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3 エレンくんと下校しちゃいました!

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 エレンくんに告白されたことで1日中クラスの女子から白い目で見られた僕は放課後になって、ようやくあの地獄から解放された。
 ほっと一安心していたら下半身に倦怠を感じ、それが深くなってきた。


「そういえば、今日は生理の日だったかぁ……」


 Ωの男にも女性と同じように毎月生理が来るのだ。
 下半身にもどかしいような倦怠感が滞留する。そういった幼い頃にはなかった思春期の微妙な身体の変調によって、僕は自分がΩであることを悟らされてしまう。
 小学5年生の頃に初経を迎えたのをきっかけに、僕は自分の身体が大人のαに欲望の対象として見られる恐さを日常的に経験するようになる。嫌でも自分の身体が徐々に大人のΩになりつつあることを自覚させられるようになった。
 でも、僕の心の方は昔と変わらない子供のままだ。
 同年代のクラスメイトがセックスの話題で盛り上がっているのを見ると、穢れているとしか思えない。
 リア充に対するやっかみだと思う人もいるかもしれないが、そうではない。純粋に性的な事柄が恐いのだ……。
 現実のセックスは妄想やBLとは違う、生々しくて醜い動物的な行為に他ならない。そうしたDQN的なフリーセックスという思想には違和感しかないのだ。


「おっと……早く帰ってショーツを替えなきゃ」


 歩調を速めた瞬間、急に下腹部に悪寒がしてきた。


「あ、そんな……いつもより早く来ちゃった……」


 股まで鈍痛を感じてきた。まさか予定日よりずっと早く来るなんて想像もしていなかった。
 慌てて股に力を入れたが、耐えきれずに屈んでしまう。しばらくしゃがんだままだったが、何とか立って、近くのトイレに行った。
 トイレの個室に入ると、すぐに洋式便所に座る。


「あ、あぅ……い、いっぱい出ちゃう……」


 僕は顎を上げて、切ない溜め息を漏らす。いっぱい出たのは、僕の禁忌の粘液と涙だった。
 頭がクラクラして、またその場にしゃがみ込んだ。貧血を起こしたらしい。
 眼を閉じて何も考えない。しばらく鬱々としていた。
 多い日になりそうだから、ナプキンテープがしっかり接着するサニタリーショーツを出して、ナプキンも新しいものに替えた。


「ふぅ……そろそろ行こうかなぁ」


 トイレの個室から出ると、そこには1日中僕の悪口を言いまくっていた女たちと、その男友達のDQNグループが勢揃いしていた。
 全員、僕の方をニヤニヤしながら見つめている。僕はヘビに睨まれたカエルのように動けなくなった。


北条ほうじょう、今日マジで調子こいてたよなぁwww」
「分かる~、Ωとか生まれながらの負け組のくせに何で学校来んの? 頭悪いのも、能力低いのも一生治らないのにねwww」


 死ぬほど不快で、自分はバカですと公言しているような甘ったるい声が耳に入る。


「エレンくんと付き合ってるからって、てめえが陰キャであることに変わりはねえっつの!」
「そうそう、マジで学校来んじゃねえよ、ブス!」


 どうやら、コイツらは自分にエレンくんが振り向いてくれなかったことに相当御乱心のようだ。


「てめえを一生自分の部屋から出られなくしてやるよ!」
「がっつき、みそっぱ、デブ公! 北条ほうじょうのヤツを好きなだけレイプしなッ! その光景を動画に撮って、ネットにアップしてやるからwww」


 あだ名の方は昭和の喜劇みたいだけど、見た目は完全にDQN風な男たちが僕の周りにワラワラと集まってきた瞬間、バイクのやかましいエンジン音が割り込んでくる。
 400CCの大型バイクはトイレの壁をぶち破り、DQN共を轢いていく。
 僕は呆気に取られていた。400CCの大型となったら重量は100キロを超えるはずだから下手したらDQNでも死ぬんじゃwww
 ヴオ! ヴオアッ! ドロロロロッ! ドコッ! ドコッ!
 それは大排気量の原動機が放つ咆哮であった。
 排気音というにはあまりに戦闘的な、暴力そのものの叫びが轟いてきた。


