振られて捨てられたはずがなぜか成功して周りの評価が爆上がりした件~失恋ソングを配信しただけでけして復讐ではありません!~

あさ田ぱん

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四章 ソロ活動編

42.れんけいって連携?

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『アーカイブ消した?』

 次の日の朝起きると、いつもの『おはよう』ではないメッセージが蓮からREPLAYに来ていた。昨日の配信はアーカイブを消したのだが、蓮には分かったらしい。

「うん。昨日は思ったように行かなくて…」

『そうなんだ、残念。声聞きたかった』

 俺も、蓮の声聞きたい…。
 ……そのために俺、頑張ってみるよ。

 まず、タイムリープの歌詞の修正、それにベースボーカル、蓮の曲の歌詞も出来たらやりたい。でもその間に撮影も入って…。

「はっ!」

   どれから進めていいか分からなくなって、ついうっかりまた蓮のドラマを見始めてしまった…!動画見ると時間経つの一瞬で、怖い…。

 俺は時間管理が絶望的に下手。RELAYの時、蓮はどうやって乗り越えてたんだろう…?

 また俺は、蓮にメッセージを送った。

「今泉さんはやる事が沢山で、訳がわからなくならないんですか?」

『なるよ。そう言う時は、見える化してる。手帳に付箋貼って、終わったら剥がしたりとか』

「付箋かぁ」

『手帳にカラフルなの付いてたりするよ。色別に分けると見やすいから…おすすめ』

 いつも予定はスマートフォンのリマインダーに入れてたけど、手帳なら広げるだけで視覚的に見れて、付箋を終わって剥がせば、分かりやすい気がする。書くことで全体感を整理できるし。

 俺は早速、手帳を買ってスケジュールとやることを書き出してみた。手帳に色のついた付箋を貼ると、なんだか世界地図みたいにタスクが広がった。


****
 
 その後、歌詞の修正作業を無事終えると、『悪役令息、皇帝になる』スタッフが作成したREPLAYのアニメ画にリアルの俺を合わせた『タイムリープ』のミュージックビデオが完成した。そのミュージックビデオで俺のアニメ画と悪役令息皇帝になるのメインキャラ、メルリが共演している!

「すごーっ!」

 高校生の時から大好きなキャラと共演。感動…、それ意外の言葉があったら教えて欲しい。
 しかもテレビアニメにゲスト声優として出演することも決まった。村人Bとしてこっそり出演して、「圭吾君はどこにいたでしょうか?」というクイズを実施するらしい。正解するとメルリ風の俺の人形が抽選でもらえるというプレゼント企画になっているようだ。俺の人形とかいる?そもそも応募ある…?と、不安もあるのだが、それを喜びが完全に凌駕した。

「ねえでも、この動画も人形もベース持ってるけど、いいんだ?」
「う…っ…」

   胸を押さえてうずくまる俺を見て、マコトは笑う。そう、俺はベースを弾きながら歌を歌えないのだ…。

「こんないい感じでミュージックビデオ完成しちゃって…テレビ出演とかライブの時はどうすんの?」
「デビュー自体は来年だから、それまでには歌いながら弾けるように練習して…」
「ふーん?そんな悠長なことでいいの?」  

   マコトはまだニヤニヤしながら俺を見てくる。耐えきれなくなって俺は席を立つとベースを弾いた。
 ここは事務所の会議室である。自宅警備員を首になった俺は、事務所の会議室を借りてベースの練習に励んでいた。

 練習の様子を見たマコトはクスクスと笑っている。
 
「あの、なんでマコト君がここに?」
「圭吾くんが事務所の会議室にいるって聞いて遊びにきた。あと報告もあって」
 
 マコトはそういいながら、お菓子の袋を開けた。

「圭吾君、ちょっと休んだら?すごい下手だよ?」

 『ちょっと休んだら』と『すごい下手』の関連性なくない?それってただの悪口だよね?俺も下手なのは自覚してる。歌おうとすると、ベースも歌も下手になるんだ。俺は項垂れて、マコトの前のパイプ椅子に腰を下ろした。

