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5.嫁に来ないか
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そうは言っても、牧くんは新田という性格ブスだが顔はいい女が好きな普通の青年である。
俺も新田が嫌い過ぎて、応援できないだけなのかもしれないし…。いったん落ち着こう俺、と自分を宥めた。
午前の仕事を終えると、オフィスには昼休憩の開始を告げるさわやかな音楽が鳴る。俺はそれを聞くやいなや別フロアにいる牧くんへ速攻でメッセージを送った。お腹すいたぁ、社員食堂は混むから急がないと!
牧くんからは「昼は忙しくてたべられない。ごめん」との返信があった。そうなのかよ…。朝もろくに食べてないくせに、昼も抜くのかよ。更に通勤は徒歩…、これは痩せない訳がないな!
悔しいが新田の「痩せてる人と同じ生活したら痩せる説」あってるよ!同じ生活が出来れば、の話だけどな?だってデブの机だったら絶対…お菓子なんかが常備してあるから、ついつい摘んでしまうだろう。それに…!
俺は昼休憩の後、都内のとある肉まんショップに来ていた。そこは持ち帰り専門の肉まんショップ。実に美味しそうなにおいが充満している。昼食べていないというスパイスも加わって、腹が切なげに鳴る。
「高木君、これお土産!営業のみなさんでどうぞ!」
「え…?!こ、こんなに、よろしいんですか?!申し訳ありません…!」
「いのよ、いつもお世話になってるから!お花もいただいてしまったし 」
俺はニコリと笑う女性から大量の肉まんを受け取った。
俺に肉まんを渡した女性はこの肉まんショップの社長にして、俺が所属する本店営業二部第二課で担当している大手食品加工会社“もえみ”の代表取締役社長の奥さんだ。奥さんは親会社から出資を受けて外食企業チェーンを経営し、グロース市場に上場させた実力者である。このほど趣味と実益を兼ねて自分が大好きだという肉まんの持ち帰り専門店、“子豚の花ちゃん”をオープンさせた。ゆくゆくは全国チェーン化を狙っているとかいないとか。それで俺は外回りのついでにお祝いに駆けつけたのだが…。
営業をしていると、こういった誘惑が多い。特に俺、太ってるから大食いだと思われてる!この肉まんもいったいいくつ入ってるんだ…?大きめの紙袋を二袋も渡されてしまった。
オフィスに戻る道すがら、美味しそうなにおいに刺激されて腹の音が鳴りやまない。
昼を抜くのはきつい……。でもそれは俺だけじゃないよな?流石に痩せている牧くんだって辛いはずだ。
帰社した俺は自分のフロアには戻らずに、牧くんのいるフロアに向かった。しかし、セキュリティのカードキーが違っていて入れない。内線をかけようか迷っていると、丁度中から年配の男性社員が出て来た。
俺が声をかける前に、その人は匂いにつられたのか俺の方に一直線に近寄って来る。
「何の匂い?!すごく良い匂いなんだけど…!まさか飯テロ?!」
「営業二課の高木です。あの、牧主任から今日、忙しくてお昼食べられないって聞いて…。お客様から頂いたものなのですが、良かったら皆さんで 」
「牧?ああ…。確かに今日は忙しかったから…助かる!ありがとう!」
その年配男性は嬉々とした顔で袋を受け取り、中へ戻って行った。ちゃんと渡してくれるんだろうか?ちょっと、頼みますよ?!
俺は後を付けるわけにもいかず、自分の部署へと戻った。
戻ってから袋の中の箱を開けて驚いた。いただきものの肉まんは一個一個が大きくて、数があまりないタイプだったのだ。残りは十個…。後でお礼の電話をしてもらわなければならないから部長と次長、課長には渡さないとまずい。同じ部署の事務パートさんに渡さないと、仕事をしてもらえなくなるだろ?それにこの間食事を奢ってもらった係長…、大嫌いだけどあいつもうるさいからなあ、新田主任…。
そんなこんなでみんなに配ったら自分の分がなくなってしまった!あーっ!!今ま散々匂いだけ嗅がされて食べられないなんて!俺そんなにMじゃないんだけど…!俺が泣く泣く肉まんを諦めたのに、俺から肉まんを受け取った新田は、「高木くんが肉まん?!肉まんって豚まんとも言うじゃない?だから…それだと高木ブーだし、アンパンマンが肉まん持ってるしでもう大渋滞ね!」とか言ってニヤニヤしている。チッ!
俺は何とか終業までの時間を水分だけで乗り切った。ちなみに牧くん、水分は水かお茶しか飲まないらしいから…もちろん俺も水・お茶のみ。甘いカフェラテが恋しい…。美味しいものは脂肪と糖で出来ているーー!
