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三章 ソロ活動編
33.タイムリープ
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昨夜の泥酔が響き、昼過ぎに起きてぼんやりしていたら、マコトから電話が来て「まさか何もせずに夜また寝るなんてことないよね?」と脅された。マコトってなんであんな怖いんだ?マコトを利用してやる…!と思っていた、あの日の俺に巻き戻ったら別の人を探そうと説得する!
例えマコトに脅されなくても、配信を頑張ろうとは思っていた。昨日は木村陽菜がRELAYに入ったら自分の努力の行き場がない気がして蓮に八つ当たりしてしまったけど、人気をつけて木村陽菜のポジションを奪うしか今の俺がRELAYに 戻る方法はないんだから。
俺はいつもの通りSNSで告知を投稿してから配信を始めた。
「えーと、ちょっと長くなったので今回はこの辺で。次回、実は一巻であった伏線について、最終章へのつながりを考察したいと思ってます!えーと、じゃあ歌います。『約束♪』」
『また急に歌きたw』
『wwwwwwww』
前回原作者本人から反応を貰えたので、俺はまた『悪役令息皇帝になる』の考察を配信している。現在の同接数はなんと二百人超え…!これは明らかに俺の告知投稿を『悪役令息皇帝になる』原作者、御所浦えむさんがリプライしたからに他ならない。俺は歌う前、緊張を誤魔化すように大きく息を吸い込んだ。
歌い終えて、ばいばーいと手を振ると、一つのコメントが画面上に固定された。お金を払ってコメントすると画面の一番上の目立つところに一定時間表示される『投げ銭』を行なったユーザーがいるようだ。投げ銭を貰ったら、配信中にお礼を言うのがルールだから俺は慌ててユーザー名を呼んだ。
「あっ、『えむ』さんギフトありがとうございます!えーと、『新曲はメルリのイメージでお願いしたいです』?」
『えむ、って、まさか御所浦えむ本人?』
『ちょ、ギフト最高額じゃんww』
『本垢だよこれ!』
『えっ、すごwwwww』
「えーーーーーーー?!」
リプライしてくれた上に、ギフト付きで新曲のオファーまでしてくれるとか…。正直俺のどの辺りに期待してくれてるのかよく分からないから戸惑った。一体、どこまで本気なのだろうか……?
「まさか原作者が降臨するとはね~。これは新曲作るしかないね。それが原作者のお眼鏡にかなったら、主題歌もあるかもよ…?」
「いやまさか、そんな…」
「圭吾君さ、先生の投稿に反応してないじゃん!いいねくらいしなよ!あり得ない!」
あり得ないとはいいつうも、マコトはいつになく弾んだ声でビデオ通話越しに微笑んだ。アーカイブ動画の再生数も登録者数も伸びてご満悦の様子…。先日酔って呼び出した時に、あんなキレ方をした人と同一人物とは思えない。
「圭吾君、いっつも同じ歌しか歌わないけど、ストックとかある?」
「……」
「無いんだね?じゃ、頑張って作って。あと分かってると思うけど、彼女いないアピールも忘れないでよ?」
「……」
「返事は?」
「はいっ!」
マコトを怒らせると怖いので、とりあえず俺は元気に返事をした。でも、彼女いないアピールってどうやるんだろ…?普段の俺を見てもらえれば、絶対いないって分かるんだけどなぁ。
マコトとのビデオ通話を切って、何か飲もうとキッチンへ行くと、隣接しているダイニングテーブルを囲み父と母、それに兄が食事をしていた。
「圭吾~、さっき『アナザーズマート』のサイトウさんって人から電話あったわよ?折り返し欲しいって」
母は俺に、電話番号を書いたメモを手渡そうとした。しかし、隣に座っていた兄がそれを取りあげてしまう。
「『アナザーズマート』って、圭吾が資料取り寄せてたコンビニ?夜八時過ぎにかけてくる会社なんて碌なもんじゃないからやめとけ!」
絶対ブラック企業だよ!という兄の言葉に、母もそうね、と頷く。でも父は無言のままだった。いい歳した大人の自宅警備員を二人も抱える父の胸中は窺い知れない。
スマートフォンへの着信を無視したから自宅に掛けられたんだ。俺は仕方なく、兄からメモを返してもらい、電話をかけた。
翌日…。
俺は都会のオフィスビルでコーヒーを飲んでいた。
「いやー、ご足労いただいてすみません!」
「いえ…こちらこ何度もご連絡いただいたのに電話に出ず、すみませんでした」
なんだか、周りの視線が痛い。あんまりカジュアルだとまずいと思い、ジャケットを羽織ってきたけど、コンビニ本社とか、かっちりスーツの人達の中だとまだ浮いてる?!