「ベースはともかく、この間圭吾くんが出した歌詞、好評だったよ」
「え、本当?」
「ただ、木村陽菜も出したから、結局そっちが採用になって…」
「そっか…」
   やっぱり、あの曲は新生RELAYとして発表されてしまうんだろうか…?
 蓮とはあれから、REPLAYではメッセージをやりとりしているけど、本物の俺とは特に接触がないままだ。

「せっかく作詞作曲れんけいにしようと思ったのに、木村陽菜の事務所が強くてごめん…」
 事務所の戦略で、アーティスト売りもしたいらしくて、とマコトはお菓子を食べながら不満を漏らした。
 それより、作詞作曲「連携」って何だ?

「連携って…?」
「え、だから、蓮と圭吾でれん、けい、でしょ?」
「あー、なるほど…」
   そう言う意味かあ。一瞬、『連携』と意味を取り違えてしまった。
「あ、RELAYってやっぱり、れんけいから来てるの?」
「RELAYがれんけいから来てる?」
「だからー、れんけいが連携でしょ??」
   マコトは紙に”連携”と漢字で書いて”れんけい”とルビをふった。
「RELAYってリレーでしょ?そういう意味じゃないの?」
「RELAYは中継とか、伝達するって意味で…みんなを音楽で繋ごうみたいな意味だって、蓮は…」
「えー、そうなんだ?あ、本当だ。『連携』だと、『LINKリンク』かぁ。これに気がついた時、謎が解けた感あったのに…残念…!」

 マコトは頬杖をついて、まだぼりぼりとお菓子を頬張った。この間、「けっこう本気」で「付き合って」なんて言った割に平常運転すぎるマコトの態度に少し、いやだいぶ戸惑う。

「あともう一つ。REPLAYで蓮君のラジオに出てもらう事が決まったから」
「へ?!」
「俺のWEB番組と蓮くんのラジオ番組がコラボすることが決まったんだ」
 
 マコトは蓮の番組のラジオディレクターと知り合いで、俺を蓮のラジオ番組にサプライズで登場させる、仲直り企画を持ち込んで採用されたらしい。
 つまり、俺がサプライズで蓮のラジオに行って「実はREPLAYは俺だよ!」と告白するドッキリ企画だ。不仲の圭吾が突然出演するどっきりを蓮に仕掛けつつ、REPLAYの正体を明かすどっきりでもあるらしい。元々蓮のラジオはRELAYの番組だったし、古巣にも恩返しした方がいいという、マコトの配慮でもある。

「圭吾くんが謝って仲直りしたら、一緒に曲を演奏して大団円」
「でも、仲直りできなかったらどうする?それに新生RELAYはもう動いているのかも…」
「だから劇的仲直りで新生RELAY企画を消滅させる、最高のざまぁ~『どっきり』というわけ!ちょうど、新生RELAY発足のプレスリリースがウワサされる、クリスマスイヴの出演だよ!」

   俺たちが劇的に仲直りしたら、新生RELAYをやるとは言い出せなくなる、という構想のようだが…そんなに上手くいくのだろうか?俺が不安になって尋ねると、マコトは自信ありげに言った。

「大丈夫だよ。動画のカメラも入るから、蓮くんも空気読むでしょ!そもそも蓮くんはREPLAYを気に入って、オファーしてたくらいなんだから!たぶん!」
 マコトが自身ありげなのに、『たぶん』っていう語尾が俺はどうにも気になった。
「圭吾君がベース弾きながら歌ったら、蓮君も感動して仲直りできると思うよ!絶対、仲直りして?俺を主演から話題性と自分の私欲で当て馬役に降格させたワガママ女優を一緒に懲らしめよ!!」
 あ、それが本音なんだな…?しかし、その「ベース弾きながら歌ったら」っていう条件が難しいのに…。

 でもやるしかない、特訓するしかない!バンド加入以来の、過酷な練習の日々がまた始まる…!

 マコトは話し終えると、スケジュール確認したいから阿部マネージャーを呼んできて、と俺に命じた。完全に俺のこと部下だと思ってるな…?

