男の子たちの変態的な日常

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57 変態温泉〜前編〜

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 気がつくと季節はいつの間にか、すっかり秋になっていた。

「なあ、アキラ。温泉旅行にいかないか?」

 リョウはそう言うと、1枚のパンフレットを差し出した。それはある温泉旅館のパンフレットであった。
 パンフレットによると、大きな露天風呂が4つもある豪華な宿だった。

「へぇ~、なかなか良さげだね♡」

 僕はパンフレットを見て驚きの声をあげた。
 部屋の雰囲気も落ちついたもので、好感が持てる。明らかに安っぽい温泉ホテルとは一線を画していた。

「かなり豪華みたいだけど、お金の方は大丈夫なの?」
「大丈夫だ。特別にタダで泊めてもらうことになった」
「ええ⁉︎ なんでタダなの?」
「ここは俺の知り合いがやってるところでな。アキラだったら喜んで泊めてくれるはずさ」

 リョウが自信を持ってそう言いきったので、話は決まった。


ーーー


 ホームに列車が滑り込んできた。
 3連休の初日ということで車内はほぼ満席だった。僕たちは座席を向かい合わせに動かすと、向き合って座った。
 すぐに列車が動き出す。
 電車を降りると、僕たちは駅前のバス乗り場に急いだ。
 バスを待つ間に、さっそくリョウがカメラを取り出し、記念写真を撮る。
 目的の温泉旅館へは、ここからバスで1時間半揺られて終点まで行き、そこからさらに送迎の車で30分かかるという、とんでもない山奥にあるのだ。そんな山奥で旅館を営んでいけるというのがちょっと信じられないが、温泉ブームもあるのだろう、話を聞くとけっこう繁盛しているらしい。
 待つことしばし、僕たちはやってきたバスに乗り込んだ。車内はけっこう混んでいたが、どうせ終点まで行くのだからと僕たちは最後部の席に座った。
 バスは市街を抜け、背後に控える山に向けて高度をあげていった。途中で乗客が次々に降りていく。
 しだいに道路の勾配がきつくなっていく。バスは喘ぎあえぎ、急坂を登っていく。
 そろそろバスに乗ってから1時間が経とうとしている。お尻が少しばかり痛くなってきた。この頃になると、乗客の数もめっきり減っていた。
 やがてバスのアナウンスが終点の案内をはじめた。
 間もなくバスは、ひっそりと終点に到着した。そして、今きた道を引きかえしていく。
 一緒に降りた数人の乗客たちはそれぞれの目的地に向かって消えていき、バス停には僕たちだけがぽつんと取り残された。
 吹き渡る風が肌寒く感じられる。人っ子ひとりいないバス停で迎えの車を待っていると、とても今日が3連休の初日だなんて思えない。
 そのとき、静けさを破ってリョウの声が響いた。リョウはまたしてもカメラを取り出し、僕をモデルに写真を撮り始めていた。
 リョウがパシャパシャとカメラのシャッターを押していると、上の方から車がこちらに向かって走ってくるのが目に入った。
 その車を認めたリョウが声をあげる。

「あの車だなぁ」

 リョウが車に向かって大きく手を振る。
 旅館の迎えの車だからマイクロバスか何かだと思っていた。ところが、僕たちの前にとまった車はなんとパジェロだった。そして、もっとビックリしたのは、パジェロから降りてきたのが、外井げい先生だったことだ。

「え~ッ⁉︎ リョウが言ってた知り合いって外井先生のことだったの⁉︎」

 旅館のイメージとはあまりにかけ離れた外井先生を見て目を白黒させている僕にリョウが説明してくれた。

「実は温泉旅行のパンフレットを俺にくれたのは外井先生でな。アキラとならタダにしてくれるって言い出したのも外井先生なんだ」
「そうよ~、リョウ君にアキラきゅんを誘うように言ったのはア・タ・シ♡ じゃあ、さっそく行きましょうか。着いたらすぐにお風呂を使ってちょうだ~い♡」