「実は、上村さんが希望してた駅に隣接する土地が確保できそうでして。新しいコンビニオーナーを探してるんです」
「え、あの駅に…?!」
コンビニ本社の、俺の担当営業であるおじさんは笑顔で頷いた。
俺たちの思い出のコンビニが復活するかも知れない…それは凄く嬉しいニュースだ。以前の俺だったらきっと、すぐに飛びついていたと思う。
「あの、凄く嬉しいです。でも、俺が今日来たのは、ちゃんとお断りしなければと思ったからでして…」
「あ、やはり借り入れがネックでしたか…?」
「いえ、違います。やっぱり今の仕事をもう少し頑張ろうと思い直しまして。せっかくお話しを頂いたのにすみません…」
「そうですか…。そんな気もしたんですが…。いやーでも、上村さんみたいなイケメンの素顔が見れて眼福でした。こちらこそわざわざ来て頂いて、ありがとうございます」
担当営業さんや、その他社員の人にも見送られて、俺はコンビニ本社のオフィスを出た。やっぱりきちんと断って、挨拶できてよかった…!
ーーこうやって巻き戻って、一個ずつ後悔を無くして行けばいいのかな…?
じゃあ俺、やっぱり絶対、RELAYに戻らないと…!
駅までの道を歩きながら、蓮からのDMの事を考えた。昨日はケンカしてしまったけど、DMはすごく嬉しかったから、どうしてもお礼は言いたい。ネタバラシを考えたら返信しない方がいいのかもしれないと迷ったけど、『感想ありがとうございます。すごく嬉しいです』と、当たり障りなく、お礼だけを返信した。
電車に乗り実家の最寄駅へ着くと、以前コンビニがあった場所を見に行った。もう直ぐ、ここにもまたコンビニが出来る。それまでに俺は、巻き戻れるだろうか…?
すっかり寒くなったので自動販売機で缶コーヒーを買い、実家への道を歩き始めると、スマートフォンの通知音が鳴った。SNSの通知だ。
ひょっとして…。期待に胸を膨らませながら通知を開くと、DMの返信が来ていた。蓮だ…!
『俺も新曲聞きたいです』
「蓮……!」
蓮、待っててよ。絶対、RELAYに戻るよ、俺…!
俺はまた、採譜アプリを立ち上げた。
『♪タイムリープ
階段を踏み外したように転げ落ちた
誰のせいでもない僕のせい
君に愛想をつかされた僕のせい
長い階段を一緒に駆け上がってる
そのつもりだったけど
君は一歩も二歩も先を行き
難解な未来へ飛び出していった
階段を踏み外したら転げ落ちて
たぶんきっとタイムリープする
タイムリープしたらあの日の過ちを全部やり直して
言えなかった”好き”を伝えられる
そのときは僕の手を取ってよ
言えなかった”好き”を伝えるから』
昨夜の泥酔が響き、昼過ぎに起きてぼんやりしていたら、マコトから電話が来て「まさか何もせずに夜また寝るなんてことないよね?」と脅された。マコトってなんであんな怖いんだ?マコトを利用してやる…!と思っていた、あの日の俺に巻き戻ったら別の人を探そうと説得する!
例えマコトに脅されなくても、配信を頑張ろうとは思っていた。昨日は木村陽菜がRELAYに入ったら自分の努力の行き場がない気がして蓮に八つ当たりしてしまったけど、人気をつけて木村陽菜のポジションを奪うしか今の俺がRELAYに 戻る方法はないんだから。
俺はいつもの通りSNSで告知を投稿してから配信を始めた。
「えーと、ちょっと長くなったので今回はこの辺で。次回、実は一巻であった伏線について、最終章へのつながりを考察したいと思ってます!えーと、じゃあ歌います。『約束♪』」
『また急に歌きたw』
『wwwwwwww』
前回原作者本人から反応を貰えたので、俺はまた『悪役令息皇帝になる』の考察を配信している。現在の同接数はなんと二百人超え…!これは明らかに俺の告知投稿を『悪役令息皇帝になる』原作者、御所浦えむさんがリプライしたからに他ならない。俺は歌う前、緊張を誤魔化すように大きく息を吸い込んだ。
歌い終えて、ばいばーいと手を振ると、一つのコメントが画面上に固定された。お金を払ってコメントすると画面の一番上の目立つところに一定時間表示される『投げ銭』を行なったユーザーがいるようだ。投げ銭を貰ったら、配信中にお礼を言うのがルールだから俺は慌ててユーザー名を呼んだ。
「あっ、『えむ』さんギフトありがとうございます!えーと、『新曲はメルリのイメージでお願いしたいです』?」
『えむ、って、まさか御所浦えむ本人?』
『ちょ、ギフト最高額じゃんww』
『本垢だよこれ!』
『えっ、すごwwwww』
「えーーーーーーー?!」
リプライしてくれた上に、ギフト付きで新曲のオファーまでしてくれるとか…。正直俺のどの辺りに期待してくれてるのかよく分からないから戸惑った。一体、どこまで本気なのだろうか……?
