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9.入れ食いスポットで捕まえて!
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俺と牧くんが次に向かったのは、都心のオアシス。昔、とある総理大臣が桜を見る会を開催してめちゃくちゃ問題になった公園である。問題になるだけあって桜が沢山植林されている素晴らしい公園だ。しかし桜の見頃は春。一月の今はシーズンオフのはずなのだが…。
「凄い人だね!」
そう、牧くんも驚いているが、かなり人が多い。何でもここ、ゲームのモンスターを捕まえられる入れ食いスポットとして有名らしい。みんなスマホを手に、ゲームをしている。
牧くんが楽しそうにモンスターを捕まえ始めたので、俺もスマートフォンにアプリを落として、一緒にゲームをすることにした。
俺がゲームを始めると、牧くんは素人の俺に色々教えてくれた。何でもモンスターは餌を投げると捕獲率が上がるんだとか…。
それって人間でも同じだ。好きな子がいたらプレゼントしたり、甘い言葉を言ったりして餌を撒いて捕まえる。牧くんの餌はなんだろう?男同士だから甘い言葉もプレゼントも、響く気がしない。むしろ怖がられそうだ。
怖がられたり、嫌われたくない。しかも俺は童貞で、女の子も捕まえたことがないのに、ましてやセクシャリティの壁がある男を捕まえるテクニックなどあるわけが無い!そう考えると、この関係が進展する可能性はかなり低いと言える……。
なにそれ、めちゃくちゃ悲しいんだけど…。
俺は気持ちが沈んでしまい、ゲームのように意識がワープしそうになった。
しかし直ぐに、牧くんに声を掛けられて現実に戻った。牧くんは自分のスマホを俺に渡して、写真を撮ってくれ、と言う。
そのゲームアプリにはAR機能を使って、捕まえたモンスターを現実世界に映して写真を撮ることが出来るようだ。俺は頼まれた通り、牧くんと捕まえたモンスターの写真を数枚撮った。
モンスターと一緒にはしゃぎながら写る牧くん、かわいすぎる。俺もこの写真欲しい…!
俺はガチ勢じゃない、牧くんの写真目的だから、アイテムは使わずにモンスターを捕まえることにした。入れ食いスポットとあって複数のモンスターが直ぐに捕まえられた。俺の捕まえたモンスターと牧くんを撮らせてくれとお願いすると、牧くんは楽しそうに応じてくれた。
「すごい沢山捕まえられた!ありがとう、高木くん!良かった~高木くんと来て!サイコー!」
牧くんは撮りためた写真を笑顔でチェックしている。俺も控えめにいってサイコーだよ。
ああ、俺もかわいい牧くんを捕まえたい。モンスターは簡単に捕まるのに、人間は難しい…。
しばらくまるで恋人同士のように時間を忘れて写真を撮り合った。
夢中になり過ぎたのか、牧くんが写真を撮りながら後ろに下がった時、芝生と歩道の段差に躓いた。
カメラを持ったままだったから、牧くんは後ろむきに倒れそうになった。身軽な牧くんは咄嗟に頭を庇って身体を捻り、しかし受け身までは取れず、斜め後方に転倒してしまった。
「だっ、大丈夫ですか?!」
俺が駆け寄ると、牧くんはよろよろと立ち上がった。
「大丈夫…なんだけど、ちょっと足、捻ったかも…。」
牧くんは立ち上がったが、痛めたらしい足を庇ってひょこひょこと歩いている。
「無理しないでください!余計痛めたら大変だから!!」
「いや、そこまでじゃ無いと思うけど…。」
俺はひとまず牧くんを芝生に座らせた。スマートフォンで土曜日の午後診察してくれる整形外科を探したあと、アプリでタクシーを呼ぶ。タクシーは公園の入り口まで来るはずだ。
俺は牧くんの前に後ろ向きに屈んだ。
「乗って下さい!」
「え?!そんなにひどく無いから、歩けるよ…!」
「だめです!怪我は初めが肝心なんです!」
さあ乗って、と俺が促すと、牧くんはおずおずと俺の背中におぶさった。俺は牧くんをおぶって公園の入り口に向かう。
「あの、ごめんね、迷惑かけて。ありがとう。」
「迷惑じゃないです、全然…。」
おんぶをしている状態だから、俺の頭の直ぐ後ろで、牧くんの話し声と息遣いを感じる。肩に腕を回されてしがみつかれている、身体の重みも心地いい。それに胸の鼓動の音…こんな時に不謹慎だが…幸せすぎる。
「あ、高木くんひょっとしてもう痩せた?それとも筋肉がついたのかなぁ?背中も硬いよ?」
「いや…。まだ始めて一週間経ってないから、何も変わってないと思います。肩が硬いのは、肩こりかなぁ?張ってるのかも!」
「肩こり?!」
うそだ、と牧くんは笑った。
「何かスポーツしてたとか?」
「あー、野球をやってましたね。」
それは俺の黒歴史だ。こんなガタイだから、無理やり野球部でキャッチャーをやらされてたんだ!野球なんか好きじゃないのに!
