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8 新たなドキドキを知りました!
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街並みをぐるりと見渡せる屋上で僕は友達の貴腐寺院さんに、エレンくんとの関係について相談していた。
「αの男の子の性欲って、言葉では言い表せないほど尋常じゃないよね……」
僕を幸せにするためなら何でもやってくれるエレンくんには普段から無理をしてでも長時間のセックスで恩返ししていた。最近はエレンくんからエッチを求められる頻度が上がり、2人っきりで会う時間の全てをセックスに費やすほどだ。
「どんなイケメンだって、結局は下半身でしか物事を考えられないからね。所詮αの男はΩを性的に搾取するモンスターでしかないわけよ」
そう言うと、貴腐寺院さんは柵に右肩を寄せ、グラウンドを我が物顔で占拠しているαの男子野球部を見詰めた。
「ほら、うちの野球部を見てごらん。あいつら、野球がやりたくて入部してきたΩの子をマネージャーとしてこき使ってるでしょ。Ωの子から野球をする権利を奪って、αの男にとって都合のいい肉便器に仕立て上げるつもりだよ……」
僕もグラウンドの方を見てみると、そこには嫌がるΩの子のお尻をαの野球部員が撫で回しながらニヤついている光景があった。
「Ωってだけで下に見られて、性的に消費されて、人生をαの支配下に置かれる。どんなに抗ったところで、ΩはΩとしての役割からは逃れられない。だから、この現実を受け入れるしかないんだよ……」
貴腐寺院さんの言葉が僕の心にズシンと響いた。
「でも、奏くんは幸せな部類だよ。ちゃんと愛して守ってくれる素敵な彼氏がいるんだからさ♡ それにΩでも奏くんは男の子だから、うちの学校の女子の制服を着なくてもいいんだから本当に羨ましいよwww」
Ωでも男子は黒一色の至って平凡な制服だが、対して女子用の制服は薄ピンクの地に赤い襟と大きなリボン、袖口を重ねた色鮮やかなものだった。靴下は白色限定、靴も茶色の革靴と決められているが、髪は染めない限り自由だ。
ちなみに体操着やスクール水着は男でもΩの場合はブルマと女子用水着の着用が校則で義務づけられている。理由は不明だ……。
「朝起きて学校の制服に着替えるたびに一日が憂鬱な気分でスタートするよ。喪女の私にこんな格好が似合うかっつーのwww」
貴腐寺院さんが苦笑すると、赤いスカートが襟と同じく風に靡いて、脚を膝の裏まで晒した。
「おっと……危うく小汚いサニタリーショーツが見えちゃうところだったよ。やっぱり喪女にとって、この制服は罰ゲームだなぁ。スカートなんかなくなればいいのに……」
今日の貴腐寺院さんがメランコリックな理由が分かった僕はコミュ障なりにフォローする。
「確かに生理中にスカートだと、身体が冷えたり、ナプキンがずれやすかっりして大変だよね。でも、モデルさんみたいに背が高い貴腐寺院さんにはよく似合ってるよ。とっても女の子らしくて、可愛さ限界突破しちゃってる感じ♡」
僕は考えつくだけの褒め言葉を並べると、貴腐寺院さんは頰を真っ赤にしながら動揺する。
「わ、私が女の子らしいって……本気で言ってるの⁉︎ 今までろくに女扱いされてこなかった私なんかが⁉︎」
「うん、貴腐寺院さんは僕が今まで出会った女の子の中で一番魅力的な女の子だよ♡」
今の言葉は僕の本心だ。これまでの人生で出会ってきた女の子はΩの僕をイジメたり、差別したり、嫌って避けるような人間ばかりだった。
でも、貴腐寺院さんはΩの僕に対しても、ひとりの人間として尊重してくれただけでなく、友達になってくれた。
こんなにも素晴らしい人間がこの世界にエレンくん以外にもいたことを知って、僕は人生に改めて希望を持つことが出来たのだ。
「今まで男との人間関係で散々傷つけられてきた私はいつしか『女らしさ』に価値を見出せなくなって、髪を刈り上げたの。どうせ傷つけられるんだったら、女らしくしたって意味がないし、それどころか搾取されるだけだってことに気づいたから。でも、好きな男の子の前でだったら……女らしくするのも悪くないかも♡」
