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番外編⑤濡れ衣を着せられました!

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 体育の時に更衣室から女子の下着が盗まれる事件が発生した。


「女子の皆さ~ん、白川しらかわ エレンくんのロッカーの中から大量の下着が入っていたそうよ! ちなみに先生のパンツも入ってたわwww」


 羽座井うざい先生は嬉々としながらエレンくんに濡れ衣を着せる。


「はあ⁉︎ ふざけんな、誰がテメエの汚ねえパンツなんか盗むかッ!」
「黙らっしゃい! あなたのロッカーから見つかったのは自明の理よ! さあ、大人しく観念して警察にパクられなさいwww」


 羽座井うざい先生は用意周到に警官を呼んでおり、さっそくエレンくんを拘束させた。


「おい、俺は冤罪だッ! 弁護士を呼んでくれ~! 必ず羽座井うざい先生を虚偽告訴等罪で検挙してやる!!!」


 そう吐き捨てると、エレンくんは警官に取り押さえられたままパトカーに乗せられていった。
 その光景を羽座井うざい先生とクラスの男子たちはニヤニヤしながら見つめていた。


「一部を除いて誰もエレンくんを犯人だと思ってないんだから、警察沙汰にする必要なかったんじゃないの? 下着さえ返してもらえれば、みんな文句ないんだし……」


 僕がそう言うと、羽座井うざい先生は食ってかかるように反論した。


「性犯罪を犯した者に情けなど不要よ! 自分の彼氏だからといって妙な擁護は止めなさいッ!!!」


 羽座井うざい先生に怒鳴りつけられて萎縮する僕を貴腐寺院きふじいんさんがフォローしてくれた。


「他の男子ならともかく、エレンくんに限って女子の下着を盗むような暴挙に出るはずがないでしょ。間違いなく、真犯人は他にいるわ。それに一つ疑問があるんだけど、羽座井うざい先生の下着なんか一体どこから盗んだというのかしら? そもそも犯行時刻が体育の時間というのも妙な話よね。その時間帯ならエレンくんだって男子の体育に参加してるはずよ。明確なアリバイがあるエレンくんに犯行は不可能だわ」


 貴腐寺院きふじいんさんはジト目で周囲の男子たちを見ながら言うと、羽座井うざい先生がガミガミと甲高い嫌な声で喚き散らす。


「先生に口答えするんじゃありませんッ! 男子たちも体育の時にエレンくんを見かけない時があったと証言してるんだからアリバイなんかないに等しいの! つまり犯人はエレンくんで間違いないわwww」


 羽座井うざい先生はまくし立てるように言うと、プリプリと尻を振りながら教室を後にするのだった。




ーーー




「ふぇぇ……エレンくんが捕まっちゃったよ!」


 あまりのショックで号泣している僕を貴腐寺院きふじいんさんが慰めてくれた。


「落ち着いて、かなでくん。エレンのくんの濡れ衣を晴らすような決定的証拠があれば、勝ち目はあるんだから」
「でも……そんな証拠どこに?」


 しょんぼりしている僕の目の前に幸薄い感じの地味な女子生徒が声をかけてきた。


「えっと……あの……その……」


 かなりコミュ障っぽい感じで僕に話しかけてくるが、声が大変小さく、周囲の男子生徒たちの声に掻き消される。


「あぁ、もう! 言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよッ!」


 貴腐寺院きふじいんさんが周囲の男子生徒に負けないくらいの大声で言うと、彼女は草食動物のように驚いて逃げていった。


「今の誰だろう?」
「あら、知らないの? 同じクラスの薄井うすいさんじゃない。まあ、影薄いから私も今の今まで忘れてたけどねwww」


 そういえば、そんな名前の子がいたような気もする。
 いつもボッチで大人しくて友達もいないようなタイプの子が、どうして僕に話しかけてきたんだろうか?
 気になった僕は薄井うすいさんの後を追っていった。