「それで背中に筋肉ついてるんだね。」
牧くんはなるほど、と納得したようだ。牧くんは俺の肩の筋肉に優しく触れる。俺はそれだけで黒歴史を綺麗に塗り替えることができた。
話しているうちにあっという間に公園の入口まで到着した。呼んでいたタクシーに乗って、病院に向かう。
診察の結果、骨に異常などはなく、軽い打ち身とのことだった。湿布など貼り薬を処方されて、病院を後にした。
「迷惑かけてごめん。」
「全然迷惑じゃないです。」
その後寮に帰ってからも俺は、牧くんの世話を焼いた。だって俺の嫁の一大事だぞ!
食事の介助にお風呂。お風呂は特に滑りやすいから、つるん、って転んだら怪我が悪化する!大丈夫だと言う牧くんを無視して俺は牧くんを支えながらお風呂に入った。湯船は患部をあたためてしまい、良くないからシャワーだけ。ちゃんとシャワーと体を洗う介助もした!これはあくまで介助である!決して牧くんの身体をこの機会にすりすりしようと言ういやらしい気持ちからではない。
念の為事情を寮の管理人に伝えてみんながいない時間に入る許可を貰っておいたのだがそれも、二人っきりだね…とかそういう邪な気持ちからではない。あくまで介助の為である!
その証拠に牧くんには感謝された。髪をドライヤーで乾かしてあげている時にちょっと赤い顔で「ありがとう」とお礼を言われたのだ。
お湯に浸からなかった牧くんは、足の指が冷たいと漏らした。今日は布団乾燥機をかけていなかったので、俺と牧くんは一緒に寝ることにした。デブは体温が高いのだ。これはあくまで、俺は湯たんぽがわりであり、決していやらしい目的ではない。
俺は布団に入るとちょっとだけ牧くんをくんくんした。お風呂上がりのいい匂いがする。俺と牧くんの身長差は十センチ。こぶしひとつ分低い位置にいるが、ほぼ同じ目線だ。風呂の湯気にあてられてちょっと赤い顔をしている牧くんは俺の、目と鼻の先ほどの距離でおやすみ、と微笑んだ。
重ねて言うがこれは決していやらしい目的ではない。
――しかし翌朝、俺は夢精してしまい飛び起きた。
「凄い人だね!」
そう、牧くんも驚いているが、かなり人が多い。何でもここ、ゲームのモンスターを捕まえられる入れ食いスポットとして有名らしい。みんなスマホを手に、ゲームをしている。
牧くんが楽しそうにモンスターを捕まえ始めたので、俺もスマートフォンにアプリを落として、一緒にゲームをすることにした。
俺がゲームを始めると、牧くんは素人の俺に色々教えてくれた。何でもモンスターは餌を投げると捕獲率が上がるんだとか…。
それって人間でも同じだ。好きな子がいたらプレゼントしたり、甘い言葉を言ったりして餌を撒いて捕まえる。牧くんの餌はなんだろう?男同士だから甘い言葉もプレゼントも、響く気がしない。むしろ怖がられそうだ。
怖がられたり、嫌われたくない。しかも俺は童貞で、女の子も捕まえたことがないのに、ましてやセクシャリティの壁がある男を捕まえるテクニックなどあるわけが無い!そう考えると、この関係が進展する可能性はかなり低いと言える……。
なにそれ、めちゃくちゃ悲しいんだけど…。
俺は気持ちが沈んでしまい、ゲームのように意識がワープしそうになった。
しかし直ぐに、牧くんに声を掛けられて現実に戻った。牧くんは自分のスマホを俺に渡して、写真を撮ってくれ、と言う。
そのゲームアプリにはAR機能を使って、捕まえたモンスターを現実世界に映して写真を撮ることが出来るようだ。俺は頼まれた通り、牧くんと捕まえたモンスターの写真を数枚撮った。
モンスターと一緒にはしゃぎながら写る牧くん、かわいすぎる。俺もこの写真欲しい…!
