上 下
32 / 36

番外編⑤濡れ衣を着せられました!

しおりを挟む
 体育の時に更衣室から女子の下着が盗まれる事件が発生した。


「女子の皆さ~ん、白川しらかわ エレンくんのロッカーの中から大量の下着が入っていたそうよ! ちなみに先生のパンツも入ってたわwww」


 羽座井うざい先生は嬉々としながらエレンくんに濡れ衣を着せる。


「はあ⁉︎ ふざけんな、誰がテメエの汚ねえパンツなんか盗むかッ!」
「黙らっしゃい! あなたのロッカーから見つかったのは自明の理よ! さあ、大人しく観念して警察にパクられなさいwww」


 羽座井うざい先生は用意周到に警官を呼んでおり、さっそくエレンくんを拘束させた。


「おい、俺は冤罪だッ! 弁護士を呼んでくれ~! 必ず羽座井うざい先生を虚偽告訴等罪で検挙してやる!!!」


 そう吐き捨てると、エレンくんは警官に取り押さえられたままパトカーに乗せられていった。
 その光景を羽座井うざい先生とクラスの男子たちはニヤニヤしながら見つめていた。


「一部を除いて誰もエレンくんを犯人だと思ってないんだから、警察沙汰にする必要なかったんじゃないの? 下着さえ返してもらえれば、みんな文句ないんだし……」


 僕がそう言うと、羽座井うざい先生は食ってかかるように反論した。


「性犯罪を犯した者に情けなど不要よ! 自分の彼氏だからといって妙な擁護は止めなさいッ!!!」


 羽座井うざい先生に怒鳴りつけられて萎縮する僕を貴腐寺院きふじいんさんがフォローしてくれた。


「他の男子ならともかく、エレンくんに限って女子の下着を盗むような暴挙に出るはずがないでしょ。間違いなく、真犯人は他にいるわ。それに一つ疑問があるんだけど、羽座井うざい先生の下着なんか一体どこから盗んだというのかしら? そもそも犯行時刻が体育の時間というのも妙な話よね。その時間帯ならエレンくんだって男子の体育に参加してるはずよ。明確なアリバイがあるエレンくんに犯行は不可能だわ」


 貴腐寺院きふじいんさんはジト目で周囲の男子たちを見ながら言うと、羽座井うざい先生がガミガミと甲高い嫌な声で喚き散らす。


「先生に口答えするんじゃありませんッ! 男子たちも体育の時にエレンくんを見かけない時があったと証言してるんだからアリバイなんかないに等しいの! つまり犯人はエレンくんで間違いないわwww」


 羽座井うざい先生はまくし立てるように言うと、プリプリと尻を振りながら教室を後にするのだった。




ーーー




「ふぇぇ……エレンくんが捕まっちゃったよ!」


 あまりのショックで号泣している僕を貴腐寺院きふじいんさんが慰めてくれた。


「落ち着いて、かなでくん。エレンのくんの濡れ衣を晴らすような決定的証拠があれば、勝ち目はあるんだから」
「でも……そんな証拠どこに?」


 しょんぼりしている僕の目の前に幸薄い感じの地味な女子生徒が声をかけてきた。


「えっと……あの……その……」


 かなりコミュ障っぽい感じで僕に話しかけてくるが、声が大変小さく、周囲の男子生徒たちの声に掻き消される。


「あぁ、もう! 言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよッ!」


 貴腐寺院きふじいんさんが周囲の男子生徒に負けないくらいの大声で言うと、彼女は草食動物のように驚いて逃げていった。


「今の誰だろう?」
「あら、知らないの? 同じクラスの薄井うすいさんじゃない。まあ、影薄いから私も今の今まで忘れてたけどねwww」


 そういえば、そんな名前の子がいたような気もする。
 いつもボッチで大人しくて友達もいないようなタイプの子が、どうして僕に話しかけてきたんだろうか?
 気になった僕は薄井うすいさんの後を追っていった。