貴腐寺院さんは頰を押さえて真っ赤になりながら言った。
「貴腐寺院さんにも好きな男の子がいるんだね」
「うん……最近できた。ねえねえ、奏くん。明日から私が奏くんにお弁当作ってきてあげるね♡ こう見えて私、料理には自信があるんだぁ」
そう言うと、貴腐寺院さんは恥じらいながら熱っぽい視線を僕の方に向けてくる。
「それだったら、僕に料理教えてくれない? ほら、男を掴むなら胃袋を掴めって、よく言うじゃない。だから、エレンくんに僕も手料理を食べさせてあげたいんだ」
「もちろん、奏くんの頼みなら喜んで♡」
その日から貴腐寺院さんの指導の下で僕の料理修業が始まった。
ーーー
ひとり暮らしのエレンくんが帰宅したのは陽が沈んでからだった。
「ん? なんか良い匂いがするな。誰か俺の家にいるのか?」
キッチンの方からは匂いに限らず様々な物音がする。
「やはり誰かいるようだなぁ。よし、覗いてみるか」
忍び足で台所に歩み寄ってくるエレンくんに僕は声をかけた。
「エレンくん、おかえり~♡」
「奏ッ⁉︎ 俺のために料理を作りに来てくれたのか!」
「うん、貴腐寺院さんに教えてもらったんだ♡」
僕はカレーをかき混ぜながら味見をする。
「よ~し、今日は美味しくできたみたい!」
「奏が俺のために作ってくれたものなら何だって美味しいに決まってるぜ♡」
出来上がったカレーを皿に盛り付けてからエレンくんと一緒に美味しくいただく。
エレンくんはハフハフと熱い吐息を交えて感想を述べる。
「こんなにも美味いカレーを食ったのは生まれて初めてだぜ! 奏の真心が口の中いっぱいに広がるみたいだ♡」
「貴腐寺院さんのおかげで、僕も少しは料理ができるようになったんだ。これからも貴腐寺院さんには色々な料理を教えてもらう予定だから楽しみにしててね♡」
僕がそう言うと、エレンくんは少しばかり眉をひそめる。
「ずいぶんと貴腐寺院さんと仲良くなったみたいだなぁ。学校でもよく話してるみたいだしよ」
「うん、何だか不思議と貴腐寺院さんとは気が合うみたいなんだ」
エレンくんは不安げな瞳で僕の顔をまじまじと見つめながら言った。
「貴腐寺院さんが悪い人でないことは知ってるが、少しばかり奏と距離が近過ぎるような気がするんだよなぁ」
そう言うと、エレンくんは改めてカレーを口に運んだ。
「えっと……どういう意味?」
「奏は天然だなぁ。要するに貴腐寺院さんは明らかに俺の奏に対して好意を持っている。悪いことは言わねえから、貴腐寺院さんとは距離を置いた方がいいぜ。面倒くさいことにならねえうちによ」
エレンの言うことに困り果てた僕は瞳を潤ませながら反論する。
「貴腐寺院さんが僕のことを異性として見てるわけないじゃない。エレンくんみたいなカッコいいイケメンならともかく、僕みたいに背が低くてコミュ障で男らしさの欠けらもないようなΩの男に好意を持つ女の人はいないよ」
自分で自分を卑下したくせに、僕は勝手に凹んでいた。
所詮Ωである僕には産む機械としての役割しか期待されない肉便器だということを強く自覚させられてしまう。
「むしろ俺は奏のそういうところに惹かれたんだけどなぁ。奏を守るために俺はαの男として苛烈な競争社会にも屈せず、頑張ってこれたんだ。言わば、奏の存在が俺を強くしてくれたんだぜ。だから、奏は安心して全てを俺に委ねればいい。Ωはαの男の庇護下で成長していくのだから」
そう言うと、エレンくんはいつの間にか山盛りあったカレーを全て平らげ、デザートに僕を美味しくいただくのであった。
ーーー
あれから僕はエレンくんに言われたことを気にして貴腐寺院さんとの距離感に悩んでいた。
それでも貴腐寺院さんの方はいつも通り気さくに話しかけてきた。
「奏くん、聞いてよ。今日、放課後に私と奏くんだけで体育の補習を受けさせられるんだって。いつも体育は見学ばかりしてるから仕方ないとは思うけど、面倒くさいよね~」
