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第5話 オレ、犯されそうになる模様

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 女らしさを身につけるのはオレにとって苦労の連続だった。
 男は基本的に女から一方的に与えられるのが当然だと思っている性だ。
「自分の身体を大切に扱ってほしい」とか「男と同等の権利を与えてほしい」と至極当然の望みを女が口にするだけで、男からは「女らしくない」「ワガママ」「性格悪い」と認識されてしまうのだ。
 自分が男だった頃はこの世の全ての女がクソだと思っていたが、女になってからはこの世の全ての男がクソだと思うようになっていた。
 男の前では女らしくしないと、ただでさえハードモードな女の人生が余計ハードモードになってしまうというジレンマにオレは苛まれる。


「はぁ……男らしい生き方も全く出来なかったけど、女らしい生き方も大変だなぁ」


 男だった頃からコミュ力が壊滅的にないオレにとって人間関係は地獄でしかなかった。
 勉強もスポーツも絶望的で力も弱いからDQNにもなれなかったオレはスクールカースト最底辺で教師からも見放されていた。


「あれ?……冷静に考えると、男だった頃からオレの人生詰んでたような……」


 ふとオレは自分が女になる直前のことを思い出していた。確か電車や精神科で女をターゲットにした無差別テロを思わず企ててしまうほど落ちぶれた人生を歩んでいたっけ。
 女になって世界や立場や状況も何もかも変わってしまったけど、男だった頃なら得られなかったものがあるんじゃないだろうか?
 ピンチはチャンス。どうせ男の幸せが手に入らないのなら女の幸せを手に入れればいいではないか。


「よ~し、掴んでやるぜ! 女の幸せってやつをな!」


 急にオレはリフレーミングな思考になり、女になった自分を徐々に受け入れ始めていた。
 女であることが嫌になったら、男だった頃の悲惨な人生を思い出せばいいのだ。


「今、思うと女になってから女子との会話量が増えたよなぁ。男だった頃のオレじゃ、考えられないレベルだぞ。つか、女の友達が出来たのって生まれて初めてじゃねえか!」


 今更になって胸が高鳴り、オレは昇天しそうな勢いで歓喜に酔いしれる。
 女友達が出来たというだけで小躍りして喜ぶのはフレッシュなチェリーボーイくらいだろう。身体は女になっても心は正真正銘の童貞のままだった。
 案外、オレみたいな低スペックな男は女になった方が幸せなのかもしれない。


「確かデブ神の話だと『女を尊べること』が男に戻れる条件だったなぁ。ということは先はかなり長いはずだから色々と試してみるとすっかwww」


 オレは女であることを利用して人生逆転の計画を練るのであった。




ーーー




 いくつもの怪しい店舗がが軒を連ねていた。小汚い雑居ビルの前に立ったオレは建物を見上げる。


「ここがブルセラショップか……。現役JKの身体になったオレに死角はないはずだ。下着でも何でも高く売って荒稼ぎしてやるwww」


 薄暗い周囲の様子に思わず尻込みしそうになったが、オレは意を決して雑居ビルの階段を上がって行った。
 異様な雰囲気に包まれた店内を見回すと、そこにはJKの制服がハンガーに吊られてところ狭しと並んでいる。尋常でない数の制服からJK特有のフェロモンがムンムンと漂っていた。オレが男だった頃なら一瞬で理性が崩壊して、その場でシコり始めていたかもしれない。


「へぇ~、ウチの制服もあるじゃん。意外とブルセラやってる女子って身近にいるんだなぁ」


 店内の奥の方まで行ってみると、一際目を引く棚を発見した。そこには大量のブラやショーツ等がずらりと並べられている。


「よくもまあ、こんなにも集めたもんだ。男だった頃のオレなら手当たり次第に買ってたかもwww」


 一つ一つがビニールに包まれていて、持ち主の顔写真まで添えられていた。


「どれも可愛い子ばっかりだなぁ。まあ、どうせ写真は加工されてるんだろうけど………………ん?」


 ウチの学校のスカートが売られているのに気づき、持ち主の顔写真をチェックしてみた。


「これは……貴腐寺院きふじいんさん⁉︎」


 顔写真は多少加工されており、不自然に目が大きくて肌も透き通るように綺麗だが、顔のパーツや髪型からして間違いなく貴腐寺院きふじいんさんだった。


「スカートを売っちゃったから、代わりにスラックスで登校してるのかなぁ?」


 それにしても喪女カーストのトップに君臨し、クラスの大人しい女子を男子の魔の手から救っては同性から慕われている貴腐寺院きふじいんさんがブルセラに手を出していたとは驚きだ。


「ああ見えてビッチなのかなぁ? それともブルセラに手を出すほど金銭的に余裕がないとか? でも、スカート以外で貴腐寺院きふじいんさんのモノが売られてる形跡はぱっと見ないしなぁ」


 商品の顔写真を見ていると見知った顔の同級生が何人かいて、心が折れそうになった。何故なら嫌でも外見で優劣がつくという現実を目の当たりにしたからだ。
 ブスな子でも顔写真は加工されているため元の顔を知らない買い手には可愛い子の所持品だと思われるだろうが、値段の安さが女の子のレベルの低さを物語っていた。その証拠に貴腐寺院きふじいんさんのスカートはたったの5000円で売られている。


