男の子たちの変態的な日常

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210 変態特撮〜後編〜

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 リョウの冴え渡る交渉術で変態ヒーローシリーズの復活が決定した。


「どうも、今回プロデューサーを務めさせていただくことになった黒倉です」


 新作のプロデューサーとなったのは平成の特撮作品を数多く手掛け、商業的に大成功に導いてきた黒倉さんだ。


「初めまして。いろいろと至らない点があるとは思いますが、よろしくお願い致します」


 僕は緊張しつつも憧れの特撮業界に携わることができた喜びに打ち震えた。


「さっそくだけど、企画書の方を拝見させてもらいましょうか」


 僕はドキドキしながら、じっくり練ってきた企画書を提出する。どんな批判に晒されても、平静を装っていられるように今から覚悟しておいた。
 企画書の中身を見る黒倉プロデューサーは徐々に怪訝そうな顔になっていく。


「新しいことをやろうという気が感じられないなぁ。従来の作風にとらわれていては時代に置いてけぼりにされるだけだよ。ぼくは今までに見たことがないような全く新しい変態ヒーローシリーズを手掛けたいと考えているんだ」


 黒倉プロデューサーは保守的な作風を嫌うことで大変有名であり、どんなに従来のファンから批判に晒されても新規のファンを取り入れ続けることで特撮コンテンツの規模を拡大してきた功労者なのだ。
 予想していた通りの指摘を受けた僕は臨機応変に対応していく。


「ご指摘ありがとうございます。僕も正直言って、今回の企画書にはこれといった目新しさがないとは感じておりました。しかしながら、やはり良いものは焼き直しと言われようとも取り入れるべきだとは思います。黒倉プロデューサーとしては今回の作品についてはどのようなビジョンをお持ちになっていらっしゃいますか?」


 僕は言葉を選んで慎重に応えると、黒倉プロデューサーは腕を組んで一瞬考えるてから口を開いた。


「変態ヒーローシリーズだからと言って、もはや主人公が金属質のスーツ姿に変身する必要はないと考えているくらい、従来のアイデンティティを否定したいと思っているよ」
「えッ⁉︎ どういうこと?」


 あまりの爆弾発言に僕は思わず素で聞き返してしまった。


「ほら、平成ラ◯ダーシリーズもビジュアルや作風なんかは昭和の頃とは全くの別物と言っていいほどに変わったろ? それと同じことがしたい。いっそのこと、変身後は女児向け作品のようなフリフリでヒラヒラな可愛らしいコスチュームに身を包んで戦わせたら面白いんじゃないか? 文字通りの意味で変態ヒーローの名に相応しい主人公となるだろうwww」


 黒倉プロデューサーの提案にリョウは好意的に首肯しながら口を開いた。


「それなら是非うちのアキラを主役に抜擢してほしい。昔、アキラは『美少年戦士ポコチンガーΩ』という変態特撮映画で主演を務めたこともあるんだ。その手の役ならアキラの右に出るヤツはいないと言っても過言ではないwww」
「なるほど、それはいい♡ では、主役はアキラ君で決定! さっそくコスチュームの方を発注しておこう」


 リョウの口八丁に乗せられた黒倉プロデューサー主導の下、後ほど撮影が開始される手筈となった。
 監督と脚本の方は黒倉プロデューサーが指名したプロの人たちに一任されることになり、僕が作った企画書は結局ボツにされたのであった。




ーーー




 ハイテク化が進み、蓋然性合理主義が跋扈する現代社会において恋愛や結婚は無価値となり、人々の心から愛が消え始めた。
 性の商品化が当たり前となった我が国では性的搾取が横行し、今宵も数多くの少年たちが性奴隷市場に売り飛ばされていくのであった。
 警視庁から派遣された秘密捜査官である僕は高度な科学技術によって開発されたバトルスーツを身にまとい、今日も卑劣な性犯罪組織との戦いに身を投じるのだ。
 人々は僕をこう呼んだ――『変態スワット』と。


