男の子たちの変態的な日常

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321 変態優遇〜前編〜

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 昔、動物園の動物を見た時、狭い牢屋の中で可哀想だと思っていた。
 でも、弱肉強食な競争社会から解放されて住居と餌が保証されてるんだから過酷な自然界で生きてる野生動物より幸せなのではないかと今は思っている。
 大した自由があるわけじゃないのに多大なコストを支払わされる社畜は思わず籠の鳥に憧れるものらしい。
 今現在、働いていない僕は籠の鳥みたいなものだが、リョウのおかげでお金はあるため、ほぼ毎日のように映画館に行っていた。
 興行収入が300億を超え、そろそろ歴代No. 1の座を目前としたアニメ映画を今日も鑑賞する。
 レディースデーだったせいか、周囲の観客は女性ばかりだった。まあ、レディースデーじゃなくても観客はいつも女性ばかりなのだが。
 僕は周囲に浮かないようにJKのコスプレ衣装の上にハーフコートを羽織り、胸の膨らみを演出するためにCカップのシリコンバストを入れて、ばっちりメイクを決めてきた。
 いい感じに女装できた僕はレディースデーで割引きしてもらい、男よりも700円安く映画を見ることができたwww
 でも、後から冷静になって考えると、レディースデーよりも障害者割引の方が100円安く見れるわけだから、障害者手帳を提示した方が一般的な男よりも遥かに安く映画が見れたなあと僕は後悔した……。
 よくSNSで反男性差別クラスタがレディースデーを男性差別とか言ってるのを見かけるが、障害者割引の方が得だから障害者手帳を手に入れれば一般的な男や女性より安くなることを彼らに教えてあげたいwww
 そんなこんなで今日も僕は「心を燃やせ!」のシーンでアホみたいに感動の涙をボロボロ流してしまい、メイクが落ちてないか心配になった。でも、泣けるもんは泣けるんだからしょうがない。
 他の観客のすすり泣く声が聞こえ、中には号泣してる人もいる。
 上映が終わっても、すげえ泣いてる人がいるなあと思いながらトイレでメイク直しをしに行ったら、立ちションしてるオッサンにドン引きされてしまった。
 鏡を見て今、自分が女装していることを思い出した僕はさっさとメイクを整えると、足早に去っていった。


「ふぅ……さっきのはヤバかったなぁ。それにしても、わりと普通に女の子に見えてるみたいだし、もう少しだけ女の子になったつもりで楽しもうっと♡」


 と言っても、レディースデー以外に女の特権が思いつかなかった。
 普段、女の世界に無縁である僕はSNSで女の特権について調べてみる。
 どうせなら女の子にしか出来ないことをやってみたいと思って、SNSを見ていると気になるツイートを見かけた。


「へぇ~、女性だと安く食べれる店があるんだ。ちょうど近くにあるみたいだし、行ってみようかなぁ。ふふふ、女の特権を享受せねばwww」


 我ながら女々しいとは思うが、何の努力をしなくても優遇してもらえるのは正直なかなか嬉しい。
 店の近くまで辿り着き、メニューのレプリカを見てみると、女性限定メニューなんてものがある。


「うひゃ~、安いし、量も多いし、何より美味しそうなんですけどぉ♡ こりゃあ、是非とも食べなくてはwww」


 チビで声も高い僕は堂々と女として店の中へ入っていくと、何やらモテなさそうな男たちが店員と揉めていた。


「女性限定メニューとか男性差別かよwww」
「俺らも優遇しろ、ゴラァッ!」
「マ◯コ死すべしッ!」


 男たちの怒号を聞いて、何となく状況を察した僕は一瞬帰ろうかと迷ったが、別の店員がそそくさと案内してきたため、店の中へ結局入ることにした。
 空気を読まずに僕は迷わず、女声を出しながらゴージャスな女性限定メニューを注文する。
 しばらくすると、大きなオムライスにトマトソースで可愛らしく花びらを表現した逸品が出てきた。おまけに無料のサラダとジュースまで付いてきて至れり尽くせりだ。
 そんでもって極め付きは値段が他のメニューより圧倒的に安い。こりゃあ、何度でも通いたくなりますわwww
 僕が美味しそうに食べる姿に嫉妬した男たちが憎悪の眼差しで見つめる。


「クソッ! 俺も女になりてえwww」
「俺らみたいなキモい男は男に生まれても何にもいいことねえもんなぁwww」
「分かるわぁ~、ホントそれなぁ。マジで痴漢やレイプ以外に男の娯楽ってないよなwww」


 清々しいほどにゲスな会話をしながら男共は僕の全身を好色な目つきで見やる。男だとバレる気配は今のところなさそうだ。


「アイツ、胸デカくね?」
「今時のメスはアレくらい普通だろ? むしろ小さいぐらいだぜ」
「そうだよなぁ、Eカップ以下は貧乳よwww」


 マジか、知らなかった。童貞の貧乳基準が謎すぎるんだが……。
 正直Cカップのシリコンでもデカすぎるんじゃないかとヒヤヒヤしたぐらいなんだが、男たちからの評価は想定の範囲を軽く超えるほど厳しい。


「エロ漫画みたいな巨乳って、なかなかいないよな?」
「マジ、それな。3次元じゃ抜けねえわwww」
「巨乳でもないくせに優遇されるとかマジでムカつくぜwww」


 なるほど、キモオタ向けのエロ漫画に出てくる巨乳キャラを好むヤツは男性差別やら女優遇やらと意味不明なワードを言い出すようになるのか。よく勉強になりましたwww
 僕は食事を終えると、早々に会計を済ませて店を出た。キモい男たちと同じ空間を共有したくなかったのだ。
 ところが、3人組のキモい男たちは僕の後を追ってくるように店を出てきた。
 最初は偶然かと思ったが、明らかにこちらを下卑た目で見ながら少しずつ距離を狭めてくる。
 身の毛がよだった僕は駆け足になったが、それでも連中は鼻息を荒くしながら付いてきた。
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