僕と貴腐寺院さんは生理を言い訳にしょっちゅう体育を見学していた。
今回の補習の内容は僕の大っ嫌いな水泳だ。
冬でも、うちの学校は温水プールを完備してるから体育で水泳の授業をしょっちゅうやっている。
「はぁ……僕は水着を着るのが嫌なんだよね。はっきり言って、ブルマを穿くより抵抗あるよ」
「その気持ち分かるなぁ。水着が濡れた時に乳首の形が浮いて見えるのが、すごく嫌なんだよねぇ……」
僕たちは愚痴をこぼしながら、スクール水着に着替えると、プールに行く。
そこには早くも体育教師の助部先生が仁王立ちして待っていた。
「遅いじゃねえか、テメエら! やる気あんのか~ッ⁉︎」
助部先生は胸の大きい子にだけ甘くて、男子や喪女に対しては厳しい体育会系気質の人だった。
「いつも生理を言い訳にして体育を休む根性なし共めッ! 生理など気合いや根性でいくらでも我慢しろ~! お前らのようなワガママで甘えたクズ共を鍛えるために、オレは貴重な時間を割いて補習をしてやっているんだ。有り難く思えwww」
生理中の苦しみを理解しようとしない男といると本当に反吐が出る。
本当はのたうちまわりたいほど生理で常日頃から苦しい思いをしているのに殆どの男は全く理解してくれようとはしない。それどころか、甘えてるだとか根性が足りないとか言いがかりをつけてイジメてくる始末だ。
「先生、私たちは甘えてなんかいません! 生理中でも、必死に耐えて一生懸命毎日頑張ってるんです! 勝手に決めつけないでもらえませんかッ!」
すかさず貴腐寺院さんが助部先生に反論する。
「おい、貴腐寺院! 女の分際でオレに口答えするとは一体どういう了見だ⁉︎ 女は女らしくしおらしくせんか~ッ!」
助部先生は男尊女卑丸出しのセクハラ発言をしたかと思えば、貴腐寺院さんに掴みかかる。
「だいたい女のくせに何だ、その髪型は⁉︎ 胸はペチャンコだし、無駄に俺より背は高いし、脚も太いではないかッ! それでよく女として生きていられるなぁwww」
助部先生は貴腐寺院さんの容姿をとことん貶めると、ゲラゲラと高笑いをする。
頭にきた僕は反射的に助部先生に食ってかかった。
「貴腐寺院さんがどんな髪型をしようと本人の自由だし、容姿で女の人の価値を判断するのは不当な差別としか言いようがない! これ以上、僕の友達の尊厳を傷つけるような発言は許さないッ!!!」
僕の発言に激昂した助部先生はブチギレて襲い掛かってきた。
「Ωの分際で生意気言うんじゃねえ~ッ!!! テメエみたいな女の腐ったようなヤツに人権はねえんだよ! 可哀想なヤツだぜ、せっかく男に生まれてきたのにΩってだけで死ぬまでαの肉便器にされるんだからなぁwww」
助部先生は僕の体軀をスクール水着の上から縄で縛り始めた。胸の真ん中を通ってぐるりと一周、腰から股間を網目に近い形で覆っていく。捕らえた僕の両手を背にまわして肩を引っ張る。
やがて僕の身体は亀甲縛りにされていた。
「うぅ……き、きつい……!」
スクール水着には縄が深く食い込んでいた。模様は亀の甲羅を思わせる、過酷な緊縛である。
「ちょっと……そんなのただの虐待じゃない! 奏くんを離してよッ!」
僕を救出しようと駆け寄ってきた貴腐寺院さんのお腹を助部先生が思いっきり蹴り飛ばした。
貴腐寺院さんは立っていられない様子で眉をたわめ、プールサイドに震えながら尻餅をつく。
「バカめ、女の力で男に勝てるはずがないだろうッ! 女だてらに粋がるからこうなるのだ。これに懲りたら、これからはせいぜい女らしく生きることだなぁwww」
そう言うと、助部先生は海パンの中から赤黒いグロテスクなモンスターを召喚した。
「今からお前たちが何のために生まれてきたかを身体で教えてやる。念入りに、徹底的に、もう二度とαの男に刃向かおうなどという気が起こらぬようになwww」
勃起して隆々とそそり立った巨大な肉塊が、僕の鼻先へ突きつけられる。先端の割れ目から透明な粘液を滲ませる亀頭がゆっくりと唇をなぞってきた。
「ほ~ら、早く咥えんかwww」
