振られて捨てられたはずがなぜか成功して周りの評価が爆上がりした件~失恋ソングを配信しただけでけして復讐ではありません!~

あさ田ぱん

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四章 ソロ活動編

43.ドッキリ企画開始

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 あっという間に、クリスマスがやって来た。今日は良い子にしていたらサンタさんにプレゼントをもらえる日。
 俺は良い子に、ベースボーカルを実現すれば蓮が俺を見直すだろうというマコト説を信じて、練習は沢山したのだが、まだ習得できていない。仕事も入って、練習時間が足りなかったんだと思う。言い訳は沢山あるが、蓮はどんなに忙しくても演奏で手を抜いたり、できないなんて言わなかった。だから蓮の前で言い訳は通用しない。

 そうしてベースボーカルという武器がないまま、REPLAYは俺だと蓮のラジオ番組で告白する日を迎えてしまった。俺は緊張のあまり、朝から水しか飲んでいない。
 その他、蓮と仲直りに使えそうな武器はない…。俺は昨日出来立ての「圭吾くん人形」と菓子折りだけもってラジオ収録に向かった。弱い、装備が弱すぎる!
 その日は年末進行のため二本どりで、最初の回はYBIのマコトが出演した。ここからすでにドッキリ企画の仕込みなのだ。

 楽屋で収録風景を見て、涙が溢れそうになった。だって、毎週、RELAYでやっていた時と、スタッフや景色は全然変わってない。ただ、『RELAY』がいないだけ。毎週番組は聞いていたけど、聞くのと見るのとでは情報量が全然違う。
 マコトに、動画を撮られて大丈夫だろうか?最悪、編集してくれると言っていたけど、本当に、怒らせない?上手くいけば、また蓮と普通に話せるようになる?

 ぐるぐると考えながら、息を潜めて楽屋で待機していた。

 一本目の収録が終わるとマコトが俺の楽屋にやってきて、動画冒頭で流す予定の、コメント撮りが始まった。

「圭吾くん、緊張しすぎじゃ無い?」
「うん。口から胃が出そう」
「心臓じゃなくて?」
 マコトはカメラの前で朗らかに笑った。そしてすぐに少し真面目な顔になった。
「簡単に、RELAYがなんで活動休止、ほぼ解散したか、聞いてもいい?」
「えーと、たぶん、俺が…蓮を怒らせて。それが原因だと思ってます」
「何で怒らせたの?」
「蓮が曲を作ってる時、俺、漫画読みながら寝ちゃって……」
  本当は漫画は読んでいなかったのだが、蓮はそう思っているから、そう言った。寝たのは事実だし…。
「ははっ!それさ、お笑い芸人の『ネタ書いてない方芸人』みたいだね。芸人さんもさ、ネタ書いてない人がネタ作りの時遊んでるってよく怒ってるもん。まあ、ちょっと圭吾くんらしくて笑っちゃうけど…。圭吾くんはその事を蓮くんに謝って、仲直りしたい、って事?」
「はい。俺、ソロになって、自分がどれだけ蓮に申し訳ない事をしたのか分かったんだ。蓮の負担が大きすぎた。それなのに、何もして来なくて…。だから、謝りたい」
 不安と緊張で、大事なところなのに、声が小さくなってしまう。俺は少し、大きく息を吸い込んだ。

「うんうん。それで、今日ソロ活動のことも言うんだよね?」
「はい」
「一人になって、何やってた?」
「Vtuberの『REPLAY』として活動していました」
 動画ではここで、REPLAYの紹介動画が差し込まれるから説明は不要。打ち合わせ通りに、マコトに目で合図され、コメント撮りは順調に進行していく。

「ソロデビューが決まったんだよね。いつ?」
「えーと、メジャーデビューは来年なんですが、年末にプレスリリースの、動画の配信があります」
「このラジオの少し前になる?」
「ラジオ放送の前日にタイムリープという曲の動画が配信になります」
 マコトが撮っている動画はソロデビュー曲『タイムリープ』の動画配信後、ラジオの放送前までに配信される予定だ。ラジオリスナーは、タイムリープで俺のソロを知った後、マコトの動画を見て、ラジオを聞くことになる。

