男の子たちの変態的な日常

M

文字の大きさ
上 下
84 / 348

83 変態芸能界〜前編〜

しおりを挟む
朝早くに駐屯地に向かい、昨日から王都に配備した兵を解放する。テオが機転をきかせて、交代制にしたおかげで、兵の疲労は少なかった。テオを労い、ここしばらくの兵の配備スケジュールを決め、駐屯地に拘束していた傭兵たちと、ヴァイツ卿の引き渡しについて書類を武官に渡したところで、今日は帰ることにした。


屋敷に帰ると、ノアは使用人たちに囲まれていた。俺の顔を見るなり、使用人たちはザザッとノアから離れる。なにをされていたのか一目瞭然だった。

「アシュレイ、おかえりなさい!」

ノアは今日も朝から興奮していたのか、真っ赤な顔で俺に挨拶をする。

「ノア、その服はどうしたのだ?」

その質問に答えたのは女中だった。

「アシュレイ様。ノア様はしばらくこの屋敷に身を寄せるとのことでしたので、私の息子のおさがりを持ってきました。あのお召し物では、生活しづらいかと思い……」

「そうか、失念していた。ありがとう。とても良い洋服だが、借りても構わないのか?」

ノアの着せられている服は、シャボのついたシャツに、豪華な刺繍のベストやパンツ。ジャケットまで羽織っていた。

「息子はもう大きくなってしまって。捨てるには忍びないと思っていたのです。もしよろしければ着てやってください。とてもお似合いですよ、ノア様」

女中は可愛くて仕方がないといった表情で、ノアの裾を引っ張り、服の形を正す。髪も結ってもらったのか、ノアは上流貴族のお坊ちゃんといった上品さを纏っていた。

「ノア、とても似合っているぞ。それで王都に出たら様になるな」

ノアは一層顔を赤くして、我慢がならないのか吃りながら大きな声を出す。

「ぼ、僕も! アシュレイのように、ご婦人方に、か、か、格好良いと思ってもらえますか!?」

その言葉に、俺も女中たちも吹き出してしまった。

「ええ、ええ。ここにいる女中はノア様の格好良さに夢中ですよ」

ノアは嬉しいのか、目を潤ませ、口をキュッと結んだまま黙ってしまう。

「さあ、その格好で王都に行こう。おいで」

担ぐと子ども扱いになるかと思い、手を差し伸べた。ノアは嬉しそうに手を握り、ギクシャク歩き出しはじめる。かわいらしいとノアを見つめる女中たちに再度お礼を言い、馬に跨る。ノアとの約束通り、王都の中心地、市場へと向かった。


王都の中心地に着くと、ノアの興奮は最高潮に達した。茹で上げられたように顔を真っ赤にして、見るもの全てに感動していた。

「こ、こんなに! こんなに人がいる場所は、初めてです!」

「そうだな。孤児院にも子どもはたくさんいたが、大人がこんなに集まるのは、ここだけかもしれん」

どこか見て回りたいところはあるか? と聞こうとしたら、ノアが突然鼻を高くあげて匂いを嗅ぎ始めた。よく見ると、少し先にいつもの花売りが立っていた。

「ノア、好きに歩いたって構わないぞ。はぐれないように手は握っていてくれ」

その言葉で、ノアは俺の手を引きぐんぐんと歩き出した。てっきり花をねだられるのかと思っていたから、花売りを素通りした時には驚いた。花売りも俺に気付いたので曖昧に笑ってやり過ごす。

ノアに手を引かれついた先は菓子屋だった。見ているだけで胃もたれしそうな色の菓子が出店に並んでいる。

「ノア、お腹が空いたのか?」

「いえ、いえ! 先ほど朝食はいただきました! ルイスの料理は美味しいですが、アシュレイの家の食事もとてもとても美味しかったです!」

顔を真っ赤にしながら、しかし俺の顔を見ない。菓子を見つめながらノアは一生懸命に話す。

「あまり甘いものを食べると、昼飯が入らなくなるからな。ひとつだけ買ってあげよう」

さっきまで菓子しか映っていなかった瞳が急に俺を見つめる。もはや焦点があっていなかった。

「本当ですか!? 本当ですか!? 買ってくださるのですか!?」

「あ、ああ。ノア。あまり興奮するな。顔が茹で上がってしまうぞ」

俺の言葉など完全に聞いていなかった。ノアは銅貨1枚の菓子を、宝石さながらに鑑定し始める。こんなことならば、ひとつとは言わず、おやつ用にいくつか買ってやればよかった。そう思うほどに長い時間をかけて選び抜き、ノアは派手な装飾のされた菓子をひとつ差し出した。

「こ、これ」

差し出された菓子を受け取ると同時に、ノアを担ぎ上げる。今日はノアを紳士として扱おうと思っていたが、あまりの可愛らしさに耐えられなかった。

ノアを抱えたまま、店主に銅貨を差し出す。

「坊ちゃん今日はお兄ちゃんとお買い物かい? 優しいお兄ちゃんだね。いい子にはおまけをあげようね」

そう言い、店主は包装された菓子とは別に、小さな飴をノアに渡した。ノアは震える手でその飴をもらい、胸に抱いた。

「あ、あ、ありがとうございます!」

「よかったな。ノア。ありがとうございます」

店主にお礼を言い、歩き始める。ノアは飴を何度も何度も見るので、目があったときに大きく頷いた。ノアは嬉しそうに飴の包みをあけて、飴を頬張る。美味しいのか嬉しいのかわからないが、感極まってノアは俺の首に抱きついた。

ノアの背中を撫でながら思う。ノアは花より、お菓子の方が良さそうだな。今度塔に行くときには菓子を持って行こう、そう心に決めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...