振られて捨てられたはずがなぜか成功して周りの評価が爆上がりした件~失恋ソングを配信しただけでけして復讐ではありません!~

あさ田ぱん

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三章 ソロ活動編

38.言えなかった

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 夕暮れ、電車で最寄り駅に着くと、売地だったコンビニ跡地に、新しいフェンスが付いているのが見えた。きっと新しいオーナーが決まったんだな。蓮といつも通った、思い出のコンビニがついに復活する…。
 俺は自宅に向かいながら何度も振り返って、建設中のフェンスを眺めた。
 
 

 実家に戻ると、マンションの入り口で見知らぬおばさんに声をかけられた。

「ねえ、あなた上村さんの息子さんでしょ?バンドやってるとかいう…!」
「え、ええ…」

   何だか怒っているらしいその人の質問に、取り敢えず頷いた。

「最近、マンションの周りにゴミが捨てられてるの!私が声を掛けたら、逃げていったわよ?ファンの人なんじゃない?困るわ~!」
「え?!す、すみません…!」

  まさか…。今まで、自宅にファンの人なんて来たことがなかったから動揺した。一旦家に戻って、ゴミ袋を持って外へ出る。

 確かに、ゴミは捨てられている。飲み物のペットボトルと、おにぎりやお菓子の袋…。ゴミを拾いながら、マンションの周りを確認したけれど、今は人影がない。

 ゴミを持って戻ろうとすると、ポケットの中のスマートフォンが鳴った。画面を見て俺は急いで応答ボタンを押す。

「圭吾、やっと出た!」
「蓮…!!」
 やっと、ということは何回か掛けてくれてた…?でも、なんで?
「今どこ?!」
   今まで俺を未読スルーしていた蓮が何度も電話をかけてきた上に、かなり慌てている。俺は混乱して、すぐに答えることが出来なかった。
「ひょっとして今、外にいる?!」
「う、うん。実家のマンションの下」
「すぐ戻れ!マンションに入るまで、通話を切らないこと!」
「わ、わかった…!」

   すぐ戻れ?なんで…?蓮が急かすから、俺も慌ててマンションのエントランスへ向かう。


 通話中のまま走って、マンションの入り口に入ろうとしたところで、後ろから腕を掴まれた。

「圭吾!」
「か、神谷さん…?」

  俺の腕を掴んだのは、神谷プロデューサーだった。手にはコンビニで買ったのか、ビニール袋を持っている。ま、まさかマンション周辺のゴミって…。いやでも、おばさんはファンの人なんじゃないかと言っていた。
 神谷プロデューサーは俺のファンではないし、男性だ。でも、性別をはっきり聞かなかった…!勝手に女の子でファンだと思い込んでいたけど、まさか…。

 俺は距離を取るため手を払おうとしたが逆に引き寄せられ、揉み合いになり、スマートフォンを落としてしまった。

「圭吾、俺は本当に、お前のことが好きなんだ」
「え…?」
   この間もそんな事言っていたけど、あくまで飲みの席での事だと思っていたが、まさか、本当に本気だった…?
「お前の為にボイトレもして、お前が行ってるエステにも行って、ピカピカにしてもらってデビューに備えていた…」
   グループデビューの話も本気だったのか…。しかも美咲の所にも行っていたなんて…!ぴかぴかにしてもらったってことは、美咲、まさかあの化粧品セットこの人にも売ったんじゃ…?!なんて怖い事するんだ!
「それなのにお前、ソロプロジェクトで俺を外してるらしいじゃねーか!お前の動きは筒抜けなんだぞ!蓮はともかく、圭吾、お前は俺の恋人だろうが!!!」
「え、恋人?!ないない、嘘でしょ!」
「ヒット祈願でおみくじ引いた時、大吉が出て、書いてあったぁ~~!」
「そんなロマンチックなこと言われても無理です!」
  
   神谷プロデューサーはビニール袋からおみくじらしき紙を出して、俺に見せた。

「待ち人きたる。良縁あり…」
「な?!」

   な?!じゃねーよ!
 でも思いの外、力が強くて逃げられない…!

   抱き寄せられて強引にキスされそうになった、その時、車のライトがぱっと俺たちを照らした。眩しさに目を閉じて、もう一度薄目を開けると、黒のかっこいいSUV車から人が降りてきた。

「圭吾!」

  その人は、神谷プロデューサーが掴んでいた腕を振り解くと、あっという間に俺を救い出した。

「蓮…っ!」

 俺の王子様は、黒のかっこいいSUVに乗ってやってきたのだ……!




 神谷さんから救出された俺は、事務所の会議室でマネージャー二人と蓮、藤崎に囲まれて、怒られていた。

「どうして二人で飲みに行ったりしたんだよ!アイツ前からお前を変な目で見てただろ!」
   蓮の斜め後ろで藤崎がうんうん、と頷いている。阿部マネージャーは青ざめて俯いてしまった。

「でも蓮君、圭吾君に何事も無かったから良かったじゃないか…」
「週刊誌に載った直後に警察呼んで…何事も無かったどころか、色々あり過ぎです。だいたい、なんで神谷さんと揉めたこと黙ってた…?」
「えーと、こんなことになるとは思わなくて」
「はぁ…危機管理能力なさすぎ…!」

   蓮はため息を吐くと、そのまま出て行ってしまった。足音が明らかに怒っている…!

   蓮は、元カノで現キャバ嬢の因幡から『神谷さんがしつこくて圭吾の住所を教えてしまった』と連絡を受けたらしい。それで、神谷プロデューサーは実家の前をウロウロしていたようだ。蓮はロケの現場から、車で直行して俺を助けてくれた。藤崎はたまたま事務所にいて、何故かこの輪に加わっている。
 
 神谷さんは警察で厳重注意を受け、うちの事務所と所属レコード会社は出禁になるらしい。
 それはそれで報復がこわいけど、一件落着ではある。

「圭ちゃんごめんなさい…!私も薄々知ってたのに、デモ音源貰った時、忙しくてつい神谷さんに丸投げしちゃって…!」

 え、じゃあ、神谷プロデューサーが俺を好きってみんな知ってたの?!気付いてなかったの俺だけ?!
  ついに阿部マネージャーは泣き出してしまった。

「阿部マネージャーのせいじゃないです。逆の立場なら俺もそうしたと思うし…!」

   俺が阿部マネージャーの背中をさすると、藤崎も俺に駆け寄ってきた。

「圭吾!俺もごめん…!この通り謝るよ!だから薬はやめてくれっ!」
「藤崎君…」

   藤崎の誤解を解くのはもう面倒くさくなって、俺たちは解散することになった。帰りはちょっとだけ期待したけど、SUVではなく事務所の車で送られた。

 色々あって長い一日だった。疲れた…。

 
 あんなに怒っていたのに、蓮からはまた、REPLAYの方にメッセージが来ていた。

『おやすみ。寒くなったから暖かくして』

 REPLAYへの優しい態度と、現実とのギャップに、心が追いつかない。
 
『おやすみなさい』

 いつもの返信だけしてその日は眠った。
 
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