ぽっちゃり童貞の俺、ガチムチスパダリに変身してかわいい上司(男)をお嫁さんにする〜一緒に生活するダイエットから目指す新婚生活〜

あさ田ぱん

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15.迷走

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 モンスターを捕まえるためのアイテム…俺はそれを課金してゲットした。いいんだ、大人だから課金したって別に!そして俺はモンスターを捕まえることに熱中していた。モンスターを捕まえて牧くんと交換するしか…牧くんが喜ぶプレゼントが分からないのだから仕方がない。牧くんに喜んでもらい好かれたい、ただそれだけ。ランニングは性欲が爆発してしまうから止めたかったのだが、ランニングをやめたらデカいアンパンマンに逆戻りするだろうし、モンスターを捕まえるためにも結果的に走り続けることになった。それを迷走、と人は呼ぶのかもしれない…。

 

「高木が商品名を付けた、"肉まん専門店子豚の花ちゃん”の新商品“罪悪感の極み、糖質百パーセント餡饅”がSNSで盛り上がってるらしくて。雑誌の取材に高木も出てほしいらしいんだ 」
「でも取材って、写真撮るんですよね?俺、顔出しはちょっと無理です… 」

 俺は外見に自信がないんだ!いやだ、顔写真を載せるなんて!しかも、俺の成績にもならないのに、なんでそんな嫌なことをしなければいけないんだ!俺は思いっきり卑屈な理由でやんわりと断りを入れたのだが…。
 ミーティングルームに集まった昭和のおじさん達…、部長に次長に課長はそれを許してくれない。

「高木―!そんなこと言うなよ…!”肉まん専門店子豚の花ちゃん”は業績が良くて、大阪と名古屋にも出店するんだ!ゆくゆくは全国チェーン化を…と検討されている。その開店資金……なあ、わかるだろ?!」
 部長は唾をとばすくらい興奮していた。ばっちいなぁ、もう!でも嫌だよ!今期の目標達成に向けて俺も忙しいんだから。しかも今更、華子さんに会うなんて気まずいし、面倒ごとの予感しかしない…!

「高木くん、私からもお願いします。まだ、先方と信頼関係が築けていなくて…。」
 親会社の食品加工会社"もえみ"の社長は何故か俺を買ってくれていたようで俺から新田への担当変更に反対だったから、“御社を強化するため担当を主任に変更し、平社員の高木はアシスタント”ということになっているらしい。それもあって断りにくい、と新田は頭を下げた。どうしたんだ、そんな殊勝な態度をして…。今までの新田ならミーティングで高飛車に俺を攻め立てていただろう…!おい新田、なんかお前、最近おかしいぞ?!特にあの痴漢事件の後から上目遣いのうるうるが増えてる気がする!俺が怯んだのを、昭和の部長たちは見逃さなかった。

「高木!勿論、華子社長のことはこちらで対処する!お前の不満も分かるが、営業二課全体を考えて、ここは一つ大人になってくれ!な!?」
 
 そう言われたら首を縦に振るしかなかった。

 渋々了承して、取材当日を迎えた。『対処する』って言葉を信じて……。
 しかし…。



「高木くん、早く終わらせて飲みに行こう。久しぶりにゆっくり話したい。前に一緒に行ったクラブ予約してるから!」
 あー、あの、おばちゃんばっかりの店かぁ…。めんどくせえなぁ~。俺は何とか断る口実がないものかと思案した。
「高木くん、取材のあとも、試食してほしいものがあるのよ!約束していたでしょう?」
 クラブ回避、と思いきや華子さんからの誘いきたー!どっちも嫌だなぁ…。早く帰って牧くんとゲームしたいんだ。俺は!
 食品加工会社”もえみ”の社長…華子さんの夫と華子さんは俺の両隣に座り、この女性誌の取材を受けた後、俺がどちらと一緒に出掛けるか、ということで揉め始めた。
 それはそうと、なぜここに"もえみ"の社長がいるんだ?!しかも俺ってそんなに好かれてたっけ?いや、別に好かれてもなかったよね?なのに何で?!まさか全てこの、大胸筋と上腕二頭筋のせい?!まったく罪な奴らだぜ!
 一緒に来た次長や新田、女性誌の関係者も苦笑いしている。