しかしそんな鬱々とした気持ちは、終業後牧くんに会うと一掃された。
「高木くんありがとう!肉まんすっごく美味しくて、次長がめちゃくちゃ喜んで機嫌良くなってさ…。何か食べてこいって、諭吉さんまで貰っちゃったんだよ!」
牧くんは「どこかに食べに行こう」と笑った。俺はその笑顔で空腹のしんどさも新田への腹立たしさも全て吹っ飛んだ。
……牧くん、やっぱり俺の嫁になってくれよ。
奇しくも今日は週半ばのノー残業デー。軍資金を手に俺たちは街へと繰り出した。
俺も新田が嫌い過ぎて、応援できないだけなのかもしれないし…。いったん落ち着こう俺、と自分を宥めた。
午前の仕事を終えると、オフィスには昼休憩の開始を告げるさわやかな音楽が鳴る。俺はそれを聞くやいなや別フロアにいる牧くんへ速攻でメッセージを送った。お腹すいたぁ、社員食堂は混むから急がないと!
牧くんからは「昼は忙しくてたべられない。ごめん」との返信があった。そうなのかよ…。朝もろくに食べてないくせに、昼も抜くのかよ。更に通勤は徒歩…、これは痩せない訳がないな!
悔しいが新田の「痩せてる人と同じ生活したら痩せる説」あってるよ!同じ生活が出来れば、の話だけどな?だってデブの机だったら絶対…お菓子なんかが常備してあるから、ついつい摘んでしまうだろう。それに…!
俺は昼休憩の後、都内のとある肉まんショップに来ていた。そこは持ち帰り専門の肉まんショップ。実に美味しそうなにおいが充満している。昼食べていないというスパイスも加わって、腹が切なげに鳴る。
「高木君、これお土産!営業のみなさんでどうぞ!」
「え…?!こ、こんなに、よろしいんですか?!申し訳ありません…!」
「いのよ、いつもお世話になってるから!お花もいただいてしまったし 」
俺はニコリと笑う女性から大量の肉まんを受け取った。
俺に肉まんを渡した女性はこの肉まんショップの社長にして、俺が所属する本店営業二部第二課で担当している大手食品加工会社“もえみ”の代表取締役社長の奥さんだ。奥さんは親会社から出資を受けて外食企業チェーンを経営し、グロース市場に上場させた実力者である。このほど趣味と実益を兼ねて自分が大好きだという肉まんの持ち帰り専門店、“子豚の花ちゃん”をオープンさせた。ゆくゆくは全国チェーン化を狙っているとかいないとか。それで俺は外回りのついでにお祝いに駆けつけたのだが…。
営業をしていると、こういった誘惑が多い。特に俺、太ってるから大食いだと思われてる!この肉まんもいったいいくつ入ってるんだ…?大きめの紙袋を二袋も渡されてしまった。
オフィスに戻る道すがら、美味しそうなにおいに刺激されて腹の音が鳴りやまない。
昼を抜くのはきつい……。でもそれは俺だけじゃないよな?流石に痩せている牧くんだって辛いはずだ。
帰社した俺は自分のフロアには戻らずに、牧くんのいるフロアに向かった。しかし、セキュリティのカードキーが違っていて入れない。内線をかけようか迷っていると、丁度中から年配の男性社員が出て来た。
俺が声をかける前に、その人は匂いにつられたのか俺の方に一直線に近寄って来る。
「何の匂い?!すごく良い匂いなんだけど…!まさか飯テロ?!」
「営業二課の高木です。あの、牧主任から今日、忙しくてお昼食べられないって聞いて…。お客様から頂いたものなのですが、良かったら皆さんで 」
「牧?ああ…。確かに今日は忙しかったから…助かる!ありがとう!」
その年配男性は嬉々とした顔で袋を受け取り、中へ戻って行った。ちゃんと渡してくれるんだろうか?ちょっと、頼みますよ?!
俺は後を付けるわけにもいかず、自分の部署へと戻った。
戻ってから袋の中の箱を開けて驚いた。いただきものの肉まんは一個一個が大きくて、数があまりないタイプだったのだ。残りは十個…。後でお礼の電話をしてもらわなければならないから部長と次長、課長には渡さないとまずい。同じ部署の事務パートさんに渡さないと、仕事をしてもらえなくなるだろ?それにこの間食事を奢ってもらった係長…、大嫌いだけどあいつもうるさいからなあ、新田主任…。
そんなこんなでみんなに配ったら自分の分がなくなってしまった!あーっ!!今ま散々匂いだけ嗅がされて食べられないなんて!俺そんなにMじゃないんだけど…!俺が泣く泣く肉まんを諦めたのに、俺から肉まんを受け取った新田は、「高木くんが肉まん?!肉まんって豚まんとも言うじゃない?だから…それだと高木ブーだし、アンパンマンが肉まん持ってるしでもう大渋滞ね!」とか言ってニヤニヤしている。チッ!
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しかしそんな鬱々とした気持ちは、終業後牧くんに会うと一掃された。
「高木くんありがとう!肉まんすっごく美味しくて、次長がめちゃくちゃ喜んで機嫌良くなってさ…。何か食べてこいって、諭吉さんまで貰っちゃったんだよ!」
牧くんは「どこかに食べに行こう」と笑った。俺はその笑顔で空腹のしんどさも新田への腹立たしさも全て吹っ飛んだ。
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