青黒く浮かび上がった血管を駆け巡る、ドクッ、ドクッという脈動が唇に伝わってくる。その不気味な感触に、僕はゾクリと背筋を寒くした。
「私の奏くんから離れろって言ってるでしょうがッ!」
涙目で震えながらも貴腐寺院さんが果敢に立ち向かっていこうとした瞬間、助部先生の身体が数10発のナパーム弾を食らったかのように吹き飛んでいった。
「奏、大丈夫か~⁉︎ このクソチビ野郎に穢されたりなんかしてねえよなッ⁉︎」
エレンくんの正拳突きを後ろから何発も食らって、助部先生は数メートルも吹っ飛ばされたのだった。
「ありがとう、僕は大丈夫だから。それより貴腐寺院さんの方が心配だよ……」
フラフラになりながらも貴腐寺院さんは僕たちの方に歩み寄ってきた。
「さすが、エレンくんだね。やっぱり、奏くんを守れるくらい強い男の子じゃないと釣り合わないか……。邪魔しちゃ悪いから、私は帰るね」
そう言うと、貴腐寺院さんはトボトボと去っていこうとする。
エレンくんがこちらに目配せしたのに気づき、僕はとっさに頭の中で思いついた言葉を並べて言った。
「さっきは僕を庇ってくれてありがとう! 貴腐寺院さんは僕の唯一無二の親友だよ♡ だから、これからも仲良くしてね……」
僕は亀甲縛りにされたままの情けない格好で激励の言葉を述べる。
貴腐寺院さんは立ち止まると、いそいそとこちらに戻ってきた。
「もちろん! むしろ奏くんに感謝してるのは私の方だよ♡ さっきみたいに普段から男にイジメられてる私に優しくしてくれるのは奏くんだけだから……」
貴腐寺院さんは大粒の涙をボロボロ流しながら僕をギュッと抱きしめる。その光景をエレンくんはジト目で見つめていた。
「ごめんね、エレンくん。出過ぎた真似をして……」
「いや……別に誤ることはないけどよ」
「そう。だったら、こんなことしてもOKね?」
貴腐寺院さんは亀甲縛りにされていて身動き出来ない僕のお尻を撫でまわす。
「きゃんッ!」
思わず妙な声をあげて身体をビクビク痙攣させる僕を見ながら貴腐寺院さんは満面の笑みを浮かべる。
「あ、こら~! 俺の奏に何しやがるwww」
エレンくんの予想通りの反応に貴腐寺院さんはケラケラ笑う。
「2人とも面白~い♡ ふふふ……やっぱり、男女の友情は成り立たないのかも。可愛い男の子が目の前にいて、健全な女子が性的な感情を抱かないはずがないものwww」
そう言うと、貴腐寺院さんは艶かしいまなざしを僕に向ける。
その時、僕は生まれて初めて女の人にドキドキしてしまった。エレンくんに対して感じたドキドキとは一味違う感覚に戸惑いながらも僕は貴腐寺院さんの身体を優しく抱きしめ返すのであった。
「αの男の子の性欲って、言葉では言い表せないほど尋常じゃないよね……」
僕を幸せにするためなら何でもやってくれるエレンくんには普段から無理をしてでも長時間のセックスで恩返ししていた。最近はエレンくんからエッチを求められる頻度が上がり、2人っきりで会う時間の全てをセックスに費やすほどだ。
「どんなイケメンだって、結局は下半身でしか物事を考えられないからね。所詮αの男はΩを性的に搾取するモンスターでしかないわけよ」
そう言うと、貴腐寺院さんは柵に右肩を寄せ、グラウンドを我が物顔で占拠しているαの男子野球部を見詰めた。
「ほら、うちの野球部を見てごらん。あいつら、野球がやりたくて入部してきたΩの子をマネージャーとしてこき使ってるでしょ。Ωの子から野球をする権利を奪って、αの男にとって都合のいい肉便器に仕立て上げるつもりだよ……」
僕もグラウンドの方を見てみると、そこには嫌がるΩの子のお尻をαの野球部員が撫で回しながらニヤついている光景があった。
「Ωってだけで下に見られて、性的に消費されて、人生をαの支配下に置かれる。どんなに抗ったところで、ΩはΩとしての役割からは逃れられない。だから、この現実を受け入れるしかないんだよ……」
貴腐寺院さんの言葉が僕の心にズシンと響いた。
「でも、奏くんは幸せな部類だよ。ちゃんと愛して守ってくれる素敵な彼氏がいるんだからさ♡ それにΩでも奏くんは男の子だから、うちの学校の女子の制服を着なくてもいいんだから本当に羨ましいよwww」
