振られて捨てられたはずがなぜか成功して周りの評価が爆上がりした件~失恋ソングを配信しただけでけして復讐ではありません!~

あさ田ぱん

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四章 ソロ活動編

46.プレゼント

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 収録は夜遅く、間もなく午前0時という時刻まで続いた。放送分を二本、ドッキリまで収録したのだ、むしろ早い方かも知れない。
 俺は最後に、お土産で持ってきた菓子折りと『圭吾くん人形』をラジオスタッフに手渡した。
『圭吾くん人形』を見た蓮は噴き出した。

「番組で、出せばよかったのに。視聴者プレゼントで…」
 視聴者プレゼント、って…。俺の人形なんか、欲しい人はいるんだろうか?圭吾いらない説の上、彼女匂わせ事件以降、RELAYファンには嫌われてる…。でも蓮は手に取った一体を、「一つ頂戴」といって持って行ってしまった。

 そう、蓮はラジオスタッフ達と何やら話しながら、行ってしまったのだ…。次回の打ち合わせなのかもしれない。蓮は俺を「連れて帰る」と言っていたから待っていたかったけど、阿部マネージャーに送って行くといわれてしまい、断れず連れて行かれた。

 自分から言い出せなくて、流されてしまう。これ、俺の悪い所だ…。

 これからは後悔しているところを、一つずつ、巻き戻ってやり直していこう…!

 意を決して、俺は地下の駐車場の入り口の前で阿部マネージャーを呼び止めた。

「阿部マネージャー、あの、今日は蓮が送ってくれるっていうから、ここで大丈夫です」
「え?そうなの?」

 阿部マネージャーは「積もる話もあるもんね」と納得したようだ。

 阿部マネージャーを見送って少しすると、蓮からメッセージが来た。久しぶりに、SNSではなく、個人宛のメッセージだ。そのメッセージには『駐車場で待っていて』と書かれている。
 ーーやっぱり待っていて良かった。

「圭吾こっち、急げ!」

 蓮は慌てて走ってきて、俺を引っ張った。駐車場に停まっている蓮のかっこいい黒のSUV車に乗り込むと、小さな包みを俺に手渡した。蓮はすぐに車のエンジンを掛けて時間を確認する。

「ああ~、間に合わなかった!ごめん!」
「間に合わなかった?」
「クリスマスプレゼントだからイヴのうちに渡したかったんだ」

 蓮はアクセルを踏んで、車を走らせる。駐車場を出ると、包みをなかなか開けない俺に「中、開けてみて」と言った。

 包みの中にはレトロなウサギのチャームがついた鍵が入っていた。そのうさぎには小さく『れん』と名前が書いてある。

「かわいい…」
 高校の修学旅行の時、二人で神社にいってうさぎの置き物に名前を書いたことを思い出した。あれって、どういうおまじないだっけ…。
「…それだけ…?」
 まあいいけど、と、蓮は小さくつぶやいた。
「あ…ありがとう!えっと、なんの鍵…?」
「……」
 お礼を言ったけど、蓮はそれ以上何も答えなかった。
 

 蓮のマンションに来るのは俺が蓮を怒らせて帰った日以来だ。駐車場から、マンションのエントランスに上って、オートロックを抜ける。エレベーターに乗る頃には、あの時の光景がフラッシュバックして緊張しすぎたのか呼吸が浅くなったように感じた。胸もドキドキして、蓮にもらったウサギのチャームが手の中で汗ばむ。
 部屋のドアの前に着くと、蓮は俺をドアの前に立たせ、後ろに回り込むと、俺の手の中にある鍵を指さした。

「これで開けて」
 蓮に促されて手の中の鍵をドアに差し込むと、カチャ、と金属音がして鍵は回った。
「あと下」
 二個目の鍵を回して鍵を引き抜く。

 蓮は後ろからドアを引いて、呆然とする俺をやや乱暴に部屋の中に押し込んだ。後ろを向いてドアの鍵を閉める蓮に、俺は後ろから抱き着いた。

「蓮…!」

 プレゼントって、蓮の部屋の、合鍵?いつでも来ていいってこと?それとも、俺が実家を出てビジネスホテル暮らしなの知ってて、それで…?
  言葉が出なくて名前だけ呼ぶと、蓮は俺を自分の胸へ抱き寄せた。玄関で、靴を脱ぐ暇も惜しんで抱き合うとキスする。

「蓮、好き…」
「圭吾…本当に?」
「うん。大好き。蓮…。会いたかったずっと…」
「でも、圭吾は全然、俺に会いに来る様子がなくて待ちくたびれて、死にそうだった。待ってて来ないってわかるとしんどいから、メッセージアプリの方はブロックしてた」
「それでメッセージ送っても未読のままだったんだ…?でも蓮は…ずっと彼女いたりして、俺のことは遊びだと思ってた...。会ってもえっちなことしかしないし」
「それは、圭吾がだろ…?」

 『圭吾がだろ』って、俺に彼女がいた、って蓮は思ってたってこと?!なんで?!アニオタでフツメンの俺が…?!しかも童貞だよ、俺!
 俺が怪訝な顔をしているのを察した蓮は眉を下げた。

「高校の時も、俺のライブを出しに女と出かけようとしたり、最近も美咲と付き合って、キスマーク付けると嫌がるし……」
 それは美咲がキスマークがあると毎回冷やかす上に、犯人を歯型から特定するとかいうからだったんだけど…。しかも美咲と付き合ってるって…ないない!それだけはない!
 完全な誤解なのに、蓮が小さな子供みたいに明らかにしゅんとしたので、反射的に『かわいい』と言いそうになって何とか耐えた。今はきちんと誤解を解いておかなければ。

「高校の時も大学の時も卒業してからも彼女なんかいない…ずっと蓮が好きだった。でも先にえっちしちゃってセフレみたいになっちゃって、言い出せなくなって…」
 蓮は少し、表情を緩める。ちゃんと伝わった?
「本当?」
「本当だよ。だって俺、童貞で…蓮しか知らないんだ…」
 恥ずかしくなって蓮に抱き着くと、蓮は俺を抱きしめ返した。
「俺さ、怖かったんだ。RELAYで行き詰まって曲ができなくてカッコ悪いところ見せたら、嫌われるかもって…」
「そんなの、全然カッコ悪くない。カッコ悪いのは俺だ。蓮にばっかり頑張らせてた…。蓮はずっとかっこいいよ。好きだ、これからもずっと…!」
 蓮の眉間の皺が無くなって、笑顔になっている。やっぱり、笑顔の蓮は最高にかっこいい。
 また一個、言えなかった後悔をなくせた。よかった…!

「圭吾…嬉しい。圭吾、俺にもクリスマスプレゼントちょうだい。圭吾を抱いてもいい?」
 俺が頷くと、蓮は歯が痛くなりそうなくらい甘く微笑んだ。
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