男の子たちの変態的な日常

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92 変態ツーリング

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 派手なブレーキ音を連れて僕の目の前に急停車したのは赤いオートバイだ。
 ライダーの顔が小さいせいか、銀色の半帽ヘルメットもゴーグルも、やたらと大きく見える。
 一瞬、誰だかわからなかったけれど、すぐにリョウだと分かった。

「俺のバイク、カッコいいだろう? 後ろにアキラを乗せるのが夢だったんだ♡」

 そう言ってゴーグルをはずしたリョウは満面の笑み。
 急に手をつかまれ、思わず足がとまる。リョウの掌はじっとりと汗ばんでいたが、まったく嫌な気はしない。
 空いている手の親先でタンデムシートを指し示し、リョウは無邪気に笑って言った。

「さあ、俺のライディングテクニックに酔いな!」

 照れ隠しに頭をひと掻きすると、初めてバイクにまたがった。

「これをかぶれ。アイドルであるアキラに怪我をさせるわけにはいかないからな」

 脱いだヘルメットを後ろ手に渡される。
 リョウの体温が残るヘルメットをかぶり、ちょっとだけワクワクしながらライダーズゴーグルをおろす。

「おお、なかなか似合ってぞ、アキラ♡」

 頭に手を乗せ、ぐりぐりと揺すられる。

「リョウは被らなくていいの?」
「俺は平気さ。それより落っこちないよう、俺にしっかりつかまってろよ」

 リョウが腰をぱんぱんと叩いてウインクすると、僕はどきりとした。

「危なくないかな?」

 がくがくと揺れる車体に焦ってリョウに抱きつき、僕は太腿でヒップを挟み込むように自分の体を固定する。

「行くぜぇ~!」

 リョウのかけ声とともにバイクは急発進した。靡いたリョウの髪が顔に当たって、ふわりと甘酸っぱい芳香に包まれる。
 髪だけではない。密着したリョウの身体全体から、僕の欲情を煽り立てるような匂いがたちのぼる。

「アキラの体温が俺に伝わってくるぜ~♡」

 リョウはそう言うと、アクセルを思いきり開けた。二人乗りを物ともせず、バイクは伸びやかに加速して、雑多な街をすり抜けるように駆けていく。
 もし警察に見つかったら、なんて細々した考えは、初めて感じるスピードに連れ去られて、どこかへ行ってしまった。

「あ、海が見える……」

 潮の匂いがつんと鼻腔を突く。
 鼻から入った潮風が、頭の中を綺麗に掃除していくみたいだ。
 気分はいつの間にかすっかりハイになり、ガードレール越しに海が見えた途端、我慢できずに叫んでしまった。

「海だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 頭のふたが開いたように、僕は叫び続けた。

「内陸県に住んでる俺たちにとって海は珍しいよな。たまには地元から出てみるのもいいもんだ。せっかくだから、ちょっと泳いでいかないか?」

 リョウらしい、勢いに任せた提案を受け入れてしまったのも、きっと子供みたいにはしゃいでいたせいだろう。
 砂浜にバイクを置いて、僕は手を引かれるまま海に飛び込んでいた。

「沖のブイまで競争だ。俺に勝ったら、アキラとセックスしてやるよ。アキラが負けたら、俺が徹底的に犯すぜ~♡」

 勝っても負けても結局セックスか……などと思いつつも僕はリョウの提案を承諾した。
 ブイまでは目測で50メートル。決死の覚悟で泳ぎ始める僕だったが、プールとは異なり、次々と波が襲いくる。衣服は体に貼りついて手足を拘束し、海水は泥のように重く感じられた。

「アキラの実力はその程度か~? どうやら俺の圧勝みたいだな!」

 言葉の平手で頰を張られ、目の覚めた僕は日頃の鍛錬をやけっぱちで海に叩きつける。

「リョウなんかに負けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 息継ぎなしで酸欠気味になりながらも残りの距離を渾身の力で泳ぎきった。

「はあ、はあ、はあ、はあ、うッ……げほ、げほッ……げほッ……ぅおえッ!」

 間近で見ると、なんだか間抜けな物体に見えるブイを抱きしめ、鼻から飲んだ海水のお陰で、催涙ガスでも吸い込んだように噎せ返る。

「さすがはアキラ。やる時はやるな。海でこれだけ泳げれば、立派、立派」

 後から来たリョウに褒められても、喜ぶ余裕はない。

「はははッ、息が荒いぞ。俺と相当セックスしたかったみたいだな。まったく、アキラは相変わらず俺のチンポなしじゃ生きられない身体のようだ♡」

 傾き始めた陽射しの中で、少しだけ困ったように微笑む僕の笑顔に、リョウはムラムラしているようだった。
 今度はゆっくり泳いで岸まで戻り、砂浜にあがった途端に、リョウの欲情は爆発した。
 うつ向く僕の唇に、リョウはそっと唇を重ねた。

「あ……」

 声をあげるより早く接吻され、僕はあわてて目を瞑る。海水に濡れても、なお唇はしっとり潤い、唇から伝わるリョウの体温に、頭の芯がくらりと揺れた。
 にんまり笑って目を覗き込むのは、いつも通りの悪戯なリョウなのに、その顔をまともには見られず、僕は真っ赤になって目を逸らす。
 固まっている僕の腕を抱き寄せ、リョウはバイクに向かって歩き出す。
 リョウの温もりに包まれた僕は弾むような足取りでバイクの上にまたがった。
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