「高木くん、試食なんてしてもな…?こんないつまでもつか分からない様な会社の商品食べる価値ないだろう?」
「ふっ…。成長が見込めない古い考えのBtoBにこだわるような会社よりましじゃない?」

 俺を間に挟んで、二人の火花が散った。怖い怖い!あんたたち、夫婦じゃないのかよ?!ひょっとして喧嘩中とか?!そう言えば子会社の人事で揉めてたんだっけ…。
 目の前の二人のただならぬ気配に俺は震えた。喧嘩はやめて~、二人を止めて~。私のためにー…じゃないだろうけど、争わないでッ!
 ーー心の中で歌ったが誰も助けてくれそうにない。仕方なしに俺は勇気を振り絞った。

「すみません。この後ちょっと用事があって…」

 そう、俺は特にこの後の用事はなかったのだが、どちらの誘いも丁重にお断りした。だって面倒くさいにきまってる!だから丁重に断ったつもりだったのだが……二人は大激怒!二人とも顔がこわぁい!
 流石夫婦だなぁー。こんなことで怒るなんて、感性が似てるんだな、きっと…。

「いや、俺なんかがお二人の間にいたら邪魔なだけです。花ちゃんの新商品の試食は、もえみの社長にして頂いた方がいいですよ!社長は長年第一線で食品会社を経営されている食のプロなんですよ?ついでに材料も見てもらって親会社と共同仕入れにすればバイイングパワーでお互いにメリットが出るし、逆に企業間取引しかない社長にとっても、奥様の会社のお客様の生の声っていうのは凄く魅力的でマーケティングに生かせるのではないでしょうか?だから絶対にお二人で話し合うべきですよ!夫婦なんだし…!」

 俺は自分にできる限りの言い訳を並べた。加えて最高の営業スマイルで、二人の手を取り俺の前で重ねる。すると、二人もつられたようにぎこちなく笑った。

 このままご自宅にお帰りいただいて、夫婦の会話を…しっぽり二人っきりで打ち合わせならぬ手合わせをしていただくのがいいのではないだろうか?俺はそう思っただのだが…。考えが甘かった。相手はさすが上場会社の社長、何枚も何枚も上手である。
 俺は取材終わりに二人に首根っこ掴まれて夜の街に連れていかれ、散々飲まされた。しかもこの問題児夫婦に上から下まで身体を見つめられ…。
 何だよ、おっさんまで!良い尻してるな…じゃ、ないんですよ!そういうセクハラちっくな昭和の営業はやらない主義のゆとり世代だから、俺…!それにこれって優越的地位の濫用じゃないのぉッ?!


 抵抗むなしく、べろべろに飲まされた俺は気が付いたら寮の玄関ホールに放置されていた。飲み過ぎてゆがむ視界の中、牧くんがやって来るのが見えた。

「高木くん…!大丈夫…じゃ、ないね…。肩掴まれる?」

 俺は牧くんの肩に捉るふりをして抱き着いた。ぎゅっとしてやった!牧くんからは風呂上がりのいいにおいがする…。…ずっと、こうしていたい。
 牧くんは俺が酩酊状態でそんなことをしていると思ったのか、特になにも言わなかった。そのまま、よたよたしている俺を支えながら部屋に連れて行くつもりのようだ。
 俺の部屋に放置されるのかと思ったが、俺は牧くんの部屋に連れて行かれた。布団はふわふわ、ぽかぽかだ。久しぶりなのに…用意してくれてた?なんで?牧くんは俺の上着を脱がせて、ネクタイを取ってくれる。その後布団を掛けられて…。そこで俺の意識は途絶えた。

 ああ、失敗した。もう少し起きていられれば、牧くんのおやすみが聞けたのに…。
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