振られて捨てられたはずがなぜか成功して周りの評価が爆上がりした件～失恋ソングを配信しただけでけして復讐ではありません！～

四章 ソロ活動編

49.【マコトside】ざまぁのその先

「ＢＬ営業だよ、マコトと絡むと、ポイント高いから、それだけ…！俺、フツーに女が好きだし…」

   お前、マコトと付き合ってるのかよ？そう同じＹＢＩのメンバーに詰め寄られた響ひびきは、眉を顰めた。

　フーン…。

　まあ俺もそうだよ。ＹＢＩのファンの子達は、女と付き合うのをめちゃくちゃ嫌がる代わりに、ＢＬ営業はすこぶる好評だ。だから俺もつい、やってただけだよ…。ふりだよ、フリ！好きになったフリ…。　

　立ち聞きしたのを気付かれないように、俺はその場を後にした。

『俺もＢＬ営業してただけ』そう思っていたのに、その後、ＢＬ営業が出来なくなった自分に気が付いて、結構ショックを受けていたんだな、と他人事のように思っていた。
　その時俺は、仕事に生きる、そう決心した。

　…それなのに…！

「マコト君、ごめんね…！」
「そんな、謝らないでください。ゴールデンタイムのドラマにメインキャストってだけでありがたい話なので！」

   俺はドラマプロデューサーに愛想よく応じたものの、内心は盛大に悪態をついていた。主人公の相手役だからオファーを受けたのに、当て馬役に降格なんて…。しかも俺の役を奪った今泉蓮はドラマ初出演。人気のミュージシャンで、主演女優の学生時代の元カレだとか。今回の役ともシンクロするようなプロフィールで、話題作りに制作側が飛びついたんだ。それを主導したのは人気女優で主演の木村陽菜！ドラマで共演して、復縁でも狙ってるのか？仕事を何だと思ってんだ、恋に生きてるんじゃねーよ。木村陽菜、超、気に入らねー！
　
　こうなったら、とことん二人の仲を邪魔してやろう…。それにはまず、今泉蓮を調べよう。今泉蓮に女でもいればそれをバラせば良い。
　
「蓮くん？蓮くんかぁー…。蓮くんのことはあんまり知らないんだよね」
   RELAYのスタイリストをしていた、という男は、今泉蓮の話をすると、少し困った顔をした。
「蓮くんは？」
「うん。俺、圭吾派だから、ベースの」

   記憶の引き出しを開けて探したが、共演はしているはずなのに『圭吾』の記憶が全くなかった。スマートフォンで写真を見ても、さっぱりだ。

「…なんで圭吾派なの？今泉蓮くんは、すっごい性格悪いとか？」
   性格悪いってネタでもいいや、と思って俺が聞くと、その男は「ちがうよ」と笑った。
「俺が圭吾くん推しなだけ。圭吾くん、実は韓流アイドル顔負けの、すごいイケメンで！」
「実は？」
「本人天然だから、身なりに興味なくて蓮くんの言いなりで、似合わない格好してて気付かれてないんだよ。そんなぼんやりなところもかわいいんだけど！」

　すっごいイケメンで、世間に気付かれてないメンバー？芸能界にいて、そんなことある？

　上村圭吾に興味が湧いた俺はさっそく近づく事にした。上村圭吾は想像以上にあっさり捕まり、そして言いなりで髪を切った。本人は普通っぽくしたかったらしいが…普通ぽくするとむしろ元が良いのが隠し切れないタイプらしい。

　酔った上村圭吾を迎えにきた今泉蓮は、変身した姿にかなり動揺していた。

「おい、なんのつもりだよコレ…！」
「え、超いけてるでしょ？」
「…………いや、こんなに飲ませてどうするつもりだ、ってこと…」
　今泉蓮は小声だったが、その動揺は伝わってきた。周囲に興味が薄そうなのに、その態度は意外だった。

「心外だなあ～！俺が無理に飲ませた訳じゃないよ？ほとんどは自分で飲んでたんだから。それに圭吾くんが、『蓮に会いたい』って泣くからさぁ、ちゃんと連絡してあげたじゃん！」
「……」

　今泉蓮は無言で、顔を背けた。目も伏せて口元を押さえているけど、俺から背けた横顔は耳まで赤くなっている。
　え？なになに？なんで…？照れてるわけ？

　圭吾が深酒して、『蓮に会いたい』って泣いていた…。それに反応した？今泉蓮は圭吾くんが泣きながら自分に『会いたい』って言ったことが嬉しくて照れてるってこと？木村陽菜の元カレって聞いたけど、今泉蓮って……。