 外井先生は僕たちを促し、さっそうとパジェロに乗り込んだ。
 僕たちが乗ると、外井先生はぐいっとクラッチを踏み込み、ギヤをローに入れ、アクセルを踏む。パジェロのエンジンがうなりをあげ、荒々しく発進する。
 いかにも慣れた手つきでパジェロを走らせる外井先生のドライビングを、僕はうっとりと見ていた。
 急坂を登っていくが、バスと違ってパジェロは少しも苦しそうな素振りを見せない。
 だが、乗り心地はあまりいいとは言えない。電車、バス、車と、いい加減乗り物にも飽きてきた僕たちには、いささかシートが固かった。
 30分ほど走っただろうか。周囲には人家の1軒もなく、道路の両側には鬱蒼とした森がひろがっている。
 やがてちょっとした渓谷にかかる橋を渡ると、ぽっかりとした広場に出た。そこが旅館の駐車場だという。
 駐車場の向こうには、築地塀が左右に走っている。塀の上からは建物が顔をのぞかせているのだが、改築のためのビニールシートが被さっているのが興ざめといえば興ざめだ。
 門をくぐると、玉砂利を敷き詰めた日本庭園があり、その中を石を敷いた通路が玄関まで通じている。だが、外井先生はそちらへは僕たちを誘導せずに、庭園の奥の方に向かった。

「こっちに離れがあるの。本館の方は改築中だから離れを使ってちょうだいねぇ~♡」

 そう言うと、外井先生はずんずんと先にたって歩いていく。
 庭園は思ったよりずっと広い。こんな山の中にどうしてこれだけの敷地が確保できたのかと思うくらいに広い。聞こえる音といえば、鳥の鳴き声ぐらいで、本当に別天地にきたという実感が湧く。
 外井先生に導かれて離れの中に入る。こちらも思ったより広い。
 とんでもない高級旅館だ。いいのかな、こんなとこにタダで泊めてもらっちゃって。
 僕は、ちらりとリョウの顔を見た。リョウは平然としている。なら、いいか。僕も度胸を決めた。こんな高級旅館に泊まれる機会なんて、次にいつあるかわからないんだ。思う存分楽しもう。
 荷物を部屋の隅に降ろすと、ふかふかの座布団に座った。電車、バス、車と、延々と揺られてきたお尻には気持ちがいい。

「じゃあ、アタシはお茶とお菓子を持ってくるわねぇ~♡」

 外井先生は僕たちに向かって頭を下げると、部屋を出ていった。

「こんなに立派なトコだとは思わなかったよ。フツーに泊まったら、いくらぐらいするんだろ?」
「この部屋だと、一泊5万ぐらいだろうなぁ」

 リョウがしごく平然とした口調で答える。

「ごまんえ~んッ⁉︎」

 僕は金額を聞いただけで怖じ気づいてしまった。

「ほ、本当にいいのかな?……」

 僕はリョウに念を押す。

「いいんだよ。外井先生もいいって言ってんだからさ。それに外井先生はアキラのことを気に入ってるみたいだしな」

 そうこうするうちに、外井先生が戻ってきた。

「どうぞ~、たんとお食べ♡」

 外井先生がお菓子をテーブルの上に置き、お茶をいれてくれる。日本茶の香ばしい香りが部屋に漂った。これも、たぶん高級茶なんだろうなぁ。
 僕たちがお茶をすすっているうちに、外井先生は用があるみたいで部屋から出ていった。

「なあなあ、お風呂行こうぜ~」

 突然、リョウが元気よく立ち上がった。

「そうだね、旅の疲れを落とすのは、なんといっても温泉だもんね」

 僕も相槌を打った。
 部屋にはフツーのタオルだけでなく、ちゃんとバスタオルまで用意されていた。バスタオルとタオルそれに宿の浴衣を持って、僕たちは露天風呂に向かった。
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