男の子たちの変態的な日常

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72 変態地元愛〜前編〜

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 僕とリョウ、カスケの3人でスキー場に遊びに行くことになった。板やウエアはあらかじめスキー宅配便で送ってしまったので、僕たちはバッグひとつの身軽ないでたちで駅に集合した。
 朝一番の特急とはいえ、車内はごったがえしている。自由席なんか、通勤・通学ラッシュ時間の山手線並みの混雑だが、指定席を確保してある僕たちは身軽なこともあって比較的余裕がある。
 駅を出た電車は埼玉の住宅街を縫うように走り、いつも見慣れている風景が窓の外にひろがっている。
 しばらくすると、前方に高層ビルが見えてきた。

「埼玉って田舎だと思ってたけど、東京に負けないぐらいデッカい高層ビルがあるんだね」

 埼玉も実は結構都会なんだと僕は感心してしまった。

「あれは大宮ソニックシティだな。埼玉だって東京には負けていないさ。遊べる所もそこそこあるしな」

 リョウはそう言うと、埼玉県民であることを誇らしげに腕を組む。

「相変わらずリョウは地元愛が強いんだね。ぼくは将来的には上京して都内で暮らす予定さ。そういえばアキラも東京に行きたがってたよね? 良かったら、いずれは一緒に暮らさない?」

 カスケにそう言われて僕は迷った。地元に対する愛着がないわけではないんだけどなぁ。

「こらこら、アキラを惑わすんじゃねぇよ。それに東京は家賃が高いからな。無理に上京して生活が苦しくなったら大変だろ? アキラはこれからも俺と一緒に地元で暮らせばいいんだよ」
「東京の方が賃金はいいんだよ。ダ埼玉に引き込もってちゃ一生勝ち組にはなれないね」

 カスケのシニカルな言動にムカついたリョウは思わず押し黙る。
 電車が大宮をあとにすると、ようやく住宅も途切れがちになり、しだいに車窓には田園風景がひろがるようになってきた。
 電車はしばしの間、北関東の平野地帯を淡々と走り続ける。
 やがて特急電車は目的の駅に滑り込んだ。
 特急の到着に合わせて、外井先生が僕たちを迎えにきてくれることになっている。外井先生は僕らと一緒に温泉旅行に行ったり、ライブをしたりと今では遠出するのに必要不可欠な存在となっていた。
 改札を出て、駅前で外井先生が乗っているパジェロをさがす。
 車はすぐに見つかった。パジェロから外井先生が降りてくると、僕たちの荷物をパジェロに積み込むのを手伝ってくれた。僕たちが車に乗ると、外井先生は車を軽快に発進させた。
 車内で騒いでいると、やがてペンションに到着した。
 あらかじめ送っておいた荷物を引き取り、僕たちは割り当てられた部屋に入った。それから急いで着替えをすませると、僕たちは談話室に集合した。
 歩いてもスキー場まで5分ぐらいしかかからないが、外井先生が車で送ってくれるという。他の宿泊客は、もうゲレンデに出ているらしい。外井先生のありがたい申し出に感謝しつつ、僕たちは再びパジェロに乗り込んだ。
 天候は曇りだが風はそう強くないので、スキーをするにはまったく問題がない。
 スキー場に到着すると、板やストックを車から降ろし、僕たちは外井先生に礼を言うと、勇躍、雪の上に一歩踏み出した。
 僕たちはリフト券を買うと、1番下の初級者用ゲレンデを足慣らしに2~3回滑った。それから板をはずし、ゴンドラ待ちの列の最後尾に並ぶ。一応僕たちは初級以上の腕前であるということは先ほど初級者ゲレンデを滑った時に確認してある。詳しく言うとリョウが上級の並み、カスケが上級の下もしくは中級の上、僕が初級の並みといった感じだ。そのぐらいの足前があれば、このスキー場は最上部からでも滑って降りてこられるつくりになっているので、ゴンドラに乗っても大丈夫だ。
 ゴンドラ待ちの列は長いように見えても、秒速5メートルの6人乗りゴンドラがフル操業しているので、思ったよりも列の進み方が速い。10分足らずで乗り込む順番がやってきた。僕たちを詰め込むと、ゴンドラはしばしの空中散歩に出発した。距離にして3千メートルあまり、時間にして約10分とちょっとで、僕たちはスキー場のほぼ最上部に降り立った。
 ほぼ、というのはここから少しさがったところから、さらにリフト1本あがったところがスキー場の最高部であるからなのだが、ここでも標高2千メートルはある。ふもとではそれほどでもなかったが、さすがにここまで来るとメチャクチャ冷え込む。
 ゴンドラを降りると軽く準備運動をし、僕たちはゲレンデに飛び出した。まだ午前中なので、コースにコブはできていない。斜度も上部のコースのわりにはそれほどきつくなく、気分よく滑ることができた。
 途中で立ち止まって周囲を見渡す。コースはまっすぐ下に向かってのびている。コースの両脇にある林は枝に2、3日前に降った雪をかぶって真っ白く雪化粧をしていた。
 静寂の中にときおり吹き抜ける風の音が聞こえるだけだ。

「う~ん、なんだかステキ♡」

 僕はなんとなくロマンチックな気分に浸っていた。
 だが、そんな僕の横を上からきたスキーヤーたちが歓声をあげながら次々と滑り降りていく。

「も~う、ムードぶち壊しだよ……」

 僕も再び滑り始めた。まだときたま、板の先端同士がぶつかったりするが、斜度もコース幅もちょうどいいコースを飛ばしていると、ちょっとスキーの腕があがったかのような錯覚さえ覚える。
 混雑度がそうひどくないうえ、ゲレンデが上下に長く、スキーヤーがばらけるのもコースが混まない理由だろう。僕はいいスキー場に当たったのを感謝しながら、ゴンドラ乗り場につづく中・緩斜面をひたすらかっ飛んだ。それから僕たちは3回ほど上から滑った後、昼食を取ることにした。
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