俺はガチ勢じゃない、牧くんの写真目的だから、アイテムは使わずにモンスターを捕まえることにした。入れ食いスポットとあって複数のモンスターが直ぐに捕まえられた。俺の捕まえたモンスターと牧くんを撮らせてくれとお願いすると、牧くんは楽しそうに応じてくれた。
「すごい沢山捕まえられた!ありがとう、高木くん!良かった~高木くんと来て!サイコー!」
牧くんは撮りためた写真を笑顔でチェックしている。俺も控えめにいってサイコーだよ。
ああ、俺もかわいい牧くんを捕まえたい。モンスターは簡単に捕まるのに、人間は難しい…。
しばらくまるで恋人同士のように時間を忘れて写真を撮り合った。
夢中になり過ぎたのか、牧くんが写真を撮りながら後ろに下がった時、芝生と歩道の段差に躓いた。
カメラを持ったままだったから、牧くんは後ろむきに倒れそうになった。身軽な牧くんは咄嗟に頭を庇って身体を捻り、しかし受け身までは取れず、斜め後方に転倒してしまった。
「だっ、大丈夫ですか?!」
俺が駆け寄ると、牧くんはよろよろと立ち上がった。
「大丈夫…なんだけど、ちょっと足、捻ったかも…。」
牧くんは立ち上がったが、痛めたらしい足を庇ってひょこひょこと歩いている。
「無理しないでください!余計痛めたら大変だから!!」
「いや、そこまでじゃ無いと思うけど…。」
俺はひとまず牧くんを芝生に座らせた。スマートフォンで土曜日の午後診察してくれる整形外科を探したあと、アプリでタクシーを呼ぶ。タクシーは公園の入り口まで来るはずだ。
俺は牧くんの前に後ろ向きに屈んだ。
「乗って下さい!」
「え?!そんなにひどく無いから、歩けるよ…!」
「だめです!怪我は初めが肝心なんです!」
さあ乗って、と俺が促すと、牧くんはおずおずと俺の背中におぶさった。俺は牧くんをおぶって公園の入り口に向かう。
「あの、ごめんね、迷惑かけて。ありがとう。」
「迷惑じゃないです、全然…。」
おんぶをしている状態だから、俺の頭の直ぐ後ろで、牧くんの話し声と息遣いを感じる。肩に腕を回されてしがみつかれている、身体の重みも心地いい。それに胸の鼓動の音…こんな時に不謹慎だが…幸せすぎる。
「あ、高木くんひょっとしてもう痩せた?それとも筋肉がついたのかなぁ?背中も硬いよ?」
「いや…。まだ始めて一週間経ってないから、何も変わってないと思います。肩が硬いのは、肩こりかなぁ?張ってるのかも!」
「肩こり?!」
うそだ、と牧くんは笑った。
「何かスポーツしてたとか?」
「あー、野球をやってましたね。」
それは俺の黒歴史だ。こんなガタイだから、無理やり野球部でキャッチャーをやらされてたんだ!野球なんか好きじゃないのに!
「それで背中に筋肉ついてるんだね。」
牧くんはなるほど、と納得したようだ。牧くんは俺の肩の筋肉に優しく触れる。俺はそれだけで黒歴史を綺麗に塗り替えることができた。
話しているうちにあっという間に公園の入口まで到着した。呼んでいたタクシーに乗って、病院に向かう。
診察の結果、骨に異常などはなく、軽い打ち身とのことだった。湿布など貼り薬を処方されて、病院を後にした。
「迷惑かけてごめん。」
「全然迷惑じゃないです。」
その後寮に帰ってからも俺は、牧くんの世話を焼いた。だって俺の嫁の一大事だぞ!
食事の介助にお風呂。お風呂は特に滑りやすいから、つるん、って転んだら怪我が悪化する!大丈夫だと言う牧くんを無視して俺は牧くんを支えながらお風呂に入った。湯船は患部をあたためてしまい、良くないからシャワーだけ。ちゃんとシャワーと体を洗う介助もした!これはあくまで介助である!決して牧くんの身体をこの機会にすりすりしようと言ういやらしい気持ちからではない。
念の為事情を寮の管理人に伝えてみんながいない時間に入る許可を貰っておいたのだがそれも、二人っきりだね…とかそういう邪な気持ちからではない。あくまで介助の為である!
その証拠に牧くんには感謝された。髪をドライヤーで乾かしてあげている時にちょっと赤い顔で「ありがとう」とお礼を言われたのだ。
お湯に浸からなかった牧くんは、足の指が冷たいと漏らした。今日は布団乾燥機をかけていなかったので、俺と牧くんは一緒に寝ることにした。デブは体温が高いのだ。これはあくまで、俺は湯たんぽがわりであり、決していやらしい目的ではない。
俺は布団に入るとちょっとだけ牧くんをくんくんした。お風呂上がりのいい匂いがする。俺と牧くんの身長差は十センチ。こぶしひとつ分低い位置にいるが、ほぼ同じ目線だ。風呂の湯気にあてられてちょっと赤い顔をしている牧くんは俺の、目と鼻の先ほどの距離でおやすみ、と微笑んだ。
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