　今泉蓮にそんな表情をさせる人物…『圭吾』は今泉蓮のアキレス腱に違いない。

　圭吾くんの希望はRELAYに戻って活動する事だ。俺は圭吾くんを助けるフリをして、RELAYでの立場を逆転させ、今泉蓮の価値を下げることにした。そうすれば今泉蓮を選んだ木村陽菜の評価も下がり結果的に『ざまあ』できる、という筋書きだ。

　『圭吾くん』は話してみると正真正銘の天然魚。それも冷たい水には住んでいない、インド洋辺りの暖かい海の珊瑚礁の陰で昼寝でもしていそうなタイプ。

　柔らかい話し方と本人の写真から作った可愛らしいキャラクターも受けてＶｔｕｂｅｒの活動は順調だった。
　そして超イケメンに変身した圭吾くんをドラマの関係者の飲みの席に呼び出すと、今泉蓮も木村陽菜も意識しまくり。圭吾くんを連れてタクシーに乗り、今泉蓮からの鬼のような着信を見ながら、ざまぁ計画は順調に進行していると確信した。


「マコト君、実はさ、蓮からREPLAYにＤＭが来てて…」
「え…？まさか、バレたとか？」
   今泉蓮からＤＭが来たと、報告してきた圭吾くんは薄ら頬を染めていた。その様子で俺はだいたいのことを察した。自分がプロフィール欄にイタズラした事で、二人は連絡を取り合うようになったようだ。それは、俺の計画としては、良いことのはずだった。

　でも、なんだか少し胸がちくりと痛んだ。



　ざまぁ計画は最終段階に突入した。

　木村陽菜が作詞ができなくてお蔵入りになっていた今泉蓮の曲に、嘘をついて圭吾くんを煽り、歌詞を書かせたのだ。

　どっきりで仲直りさせれば、たぶん二人は両想いになるだろう。その上、木村陽菜が書かなかった歌詞を圭吾くんが作ってヒットしたら、最高のざまぁになる。そう考えたらからだ。
　
　
　俺のドッキリ企画をRELAYのマネージャーや今泉蓮に説明した後、誰が書いたとは言わずに圭吾くんの歌詞を差し出し、お蔵入り寸前の曲をＹＢＩに歌わせてほしいとお願いした。歌詞を読んだ今泉蓮は表情を一変させた。

「これ、誰が書いたの？」
　今泉蓮は、含み笑いを抑えられないようだった。口角が自然に上がり、微笑んでいる。

「誰だと思う？」
「……圭吾？」
「なんでそう思うの…？」
「ワードの使い方が…なんとなく」
「圭吾っぽい？」
　俺が尋ねると、今泉蓮は「やっぱり！」と言って噴き出した。そしてその歌詞が書かれた紙を愛おしそうに見つめた。

　ワードの感じで誰かわかるのって普通？そんなに、笑顔になっちゃうのって普通？
　
　ーーお前上村圭吾のこと大好きだろ！知ってたけど。知ってて、どっきりもざまぁもするんだけど…。
　なんで俺、こんな、砂を噛むような気持ちになるんだろうか…？
　


＊＊＊＊

「今、何待ち？」

   普段あまり文句は言わないのだが、俺は思わずスタッフに聞いてしまった。

「えっとぉ…、木村陽菜さんのメイク待ちです」
「フーン？」

   何かあったな？別なスタッフにも探りを入れるとどうやら、今泉蓮と揉めて木村陽菜は泣き腫らした顔で現場入りしたらしい。
　あー、昨日、今泉蓮とRELAYの事務所で話をしていたけど、それか…？思いっきり振られたんだな？薄々気がないって分かってたろうに。それでも真正面からいったなら、すげぇな…！
　木村陽菜、本当に恋に生きる女だったんだな…？
　計画通りざまぁしたはずが、木村陽菜を笑う気にはなれず、少し同情した。だから、届かない相手に恋なんかしてもいいことはないんだ。


　しかし、長いメイクを終えて出て来た木村陽菜に、俺は舌を巻いた。

　昨日失恋したとは思えない、完璧な笑顔で、ドラマの最終話、ハッピーエンドを演じたのだ。

   むしろ、失恋したからなのか？恋を失う気持ちを知ってるから、ハッピーエンドを夢のように演じられる…。

　たしか圭吾くんも言っていた。
　解散するまで、「こんなにRELAYが大切なんて、知らなかった」って…。

　失うこと、失恋も、悪い事だけじゃないのかもしれない。また、恋してみてもいいのかも…。
　
　ざまぁの先はハッピーエンドが待っているものだけど、それ、当て馬の場合はどうなるんだ…？

　俺は鞄の中から、そっと台本を取り出した。ーーああ俺、次は主役だった…！

　期待を込めて、初めのページをめくった。