Ωでも男子は黒一色の至って平凡な制服だが、対して女子用の制服は薄ピンクの地に赤い襟と大きなリボン、袖口を重ねた色鮮やかなものだった。靴下は白色限定、靴も茶色の革靴と決められているが、髪は染めない限り自由だ。
ちなみに体操着やスクール水着は男でもΩの場合はブルマと女子用水着の着用が校則で義務づけられている。理由は不明だ……。
「朝起きて学校の制服に着替えるたびに一日が憂鬱な気分でスタートするよ。喪女の私にこんな格好が似合うかっつーのwww」
貴腐寺院さんが苦笑すると、赤いスカートが襟と同じく風に靡いて、脚を膝の裏まで晒した。
「おっと……危うく小汚いサニタリーショーツが見えちゃうところだったよ。やっぱり喪女にとって、この制服は罰ゲームだなぁ。スカートなんかなくなればいいのに……」
今日の貴腐寺院さんがメランコリックな理由が分かった僕はコミュ障なりにフォローする。
「確かに生理中にスカートだと、身体が冷えたり、ナプキンがずれやすかっりして大変だよね。でも、モデルさんみたいに背が高い貴腐寺院さんにはよく似合ってるよ。とっても女の子らしくて、可愛さ限界突破しちゃってる感じ♡」
僕は考えつくだけの褒め言葉を並べると、貴腐寺院さんは頰を真っ赤にしながら動揺する。
「わ、私が女の子らしいって……本気で言ってるの⁉︎ 今までろくに女扱いされてこなかった私なんかが⁉︎」
「うん、貴腐寺院さんは僕が今まで出会った女の子の中で一番魅力的な女の子だよ♡」
今の言葉は僕の本心だ。これまでの人生で出会ってきた女の子はΩの僕をイジメたり、差別したり、嫌って避けるような人間ばかりだった。
でも、貴腐寺院さんはΩの僕に対しても、ひとりの人間として尊重してくれただけでなく、友達になってくれた。
こんなにも素晴らしい人間がこの世界にエレンくん以外にもいたことを知って、僕は人生に改めて希望を持つことが出来たのだ。
「今まで男との人間関係で散々傷つけられてきた私はいつしか『女らしさ』に価値を見出せなくなって、髪を刈り上げたの。どうせ傷つけられるんだったら、女らしくしたって意味がないし、それどころか搾取されるだけだってことに気づいたから。でも、好きな男の子の前でだったら……女らしくするのも悪くないかも♡」
貴腐寺院さんは頰を押さえて真っ赤になりながら言った。
「貴腐寺院さんにも好きな男の子がいるんだね」
「うん……最近できた。ねえねえ、奏くん。明日から私が奏くんにお弁当作ってきてあげるね♡ こう見えて私、料理には自信があるんだぁ」
そう言うと、貴腐寺院さんは恥じらいながら熱っぽい視線を僕の方に向けてくる。
「それだったら、僕に料理教えてくれない? ほら、男を掴むなら胃袋を掴めって、よく言うじゃない。だから、エレンくんに僕も手料理を食べさせてあげたいんだ」
「もちろん、奏くんの頼みなら喜んで♡」
その日から貴腐寺院さんの指導の下で僕の料理修業が始まった。
ーーー
ひとり暮らしのエレンくんが帰宅したのは陽が沈んでからだった。
「ん? なんか良い匂いがするな。誰か俺の家にいるのか?」
キッチンの方からは匂いに限らず様々な物音がする。
「やはり誰かいるようだなぁ。よし、覗いてみるか」
忍び足で台所に歩み寄ってくるエレンくんに僕は声をかけた。
「エレンくん、おかえり~♡」
「奏ッ⁉︎ 俺のために料理を作りに来てくれたのか!」
「うん、貴腐寺院さんに教えてもらったんだ♡」
僕はカレーをかき混ぜながら味見をする。
「よ~し、今日は美味しくできたみたい!」
「奏が俺のために作ってくれたものなら何だって美味しいに決まってるぜ♡」
出来上がったカレーを皿に盛り付けてからエレンくんと一緒に美味しくいただく。
エレンくんはハフハフと熱い吐息を交えて感想を述べる。
「こんなにも美味いカレーを食ったのは生まれて初めてだぜ! 奏の真心が口の中いっぱいに広がるみたいだ♡」
