男の子たちの変態的な日常

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139 変態商売〜前編〜

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 僕は家計を支えるために、下着を売るだけで荒稼ぎ出来るという店の前にいた。いくつもの怪しい店舗が入っていて、ピンクや紫のけばけばしい看板が連なっている。

「だ、大丈夫かなぁ? ちょっとというか、かなり怪しい雰囲気を醸し出してるんだけど……」

 薄暗い周囲の様子に、チキンな僕は怯んでしまう。でも、家計のために僕は意を決して階段を上がって行った。

「うわぁ……」

 店内は異様な雰囲気だった。
 ビニールで包装された制服が、ハンガーに吊られてところ狭しと並んでいる。こんなにたくさんの制服が集まっているのを見るのは初めてだ。思わずしげしげと観察してしまう。

「うわぁ……こっちもすご~い」

 一際目を引く棚に僕は思わず声を漏らす。
 そこには大量のパンツ、靴下やハンカチ等がずらりと並べられていた。

「……これって実際に誰かが履いてたパンツなのかなぁ~?」

 一つ一つがビニール袋で丁寧に包まれ、持ち主の顔写真まで添えられている。

「写真……なるほど。コレで誰が履いてたか分かるってことかぁ……う~ん、写真ねぇ……」

 楽勝で稼げると思っていた僕だが、いざ商品の山を見ると、心が折れそうになってきた。本当に自分のパンツを――。

「いらっしゃい」
「ひゃッ……⁉︎」

 僕はびくっと肩を震わせカウンターを振り返る。そこにいたのはここの店員だった。そして、僕に値踏みするような視線を向けてきていた。

「どうしたの? 売りに来たのかな?」
「あ……ええとぉ……ぱっ、ぱぱッ……僕のパンツぅぅ……」

 ここまで来たのだから、僕もタダでは帰らない覚悟だ。
 けれど、やっぱり恥ずかしい。当初の予想をはるかに上回る、尋常でない恥ずかしさだ。たかがパンツを売るだけなのに。そんな僕の躊躇を見抜いたのか。

「パンツを売りたいのかなぁ~?」

 店員の方から尋ねてきた。

「はうぅ……あの……はい、パンツを……僕のパンツを買ってください……」

 やっとのことで言うことが出来た。僕はそれだけでゼエゼエと息を切らせてしまったが、一方の店員は顔色一つ変えず、ごとごとと引き出しからスマホを取り出す。

「今、はいてるパンツでいいから脱いでくれる?」
「えぇッ⁉︎ こ、ここで脱ぐんですか? し、しかも……写真まで撮るんですか?」
「もちろん。これなら、ちゃんとキミがはいてきたパンツだって証明出来るだろ~?」
「ええ、そんなぁ……」

 いきなりの展開に僕の頭がついていかない。今まで散々エッチなプレイはしてきたものの、これは別モノの恥ずかしさだ。

「大丈夫、大丈夫。他にお客さんもいないから誰も見ちゃいないよ。それに即金だから……すぐ脱げばすぐ払うよ~♡」
「う、分かりました……」

 即金という言葉に励まされ、僕はその場でパンツを一気に引き下ろした。

「はぁぁぁ……ぬ、脱ぎました……」
「じゃ、ここに置いて」
「は、はいぃ……ッ!」

 僕は恥ずかしさで声を震わせながら、脱ぎたてホカホカのパンツをそっとカウンターの上に置いた。

「それじゃあ、次は写真撮るよ。その辺に立ってね」
「写真……あ、あの……どうしても写真、撮らないとダメですか? あの、顔隠したりとかはダメですかね?」
「う~ん……もし顔出してくれたら、買い取り価格もそのぶん、上乗せしてあげるんだけどなぁ~」

 僕は一瞬迷った。ここまでするなら上乗せしたい気持ちもあるが。

「……あ、いえッ! これでいいです!」

 羞恥心から自らを隠すように、僕は手の平で目の辺りを覆う。

「そう? じゃあ、撮るよぉ……はい、OK」

 スマホのシャッター音に一瞬びくついてしまったが、ようやく撮影が終わった僕は大きく息を吐き出す。

「ん~と、それじゃあ……」

 店員がレジを開け、僕は期待に満ちた目で、レジに突っ込まれた彼の手を見つめる。そして差し出されたのは。

「……はい?」

 5千円札を1枚差し出され、僕の顔が硬直する。一瞬何かの冗談かと思ったが、店員に自分をからかっている様子はない。

「あ、あの……もうちょっともらえるんじゃ?」
「これでも高い方だよ。キミ、可愛いからね♡ 見た目イマイチなヤツだったら、もっと安いんだからねぇ」
「で、でも……もうちょっと出してくれてもいいんじゃ?」
「そうだねぇ……」

 店員はカウンターに置かれた僕のパンツをしげしげと観察する。あくまでも売り物を見る時の冷静な目で。

「う~ん……キミのパンツ、綺麗すぎるんだよね。もう少しシミでもあったら、1万円は出せたんだけどね。オシッコのシミとかさ~」
「オ、オシッコのシミですかぁ……」

 汚れていた方が高いなんて。僕は引きながらも肩を落とす。
 無理だ。どう考えても、オシッコのシミがついたパンツを他人に渡せるわけがない。

「はあぁぁぁ……」

 僕は大きく溜め息をついた。どうもこの店は、自分には向いていなかったようだ。

「…………」

 と、僕は店員がわずかに同情するような視線を向けてきているのに気づいた。そんなに落ち込んでしまっていたのだろうか。

「そんなにお金が必要なら、オシッコ売ってみる気はない?」
「えッ!……オシッコ⁉︎」
「うん。オシッコなら2万くらいは出せるよ……どう?」

 口調からすると何となく譲歩が感じられる。本当はもっと安いのに、高く買ってくれるのだろう。

「……う~ん」

 僕は悩みに悩む。汚れた下着を売るよりは、オシッコそのものを売った方がまだマシに感じる。それに、今日の稼ぎをさらに上乗せ出来るのだ。ここで帰ったらここでの稼ぎは5千円。もう少し踏ん張ったらさらに2万円なのだ。

「どうする? オシッコするだけで2万円だよ♡ 2万円欲しいよねぇ~?」
「……分かりました。2万円出してくれるなら売ります!」
「ははッ、そうこなくっちゃね。それじゃ早速コレに……」

 店員は床の上に洗面器を一つ置いた。

「ふぇ……?」

 その意図が分からず僕は洗面器と店員の顔を交互に見つめる。

「はい、ここに出して。パンツ履いてないし、そのまま出来るよね?」
「え、ウソ……ここでオシッコするんですか?」
「この場で出してもらわないと、本人のモノか確認できないからね。この商売は信用で成り立ってるんだよぉ~」
「ふぇぇ……そんなぁ~」

 事態がますますとんでもない方向に進んでいるのを感じるが、やはりここで引くわけにはいかなかった。

「……分かりました」

 僕は店員の指示通り、洗面器をまたいだ格好で床にしゃがんだ。
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