「制服って残酷だなぁ。皆が同じ格好したら露骨に外見で差がつくじゃん。ある意味、女の階級は男以上に分かりやすいよ……」


 貴腐寺院きふじいんさんがスカートを穿かなくなった本当の理由が今やっと分かった気がした。女という男から搾取されるだけの属性からは否が応でも逃れられないけれど、せめて煩わしい女の記号である制服を売ることで自分の置かれた現実を忘れたかったのだろう。それは根本的な解決にはならないけれど、そうせざるを得ないほどに追い詰められた女の悲鳴がブルセラショップの商品棚から聞こえてくるようだった。
 ブルセラショップとは制服やブルマ等の女の記号を身に纏うことでしか承認されない哀れな性に生まれた者の残骸を売り買いする場所なのだ。


「いらっしゃい。売りに来たのかなwww」


 僕はびくっと肩を震わせながらながら声の主の方に振り向いた。そこにいたのはキモオタのテンプレのような清潔感を微塵も感じさせない眼鏡をかけた中年の禿げデブオヤジだった。そして、オレに値踏みするような視線を向けてきていた。


「あ……え~と……売りに来ました……」


 こんなキモオヤジに自分の下着を売るのかと思うと、羞恥よりも嫌悪感の方が先に湧いてきた。キモ過ぎて一刻も早く帰りたい衝動に駆られる。


「何を売りたいのかなぁ~? 着てるモノ全部売っていいんだよ♡ 何ならキミ本体を売ってくれても構わないからwww」


 好色な目つきをしたキモオヤジのグロメンがオレの顔へ近づいてくる。
 頭から爪先まで全身に隈なく淫猥な視線を送りつけられたオレは恐怖で気が動転してしまう。


「ほほう、随分と男慣れしていないところから察するに君は未だ処女だね。これは実にプレミア価値が高いですぞwww」


 そう言うと、キモオヤジは透かさずオレのスカートを思いっきり捲り上げる。


「ウホホッ、これは『女の子の日』でしたか♡ いやはや、失敬www」


 最悪なことにサニタリーだとバレてしまった。太腿をピタッと閉じて防御の姿勢になる。生地が少し暑いため、下のナプキンは見えていないが、形で生理用だと分かる。
 キモオヤジはオレのスカートのホックを外し、荒っぽく脱がしてきた。
 更にサニタリーショーツのゴムに手をかけ、力任せにズルッと太腿まで下ろされた。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~ッ!!!」


 女なら誰もが絶対に見られたくない生理時の秘部が露出した。
 太腿の上で皺になった生理ショーツからは、もうナプキンが見えていたが、キモオヤジはショーツを引っ張って伸ばし、クロッチの部分を下から押して、裏に貼られたナプキンを完全に暴き出した。


「ウホホッ、これも高く売れそうwww」
「ああ、いやぁぁ、うぅ……」


 オレは全身の力が抜けていくような、嗚咽にも似た羞恥の声を上げた。電車で痴漢された時の恥辱を軽く上回るほどの屈辱だった。吸湿性のエリアにはねっとりとオレが女になった証が刻まれていた。
 オレの心がズタボロに傷ついていく様など気にも留めず、するっとキモオヤジはサニタリーショーツを脚から抜き取っていった。そして、見せつけるようにオレの顔の近くへ持って行く。


「ほ~ら、これこそキミの身体が可愛い赤ちゃん製造機である証拠だよ♡」
「いやぁぁぁぁ~ッ!」


 キモオヤジのキモい言にオレは自分が種付けするだけの性から子供を産む性になったことを実感させられた。
 女になるということは男から性的搾取されるだけでなく、産む機械として扱われることを意味する。それを悟った瞬間、オレの頰にポロリと涙が伝った。
 男特有の無神経でいやらしい暴力的な性質にオレは嫌悪と絶望を感じて涙が溢れ出していく。


「今さら泣いて見せたって、もう遅いよ。キミみたいな大人しくて弱い子は男にとっては格好の餌食なんだからwww」


 こんなこと、ありっこない。きっと自分は悪い夢を見ているに違いない。すぐに朝が来て目が覚める。そうして男だった頃の平和な――自宅と精神科を往復するだけの詰んだ人生が始まる。きっと、きっとそうに違いない。
 しかし、オレの幻想はすぐに打ち破られた。
 キモオヤジの醜悪なペニスが、まるで女になったオレの身体を破壊するかのような凄まじさでフル勃起していた。その赤黒いグロテスクな凶器を目にしてオレは戦々恐々とする。


「オジサンはキミみたいな初々しい処女を無理やりブチ抜いて、ヒイヒイ言わせるのが大好きなんだよwww」


 自分の中にキモオヤジのグロチンポが挿入されたらどうなるのか考えただけでオレの背筋は凍りついた。


「いや……いやぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 泣き叫びながら狂ったように暴れ出すオレをキモオヤジは力ずくで押さえつけ、懸命に閉じようとする脚を無理やり抉じ開けようとするのであった。
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