男の子たちの変態的な日常

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最終回 変態エモーション〜後編〜

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「うぉ~い、俺たちも仲間に入れてくれよ!」
「ぼくたちもこの社会をぶっ壊したいんだぁ」


 外から聞き慣れた声が聞こえてきたため、僕は窓から身を乗り出す。
 外では童手井どうていくんたちがリョウとカスケの応対をしていた。


「ダメダメ、イケメンはお断りだよ! 少しでもリア充的な要素があるヤツは我が『底辺童貞会』には入れないんだ」
「そう言うなよ~、イケメンでもモテないヤツなんかごまんといるぜwww」
「そうそう、見た目は関係な~いwww」


 どうやら僕を探しにリョウとカスケは底辺童貞会に潜入調査をしに来たらしい。


「う~ん、本当かなぁ? そのわりにはブランド物の高そうな服を着てるみたいだけど……」
「これはだな、服だけでもいいのを着て見栄を張ってるだけだぜ」
「そうなんだよ、モテない男はせめて服だけでもいいのを着なくちゃね」


 童手井どうていくんは訝しげにリョウとカスケを交互に見やる。


「どうも、怪しいんだよなぁ。全身から勝ち組オーラを放ってるような気がするんだけど……」
「気のせいじゃないか? 雰囲気だけリア充の非リアなんて腐るほどいるぜ」
「むしろモテない男ほど見た目は頑張っちゃうんだよね」


 正直リョウやカスケみたいな存在そのものがチートの男が底辺童貞の振りをするなんて無理があるとしか言いようがない。
 つか、カスケが言うような見た目を頑張ってるモテない男なんかこの世にいるんだろうか?


「分かった、見た目に関しては大目に見よう。では、次は股間のナニを見せてもらおうか?」
「はあ⁉︎ なんでだよ?」
「もしかして『底辺童貞会』って、そういう系の集まりなの?」


 リョウとカスケが尋ねると、童手井どうていくんは自分のナニを露出させて2人の前で腰を突き出した。


「これを見よ! この哀れな男のなり損ないを……」


 童手井どうていくんのそれはとてつもなく小さくて情けない滑稽な代物だった。


「男にとってのコンプレックスは数知れない。顔、身長、体型、収入、学歴、その他諸々……。その中でも男としてのアイデンティティを形成するコレがこんなにもお粗末な短小包茎だなんて、これを上回るコンプレックスが他にあるだろうか⁉︎」


 リョウとカスケが思わず息を呑むほどの短小包茎っぷりにその場にいた全員が凍りついた。


「さあ、これで分かったろう? 底辺童貞の悲しい実態を! 君たちのナニも確認させてもらうぞ」


 リョウは不敵な笑みを浮かべると、自慢の巨根を天高く勃起させ、先端の煌びやかな亀頭を見せつけるようにシゴいて見せる。


「バカ、リョウ! 短小包茎に喧嘩売るような真似はよせ!」
「カスケ、俺はもう我慢ならねえんだ。こんなヤツらとは話し合うだけ無駄だぜ。単刀直入に訊くが、アキラをどこにやった?」


 リョウの問いに童手井どうていくんはニヤリと笑うと、本性を現したように攻撃命令を下す。


「やはり、コイツらはリア充側の人間だったぞ! 者共、かかれぇ~ッ!!!」


 童手井どうていくんの号令で一瞬にして外は戦場と化してしまった。
 僕は争いを止めるため、咄嗟に窓から後先考えずに飛び降りた。


「うわぁ~、落ちるぅ~ッ!!!」
「アキラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 リョウは目にも留まらぬ超高速で僕を下からお姫様抱っこで抱きかかえてくれた。


「アキラくんッ! 大丈夫⁉︎」


 リョウに抱きかかえられた僕のもとへ童手井どうていくんが近寄ってきた。


「君は何故アキラを誘拐したんだ?」


 カスケの問いに童手井どうていくんはしばし無言だったが、僕の顔を見ると口を開いた。


「自分を受け入れてくれない世の中に嫌気がさしていたのかもしれない……。こんなクソみたいな世界、ぶっ壊して学歴や肩書きや家柄で人生が決まらない優しい世界でアキラくんと2人で楽しく暮らしたかったのさ」


 童手井どうていくんは僕の方を見ながら内面を包み隠さず吐露するように語り続ける。


「ボクみたいな頭の悪い人間は良い大学なんかには入れないからスタートラインにさえ立てない。おまけに顔もスタイルも悪くてコミュ力もないから恋愛も出来ず、周囲から一生負け組だと言われてバカにされる。もう生きてたって何にもいいことはないんだよ……」