「蓮くんは、今日のゲストは『REPLAY』で、圭吾君だとは思ってない」
「そうなんです。俺がREPLAYなんだけど、まだ顔出ししてなくて、蓮も知りません」
「じゃ、早速蓮くんの所に行って、サプライズしよ!」

 マコトは一旦そこで、カメラを止めた。

「圭吾くん、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ!いざとなったら編集できるから!」

 マコトは俺の肩をポンと優しく叩いた。その刺激だけで俺は、吐いてしまうんじゃないかというくらい緊張していた。全部正直に謝って、できれば許してもらいたい。そしてまたRELAYができたら…。期待と不安で、心臓が張り裂けそうだった。

 打ち合わせをするスタジオの前室で、俺と蓮は会うことになった。マコトは部屋の前までしかついてこないらしい。スタジオの前室には、カメラを固定して隠した状態で置いてあるようだ。

 扉の前で蓮に謝るイメージを膨らませて、何回もシュミレーションと深呼吸をした。
 ラジオ番組のディレクターの合図で、一緒に部屋に入る。ラジオ番組のディレクターは蓮に「REPLAYさんです!打ち合わせお願いします。」と声をかけた。

 座っていた蓮は、立ち上がって、入り口から入った俺を見て目を見開く。
 
「……圭吾?なんで…?」

 蓮の表情が一瞬で曇ったのが分かった。その表情を見てすぐに逃げ出したくなったが、もう、どう考えても引き返せない。

「え…っと、REPLAYは俺です。なかなか言えなくて、ごめん」

 俺は蓮の顔を見ながら謝罪した。しかし蓮の表情は曇り、眉間にどんどん皺が寄っていく。

「それで今日は…」

「ちょっと待って、圭吾が来る、って俺は聞いてない。どういうことか説明して?」

 蓮は俺から目をそらすと、ラジオ番組のディレクターに視線を移した。声がもう、怒っている。蓮の怒りを察知した俺は涙が溢れそうになるのを根性で耐えた。もし仲直りできたら一緒に歌を歌うはずだから、泣くと、声に影響がでる。

「なんでコイツを呼んでるわけ?俺、番組始めるときに言ったよね?圭吾とは無理だから、一緒ならやらないって。それで俺単独の番組が始まったんじゃないの?」

 そういう経緯で始まったんだ。そして俺、やっぱり共演NGだったんだ。俺だけ呼ばれないし、薄々、予想はしていたけど本人から聞くとやはりダメージが大きい。

「あれ、コイツの曲だったの?だったらもう無理だから、帰ってもらって。ていうか、圭吾。お前も良くこれたよな?俺を騙して、楽しかった?」

 蓮は心底嫌そうに、冷たい表情を崩さない。蓮は冷たそうに見える美形だから…連に冷たい表情をされると俺は凍りつきそうになる。
 それを何とかこらえて、なるべく冷静に蓮に話しかけた。

「蓮、ごめん。蓮が怒るのも当然だ。俺は本当にRELAYで何もしてこなかったって、一人になってみてようやく分かったんだ。どれだけ蓮が大変だったか。それに…」
「それに?」
「どれだけRELAYが大切だったか…」
「今さら…?」

 蓮はため息をつくと、俺を見もせずに部屋を出て行った。番組のスタッフ達が「蓮さん!」と慌てて後を追う。

 顔から血の気が引いてくいのが分かった。茫然と立ち尽くしていると、マコトが入って来て、俺の肩を抱いた。

「ごめん、想定外だった。蓮くんがあんなに怒るなんて…」
「いや…」
 ダイレクトメッセージの蓮とのやり取りで、現実が何なのか分からなくなっていた。『嫌われてる』ってことをすっかり忘れていたんだ。
 蓮が俺をこの業界に引き込んだ責任感で面倒みてくれていたのを、いいように変換していた。

「圭吾くん。ごめん。いったん、控室にもどろっか…」
 マコトは俺を、控室まで連れて行ってくれた。そして「ちょっとスタッフさんと相談してくる」といって出て行ってしまった。
 マネージャー達も出て行ってしまい、俺は一人残された。

 たぶん、蓮を説得しているんだと思う。それはまるであの、蓮がRELAYからの脱退を宣言した、アリーナツアーの後のようだった。

 悪夢、再び…。

 俺はもう、溢れる涙を止めることが出来ず、嗚咽を漏らした。
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