「貴腐寺院さんのおかげで、僕も少しは料理ができるようになったんだ。これからも貴腐寺院さんには色々な料理を教えてもらう予定だから楽しみにしててね♡」
僕がそう言うと、エレンくんは少しばかり眉をひそめる。
「ずいぶんと貴腐寺院さんと仲良くなったみたいだなぁ。学校でもよく話してるみたいだしよ」
「うん、何だか不思議と貴腐寺院さんとは気が合うみたいなんだ」
エレンくんは不安げな瞳で僕の顔をまじまじと見つめながら言った。
「貴腐寺院さんが悪い人でないことは知ってるが、少しばかり奏と距離が近過ぎるような気がするんだよなぁ」
そう言うと、エレンくんは改めてカレーを口に運んだ。
「えっと……どういう意味?」
「奏は天然だなぁ。要するに貴腐寺院さんは明らかに俺の奏に対して好意を持っている。悪いことは言わねえから、貴腐寺院さんとは距離を置いた方がいいぜ。面倒くさいことにならねえうちによ」
エレンの言うことに困り果てた僕は瞳を潤ませながら反論する。
「貴腐寺院さんが僕のことを異性として見てるわけないじゃない。エレンくんみたいなカッコいいイケメンならともかく、僕みたいに背が低くてコミュ障で男らしさの欠けらもないようなΩの男に好意を持つ女の人はいないよ」
自分で自分を卑下したくせに、僕は勝手に凹んでいた。
所詮Ωである僕には産む機械としての役割しか期待されない肉便器だということを強く自覚させられてしまう。
「むしろ俺は奏のそういうところに惹かれたんだけどなぁ。奏を守るために俺はαの男として苛烈な競争社会にも屈せず、頑張ってこれたんだ。言わば、奏の存在が俺を強くしてくれたんだぜ。だから、奏は安心して全てを俺に委ねればいい。Ωはαの男の庇護下で成長していくのだから」
そう言うと、エレンくんはいつの間にか山盛りあったカレーを全て平らげ、デザートに僕を美味しくいただくのであった。
ーーー
あれから僕はエレンくんに言われたことを気にして貴腐寺院さんとの距離感に悩んでいた。
それでも貴腐寺院さんの方はいつも通り気さくに話しかけてきた。
「奏くん、聞いてよ。今日、放課後に私と奏くんだけで体育の補習を受けさせられるんだって。いつも体育は見学ばかりしてるから仕方ないとは思うけど、面倒くさいよね~」
僕と貴腐寺院さんは生理を言い訳にしょっちゅう体育を見学していた。
今回の補習の内容は僕の大っ嫌いな水泳だ。
冬でも、うちの学校は温水プールを完備してるから体育で水泳の授業をしょっちゅうやっている。
「はぁ……僕は水着を着るのが嫌なんだよね。はっきり言って、ブルマを穿くより抵抗あるよ」
「その気持ち分かるなぁ。水着が濡れた時に乳首の形が浮いて見えるのが、すごく嫌なんだよねぇ……」
僕たちは愚痴をこぼしながら、スクール水着に着替えると、プールに行く。
そこには早くも体育教師の助部先生が仁王立ちして待っていた。
「遅いじゃねえか、テメエら! やる気あんのか~ッ⁉︎」
助部先生は胸の大きい子にだけ甘くて、男子や喪女に対しては厳しい体育会系気質の人だった。
「いつも生理を言い訳にして体育を休む根性なし共めッ! 生理など気合いや根性でいくらでも我慢しろ~! お前らのようなワガママで甘えたクズ共を鍛えるために、オレは貴重な時間を割いて補習をしてやっているんだ。有り難く思えwww」
生理中の苦しみを理解しようとしない男といると本当に反吐が出る。
本当はのたうちまわりたいほど生理で常日頃から苦しい思いをしているのに殆どの男は全く理解してくれようとはしない。それどころか、甘えてるだとか根性が足りないとか言いがかりをつけてイジメてくる始末だ。
「先生、私たちは甘えてなんかいません! 生理中でも、必死に耐えて一生懸命毎日頑張ってるんです! 勝手に決めつけないでもらえませんかッ!」
すかさず貴腐寺院さんが助部先生に反論する。
「おい、貴腐寺院! 女の分際でオレに口答えするとは一体どういう了見だ⁉︎ 女は女らしくしおらしくせんか~ッ!」
助部先生は男尊女卑丸出しのセクハラ発言をしたかと思えば、貴腐寺院さんに掴みかかる。
