ぽっちゃり童貞の俺、ガチムチスパダリに変身してかわいい上司(男)をお嫁さんにする〜一緒に生活するダイエットから目指す新婚生活〜

あさ田ぱん

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16.頭痛の種

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 俺は吐き気で目を覚ました。なんとかぎりぎり、トイレで吐くことができたが…危なかったー!一通り吐いて、腕時計を確認すると想像よりも時間が経っていない。まだ深夜である。
 あ~最悪…。胃が痛くて、おれは項垂れた。

 トイレで臥せっていると、足音がする。しまった。ここ、牧くんの部屋だった。

「高木くん、大丈夫?」

 牧くんは便器にうずくまる俺の背中をさすった。優しい手のひら。俺は思わず涙が出てしまった。だって…俺のこと、新田を巡る恋敵だと思ってんだろ?それなのに優しくして、なんなんだよ、もう…!俺は思わず手を振り払った。

「余計、気持ち悪かった?…水は飲めそう?」
 
 気持ち悪くない…そうじゃない…。

「…つらくて…。すみません… 」
「うん…。高木くんダイエットもしてたから、胃が弱ってるのかもね?一回ダイエットはお休みしてみたら?」
 いや、だからそういうことじゃない。それに…。

「ダイエットやめたら俺、またすぐアンパンマンになっちゃいます…。」
「そんな…。少しだったら大丈夫だよ。ダイエット中はカロリー制限を身体に慣れさせないために定期的に食べる日を作った方が良いんだって。それを“チートデイ”って言うらしいよ 」
「へえ…それって、食べてすぐ寝てもいいんですか?」
「いいんじゃない?詳しくはないけど… 」
「牧さんも、付き合ってくれます?」
「うん。いいよ 」
 牧くんは俺に水を手渡して、笑った。
 本当にそれが出来たら幸せだ。好きな人とご飯をお腹いっぱい食べて、そのまますぐ眠りたい。俺の夢、叶っちゃう…?

 その後調子に乗った俺は牧くんに水を飲ませてもらい、布団に寝かせてもらい、ついでに牧くんに絡むふりして牧くんを抱きしめながら眠った。


 翌朝俺は奇跡的に出勤した。
 絶対起きられないと思ったのに…ひとえに俺の嫁、牧くんのファインプレーである。俺を手厚く看護した上、朝起こしてくれて水、胃薬…。
 もーなんなの?!結婚して!!

 しかもお昼休み…いつも昼は食べない牧くんから昼食を食べようと連絡がきた。俺たちは社員食堂に行ったのだが…。

「高木くん、今週末空いてる?」
「空いてます 」

 牧くんの質問に俺は食い気味で答えた。言わずもがな、牧くんの誘いなら空いてなくても空けるつもりなのだから。

「じゃ、チートデイ、今週末にしよう!いいところ見つけたんだ!」
「いいところ?」
「うん。たくさん食べてすぐ眠れて、あとストリーミングメディアプレーヤーも無料貸し出しで大画面テレビにカラオケ…値段も安いんだよ!ここ!どう?」
  牧くんはメッセージアプリでリンクを送ったようだ。俺にリンクを開くよう促す。おれはメッセージのリンクをタップして、驚愕………! 

「女子じゃないけど、いいよね?」
「は、はぁ…………。」

 俺はすぐに返事ができなかった。タップした先には、なんと”ラブホ女子会プラン”の文字が躍る…。フードメニューも充実、ジェットバスあり、だって。何それ、何目的?!俺たち男だけど女子会?!

「あ、嫌だった?」
 牧くんはしゅん、として俺を見た。ちょっ、何その反応?!
「え、あーーーいや、嫌じゃないです!面白そうではあります!」
「だよね?!大きいジェットバスも付いてるんだよ。それでこの値段、破格だよね?!すごいよねー、知ってた?ラブホ女子会って!」

  俺は絶句した。ここは社員食堂だ。周りの人に聞かれたらどーすんだ?!保守派のお膝元、金融機関の社員食堂inジャパンですよ?!お願いたがらもっと小声で話して!

 牧くんは、やましい気持ちは特にないのか、堂々と”ラブホ女子会プラン”について説明しながらテキパキと予約を入れてしまった。
 あなたは何ともなくても…牧くん、一緒に行く男は…やましいことだらけだよ!!危ないよ!?分かってる?!いや分かってたらラブホ女子会プランなんか予約しないな!男は狼なのよっ、気をつけなさい!!

 てゆーか、大丈夫か、俺の理性?!



 ーー試されている…。

 牧くんと別れて自分のフロアに戻った。二日酔いで今日は頭が痛いから事務仕事だけするつもりで。席に着いたとたん、内線がけたたましく鳴った。俺が戻ったの、見てた?!ちょ……、怖いんだけど…。

 電話の相手は総務部、であった。



「高木くん、はいこれ。」
 俺を内線で呼び出したのは総務部の長谷川さんだった。長谷川さんは真面目そうな黒髪ストレートの女子で、俺と同期である。
 長谷川さんが差し出した用紙を見て、本日二度目…驚愕~からの絶句。でもこれは聞かなければならない!俺は声を絞り出した。

「退寮勧告…って…。まだ俺、三十歳になってないけど?!」
「半年前に通知しないといけない決まりだから。あと半年で住むところ決めてください。実家や持ち家でなければ補助がでますから、その申請についてはこちらです 」
 理解が追い付かない俺に、長谷川さんは容赦なく次々に書類を手渡してくる。まだ寮を出ていきたくない。もっと、牧くんと一緒にいたいんだ…。
「結婚すれば、社宅に移ることもできますよ?だからこのタイミングで決める人、多いですね。」
「相手がいればそうしてます 」
「誰もいないんですか?同じ部署の人とうわさになってたりしてるけど… 」
 長谷川さんはなんとなく赤くなっている。それになんだ、同じ部署って…。違う、俺は…。

「誰もいません… 」

 そうなのだ。思い人は俺を同性の友達としか思っていなくて、ラブホ男子会を開催しようとしているのだから。

 頭痛はひどくなるばかりだ。

 しかし寮に帰ったらまた牧くんにかいがいしく世話をやかれいつの間にか頭痛は治っていた。頭痛を起こすのも治すのも牧くんだ。俺は今日も牧くんの部屋で寝た。でも、酔っていなかったからどさくさに紛れて牧くんを抱きしめることは出来なかった。
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