男の子たちの変態的な日常

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62 変態七不思議〜前編〜

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 とある夜、超能力やオカルトの研究をしているカスケに連れられて僕も学園七不思議の調査に付き合わされていた。
 ――がさがさッ!

「うひゃあああああああッッ!」

 夜風で揺れた木の葉の音にカスケはガクガクブルブルと震わせて、派手に飛び上がった。

「そんなに恐いのなら、わざわざ夜に行くことないのに……」
「そそそそ、そんなこと言ったって、幽霊は夜出るモノって相場が決まってるからね」

 尻餅をついたカスケはズボンに付いた砂ぼこりを払いながら、そそくさと立ち上がった。

「……まったくへタレだなぁ~、カスケは」

 呆れた僕は哀れむような目でカスケを見ながら後に続く。

「えーっと、まずは本校舎の中央階段だね」

 懐中電灯の明かりでメモを見るカスケは僕の手を握って、おずおずと本校舎に踏み込んだ。

「よし、中央階段に到着っと……」

 非常灯だけが灯っている本校舎内は、ぼんやりとオレンジ色に光っていて、幽霊トンネルのように不気味な雰囲気を醸し出している。

「この階段、昇りが十二段で、下りが十三段だって話らしいんだ」

 恐る恐る階段に足を掛けたカスケは、ゆっくりと中央階段を昇り始めた。

「一段、二段、三段……あーあ、恐い恐い……」
「もう、カスケったら! いいから早く数えてよ~」
「……十、十一、十二、と」

 階段の頭上まで昇ったカスケはホッと胸をなで下ろした。

「昇りは十二段あるね……これで下りが十三段だと噂は本当だ」

 僕とともにうなずいたカスケはゴクリと息を呑みながら、ゆっくりと階段を下り始めた。

「一段、二段、三段……あーあ、恐い恐い……」
「だから、それやめてよねッ! こっちまで恐くなってくるじゃん……」

 僕もちょっと恐くなってきて、2人で身を寄り添いながら、一歩一歩、確かめるように階段を下りてゆく。

「十段、十一段……」

 階段の暗闇にひそんでいた何者かがワクワクしながら身を乗り出した。

「今何時か分かるか?」

 タイミングを見計らっていた何者かが十一段まで数えたところでカスケに時間を聞いた。

「え?」

 突如時間を聞かれたカスケは十一段目に立ち止まって、腕時計を見た。

「十二時だけど?」

 僕に向き直ったカスケは時間を答えて、再び階段の数を数え始めた。

「え? 僕、時間なんか聞いてないよ」

キョロキョロとまわりを見た僕はブンブンと手を振った。

「嘘ついちゃダメだよ。アキラ以外ここにいないんだから。えっと、ここが十二で、十三……あら?」

 十一段目に立ち止まっていたカスケは『十二時』と答えたことで階段の数を一段よけいに数えてしまった。

「ほ、本当に十三段あった……う、う、うわあああぁぁぁ!」

 悲鳴をあげたカスケは猛烈な勢いで校舎から走り去ってしまった。

「あ、ちょっと、カスケ⁉︎」

 一人置き去りにされた僕は慌ててカスケのあとを追っていった。

「ぎゃはははは! 大成功だぜ~」

 暗闇から、にょっきりと顔を出したリョウは大笑いしながら言った。


ーーー


 一旦は階段から逃げ出したものの、プライドからか、カスケはピタリと足を止めた。

「はあぁ……ぼくとしたことが、すっかり取り乱してしまった」

 息を整えたカスケは追ってきた僕とともに、次の『スポット』へ向かった。

「えーっと、次は理科室の人体標本だ」

 カスケは壁際のスイッチを押して、理科室の明かりを点けた。
 キンキンと音がして、理科室の蛍光灯が灯るとカスケはホッと安堵の表情を浮かべた。

「確か、人体標本が笑うんだっけ……あーあ、嫌だなぁ~」

 肩をすくめたカスケは自分の肩を抱きしめながら、一人で人体標本の置いてある『準備室』へと入ってゆく。
 人体標本を見つけたカスケはビクビクと怯えながらも、ポケットから竹ぼうきを取り出した。

「妙に生々しい人体模型だなぁ……嫌だな」

 カスケは竹ぼうきで人体標本の胸をコチョコチョとくすぐった。

「……ぎゃはははッ! そこのお前! くすぐったいじゃねぇか~ッ!!! あひゃははははははッ!!!」

 突如人体標本が動き出し、首を左右に振りながら、ゲラゲラと笑いだした。
 もちろん本物ではない。
 標本とそっくりな絵を描いた、『全身タイツ』を着たリョウが演じているのだ。

「どひぃぃぃぃぃッッ!」

 おどけて笑う人体標本にカスケは竹ぼうきを放り出し、顔を引きつらせて遁走した。

「おいおい、逃げるとは失礼なヤツだなぁ~! ぎゃはははははッ!!!」

 リョウは逃げるカスケを追いかけた。

「いびゃ、いびゃあぁぁぁぁぁッ!」
「ん? カスケ、どうしたの?」

 準備室の前で待っていた僕は泣き叫びながら走り去るカスケを見て、慌ててあとを追っていった。


ーーー


「ホントに人体模型が喋ったんだよッ!」
「やれやれ、カスケっってホント怖がりだよね。……あらら? 何だろ、アレ?」

 ふとグラウンドの方を見ると、誰かがブツブツとつぶやきながら歩いてくる。
 僕の指さす方向を見たカスケは、こちらに向かって歩いてくる緑色の物体に顔を引きつらせた。

「……うへへへ♡ 重量感のある筋肉に、くびれた腰回り。大人しそうな顔をして、体はがっちりと肉付きが良く、エロい! これぞまさに真のイケメンだッ!!!」

 ゲイ雑誌を見ながら、ニヤニヤと笑みを浮かべて、ブツブツとつぶやく『緑色』の物体は、すでに腰を抜かしかけているカスケに向かって歩いてくる。

「に……にの、二宮尊徳ぅぅぅッ!」

 ゆっくりと歩み寄る『二宮尊徳の銅像』に、完全に腰を抜かしたカスケは這うようにしてジタバタと逃げ出した。

「イケメンなら誰でもいいーーーーッッ!」

 ――ずどどどどどど!
 大声で叫んだ『二宮尊徳』は逃げまどうカスケに向かって、猛ダッシュをかけた。
 その姿はそこはかとなく滑稽だっったが、今のカスケには凶悪な緑色の化け物に見えていた。

「うびゃ、いびゃあああぁぁぁぁッ!」

 言葉にならない悲鳴をあげたカスケは匍匐前進状態にもかかわらず、凄まじい速さで走った。

「うひゃあ、こわいッッ!」

 僕も二宮尊徳に追われて、スタコラと逃げ出した。

「男、犯してぇーーーーッ‼︎」

 ――ずどどどどどどッッ!

「うびゃ、うびゃあぁぁぁッ!」

 ――しゃかしゃかしゃかッッ!
 匍匐前進なのにもかかわらずカスケは普通に走っている僕を振り切って、凄まじい速度でグラウンドから走り去った。
 僕もカスケのあとを追ってグラウンドから逃げ出していった。

「……ふぅ」

 ごそごそと二宮尊徳の着ぐるみを脱いだリョウは大きく深呼吸をした。

「あれだけ派手に怖がってくれると、驚かす側としては大満足だぜ~」

 ニヤリとほくそ笑んだリョウは脱いだ着ぐるみを抱えて、ヒタヒタと戻っていった。
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