「だいたい女のくせに何だ、その髪型は⁉︎ 胸はペチャンコだし、無駄に俺より背は高いし、脚も太いではないかッ! それでよく女として生きていられるなぁwww」
助部先生は貴腐寺院さんの容姿をとことん貶めると、ゲラゲラと高笑いをする。
頭にきた僕は反射的に助部先生に食ってかかった。
「貴腐寺院さんがどんな髪型をしようと本人の自由だし、容姿で女の人の価値を判断するのは不当な差別としか言いようがない! これ以上、僕の友達の尊厳を傷つけるような発言は許さないッ!!!」
僕の発言に激昂した助部先生はブチギレて襲い掛かってきた。
「Ωの分際で生意気言うんじゃねえ~ッ!!! テメエみたいな女の腐ったようなヤツに人権はねえんだよ! 可哀想なヤツだぜ、せっかく男に生まれてきたのにΩってだけで死ぬまでαの肉便器にされるんだからなぁwww」
助部先生は僕の体軀をスクール水着の上から縄で縛り始めた。胸の真ん中を通ってぐるりと一周、腰から股間を網目に近い形で覆っていく。捕らえた僕の両手を背にまわして肩を引っ張る。
やがて僕の身体は亀甲縛りにされていた。
「うぅ……き、きつい……!」
スクール水着には縄が深く食い込んでいた。模様は亀の甲羅を思わせる、過酷な緊縛である。
「ちょっと……そんなのただの虐待じゃない! 奏くんを離してよッ!」
僕を救出しようと駆け寄ってきた貴腐寺院さんのお腹を助部先生が思いっきり蹴り飛ばした。
貴腐寺院さんは立っていられない様子で眉をたわめ、プールサイドに震えながら尻餅をつく。
「バカめ、女の力で男に勝てるはずがないだろうッ! 女だてらに粋がるからこうなるのだ。これに懲りたら、これからはせいぜい女らしく生きることだなぁwww」
そう言うと、助部先生は海パンの中から赤黒いグロテスクなモンスターを召喚した。
「今からお前たちが何のために生まれてきたかを身体で教えてやる。念入りに、徹底的に、もう二度とαの男に刃向かおうなどという気が起こらぬようになwww」
勃起して隆々とそそり立った巨大な肉塊が、僕の鼻先へ突きつけられる。先端の割れ目から透明な粘液を滲ませる亀頭がゆっくりと唇をなぞってきた。
「ほ~ら、早く咥えんかwww」
青黒く浮かび上がった血管を駆け巡る、ドクッ、ドクッという脈動が唇に伝わってくる。その不気味な感触に、僕はゾクリと背筋を寒くした。
「私の奏くんから離れろって言ってるでしょうがッ!」
涙目で震えながらも貴腐寺院さんが果敢に立ち向かっていこうとした瞬間、助部先生の身体が数10発のナパーム弾を食らったかのように吹き飛んでいった。
「奏、大丈夫か~⁉︎ このクソチビ野郎に穢されたりなんかしてねえよなッ⁉︎」
エレンくんの正拳突きを後ろから何発も食らって、助部先生は数メートルも吹っ飛ばされたのだった。
「ありがとう、僕は大丈夫だから。それより貴腐寺院さんの方が心配だよ……」
フラフラになりながらも貴腐寺院さんは僕たちの方に歩み寄ってきた。
「さすが、エレンくんだね。やっぱり、奏くんを守れるくらい強い男の子じゃないと釣り合わないか……。邪魔しちゃ悪いから、私は帰るね」
そう言うと、貴腐寺院さんはトボトボと去っていこうとする。
エレンくんがこちらに目配せしたのに気づき、僕はとっさに頭の中で思いついた言葉を並べて言った。
「さっきは僕を庇ってくれてありがとう! 貴腐寺院さんは僕の唯一無二の親友だよ♡ だから、これからも仲良くしてね……」
僕は亀甲縛りにされたままの情けない格好で激励の言葉を述べる。
貴腐寺院さんは立ち止まると、いそいそとこちらに戻ってきた。
「もちろん! むしろ奏くんに感謝してるのは私の方だよ♡ さっきみたいに普段から男にイジメられてる私に優しくしてくれるのは奏くんだけだから……」
貴腐寺院さんは大粒の涙をボロボロ流しながら僕をギュッと抱きしめる。その光景をエレンくんはジト目で見つめていた。
「ごめんね、エレンくん。出過ぎた真似をして……」
「いや……別に誤ることはないけどよ」
「そう。だったら、こんなことしてもOKね?」