 会議室を出ると、ちょうど向かいの部屋のドアも開いて人が出てきた。部屋から出てきた人物を見て俺は息を飲んだ。

「あ…!」
「圭吾…、何やってんだよ?」
 部屋から出てきたのは、木村陽菜と、蓮だった。なんで、うちの事務所に木村陽菜が…?
「えーと、練習してて…、あと、マコト君と…」
「マコト君…?」
「う、うん…」
 木村陽菜と蓮、二人が並んだ姿がお似合いすぎて、俺は圧倒されてしまった。上手く話せない俺を見た蓮はため息を吐いた。
「いくら事務所だっていっても、二人で会ってさ…。まずいんじゃない?それとも今の仕事、写真誌に載ることだけ?笑い声、うるさすぎ。こっちは仕事なんだけど?」
「ご、ごめん。そういうつもりじゃ…。」
 俺が言い訳しようとすると、蓮に睨まれて何も言えなくなった。蓮が怒っている。それはわかった。

 なんだかこれ、あの日と似ている。蓮を怒らせた、あの日。蓮が仕事していたのに俺が寝てしまったあの日...。
 蓮は俺を一瞥すると、そのままどこかへ行ってしまった。

 話し声を聞いたらしいマコトは会議室から出てきて、俺の肩に手を乗せる。
「圭吾くん、俺のせいでごめん…。でもさ、大丈夫。ベースボーカルを習得すれば…圭吾君ならできるよ!」
 マコトは何も知らないくせに朗らかに難題を課すので、俺は何度目かのため息をついた。

 この間、コンビニで会った時キスしたから、ひょっとしてこのまま仲直りできるかもなんて思ったりしていたけど、今また、怒らせてしまった…。いや、そもそもあの日のことだってちゃんと謝ってないし許してもらってない。本当に馬鹿だ。俺は。
 
 『行き詰ったら、気分転換』…。蓮が教えてくれた通りマコトの打ち合わせが終わった後、駅に向かって歩いた。
 街はクリスマスの装飾であふれかえっていて、なんだか道行く人も浮足立って見える。
 クリスマスは今年も仕事だ。仕事の方が、寂しくなくてありがたい。芸能の仕事をしていると、クリスマスはイベントが入る事が多く、大抵仕事だから、毎年蓮と過ごせていた。
 幸せって、失ってみて初めて気付くって本当だ。
 吐き出した息は白く煙った。スマートフォンを見ると、雪の予報が出ている。

 悴む手の中で、スマートフォンが少し震えた。画面を開くと、REPLAYのSNSへ通知が来ている。期待半分、不安半分SNSを開いてみると、蓮からだった。

『ラジオ出演してもらえると聞きました。ありがとう』
 
 ありがとう、なんて…。さっき蓮に睨まれたことを思い出して俺は複雑な気持ちになった。

「がっかりさせたらすみません」

 実際会ってみたら、ベースを弾きながら歌えない圭吾だったってオチ、蓮はがっかり通り越して怒るかもしれない。それを想像して俺は先に謝った。

『しないよ、がっかりなんて』

 ところが、する可能性大。さっきも怒ってたし。

『収録の時、歌ってくれるって聞いたので、俺も弾けるように練習しています』

 そうなの?それでさっき、向かいの部屋にいた?いやでもあの時は木村陽菜も一緒だったから違うか…。
 蓮なら練習しなくても弾けると思う…。なのに練習してる?それなら俺はもっと練習しないと。

『あと、今なにか欲しいものありますか?』

「欲しいもの?」

『収録の日、クリスマスだから、クリスマスプレゼント用意しようと思って。何がいい?』

 クリスマス...。か。良い子にしてると、サンタさんがプレゼントをくれる日だ。
 俺は何もいらない。蓮と一緒にいられるなら。それだけでいい。

「一緒に演奏してもらえるだけで、それがプレゼントだから」

 俺はそう返信した。本当にそうなんだ。蓮がいるだけでいいんだ。
 蓮からは『何か思いついたらメッセージして』と返信があった。

 俺はベースボーカルをマスターして、なるべく当日蓮にがっかりさせないようにしようと再び決心した。あの日のことを謝って、出来ることならまた...。それは高すぎる望みだろうか?
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