎であぶりながら僕に尋ねる。
亀甲占いとは亀の甲羅を火であぶり、熱収縮でできた亀裂を見て吉凶を占うものだ。
「えっと……特には。あのぉ……それよりボヤでも起こしたら大変では?」
「大丈夫さ。ほら、あれ」
矢馬井先生の指さした方向の壁を見ると、謎の護符が貼られている。
「あの護符は火事や泥棒の侵入を防いでくれる、ありがたい護符なんだ。その効力は護符を作った術者の魔力次第なんだけど、ぼくが作ったから超強力間違いなしさ。だから火事の心配は無用だよ」
絵路井先生と違って、こっちの世界でも矢馬井先生は異世界で習得した魔法を躊躇なく使用する。
甲羅の焦げる匂いに鼻をつまみながら、僕は部屋中の窓を開け放った。
「ぼくは異世界では絵路井先生よりも多種多様な魔法の使い手として有名だったんだよ。今よりもう少しだけ、ぼくのことを信用してくれてもいいんじゃないかなぁ~」
矢馬井先生は無料で占いをしてくれるらしく、興味本位で今日も受診したのだが、正直後悔していた。
いくら魔法が使えるといっても今の時代に亀甲占いなんて胡散臭いにも程がある。
「……見えた!」
髪をかき上げた矢馬井先生は片手で印を結んだままでつぶやいた。
――ぱしッッ!
鋭い音とともに亀の甲羅に亀裂が走った。
「やれやれ……ユメトくんに危険が迫っているみたいだなぁ」
亀の甲羅に走った亀裂を読んで矢馬井先生はニヤリと笑った。
「えぇ⁉︎ 危険って何ですか???」
矢馬井先生のペースに乗せられ、僕はすっかり動揺してしまった。
「ふふふ、慌てなくても今に分かるさ」
「そう言わずに教えてくださいよぉ。心配になるじゃないですか」
「そうかい、では君に取って置きのアイテムを授けよう」
矢馬井先生の言に呼応するように突如として陽炎のような揺らめきが診察室の中で湧き起こる。
グニャリと歪んだ空間の中に矢馬井先生は手を入れると、オモチャのようなコンパクトを取り出した。
「昔、異世界を冒険してた頃に手に入れた変身コンパクトだよ。これを使えば誰でも常人以上の身体能力と魔法を使うことができるんだ。あらゆる災厄からユメトくんを守ってくれること間違いなしさ。さあ、胸元に構えてLet’s変身!」
僕は変身コンパクトを受け取ると胸元に構える。
「チェインジ・スタンバイ! プリティ・ゴォ~!!!」
変身コンパクトを構えた瞬間、勝手に口が動いて思ってもいないセリフを腹の底から発してしまう。はっきり言って、小っ恥ずかしいことこの上ない。
次の瞬間、不思議なことが起こった。コンパクトから桃色に移ろう光の帯が放射状に溢れ、突風が起こる。煽られた髪が超ロングになって大きな波を打ち、毛先が揃って跳ねる。
僕は一種のトランス状態となり、爪先立ちで仰向いて目を閉じた。
衣服は間もなく光の粒を残して消滅し、光の帯のうち数本が胸を左右から包み込んだ。
「ひゃん……ッ!」
思わず妙な声をあげたが、帯は容赦なく絡んでいき、上半身を複雑に編み締める。
さらに光は下肢をも包んでいく。背筋の末端から次第に尻溝を辿って、股間を前方に抜け、V字に分かれてデルタをきつく引き締めた。
「……ああッ!」
僕は腰を捩らせ、咽を伸ばして喘いだ。苦痛ではない、危うい快感を覚える。
桃色の帯が手足を付け根の側から螺旋を描いて降りる。さながら亀甲縛りのようだった。
閃光が弾け、次の瞬間には肩の部分が天使の羽根の形をした、白を基調とするワンピース姿になっていた。後ろには白色のリボンが付いており、フリルの付いた白のニーソックスを穿き、白のウェディンググローブを身に付けている。
爪先立つのを支えるように高いヒールが現れ、耳にはハート型のイヤリングが光った。
靡く髪がみるみるピンクに染まり、再び開いた瞳がサファイアのごとき蒼い輝きを放つ。
光は様変わりした僕を残して空に消えた。
「キラキラ輝く天使の光、デリシャスエンジェル! 可愛い笑顔で癒してあげる♡」
またもや思ってもいないセリフが口から勝手に出てしまい、羞恥で顔から火が出そうだ。
「ちょっと今の何ですか⁉︎ 変身バンクみたいなノリで背景がピンクになった途端、ヒラヒラでフリフリなコスチュームに変身したんですけど!!!」
驚愕する僕をよそに矢馬井先生は知らぬ間にビデオカメラで熱心にこちらを撮影していた。
「今のは天界から光の力を体に降ろすための儀式だよ。異世界でも『変身バンク』と呼ばれていたなぁ」
矢馬井先生の話によると、天界で絶大な力を誇った神の一族が光の力を召喚する際、唱えた祝詞「卍句」が由来らしい。変身卍句は時代によって様々な呪文や流行があり、近年は変身の途中で全裸になることはないそうだ。
「懐かしい魔力の波動を感じたけど何かあった⁉︎」
ドアをガラッと勢いよく開ける音がしたと思ったら、絵路井先生が診察室の中へ飛び込んできた。
絵路井先生は大変身を遂げた僕の姿を見やると、心底驚愕したようで棒立ちになっていた。
「……アギト??? アギトなのか⁉︎」
「ふぇ??? 絵路井先生、どうしたんですか⁉︎」
どうやら絵路井先生は人違いをしているらしく、今までに見たことがない面持ちで涙を流しながら僕を強く抱きしめるのだった。
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