貴腐寺院さんは亀甲縛りにされていて身動き出来ない僕のお尻を撫でまわす。
「きゃんッ!」
思わず妙な声をあげて身体をビクビク痙攣させる僕を見ながら貴腐寺院さんは満面の笑みを浮かべる。
「あ、こら~! 俺の奏に何しやがるwww」
エレンくんの予想通りの反応に貴腐寺院さんはケラケラ笑う。
「2人とも面白~い♡ ふふふ……やっぱり、男女の友情は成り立たないのかも。可愛い男の子が目の前にいて、健全な女子が性的な感情を抱かないはずがないものwww」
そう言うと、貴腐寺院さんは艶かしいまなざしを僕に向ける。
その時、僕は生まれて初めて女の人にドキドキしてしまった。エレンくんに対して感じたドキドキとは一味違う感覚に戸惑いながらも僕は貴腐寺院さんの身体を優しく抱きしめ返すのであった。
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注意
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妊娠可能ですが、主人公は妊娠しません
リバなし
無理やりだけど愛はある
ほぼエロ ストーリー薄め
オメガバース独自設定あり
性奴の夜
くねひと
BL
Sのセイヤ、そしてMのユウキ……。マッチングアプリで知り合った二人のSMプレイがユウキの視点で語られる。この日も、ユウキはいつものように素裸で緊縛され、セイヤの前にひざまずいていた。でもいつもと少し勝手が違う。なぜって、二人の他に、少年がいるから………。
安心快適!監禁生活
キザキ ケイ
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ぼくは監禁されている。痛みも苦しみもないこの安全な部屋に────。
気がつくと知らない部屋にいたオメガの御影。
部屋の主であるアルファの響己は優しくて、親切で、なんの役にも立たない御影をたくさん甘やかしてくれる。
どうしてこんなに良くしてくれるんだろう。ふしぎに思いながらも、少しずつ平穏な生活に馴染んでいく御影が、幸せになるまでのお話。
生意気オメガは年上アルファに監禁される
神谷レイン
BL
芸能事務所に所属するオメガの彰(あきら)は、一カ月前からアルファの蘇芳(すおう)に監禁されていた。
でも快適な部屋に、発情期の時も蘇芳が相手をしてくれて。
俺ってペットか何かか? と思い始めていた頃、ある事件が起きてしまう!
それがきっかけに蘇芳が彰を監禁していた理由が明らかになり、二人は……。
甘々オメガバース。全七話のお話です。
※少しだけオメガバース独自設定が入っています。
塔の上の番つがい~(Domα×SubΩ)天性の苛められっ子がエリート外科医に拾われて。タワーマンションの最上階で溺愛され支配されていく~
nuka
BL
(Domα×SubΩ)天性の苛められっ子がエリート外科医に拾われて。タワーマンションの最上階で、溺愛され支配されていく
ユートはいじめられ体質で、他人を信じては必ず裏切られてきた。いじめに耐え兼ねて高校は中退、その後もパワハラやセクハラの被害ばかりで仕事が続かない。頼れる家族もなくとうとう路頭に迷ってしまう。
そんなユートを救ってくれたのは、偶然出会ったエリート外科医・成吾だった。ペットを探していた成吾に気に入られて、ユートは成吾に飼われることに。
「ユートはもう俺の家族だよ。無責任なことはしない。一生大切に可愛がるからね」
爽やかな好青年の成吾にすっかり気を許していたユートだったが、すぐにその姿は豹変。獣のように輝く金の眼と、めまいがするような強烈な匂いをまとわせて、ユートに迫ってきて──
・Domα × SubΩ
(Dom/Sub+Ωバース ※独自解釈)
本編とその後の番外編の2本です。
溺愛/執着/命令/支配/発情/フェロモン/♡喘ぎ/スパンキング/異物挿入/子作り/産卵(微)/男性妊娠
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