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56 アルファ喪女VSキモオタ放火犯〜前編〜

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「ぐへへ、2次元の女の子と結婚できる初のゲームです」

 ここは私が勤めるエロゲ会社(ワンマン経営のブラック企業)の応接室。
 カメラマンのフラッシュを浴びながら我が社のワンマン社長がマスコミの取材に答えている。その横で居心地悪そうに座っているのは我が社、最大のヒット作『男尊女卑天国』のディレクターに無理やりされてしまった私だ。

「2次元の女の子と結婚ですか?」

 マスコミ記者が聞きかえす。

「ぐへへ、その通り。このゲームは2次元の可愛い女の子とユーザーが会話を交わすことが出来るのです。ぐへへ、このゲームが何故ここまでの社会現象になったか分かりますか?」

 社長が得意気な口調で聞く。

「すみません、分からないです……」
「ぐへへ、それは2次元の女の子が絶対服従だからです。それも単純な服従ではない。ユーザーの性癖に合わせた理想の服従です。そして、ユーザーひとりひとりに対して完璧な会話をしてくれます」

 社長がはっきりとした口調で言った。

「完璧というのをもう少し具体的に……」

 マスコミ記者が質問をつづける。

「ぐへへ、ユーザーの精神状態をAIが分析し、ユーザーが望む通りの反応をするように作られております。AIがユーザーの個々の色々な情報から、ユーザーのことを学び、分析し、進化する。そして限りなくユーザー好みの女の子に仕上がるというわけですな、ぐへへwww」

 社長はホッとひと息つく。

「このゲームに熱中するあまり、現実社会や現実の女性に興味が持てなくなってしまった男性が増えている現状についてどう思われますか?」
「ぐへへ、それだけ2次元が素晴らしいということでしょう。メディアの発達は、常にリアルな架空のアイドルを生みだします。アダルトビデオの時代から今はバーチャルの時代に移行しただけの話ですよ」

 そう言うと、社長はひと束の印刷物を取り出して、マスコミ記者の前に提示する。

「ぐへへ、このゲームのヒロインを主人公にしたテレビアニメの制作が決定いたしました。こちらが企画書となっております。制作を担当するのは大ヒット作を飛ばし続ける『狂気アニメーション』です。テレビアニメでも『男尊女卑天国』をよろしくお願い致します、ぐへへwww」

 私は取材が終わるまで終始ため息をついていた。


ーーー


 私は社長の命令で、このクソくだらないゲームのアニメ化について『狂気アニメーション』まで打ち合わせに来ていた。
 終始憂鬱な気分ではあったが、愛する夫のオメガが同行してくれたおかげで少しは気が楽だった。

「基本的なキャラ設定だけ原作に忠実にしていただければ、後はそちらにお任せします。このゲーム自体、ストーリー性など皆無で単にユーザーの快楽原則に即した作品でしかないので、お好きなように調理してもらって構いません」
「了解しました。いやはや、こんな作品が売れるなんて世も末ですね。今後のオタク業界が不安になってきますよ」

 アホなキモオタを相手に商売する辛さを感じているのはゲーム業界だけでなく、アニメ業界も一緒なのだろう。だが、オタク業界全体が衰退している現状では金を出してくれる者に全力で媚びなくては生き残っていけない。
 早い話がキモオタは私らにとって大事な金づるなのだ。

「ええ、お気持ちは大変よく分かります。ですが、今回のアニメが成功すれば我が社にとっても狂気アニメーションにとっても大いに利益になることは間違いありません。ここまで社会現象になっている今がチャンスと言っても過言ではないでしょう」
「貴腐寺院さんの仰る通りですね。分かりました。オタク男性にとって面倒くさくなく都合が良い、彼らの欲望に忠実な作品に仕上げるためにキャラ萌え重視のストーリー性を排除したアニメにしたいと思います」

 監督が苦笑しながら言った。

「ありがとうございます。後、オタク男性のコンプレックスを刺激するようなイケメンキャラやスペックの高い男キャラだけは出さないようにしてください。オタク男性は承認欲求が強いので自分が感情移入できない男キャラを親の仇のごとく叩く傾向にあります。くれぐれも注意してください」
「はい、承知しております。男キャラは出さない方が無難かもしれませんね。オタク男性は男キャラが数人出てきただけで『腐向け』だの『男キャラ出すな』だの意味不明な言いがかりをつけてくることがありますから……」

 そこまで極端な難癖をつけるキモオタがいるとはwww
 ありえないクレームをつけてくるキモオタはゲーム業界にも腐るほどいるけど、アニメ業界も相当苦労が絶えないみたいね……。
 私たちがアニメ化の打ち合わせをしていると、だんだん部屋中に焦げ臭い匂いが立ち込めてきた。

「どこからか焦げ臭い匂いがしますね。少し外の様子を見てきますね」

 そう言って監督が立ち上がった瞬間、部屋のドアがバタンと開いた。

「あ、熱いッ!!! 誰か助けてくれぇ~ッ!!!」

 なんと部屋の中に全身火達磨になったアニメスタッフが駆け込んできた。
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