男の子たちの変態的な日常

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326 変態SF論

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 僕は生まれて初めてSF小説を執筆するのに挑戦していた。




ーーー




 2021年――。突如として地球を襲った巨大隕石群により人類が育んだ文明は一瞬にして終わりを迎えた。津波が大陸を洗い、撒き上げられた大量の粉塵が太陽光を遮り、酸性の雨が大地を蝕んでいった。
 この未曾有の事態によって人類の約半数は死に追いやられたが、それでも人類が死に絶えることはなかった。文明レベルは他に落ち、物資に乏しく、明日の食事さえままならぬ世界にあっても、人類は逞しく生き延びていた。
 やがて文明が衰退した世界にあって、同性愛者の中から特別な異能の力を使いこなすミュータントが誕生し始めると異性愛規範は完全に崩壊。ミュータントとなった同性愛者が世の中を牛耳る時代が幕を開けたのだった――。




ーーー




「はぁ~、冒頭だけは思いつくんだけど、序盤で迷走しちゃうんだよなぁ……」


 大まかなプロットを考えても、その時の気分で執筆してくため、ついつい作品世界に整合性がなくなってキャラが暴走してしまう。
 それに僕が書くSF小説はテーマ自体は決してSF的なものではなく、あくまでSF要素を作品世界における小道具として扱っているに過ぎない。
 ぶっちゃけ、僕は科学が苦手なのでSF的な設定や理論を主軸にして物語を展開するのが下手なのだ。
 アニメで例えるなら、『攻◯機◯隊』は重大なSF要素抜きで物語を成立させることは出来ない。だが、『ド◯え◯ん』ならば、秘密道具というSF要素がなくとも主人公の猫型ロボットが理想を現実にするような魔法使いであれば物語自体は成立する。
 つまり、SF的要素を普通に切り離しても代替え可能であるならば、大多数の作品はそもそもSFにする必要がないわけだ。それ故にSFはファンタジーに比べると極めて需要が少ない。
 BL系の作品を漁っていても思うが、ジャンルがSFのBLは殆ど御目にかかったことがない。BLと言えば、学園モノやオフィス系やファンタジーが主流だろう。
 攻めと受けの若い男の子さえ出てくればいいわけだから、わざわざSFというジャンルを選ぶ者はあまりいない。
 でも、僕はSF小説家に少しばかり憧れを抱いている。意外に思われるかもしれないが、僕が生まれて初めて読んだ小説はSFなのだ。
 SF御三家の1人が執筆した宇宙を舞台に儚くも美しい男同士の友情を描いた名作を読んで僕は小説家を志すようになった。
 BL的な楽しみを与えてくれることはもちろんのこと、純粋に物語世界に感動できるSFがあることを数多くの人に知ってもらいたかったのだが、残念ながら僕にSFはハードルが高そうだ。
 そんなことを考えていたら、リョウが後ろから僕のPCを覗き込んできた。


「へぇ~、アキラにしては珍しくSFか。イメージ的にはSFだとミュータントって、人間たちから迫害されてるパターンが多いけどなぁ。まあ、現実的に考えたら、普通は優れた能力を持つ者が上に立つわけだからリアルにミュータントが生まれたら支配されるのは人間側だろうけどwww」


 全くもってリョウの言う通りだ。なんで創作物だと、特殊能力を持つ側が普通の人間ごときに差別・迫害の対象にされるんだろうか?
 超能力を題材にしたSFだと高い確率でミュータントが能力を使うと、一般市民が「この化け物ガー」とか言いながら石を投げつけたりするけど、現実的に考えたら強大なパワーを持つ者を目の前にしたら何の力のない者はひれ伏すしかないだろう。


「でも、現実社会にも弱者ぶって被害者のように振る舞うことで特定の相手を悪者にする連中がいるから、リアルにミュータントがいたら危険視するヤツは普通にいるかもなぁ」
「なるほど、リョウの言うことにも一理あるかも」


 確かにリョウが言うように弱者属性を振り回すことで周囲を自分に従わせようとする人間は存在する。
 おそらく多くの人に共感してもらえると思うが、メンヘラやブリっ子がやたらと男に病弱アピールや可哀想アピールするのも一種のモテ戦略なんだろうなぁと常々感じているが、賢い男や同性からはただのバカだとしか思われないから絶対に止めた方がいいと忠告しておこうwww


「創作物なんかでミュータントを迫害する人間は、リアルで可哀想ランキング上位を目指す者のメタファーなんだと思ってる。被害者ぶることで気に入らない人間をあたかも加害者のように仕立て上げる真の差別主義者が今日もSNSを使って炎上商法してるしなぁwww」


 リョウの言う通り、謎の被害者アピールを繰り返しながら罪のない人間をスケープゴートにする戦法はいい加減やめてほしい。
 ミュータントは僕たちのメタファーで今日も謂れ無いヘイトに苦しみ続けるのだ。


「なんだか僕の書くSFは話が暗くなりそう……。やっぱり、普通のBLが一番かなぁ♡」
 「そうだなぁ。今のSF業界が衰退しきってて完全に死ぬのを待つばかりの現状はずっと変わることなく続いてるしなぁ。ぶっちゃけ、『センス・オブ・ジェンダー賞』とかいうのが存在する時点で現代SFは一般的なポリコレ思想に染まりつつある。70年代辺りのSFブームはもう二度と来ないだろうなぁ」


 リョウの言葉を聞いて、本格的にSF作家になることを諦めた僕は本業のBL小説執筆に勤しむのであった。
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