 童手井どうていくんはポケットの中から剃刀を手に取って首筋に当てた。首筋の皮膚が軽く切れ、血がひと筋流れ落ちる。


「アキラくんはこの世界にまだ居場所があるようだね。それなら無理してボクの理想郷を目指す必要もないか……。楽園にはボク1人で行くことにするよ」


 死のうとする童手井どうていくんを僕たちは無言で見つめていた。
 ぶっちゃけ、完全に人生詰んでる底辺童貞を受け入れてくれる場所などないことぐらい頭の悪い僕にだって分かる。そのせいで慰めの言葉が清々しいほどに思いつかなかった。
 こういう事態に遭遇してしまう僕たちのような人のためにも安楽死制度を合法化してください……。
 自殺を敢行する童手井どうていくんに触発されて、その他の底辺童貞連盟の方々も一緒になって死のうとする。


「リョウ、なんか面倒なことになったね……」
「あぁ、そうだなぁ。つか、なんで剃刀なんだ?」
「他に手近な自殺方法が思いつかなかったんじゃない? 頭悪い人間のすることは、ぼくには理解不能だよwww」


 そう言うと、高学歴なカスケがケラケラ笑う。


「もぉ~、人が死のうとしてる時に茶化すのはやめろ!」


 死のうとしてるわりになかなか死なない童手井どうていくんはカスケにマジギレする。


「お前、さっきから死ぬ死ぬ言ってるわりに全然死なねえじゃねえか。ほら、見ろ。お前より後に自殺しようとしたヤツらの中にはもう出欠多量で気絶してるのもいるぞwww」


 童手井どうていくんと同じ方法で首筋を切った男たちの中にはもうダラダラ血を流して倒れている者もいた。
 リョウの言う通り、童手井どうていくんは途中から剃刀を持つ手が止まっており、もはや死ぬ意志が感じられない。


「か、剃刀が引けない。怖くないのに……。何かが邪魔してる。ボクの心の中の何かがボクの死を邪魔している!」
「いや、単に死にたくないだけだろwww」


 リョウはゲラゲラ笑いながら童手井どうていくんに語りかける。


「ちなみに俺もお前と同じ高卒カスだぜ。でも、高校卒業後に起業して今は世界中飛び回ってるんだ。まあ、今はコ◯ナの関係でリモートだけどなwww」


 リョウの言に童手井どうていくんは必要以上に感情的になって怒鳴り散らす。


「その手の成功自慢はもう聞き飽きたんだよッ! それは単に才能があったからで、本当の意味で頭がすこぶる悪いボクには一生縁のない話だ!!!」


 自分で自分の頭がすこぶる悪いとアピールする童手井どうていくんに心底呆れながらリョウは続ける。


「お前の頭がすこぶる悪いのが事実なら社会変革なんて夢のまた夢だなぁ。世の中は頭の良い人間が自分らにとって都合のいいルールを作って社会を回してんだからよ」
「そんなことは分かっている! 分かってるからこそ、勝ち目がない戦いにボクたちは絶望してるんじゃないかッ!」


 一体全体何と戦ってるのかは知らないけれど、死ぬよりも負け組なりに人生を謳歌すればいいのに……。
 仕方なく僕はリョウとカスケに童手井どうていくんの就職口がないかを相談してみることにした。


「う~ん、豆腐メンタルの高卒カスでもやっていけるような都合の良い所なんかないよ。リョウみたいな尖った才能があるわけでもないようだし……」


 カスケは腕組みをしながら首を傾げて言った。


「もういっそのこと、養ってくれる男を探してみたらどうだ。身体目当てのゲイなら喜んで貢いでくれるはずだぜwww」


 リョウは童手井どうていくんにタチの悪い冗談を言うと、そのまま僕をお姫様抱っこしながら立ち去っていくのだった。




ーーー




 あれから数日後――。
 僕はネット上でいつものように変態動画を漁っていた。
 相変わらず欲求不満の僕はついつい暇さえあれば、いかがわしい動画をネットで検索してしまう。


「あれ? この人、どっかで見たことあるような……」


 ネットで見つけたゲイビデオに童手井どうていくんそっくりの男の子がマッチョな男に後ろからバックで犯されていた。


「これ、間違いなく童手井どうていくんだ……。うわぁ、ついにそこまで落ちぶれちゃったかwww」


 リョウのアドバイスを真に受けて、童手井どうていくんは本当に娼夫になってしまったらしい。
 僕はアンアン喘ぐ童手井どうていくんを生暖かい目で見つめながら救いのない底辺童貞の幸せを願うのだった。
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