「待って、僕に話があるんでしょ! お願いだから、止まって!」


 僕は息を切らしながら中庭まで薄井うすいさんを追い続けると、やっと彼女は足を止めた。


「ごめんね。さっきは周りがうるさくて、よく聞こえなかっただけなんだ。ここなら落ち着いて聞けるから存分に話してよ。どうしても僕に伝えたいことがあったんだよね?」


 僕がそう言うと、薄井うすいさんは息を整えてから口を開いた。


「えっと……実は私、真犯人を見たんです」
「な……なんだって~⁉︎」


 びっくり仰天してしまった僕はソーシャルディスタンスを無視して薄井うすいさんに近づいた。


「一体誰が犯人なの?」
「同じクラスにいるDQNグループの男子たち……」


 薄井うすいさんの話によると、体育の授業を抜け出したDQN共が女子更衣室から全員分の下着を持ち出すところを目撃したそうだ。しかも全ての下着を一枚ずつ自分のペニスに包み込んでオナニーまでしたらしい。


「よく気付かれずに済んだね。どこから見てたの?」
「物陰からこっそりと……。私、影薄いから気付かれなかったみたい。普段から教室でも男子から汚い空気のような扱いされてるしね……」


 確かに薄井うすいさんほど、いてもいなくても変わらないほど印象が薄い女子生徒はクラスにいない。
 僕も話しかけられるまで薄井うすいさんの存在を認知することがなかった。


「その日、薄井うすいさんは体育には出てなかったの?」
「うん、生理だったから見学してた。でも、私なんかがいてもいなくても変わらないから誰もいないところに行こうと思って。そしたら、ちょうど犯行現場を目撃しちゃったの……」


 DQN共はオナニーし終わった後に精液を下着にぶっかけると、男子更衣室の方へと向かっていったらしい。おそらくエレンくんのロッカーに下着を入れに行ったのだろう。


「ありがとう、薄井うすいさん! これでエレンくんを助け出せるよ♡」


 僕が御礼を言うと、薄井うすいさんは頰を赤らめながら視線を逸らした。


「その……えっと……エレンくんの冤罪が晴れるといいね……」


 そう言うと、薄井うすいさんはまた足早に駆け出そうとする。


「待って、薄井うすいさん!」


 僕が呼び止めると、ビクッと薄井うすいさんは身体を震えさせる。


「えっと……まだ何か用?」
「うん、薄井うすいさんと友達になりたいと思ってね♡ 良かったら、この後、一緒にお弁当食べない?」


 薄井うすいさんのことを純粋にもっと知りたいと思った僕はランチに誘うことにした。


「私なんかと一緒にいたら、北条ほうじょうくんも気持ち悪がられるよ……」
「えぇ、なんで?」
「だって、私……ブスだから」
「僕だって全然イケてないよ。単純にもっと薄井うすいさんと仲良くなりたいだけ♡」


 僕がそう言うと、薄井うすいさんは一瞬悩んだ後に口を開いた。


北条ほうじょうくんと2人だけならいいよ。私、3人以上いると話せないから……」
「うん、分かった♡」


 こうして薄井うすいさんと少し仲良くなった僕は警察と弁護士に相談することにした。
 証拠として押収されていた女子の下着からDNA鑑定でDQNグループの精液が付着していたことが明らかになり、あっさりとエレンくんの無実が証明された。
 真犯人のDQN共は容疑を認め、主犯格が羽座井うざい先生であることを証言した。エレンくんを陥れることを画策した羽座井うざい先生は色仕掛けでDQNグループを従わせ、犯行に及ばせたらしい。まあ、だいたい予想はしていたが、相変わらず狡猾な女だ。
 羽座井うざい先生は虚偽告訴等罪に問われ、無事逮捕されるのであった。


「エレンくんの潔白が証明できて本当に良かったよ♡」
「今回ばかりはもうダメかと思ったぜ。かなでには感謝してもしきれねえよ♡」
「うんうん、薄井うすいさんのおかげだよ♡ ほら、あの子が……」


 エレンくんに紹介しようと思ったら、薄井うすいさんは頰を赤らめながら足早に去っていった。


「あらら、逃げちゃったよ。この間は2人でランチしたんだけどなぁ……」
「なるほど、かなでにだけは懐いてるわけか。2人だけの時にかなでの方から俺の感謝の念を伝えてやってくれ♡」
「うん、ちゃんと伝えてみせるよ!」


 そのうち薄井うすいさんがみんなの輪に入れることを祈りながら、僕たちは『無実』のプラカードを掲げる貴腐寺院きふじいんさんたちの前で盛大に舌を絡めるほどのキスをするのだった。
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