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71 変態ロック
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僕とリョウは外井先生の頼みでバンドを組むことになった。
外井先生はロックの力で強制的異性愛から人々を解放し、同性愛の素晴らしさを説くためライブハウスへと僕たちを連れてきた。
ライブハウスで僕たちは力いっぱいハードロックの演奏を繰りひろげていた。
テクニックはいまいち未熟だが、リョウの演奏はそれを補うのに充分すぎるほどの、若さに溢れるパワーがあった。その爆発するようなパワーが観客を興奮させ、酔わせていた。
特にみんなの心をとらえたのはテレキャスターからリョウが奏でるハイトーンのソロ。それを支えて僕のベースが底深く走る。戦慄の流れをギリギリと締めあげる外井先生のドラムのリズム。
つめかけた聴衆の血管は熱くなり、激しく膨れ上がっていた。
客席は、いまや興奮のるつぼだった。その中にはカスケの姿もあった。
席に着いた時、カスケは来てしまった自分の気持ちが分からなかった。クラシックの音楽会に、同性の友達に誘われるとたまに行くぐらいで、ロックなどは騒音としか思えなかった。だが、原因はちゃんとあった。
カスケは透明になったリョウに犯されてから心の深い奥底で知らず知らずのうちにリョウに魅かれていたのだ。透明人間の正体がリョウだと未だ知らないカスケは困惑しながらもリョウに自分の肉体を愛撫してほしくてたまらなかった。
ところがカスケは未だに僕とリョウがイチャイチャしていると異常なまでの憎悪をリョウにぶつけ続けていた。どうやら僕に対する執着心は決してなくなってはいないようだ。
カスケの五感すべてが強烈なビート音に占領されつくされていた。
ステージの両サイドに積まれたギターアンプとベースアンプ、そしてPAから響き渡る爆発音の奔流に打ちのめされ、金縛りにでもあったように座席にはりついていた。
「ああ! 身体ン中がめちゃくちゃになりそうだ……」
真夏の海岸で真っ黒に焼いた背中の皮膚が、剥ける時に感じるあのむずがゆさ。そのむずがゆい肌を、僕たちのバンドが荒々しく引き剥いていく……それは苦痛の混ざった倒錯的な快感だった。
ステージの上でする演奏は僕にとって初めてだった。
何事にも引っ込み思案だったから、今まで人前に出ることなど、思っても見なかった。外井先生のガムシャラな特訓に今はついて行くのが苦ではない。いや、楽しくてしょうがないぐらいだった。
リョウは巧みにピックを操って、小気味よくコードを刻んで行く。
シャキ、シャキ、シャキ……。
弾むように躍動するリズム。いまリョウは熱くなっていた。身体中を走る快感に酔っていた。
リョウのギターはカスケの脳髄にリズムを叩き込んだ。
カスケの服の下で尖った乳首が痛いほど疼き始めた。
カスケは服の裾にそっと手を差し込んで指先を上へ上げた。そのまま乳首を軽くなぞった。
カスケの快感の吐息は圧倒的なサウンドに押しつぶされ、誰ひとり聞こえなかった。
指先の動きをカスケはもう止めようがなかった。生きているようにひとりで淫らな振る舞いをしてしまう。
カスケはリズムに合わせて乳首を揉み続ける。
「ぼくはアキラのことが好きだったはずなのに……。どうしてリョウなんかに⁉︎ 認めたくないのにリョウのが欲しくてたまらないッ!」
ここにこのままいたら、隣席の人にカスケの痴態を気づかれてしまうだろう。いや、それ以上にカスケは今の自分が許せなかった。カスケはそっと席を立った。
火照った身体で通路を歩いて行く。
ドアの辺りは入りきれない若者たちの人垣ができていた。汗の匂いにむせかえるような男たちの人垣をかいくぐると、ぎりぎりまで鋭くなった官能がいっそう刺激された。
カスケの座っていた座席は、じっとり湿っていた。
観客たちの熱狂と興奮はますますエスカレートしていった。
「リョウ君、抱いて~ッ♡」
「リョウ様、ステキッ!!!」
「アソコにビンビン響いてきやがるぜ~ッ!」
そんな声にもまして、僕への声援は凄まじかった。
「アキラきゅん、こっち向いて!」
「アキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラ……君が欲しい♡」
「アキラきゅんをペロペロしたいのら~ッ!!!」
シートに座る半数以上の観客たちが立ち上がり、リズムに合わせて揺れ始めた。
長い脚でファズペダルを踏みながらリョウは心に叫んだ。
「アキラ、今度はお前が歌うんだ」
リョウはファズペダルを踏み込んだ。テレキャスターのトーンがたちまち一変した。そして、全ての音がエンディングに向かって、バラバラに暴れ出していった。
熱狂の拍手と口笛は演奏が終わってもしばらく鳴りやまなかった。
「これは俺を妊娠している」
「リョウ様、尊い尊い尊い尊い尊い尊い尊い尊い尊い尊い尊い尊い……」
「アキラきゅんにバブみを感じてオギャりたい♡」
満場が拍手で拍子をとって叫びたて始めた。
僕はぼんやりとリョウを見やった。
「もう1回やるとするか」
「うん♡」