「まさか原作者が降臨するとはね~。これは新曲作るしかないね。それが原作者のお眼鏡にかなったら、主題歌もあるかもよ…?」
「いやまさか、そんな…」
「圭吾君さ、先生の投稿に反応してないじゃん!いいねくらいしなよ!あり得ない!」
あり得ないとはいいつうも、マコトはいつになく弾んだ声でビデオ通話越しに微笑んだ。アーカイブ動画の再生数も登録者数も伸びてご満悦の様子…。先日酔って呼び出した時に、あんなキレ方をした人と同一人物とは思えない。
「圭吾君、いっつも同じ歌しか歌わないけど、ストックとかある?」
「……」
「無いんだね?じゃ、頑張って作って。あと分かってると思うけど、彼女いないアピールも忘れないでよ?」
「……」
「返事は?」
「はいっ!」
マコトを怒らせると怖いので、とりあえず俺は元気に返事をした。でも、彼女いないアピールってどうやるんだろ…?普段の俺を見てもらえれば、絶対いないって分かるんだけどなぁ。
マコトとのビデオ通話を切って、何か飲もうとキッチンへ行くと、隣接しているダイニングテーブルを囲み父と母、それに兄が食事をしていた。
「圭吾~、さっき『アナザーズマート』のサイトウさんって人から電話あったわよ?折り返し欲しいって」
母は俺に、電話番号を書いたメモを手渡そうとした。しかし、隣に座っていた兄がそれを取りあげてしまう。
「『アナザーズマート』って、圭吾が資料取り寄せてたコンビニ?夜八時過ぎにかけてくる会社なんて碌なもんじゃないからやめとけ!」
絶対ブラック企業だよ!という兄の言葉に、母もそうね、と頷く。でも父は無言のままだった。いい歳した大人の自宅警備員を二人も抱える父の胸中は窺い知れない。
スマートフォンへの着信を無視したから自宅に掛けられたんだ。俺は仕方なく、兄からメモを返してもらい、電話をかけた。
翌日…。
俺は都会のオフィスビルでコーヒーを飲んでいた。
「いやー、ご足労いただいてすみません!」
「いえ…こちらこ何度もご連絡いただいたのに電話に出ず、すみませんでした」
なんだか、周りの視線が痛い。あんまりカジュアルだとまずいと思い、ジャケットを羽織ってきたけど、コンビニ本社とか、かっちりスーツの人達の中だとまだ浮いてる?!
「実は、上村さんが希望してた駅に隣接する土地が確保できそうでして。新しいコンビニオーナーを探してるんです」
「え、あの駅に…?!」
コンビニ本社の、俺の担当営業であるおじさんは笑顔で頷いた。
俺たちの思い出のコンビニが復活するかも知れない…それは凄く嬉しいニュースだ。以前の俺だったらきっと、すぐに飛びついていたと思う。
「あの、凄く嬉しいです。でも、俺が今日来たのは、ちゃんとお断りしなければと思ったからでして…」
「あ、やはり借り入れがネックでしたか…?」
「いえ、違います。やっぱり今の仕事をもう少し頑張ろうと思い直しまして。せっかくお話しを頂いたのにすみません…」
「そうですか…。そんな気もしたんですが…。いやーでも、上村さんみたいなイケメンの素顔が見れて眼福でした。こちらこそわざわざ来て頂いて、ありがとうございます」
担当営業さんや、その他社員の人にも見送られて、俺はコンビニ本社のオフィスを出た。やっぱりきちんと断って、挨拶できてよかった…!
ーーこうやって巻き戻って、一個ずつ後悔を無くして行けばいいのかな…?
じゃあ俺、やっぱり絶対、RELAYに戻らないと…!
駅までの道を歩きながら、蓮からのDMの事を考えた。昨日はケンカしてしまったけど、DMはすごく嬉しかったから、どうしてもお礼は言いたい。ネタバラシを考えたら返信しない方がいいのかもしれないと迷ったけど、『感想ありがとうございます。すごく嬉しいです』と、当たり障りなく、お礼だけを返信した。
電車に乗り実家の最寄駅へ着くと、以前コンビニがあった場所を見に行った。もう直ぐ、ここにもまたコンビニが出来る。それまでに俺は、巻き戻れるだろうか…?
すっかり寒くなったので自動販売機で缶コーヒーを買い、実家への道を歩き始めると、スマートフォンの通知音が鳴った。SNSの通知だ。
ひょっとして…。期待に胸を膨らませながら通知を開くと、DMの返信が来ていた。蓮だ…!
『俺も新曲聞きたいです』
「蓮……!」
蓮、待っててよ。絶対、RELAYに戻るよ、俺…!
俺はまた、採譜アプリを立ち上げた。
『♪タイムリープ
階段を踏み外したように転げ落ちた
誰のせいでもない僕のせい
君に愛想をつかされた僕のせい
長い階段を一緒に駆け上がってる
そのつもりだったけど
君は一歩も二歩も先を行き
難解な未来へ飛び出していった
階段を踏み外したら転げ落ちて
たぶんきっとタイムリープする
タイムリープしたらあの日の過ちを全部やり直して
言えなかった”好き”を伝えられる
そのときは僕の手を取ってよ
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