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10.別居
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決していやらしい気持ちから同じ布団に寝たわけではない。しかし如何せん、物理的距離が近すぎた。目と鼻の先にかわいいお嫁さんがいて、ちょっとスーハー息をするだけで風呂上がりのいい匂いがするし、もう無理!男とはそう言う生き物なのである。
俺は自分の部屋に戻って下着を洗いながら項垂れた。臭いでばれてるかもしれない。これバレてたら、絶対、嫌われるやつ。ああ、せっかく仲良くなれたのに…最悪…!
今日は日曜日。とりあえず俺はまた煩悩を断つために朝からランニングをすることにした。走って走って走りまくり、途中公園で筋トレもした。
お昼に牧くんに食事を届けた以外、それを繰り返した。これで煩悩はきっと消えたはず。そう思っていたのだが……。
夜お風呂の介助をしようとしたら、いつも以上に下半身が爆発しそうな気配を感じる。俺は何とか風呂を乗り切ったが、一緒のお布団…どころか同じ部屋には寝られそうにない。あー、これは本当にまずいやつ!
万が一の為に今日はあらかじめ乾燥機をかけて布団をふかふかぽかぽかにしておいた。これで俺がいなくても足が冷えることは無いだろう。
俺はまたトレーニングに行くと言って牧くんの部屋を出た。
そしてランニングした後、牧くんの部屋には戻らず、自分の部屋に戻ったのだった。
自分の部屋に戻った俺は風呂や昨日一緒に寝たことを思い返してつい、手淫してしまった。こんな事で、明日からどうするんだ俺…!
翌朝は月曜日。
今日は仕事だ。いつもは歩いて行く牧くんも足の怪我で、歩いては行けないだろう。電車で行くのも危ないから、俺は牧くんに付き添うつもりで朝、牧くんの部屋に向かった。
いつもならとっくに起きている時間だが、ノックしても返事がない。スマートフォンにメッセージもしてみたが未読のまま。俺は一気に心配になって、ドアノブに手を掛けると、なんと鍵がかかっていなかった。
「牧さん?!」
俺が名前を呼びながら部屋に入ると、牧くんは俺が寝る用の客用布団でぐっすり眠っていた。
俺の気配に気がついたらしい牧くんは目を開けた。
「今…何時?」
「六時です 」
「えー?!…本当だ…!」
もうそんな時間かぁ、と牧くんはやや困った顔をしている。それよりも…!
「それより、部屋の鍵開いてましたよ!いくら寮だからって不用心過ぎます!」
「あ~。昨日、高木くんが帰ってくるかも知れないと思って…。待ってたらそのまま寝ちゃったんだ 」
……俺を待っていたただと…?!
それで、夫のお布団で寝ちゃったんだ…。なにそれかわいい!
思わず、遅くなってごめんね、と抱きしめるところだった。もちろんそんなことは出来ないのだが…。
俺は待たせて申し訳なかったと、謝罪した。あと、夜はジョギングしたいから、今後は自分の部屋に帰ると伝えた。だって、待たせるのも申し訳ないし、もう一緒に寝られる気がしないのだから、仕方ない。牧くんは、「そっか」とだけ言った。
牧くんの「そっか」に、「がっかりした」というニュアンスを感じたのは気のせいだろうか?もしそうだったとして、俺の方がずっと俺にがっかりしてる。せっかく一緒の部屋で眠れるというのに…性欲がコントロール出来ないせいで、牧くんの部屋を出ていかなきゃ行けない、なんてさ!
その日、もう大丈夫だという牧くんを無理やり、電車に乗せた。電車は混んでいたから牧くんが人に押し潰されないよう、俺はドアの近くの隅で抱きしめるように牧くんをガードした。
俺と牧くんの身長差は十センチ…。牧くんの俯く顔を斜め上から至近距離で見つめることが出来た。一緒に眠れない分、これからしばらく電車通勤にしようと俺は思った。
俺は自分の部屋に戻って下着を洗いながら項垂れた。臭いでばれてるかもしれない。これバレてたら、絶対、嫌われるやつ。ああ、せっかく仲良くなれたのに…最悪…!
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