「出たなッ! エロエロマフィアめ!」


 エロエロマフィアとは世界中で性奴隷市場を生業とする性犯罪組織であり、そのボスを何とリョウが演じることになった。


「うへへ、良く来たな! 変態スワットよ、今日こそ貴様を犯して我が花嫁にしてくれるwww」


 リョウはノリノリで悪役を演じながら、早くも股間のバズーカ砲を取り出した。


「性犯罪撲滅法第1条、性犯罪者と遭遇した場合、秘密捜査官は自らの判断で犯人を処罰することができる。第1条補則、場合によっては殺処分しても許される」


 僕は警察手帳を掲げながら性犯罪撲滅法を読み上げると、変身コンパクトを胸元に構えて唱えた。


「変態メタモルフォーゼ!!!」


 変身コンパクトから虹色に移ろう光の帯が放射状に溢れ、突風が起こる。煽られた髪が大きな波を打った瞬間、僕の髪の毛がピンクのボリューミーなヘアスタイルへと変化した。
 僕は役になりきって陶酔したように爪先立ち、仰向いて目を閉じた。着ていた衣服は光の粒を残して消滅し、全裸となる。
 七色の帯のうち数本が僕の身体を左右から強く絞り込んだ。帯は獰猛な蛇のように容赦なく絡む。華奢で男らしくない押し下がった双肩や、脇腹を経て、上半身を複雑に編み締める。
 さらに光は、僕の下肢をも襲った。背筋の末端から次第に狭く、深くなる尻溝を辿って、股間を前方に抜け、V字に分かれてデルタをきつく引き締めた。
 僕は羞恥で頰を朱に染め、もどかしそうに両腿を擦り合わせる。
 虹色の帯が手足を付け根の側から螺旋を描いて降り、僕の指までを包んで、また締める。
 さながら亀甲縛りのようだった。
 閃光が弾け、次の瞬間には肌の大部分がピンク色のタイツ地に覆われた。
 爪先立つのを支えるように高いヒールが現れる。靡く髪の隙間から覗く小さな耳にはハート型のイヤリングが光った。再び開いた瞳が金のごとき黄金の輝きを宿す。
 胸は鎖骨から乳首のすぐ上まで、極めつけは左右とも腿の側面から脇腹までを露出させ、惜しげもなく肌を見せるデザインである。また、人目に晒すべきでない箇所は隠してあるとはいえ、極薄のタイツ地には乳首の尖りやへその窪みが細部に至るまで浮かんでいる。
 光は様変わりした僕を残して空に消えた。
 今のCG全開の変身バンクで大体10分近くはかかっただろう。


「うへへ、犯しがいのある姿に変身してくれたじゃねえかwww」


 変身が完了した直後、すぐに襲いかかってきたリョウの正拳が僕の鳩尾に当たる。もちろん、演技だから本気で殴っているわけではない。
 僕は脚本通りに低く呻いて倒れ込む。うずくまっている僕にゆっくりとリョウが迫る。
 リョウは力任せに僕のコスチュームを引き裂いた。たちまち僕の上半身が外気にさらされ、胸が露になった。
 ある程度、本気でジタバタと暴れる演技をしたが、リョウに組み敷かれただけで全然身動きが取れなくなる。本気で抵抗したとしても、リョウの力には全く敵わないだろう。
 リョウは恐るべき力であっさりと僕の両膝を割った。
 今まさに僕は肢体を投げ出し、リョウに犯されようとしている。このシーンはリアル路線を追求した結果、いつも必ず正義の味方が勝つとは限らないという黒倉プロデューサーの思想を反映したものだ。


「変態スワットよ! 力なき正義は悪にも劣るという現実をその身でとくと味わうがいいwww」


 無防備にさらされた僕の下半身に、リョウのペニスがあてがわれる。何だか楽しそうに演じるリョウを見てたら、笑いが込み上げてきた。
 リョウが力任せに腰を突き出すと、埋め込まれたペニスはすぐに子宮の最も奥にまで達した。


「この世は弱肉強食! 変態スワットであろうと、所詮は性的に搾取される運命だったわけだ。さあ、大人しく我に支配されれば貴様だけは手元に置いてやってもいいのだぞwww」


 リョウが悪役らしいセリフを言っているにも関わらず、僕は早くも快感の絶頂を迎えてしまった。


「あが……う……が……」


 もはや呻きにさえならない声を弱々しく洩らしながら、僕は白眼を剥いて半開きになった唇からダラダラと涎を垂れ流した。
 こうして1話目は僕が演じる主人公が敵のボスの所有物になるところまでが描かれた。
 いくらリアル路線だからといって、序盤から生々しい展開にも程があると思ったが、1話目の視聴率は変態ヒーローシリーズの中では歴代トップとなった。
 時は過ぎ、番組が終盤を迎える頃には主人公と敵のボスが恋愛関係に陥り、最終回で結婚するという超展開には視聴者から多大なる反響があった。玩具の売り上げも大成功を収め、後番組も同シリーズの放送が決定したことで本格的に変態ヒーローシリーズはテレビに復帰を果たしたのだった。
 めでたし、めでたしwww
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