「待って、僕に話があるんでしょ! お願いだから、止まって!」


 僕は息を切らしながら中庭まで薄井うすいさんを追い続けると、やっと彼女は足を止めた。


「ごめんね。さっきは周りがうるさくて、よく聞こえなかっただけなんだ。ここなら落ち着いて聞けるから存分に話してよ。どうしても僕に伝えたいことがあったんだよね?」


 僕がそう言うと、薄井うすいさんは息を整えてから口を開いた。


「えっと……実は私、真犯人を見たんです」
「な……なんだって~⁉︎」


 びっくり仰天してしまった僕はソーシャルディスタンスを無視して薄井うすいさんに近づいた。


「一体誰が犯人なの?」
「同じクラスにいるDQNグループの男子たち……」


 薄井うすいさんの話によると、体育の授業を抜け出したDQN共が女子更衣室から全員分の下着を持ち出すところを目撃したそうだ。しかも全ての下着を一枚ずつ自分のペニスに包み込んでオナニーまでしたらしい。


「よく気付かれずに済んだね。どこから見てたの?」
「物陰からこっそりと……。私、影薄いから気付かれなかったみたい。普段から教室でも男子から汚い空気のような扱いされてるしね……」


 確かに薄井うすいさんほど、いてもいなくても変わらないほど印象が薄い女子生徒はクラスにいない。
 僕も話しかけられるまで薄井うすいさんの存在を認知することがなかった。


「その日、薄井うすいさんは体育には出てなかったの?」
「うん、生理だったから見学してた。でも、私なんかがいてもいなくても変わらないから誰もいないところに行こうと思って。そしたら、ちょうど犯行現場を目撃しちゃったの……」


 DQN共はオナニーし終わった後に精液を下着にぶっかけると、男子更衣室の方へと向かっていったらしい。おそらくエレンくんのロッカーに下着を入れに行ったのだろう。


「ありがとう、薄井うすいさん! これでエレンくんを助け出せるよ♡」


 僕が御礼を言うと、薄井うすいさんは頰を赤らめながら視線を逸らした。


「その……えっと……エレンくんの冤罪が晴れるといいね……」


 そう言うと、薄井うすいさんはまた足早に駆け出そうとする。


「待って、薄井うすいさん!」


 僕が呼び止めると、ビクッと薄井うすいさんは身体を震えさせる。


「えっと……まだ何か用?」
「うん、薄井うすいさんと友達になりたいと思ってね♡ 良かったら、この後、一緒にお弁当食べない?」


 薄井うすいさんのことを純粋にもっと知りたいと思った僕はランチに誘うことにした。


「私なんかと一緒にいたら、北条ほうじょうくんも気持ち悪がられるよ……」
「えぇ、なんで?」
「だって、私……ブスだから」
「僕だって全然イケてないよ。単純にもっと薄井うすいさんと仲良くなりたいだけ♡」


 僕がそう言うと、薄井うすいさんは一瞬悩んだ後に口を開いた。


北条ほうじょうくんと2人だけならいいよ。私、3人以上いると話せないから……」
「うん、分かった♡」


 こうして薄井うすいさんと少し仲良くなった僕は警察と弁護士に相談することにした。
 証拠として押収されていた女子の下着からDNA鑑定でDQNグループの精液が付着していたことが明らかになり、あっさりとエレンくんの無実が証明された。
 真犯人のDQN共は容疑を認め、主犯格が羽座井うざい先生であることを証言した。エレンくんを陥れることを画策した羽座井うざい先生は色仕掛けでDQNグループを従わせ、犯行に及ばせたらしい。まあ、だいたい予想はしていたが、相変わらず狡猾な女だ。
 羽座井うざい先生は虚偽告訴等罪に問われ、無事逮捕されるのであった。


「エレンくんの潔白が証明できて本当に良かったよ♡」
「今回ばかりはもうダメかと思ったぜ。かなでには感謝してもしきれねえよ♡」
「うんうん、薄井うすいさんのおかげだよ♡ ほら、あの子が……」


 エレンくんに紹介しようと思ったら、薄井うすいさんは頰を赤らめながら足早に去っていった。


「あらら、逃げちゃったよ。この間は2人でランチしたんだけどなぁ……」
「なるほど、かなでにだけは懐いてるわけか。2人だけの時にかなでの方から俺の感謝の念を伝えてやってくれ♡」
「うん、ちゃんと伝えてみせるよ!」


 そのうち薄井うすいさんがみんなの輪に入れることを祈りながら、僕たちは『無実』のプラカードを掲げる貴腐寺院きふじいんさんたちの前で盛大に舌を絡めるほどのキスをするのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。 平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...