男の子たちの変態的な日常

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129 僕とリョウの愛よ、永遠に〜後編〜

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「クソオヤジッ! アンタは何がしたいんだ⁉︎ 本気で殺すつもりか⁉︎」

 そう怒鳴りながら、リョウは一歩近づこうとする。

「それ以上こっちへ来てみろ! お前の大好きな恋人(笑)のボテ腹に風穴が開くことになるぞ~ッ!」

 改めて狙いを定め直す実の父親に従い、リョウは出しかけた足を引っ込めた。
 先ほどまでは多くの級友たちにより狭く感じた店内が、今は3人だけでガランと広い。
 リョウの父親は銃を構えたまま、ずっと無表情を崩さない。

「リョウ、もう一度チャンスをやろう。これを受け取れ」

 リョウの父親はそう言うと懐から紙袋を取り出し、リョウにそれを投げてよこした。
 リョウはそれをキャッチし相手を警戒しながら中を見ると、10粒ほどの錠剤が入っていた。

「堕胎薬だ。それを妊娠した男に飲ませろ。そして、二度とその男とは関わらないと私に約束するのだ。さすれば、今回の過ちを水に流してやらんでもないぞ」
「どうやら正真正銘のサイコパスのようだなぁ。冗談は顔だけにしておいてもらいたいんだが?」

 リョウの父親は胎児の宿る僕の腹部に銃を向けてきた。
 すぐにリョウはその間に立つ。
 このクソオヤジなら本当に撃つかもしれない……。

「どけ」
「どくかよ」
「殺すぞ」
「それじゃ、ますますどけねえなぁ~」

 飲食店内に再び銃声が轟き、リョウの左の脇腹に凄まじい灼熱感が漂う。

「リョウッ!!!」
「……心配ないさ。少しばかりかすっただけだ。腹の中には届いちゃいない」

 リョウはチラッと己の左脇を確認し、すぐにクソオヤジに視線を戻した。
 大量の血が、一気に服を赤く染めていく。

「いつまで強がっていられるかな? 次は外さんぞッ!」

 ――パ~ンッ!
 低く乾いた音があたりに響く。
 リョウの身体に銃弾が直撃した。のけ反る白いのど。リョウの腹部を濡らす鮮血。力なく投げ出された腕……。
 リョウは死んじゃったの?
 僕は目の前が真っ暗になった……。


ーーー


「ん……」

 僕の足もとでリョウは小さな声をあげた。長いまつ毛がゆっくり持ち上がる。戸惑うような視線はようやく僕の顔を捉えた。唇が動き、微笑みの形になる。

「リョウ……生きてたんだねッ! 今度ばかりは死んじゃったかと思ったよ!」
「大丈夫だ、俺は不死身の男だからなぁ」

 リョウは明るくうなずこうとして胸の痛みに気づき、クッと眉根を寄せる。

「大怪我してるんだから動いちゃダメだよ」

 リョウは苦しげな表情で周囲を見回した。

「……ここはどこだ?」
「リョウの父親がチャーターしたトラックの中だよ。僕たちをどこかへ連れていく気みたい」

 重傷を負っているにもかかわらず、リョウは両手をついて立ち上がろうとする。

「無理しないで、傷にさわるよ!」

 リョウは僕の目をじっと覗き込んだ。
 瞳に大粒の涙が盛り上がってくる。僕は涙を見せまいと目を伏せた。
 トラックはいつ、どこで停車するのだろう? 荷台の扉が開かれた時、その向こうにはどんな景色がひろがっているんだろうか?
 すると、僕たちを乗せたトラックは急ブレーキをかけて停止した。
 リョウは、かばうように僕の前に立った。

「死んでもアキラのことだけは俺が守るからなぁ」

 僕の唇にさっとキスをして、リョウは扉の方へ向き直る。
 扉が開くと、まばゆい光の中にクソオヤジと手下の姿が浮かびあがった。

「連れ出せッ!」

 クソオヤジに命令された手下たちが、僕たちを包囲しにかかる。
 リョウは僕の手をつかみ、全身全霊のキックで素早くトラックを破壊して穴を開けると、そこから身を躍らせる。

「うわぁぁ……」

 僕たちは、はるか下を流れる川へ思い切り飛び込んだ。数日前からの雨で増水していた川の流れは、僕たちの体をまるで木の葉のように軽々と押し流していく。
 パン、パパパンッと銃声がしたが、僕たちはとっくに数百メートル下流へと流されている。つなぎ合う手が滑り、離れ離れになってしまう。
 息すら満足にできないほどの激流に巻きこまれ、僕には叫ぶことすら出来ない。

「……アキラァッ!」

 たとえ未来がなくても、僕は生きてみせる。愛するリョウを信じて生き抜いてやる!
 僕の思いが通じたのか、くるくると翻弄されていたリョウの身体が、すぐ目の前に流されてきた。チャンスを逃さず、接近した瞬間を狙って両腕で抱き締める。もう離さない。
 僕たちはお互いの肉体以外にすがるものはない。水流に背中を押され、互いの身体に腕と腕をまわし、固く抱き合いながら、激流を流されていった。
 やがて小さな滝に落ち込むような墜落感が長く続き、川の流れがふっと和らぐ。
 僕とリョウはいつしか川岸にたどり着いていた。濡れそぼった身体の下で、きめ細やかな砂がさらさらと風に揺れている。
 僕はようやく意識を取り戻した。水を大量に飲み、苦しげにせきこむ背中をさすってもらいながら、呆然と周囲を見回した。

「俺たちはどうやら運が良かったみたいだなぁ♡」

 僕たちを取り巻く空間は虚ろで、物音ひとつしなかった。まるで地球全体が絶望し、深い眠りについているようだ。

「僕たちは……一体どうなるんだろう? 同性愛者に未来はないのかな?」
「未来か……仮に同性愛者の未来がなかったとしても俺とアキラの未来だけは誰にも奪わせはしないぜ。アキラがそばにいてくれるだけで、そこが地獄の底だろうと天国に早変わりさ。だから俺たちはきっと幸せになれる……いや、今も充分幸せだなぁ♡」
「うん……僕もリョウがそばにいてくれるだけで幸せだよ♡」

 震える僕の肩をリョウは優しく抱き締めてくれた。
 泣きそうな僕の頰を両手でそっと包み、仰向かせるとリョウは顔中にキスのシャワーを浴びせる。

「世間が俺たちの関係を認めてくれなかろうが関係ない。だからアキラは泣かなくていいのさ。アキラは俺にずっと連れ添ってくれれば、それでいい。むしろ、それだけで充分だ。ふたりでふたりだけの未来を創ろう♡」

 リョウは僕が泣くのをやめるまでキスを繰り返し、その身をきつく抱き締めた。
 やがて僕たちは歩き出す。
 たとえ男同士でも僕とリョウの愛が永久に不滅であることは僕たちの未来が証明してみせるだろう。
 男の子たちの変態的な日常よ、永遠に。
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