「わああ~ッ!!!」


 女たちの目に、仲間のDQNたちが空中に吹き飛ばされる光景が映った。
 ドルルルルルッ!!!
 DQNたちを撥ね飛ばし、1台の巨大なバイクが躍り込む。
 ギュババババッ!
 巨大な後輪が地面を削り、倒れたDQNを容赦なく踏みつけた。


「うううッ……!!!」


 苦しげに呻くDQNを後輪で下敷きにしたまま、巨大なバイクは、獣が低く吠えるような駆動音を発しつづけている。


「俺のかなでに手ぇ出すとは、お前ら死ぬ覚悟は当然出来てるんだろうなぁ~ッ⁉︎」


 巨大なバイクに跨がるエレンくんが恐ろしい形相で絶叫しながら女たちに体当たりしていく。


「うぎゃあああああああああああああああああああ~ッ!!!」


 次の瞬間、吹き飛ばされた女たちは洋式便器の中に頭からめり込んでいった。


「汚物は、ちゃんと流さないとなぁwww」


 エレンくんはそう言うと、女たちを便器の中に流してしまった(よく流せたなwww)。


かなで、後ろに乗るんだ。家まで送るぜ♡ 生理中は無理しちゃいけねえぞ」
「え? 気づいてたんだ……」
「当たり前だろ。朝から少し調子悪そうに見えたからなぁ」


 僕を優しく労わってくれるところは昔と全然変わらない。どんなに見た目が変わっても中身は今でも僕の大切な親友だ。


「ありがとう……じゃあ、お言葉に甘えて♡」


 照れ隠しに頭をひと掻きすると、初めて僕はバイクにまたがった。


「これをかぶれ。愛するかなでに怪我をさせるわけにはいかないからな」


 脱いだヘルメットを後ろ手に渡される。
 エレンくんの体温が残るヘルメットを、ちょっとだけドキドキしながらかぶる。


「おお、なかなか似合ってるじゃないか」


 僕の頭にエレンくんは手を乗せ、ぐりぐりと揺すられる。


「落っこちないよう、俺にしっかりつかまってろよ」


 エレンくんが腰をぱんぱんと叩いてウインクすると、僕はどきりとした。


「危なくないかな?」


 がくがくと揺れる車体に焦ってエレンくんに抱きつき、僕は太腿でヒップを挟み込むように自分の体を固定する。


「行くぜぇ~!」


 エレンくんのかけ声とともにバイクは急発進した。靡いたエレンくんの髪が顔に当たって、ふわりと甘酸っぱい芳香に包まれる。
 髪だけではない。密着したエレンくんの身体全体から、僕の欲情を煽り立てるような匂いがたちのぼる。


かなでの体温が直に伝わってくるぜ~♡」


 エレンくんはそう言うと、アクセルを思いきり開けた。二人乗りを物ともせず、バイクは伸びやかに加速して、雑多な街をすり抜けるように駆けていく。
 家に着くと、エレンくんは背の低い僕を巨大バイクから抱っこするようにして降ろしてくれた。


「これからは俺が毎日送り迎えするぜ。またDQN共に絡まれたりしたら大変だからなぁ」
「毎日って……本当にいいの? 大変じゃない?」
「いいってことよ。むしろかなでと登下校できるなんて夢のようだぜ♡」


 家から学校までは結構遠いから本当に助かるし、電車賃もかからなくて済む。何より満員電車で痴漢に遭うこともない。


「ありがとう……エレンくんのおかげで少し学校行くのが楽しみになったよ♡」
「そいつは何よりだぜ。じゃあ、また明日な。生理が終わったら、かなでの家に入ってもいいか?」
「別にいいけど、何で?」
「いや、気にするな。また明日!」


 そう言うと、エレンくんは淫靡な微笑みを浮かべながらバイクを走らせて去っていくのだった。
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