やがて、僕のファニーなボーカルがリョウと外井先生の演奏をバックに観衆たちを再び圧倒し始めた。
外井先生はロックの力で強制的異性愛から人々を解放し、同性愛の素晴らしさを説くためライブハウスへと僕たちを連れてきた。
ライブハウスで僕たちは力いっぱいハードロックの演奏を繰りひろげていた。
テクニックはいまいち未熟だが、リョウの演奏はそれを補うのに充分すぎるほどの、若さに溢れるパワーがあった。その爆発するようなパワーが観客を興奮させ、酔わせていた。
特にみんなの心をとらえたのはテレキャスターからリョウが奏でるハイトーンのソロ。それを支えて僕のベースが底深く走る。戦慄の流れをギリギリと締めあげる外井先生のドラムのリズム。
つめかけた聴衆の血管は熱くなり、激しく膨れ上がっていた。
客席は、いまや興奮のるつぼだった。その中にはカスケの姿もあった。
席に着いた時、カスケは来てしまった自分の気持ちが分からなかった。クラシックの音楽会に、同性の友達に誘われるとたまに行くぐらいで、ロックなどは騒音としか思えなかった。だが、原因はちゃんとあった。
カスケは透明になったリョウに犯されてから心の深い奥底で知らず知らずのうちにリョウに魅かれていたのだ。透明人間の正体がリョウだと未だ知らないカスケは困惑しながらもリョウに自分の肉体を愛撫してほしくてたまらなかった。
ところがカスケは未だに僕とリョウがイチャイチャしていると異常なまでの憎悪をリョウにぶつけ続けていた。どうやら僕に対する執着心は決してなくなってはいないようだ。
カスケの五感すべてが強烈なビート音に占領されつくされていた。
ステージの両サイドに積まれたギターアンプとベースアンプ、そしてPAから響き渡る爆発音の奔流に打ちのめされ、金縛りにでもあったように座席にはりついていた。
「ああ! 身体ン中がめちゃくちゃになりそうだ……」
真夏の海岸で真っ黒に焼いた背中の皮膚が、剥ける時に感じるあのむずがゆさ。そのむずがゆい肌を、僕たちのバンドが荒々しく引き剥いていく……それは苦痛の混ざった倒錯的な快感だった。
ステージの上でする演奏は僕にとって初めてだった。
何事にも引っ込み思案だったから、今まで人前に出ることなど、思っても見なかった。外井先生のガムシャラな特訓に今はついて行くのが苦ではない。いや、楽しくてしょうがないぐらいだった。
リョウは巧みにピックを操って、小気味よくコードを刻んで行く。
シャキ、シャキ、シャキ……。
弾むように躍動するリズム。いまリョウは熱くなっていた。身体中を走る快感に酔っていた。
リョウのギターはカスケの脳髄にリズムを叩き込んだ。
カスケの服の下で尖った乳首が痛いほど疼き始めた。
カスケは服の裾にそっと手を差し込んで指先を上へ上げた。そのまま乳首を軽くなぞった。
カスケの快感の吐息は圧倒的なサウンドに押しつぶされ、誰ひとり聞こえなかった。
指先の動きをカスケはもう止めようがなかった。生きているようにひとりで淫らな振る舞いをしてしまう。
カスケはリズムに合わせて乳首を揉み続ける。
「ぼくはアキラのことが好きだったはずなのに……。どうしてリョウなんかに⁉︎ 認めたくないのにリョウのが欲しくてたまらないッ!」
ここにこのままいたら、隣席の人にカスケの痴態を気づかれてしまうだろう。いや、それ以上にカスケは今の自分が許せなかった。カスケはそっと席を立った。
火照った身体で通路を歩いて行く。
ドアの辺りは入りきれない若者たちの人垣ができていた。汗の匂いにむせかえるような男たちの人垣をかいくぐると、ぎりぎりまで鋭くなった官能がいっそう刺激された。
カスケの座っていた座席は、じっとり湿っていた。
観客たちの熱狂と興奮はますますエスカレートしていった。
「リョウ君、抱いて~ッ♡」
「リョウ様、ステキッ!!!」
「アソコにビンビン響いてきやがるぜ~ッ!」
そんな声にもまして、僕への声援は凄まじかった。
「アキラきゅん、こっち向いて!」
「アキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラ……君が欲しい♡」
「アキラきゅんをペロペロしたいのら~ッ!!!」
シートに座る半数以上の観客たちが立ち上がり、リズムに合わせて揺れ始めた。
長い脚でファズペダルを踏みながらリョウは心に叫んだ。
「アキラ、今度はお前が歌うんだ」
リョウはファズペダルを踏み込んだ。テレキャスターのトーンがたちまち一変した。そして、全ての音がエンディングに向かって、バラバラに暴れ出していった。
熱狂の拍手と口笛は演奏が終わってもしばらく鳴りやまなかった。
「これは俺を妊娠している」
「リョウ様、尊い尊い尊い尊い尊い尊い尊い尊い尊い尊い尊い尊い……」
「アキラきゅんにバブみを感じてオギャりたい♡」
満場が拍手で拍子をとって叫びたて始めた。
僕はぼんやりとリョウを見やった。
「もう1回やるとするか」
「うん♡」
やがて、僕のファニーなボーカルがリョウと外井先生の演奏をバックに観衆たちを再び圧倒し始めた。
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